大切な人
固まったと表現するのが一番正しい。固まらせた本人は部屋の微妙な雰囲気に気が付いていない。 いつものメンバーで、いつもたむろする教室に約束もしていないのに自然と集まってきて、とりとめ のない会話が騒がしく繰り広げられている中で、誰かがさり気無く大に聞いたのだ。決してさり気 無くという感じではなかったのだが、聞かれた方は何の疑問も抱かずにあっさりと質問に答えて 固まらせたのだった。 「・・・終ったって・・」 少し、いやかなりショックな様子で呟く宗近に大は何も気付かずに爽やかな笑顔つきで。 「俺、誕生日五月三日なんですよ」 この言葉に更に全員ショックをうける。今日はGWあけだ。全員が大と一緒の連休を過ごしたいと 思っていたのだが、本人にGWの予定を聞くと家族旅行だという返答。高校生にもなって家族と旅行 になんて行くなと言う者は一人もいない。一名かなりウダウダとグダグダと言っていた奴はいない 訳ではなかったのだが、全員が楽しんで来いと送り出したのだ。 まさか、その連休の内に大の誕生日が来るとは誰も思っていなかった。 「何か欲しい物でもあるか」 照宇の言葉にすぐさま壱茶が反応する。 「照宇!テメェ何抜け駆けしようとしてんだよ。朝日奈、今日俺とデートしようぜ」 壱茶の言葉にいち早く宗近が噛みつく。 「抜け駆けしようとしてるのはテメェだろうが。朝日奈、この馬鹿の言う事は聞かなくていいから な」 壱茶と宗近が言い争いを始めると、誰も止めようとせず放っておく、すると焦るのは大だ。止めよう とするが、四方と東堂が大の肩に手を置き止めなくていいと言う。 「でも・・・」 「放っておいて構わない」 「飽きれば勝手に止めるから」 東堂と四方はさり気無く大を言い争う二人から引き離す。 「ところで本当に何か欲しい物はないのか」 「東堂さんまで何言ってるんですか」 「誕生日は過ぎてるが、何か贈るのはいいだろう」 四方さんまでと大が申し訳無さそうに言うと。 「あんまり深く考え込まないでいいぞ」 欲しい物あるなら遠慮なく言えと神南は言う。 「皆、お前の喜ぶ顔が見たいんだよ」 後藤の言葉に大は胸の奥がジーンとなり感動する。 「お前と俺の仲だろう。遠慮なんかするな」 いつの間にか壱茶は大の隣に立ち、肩に手を回す。その手を宗近が叩き落し。 「俺はいつだって朝日奈の事を考えているからな」 大の手を両手でしっかりと握る宗近。壱茶はそれを剥がそうとする。また一触即発かと思うのだが、 今度は大は焦る事はなかった。周りはまた始まったという雰囲気が漂う。その雰囲気は決して不快で はない。 「気持ちだけで十分ですよ」 大は笑顔で言う。朝日奈と呟いたのは誰だったか、全員が大を凝視する。 「馬鹿二人の所為だな」 ぽつりと呟いた照宇の言葉に壱茶と宗近が慌てて大に謝りだす。何故、二人が自分に謝っているのか 判らない大は、漸く自分が涙を流している事に気付いた。 涙を懸命に拭おうとするが、なかなか止まらない。不安そうな壱茶と宗近は大を見ていて、大は彼ら の不安を拭うかの様に話し出す。 「悲しくて泣いているんじゃないんですよ」 泣いているの気が付かなかったくらいだからと笑みを溢す。 「ただ、嬉しくて・・・今、こんな風に皆と一緒に居られるのが」 大の言葉にこの場に居る全員の思考が、過去と呼ぶにはまだ早い記憶へと思いを馳せる。決して いい思い出とは言い難い。けれど、決して忘れる事のない出来事。 「すみません。なんだか暗くしてしまいましたね」 部屋の雰囲気を変えようと大は旅行の土産があるんですとバックから取り出そうとするが、行くぞと 突然声を上げた四方に驚く。驚いたのは他の皆もで、何なんだと四方に視線が集まる。 「石黒さんの店に行くぞ。朝日奈の誕生日祝うのに遅いも何もないだろう」 四方の言葉に喜ぶのは大以外の奴らで、大は嬉しいのだが本当に気持ちだけでいいのでと 言うのだが、もう誰も聞いていない。 「四方さん・・・」 盛り上がる皆を見ながら、原因を作った四方に溜め息交じりに気持ちだけで十分なんですよと話す。 「祝わせてもらえないか。俺たちにとって朝日奈の誕生日はお前が思っている以上に大切なんだよ」 「俺たちはお前と出逢えた事に感謝してるし、そんなお前が喜ぶならどんな事でもしてやりたい 連中ばかりいるんだ」 四方と東堂の言葉に大の止まっていた涙はまた流れ出しそうになる。 すでに石黒の店へと向おうとしている皆が大を呼ぶ。大は今行きますと笑顔で皆の輪の中へと 入って行った。部屋を出ようとした時に大を呼ぶ声が廊下から聞こえた。あまりにも聞き覚えのある 声に宗近の顔はあきらかに不機嫌なものへと変わる。 「茜も一緒になりますけどいいですか」 大からそう言われてしまえば、誰も嫌だと言える訳がない。 「ほら、時間なくなるぞ」 部屋から出ると、すぐに二人の言い争う声が廊下へ響き渡る。それを宥める声が重なる。 彼らは願う。 自分たちの一番大切な人が、笑顔で居られる場所があり続ける事を。 |
賢城様に頂きました、朝日奈大君のお誕生日SSです!大君総受 ですよ〜(萌)vv皆が知った(聞いた)ときには既にお誕生日は過ぎ ていた!っていう設定がまたツボです〜//// 今回書いて下さった 設定は、全員進級している(今原作での闘い後の誕生日)とのこと で、もう読みながら幸せ〜な気持ちでいっぱいになりましたvv 早く 原作でもこんな風に皆で笑いあえる日がくればいいですよね! 賢 城様、本当に素敵なSSをありがとうございましたっ!!!!!もういつも頂 いてばかりで、いつか罰でも当たるんじゃないかと思いつつも、こん なにステキなSSを頂けたのですから、それもまた本望かと(笑)。 快く掲載のご許可を頂きまして、本当にありがとうございました>< 最後になりましたが、背景を勝手に付けさせて頂いたことをお詫び 申し上げます。もしダメな場合は、遠慮なく言ってやって下さいませ。 |