『まっすぐな恋 秘める恋』




「あいつって、まっすぐすぎんだよな…。」
 伏し目がちにボソリと呟いた黒澤に、十希夫は胸の奥に小さな痛みを
感じた。
 しかしそれをおくびにも出さず、
「あいつって…お前の後輩の中村銀次?」
 さらりと問い返した。
「ああ。」
 頷いて、ハア〜と長いため息を1つ。
 十希夫はなんとなく真実に気付いていながらも、わざと的外れなことを
口にした。
「まっすぐなのはいいことじゃないのか?」
「まっすぐはまっすぐでも、向かう方向が問題なんだよっ!!」
 そう声を荒げて言う黒澤の顔は、自嘲的な笑みに彩られていた。
「方向…ねぇ。」
「…………」
 黙り込んでしまった黒澤を横目で見ながら、十希夫はそろそろゲーム
オーバーにするか…と胸の内でひっそりと呟く。
 そして―――
 黒澤にとっての爆弾発言を1つ投下する。
「で?好きだとでも言われたのか?」
「っ!?なっ、ななななんでそれを!?!?」
 あまりに予想どおりの黒澤の反応に、
「アハハハッ!クロサーうろたえすぎ〜。」
 大爆笑の十希夫である。
「十希夫っ!」
 羞恥と怒りで真っ赤になった黒澤の顔がまた珍しくて、十希夫の笑い
は止まらない。



 数分後―――
 ようやく笑いのおさまった十希夫は、
「わかるにきまってるさ。俺はいつでもクロサーのこと見てる…いや、見
てたから。」
 静かにこう告げたのだった……。




BACK