『ワンコの反乱』




「俺は貴方のためならどんなことでもします。貴方が望むなら、俺は――――」

 出会って程無く、そう言って黒澤に誓った銀次は、それを今まで忠実に守り通
してきた。
 そう、今まで。今までは…。




「コラッ!まっ、待て銀次っっ!!」
 黒澤の自宅(マンションの一室)に、その部屋の唯一の主である黒澤の焦った
ような声が響き渡った。
「待てません。」
 それにきっぱりと返る答え。
 しかし一見冷静なようでいて、血走った眼と荒い息遣いから、実は相当余裕の
ないことが伺える。
「…あっ………うわっ…ちょっ………まっ…ストップ!ストップだ!!」
 黒澤は素肌の上を這い回る銀次の手を押さえ、なんとか引き剥がそうとする。
 しかしその手は黒澤の肌に吸い付いたかのようにピクリとも動かず、さらに銀
次の口から黒澤を地獄に突き落とす一言が発せられた。
「もう止まりません。」
「!?」

(最悪だ…。)
 もはや黒澤の口から言葉が漏れることはなく、どこか諦めたような吐息がそっ
と零れ落ちた。
 そして―――
 ギシリと軋むベッドの音と、「好きです、黒澤さん。ずっとずっと貴方だけが好き
でした…。」そんな銀次のうわ言のような愛の告白を聞きながら、黒澤はそっと
目を閉じるのだった……。




 数時間後―――
 甲斐甲斐しく黒澤の世話を焼く銀次と、枕に顔を埋めてグッタリとベッドに横た
わったままの黒澤の姿があったという――――。




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