(どうしてあのとき、寝たフリなんてしてしまったんだろう・・・?)
 触れられた唇の感触が、いつまでも消えない――――






   『切なさに触れた瞬間(とき)』






 その日は朝から快晴だった。
 まさに雲1つないという表現がぴったりのどこまでも続く青い空。
 昼休みになって、大はいつも明凌連の面々が集まっている屋上には行か
ず、中庭に行くことにした。
 特に理由はない。
 しいて挙げるなら、太陽に近い屋上より、中庭の木陰の方が涼しそうだっ
たから・・・かもしれない。
 弁当持参で中庭に行くと、そこには先客はなく、ただ静かな空間が広がっ
ていた。
 当然だ。
 今日のような暑い日に、外に出る物好きはそういないだろう。
 大はちょうど校舎からは死角になっている向こう側の木陰に座り込んだ。
 ボーッと遠くを眺めながら、1人昼食を取る。
(平和だなぁ・・・。)
 大は思う。
 百鬼夜行(デビルラン)との戦いなど、まるで夢のよう。
 この平和を守るためにも戦い続けなければならない。
 心強い仲間達の顔を1人1人思い浮かべながら、大は改めて決意する。
(これからも自分にできることを精一杯やろう!)
 ふと御堂茜の顔を思い浮かべたとき―――
 大の顔が一瞬曇った。
 いつもぶっきらぼうで『オレ様』な態度全開の茜だけど、いざっていうとき
はいつも大を助けてくれる、力になってくれる。信頼できる友。
(なのに俺は・・・刺青のことで、100%茜を信用してるとは言えない。たと
え鬼の刺青を背中に持っていても―――茜が茜であることには何の変わり
もないというのに・・・。俺ってサイテーだ。)
 大は茜を信用し切れていない自分が腹立たしかった。そして悲しかった。
(茜、ごめん・・・。)
 色んなことを考えているうちに、思わずうとうとしてしまった大は、人の気
配に気付いて意識を覚醒させた。
 目を開こうとした瞬間、不意に聞こえた声に、思わずタイミングを逃してし
まう。
 それは茜の声だった。
「おっ、こんなとこにいやがったのか。ったく、下僕がいないとオレ様が飯を
食えねーだろうが・・・。」
 いつもながら『超オレ様的』パワー全開である。
「おい、ウッキー。聞いてるのか?って、ん?なんだ寝てるのか??」
 ようやく大が眠っていることに気付いた茜である(実際には『寝たフリ』し
ているのだが)。
『寝てるのか?』と言われては、『起きてるよ』とも言えず、大は仕方なく寝
たフリを続行することにする。
 大が寝てるとわかった途端、何故か茜は急に静かになった。
 しばらく沈黙は続く―――
 そしてようやく茜の気配が動いた・・・と思ったら、大に顔を近づけてきた。
(・・・?)
「大、まだ起きるなよ?」
 囁くような茜の声に、大の心臓がドクンッと跳ね上がる。
 そうして吐息がゆっくりと近づいて―――
 大の唇に柔らかいものが押し当てられた。
(うそっ!?)
 鈍い大も、さすがに今自分がキスをされているのだとわかった。
 数秒間の逢瀬。
 重なったときと同じように、ゆっくりと唇が離れていく。
「大・・・。俺は・・・俺は・・・・・」
 切ない声だった。普段の茜からは想像もつかないくらいの。
(あか・・ね・・・?)
 大は目を閉じたまま、必死に茜の声を聞き取ろうとする。
 しかし最後の方は消え入りそうにか細い声で、何を言っているのかはわ
からなかった。いや、すでに言葉にすらなっていなかったのかもしれない。
 その後、茜が口を開くことはなく、1度大の前髪をサラリと指で掬ってか
ら、何事もなかったかのようにその場を立ち去るのだった・・・。
 そうして後に残されたのは、いまだ寝たフリを続けたまま、放心状態に陥
っている大だけ。


 太陽は、いつの間にかその姿を雲の中へと隠していた――――。






                                        【END】








[感謝の気持ち]
アンケートにお答え下さった皆様、そしてこのSSを読んで下さった皆様、
本当にありがとうございますっ!!この『アンケート御礼フリーSS』は、ア
ンケート結果をもとにジャンルを決めて書かせて頂きました。
『問2.当HPへは何(どのジャンル)を目当てに来て下さいましたか?』
『問3.もしも当HP内で気に入ったSSがあれば、そのジャンル名とSSの
タイトルを教えて下さい。』『問5.これからもっとSSを増やして欲しいとい
うジャンルがあれば教えて下さい。』『問10.当HPで扱っているワイルド
ライフ以外のジャンルで、裏的なSSをぜひ見てみたいというものはありま
すか?』で、見事4冠達成!!ビバッ、鬼組!!!(笑)。
カップリング的には、「大君(総)受」なら特にご指定なしというご意見が多
かったため、今回はお初の「茜×大」に挑戦してみました(微妙に外したよ
うな気がしないでもないですが/汗)。
感謝の気持ちを込めて、『フリーSS』といたしましたので、よろしかったらお
持ち帰り下さいませ(こんなヘタレ文を持ち帰って下さるお優しい方がいら
っしゃるのかどうか謎ですが/自爆)。※著作権は放棄いたしておりません
ので、念のため※
事後で構いませんので、もしお持ち帰り下さった場合は、一言『掲示板』も
しくは『メール』にてご一報下されば嬉しいです><

                           2003.10  ■紅月しなの■




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