そっと優しく囁いて 『3月21日夜7時、裏門のところで待っています。 賀集』 鉄生は、もう幾度となく見返したハガキを飽きもせずまた見ていた。 賀集らしい、繊細で温かみのある文字。 このハガキがオーストラリアという異国の地から届いたのは、もう1週間 以上も前のことだった。 それを毎日毎日見つめながら、鉄生は今日という日をずっと待っていた。 待ち焦がれていた。 そう。今日は、賀集と一緒に過ごせる日―鉄生の誕生日―である。 18時50分――― 仕事を終え、『犬』とともにR.E.D.の裏門にやって来た鉄生は、門の すぐ脇に止まっている1台の車を見つけた。 もしかして・・・?と近付くと、案の定そこには賀集が乗っていた。 コンコンと窓ガラスを叩くと、賀集が懐かしい笑顔で車を降りてくる。 「師匠、ほんとに来てくれたんだ・・・。」 嬉しそうに言う鉄生の頭を優しく撫でながら、 「もちろん。だって今日は、大切な日だからね。」 そう言って、賀集は鉄生の前髪に優しく口付けた―――。 助手席に鉄生(+膝の上に『犬』)を乗せ、車は走り出す。 しばらく経った頃、そう言えば・・・と鉄生が問いかけた。 「ねぇ、師匠。これって一体どこに向かってるわけ?」 相変わらずの鉄生のボケっぷりに、賀集はクスリと笑いながら、 「それは着いてからのお楽しみです♪」 とウインク付きで言う。 「えーっ、それズルイよ、師匠。」 そう口を尖らせて言いつつも、内心、鉄生は幸せだったりする。 (ほんとは師匠と一緒なら、場所なんてどこだっていいんだけどな、俺。) 「もうしばらくかかりますから、鉄生君は寝てていいですよ。」 「いや、俺は全然眠くないから平気。でも師匠こそ疲れてるんじゃないの か?こっち(日本)に帰って来たばかりなんだろ?」 鉄生の気遣いが嬉しい。 賀集は幸せそうに微笑みながら、こう言うのだった。 「いいえ。疲れなんて、鉄生君の顔を見た途端に吹き飛んじゃいましたよ。 今は有り余るくらい元気です。」 「なんだよ、それぇ〜。俺ってば栄養剤かなんかなわけ?」 楽しそうに返す鉄生に、賀集はやんわりと切り返す。 「そうですね〜、僕限定の精力剤ってとこでしょうかね、鉄生君は。」 「せっ、せっ、精力剤って・・・・ななな何言って・・・・」 途端に真っ赤になる鉄生は、やっぱり賀集には敵わないらしい。 「フフフッ、夜はまだまだこれからですよー♪」 意味深な台詞を残しつつ、運転を続ける賀集だった・・・。 「てっ・・くん・・・鉄生君・・・・」 「う〜ん?」 「ほら、起きて。着きましたよ。」 「えっ!?」 パチリと目を開くと、そこには賀集の笑顔(しかもかなり至近距離)。 「俺・・・寝てた?」 恥ずかしそうに目を伏せる鉄生を見つめる賀集の眼差しはどこまでも優 しい。 「ええ、爆睡してましたよ。」 「ヒャーッ。ごめん、師匠。」 「鉄生君が謝ることありませんよ。疲れてるところを無理矢理連れ出したの は、むしろこっちの方ですし。」 「そんなっ、無理矢理だなんて・・・。俺だって師匠に会いたかったから!だ から俺・・・・」 「鉄生君・・・。」 賀集の唇がゆっくりと鉄生のそれに重なろうとしたとき――― 「ワゥッ!」 今まで鉄生の膝の上で眠っていた『犬』が、絶妙のタイミングで目を覚ま した。 ビクリッと肩を震わせた賀集が、慌てて身を起こした拍子に車の天井に 頭を打ちつけた。 ゴチンと鈍い音がして、 「イタタタッ。」 と賀集が頭を押さえて運転席に沈み込む。 鉄生と『犬』が、 「大丈夫か?師匠。」 「ワゥワゥッ!」 心配そうに同時に言った(鳴いた)。 しばらくして――― 「あ〜痛かった。やっぱり車の中で不埒なことをしようとしたバチが当たっ たんでしょうかね。」 茶目っ気を含ませた賀集の言葉に、鉄生はまたまた頬を赤く染めた。 鉄生が『犬』を抱えながら車を降りると、そこはいつの間にやら山の中だ った。 どうやら鉄生は、かなりの時間眠っていたらしい。 そして目の前に広がるのは――― 大きな家・・・いや、別荘と言った方がいいだろうか。 「師匠、ここは?」 圧倒されながら問う鉄生に、 「ええ、ここが今日の目的地です。」 賀集は涼しい顔で答えるのだった。 鍵を開けた賀集に続いて中に入った鉄生は、まずその広さに驚いた。 リビングとダイニングをあわせて優に20畳以上はあるだろう。その他に も、1階にはキッチン・バス・トイレなどが備わっている。 賀集の話では、2階は全て客室(寝室)になっているらしい。 リビングには暖炉があり、別荘らしい雰囲気を醸し出している。 「鉄生君はリビングのソファで休んでて下さい。今から僕が腕によりをかけ てご馳走を作りますからね。」 そう言って腕まくりする賀集に、鉄生は驚きを隠せない。 「えぇっ!?師匠って料理できんのぉ〜?」 「それは心外ですね。こう見えても結構上手いんですよ。」 「ほぇ〜。スゴイんだ、師匠って。」 感心する鉄生に笑みを投げかけ、賀集がキッチンへと消えていく。 鉄生はその間、『犬』と遊んで待つことにした。 1時間後――― 「おまたせしました〜♪」 賀集の声に、ダイニングテーブルに移動する鉄生と『犬』。 すでに卓上には、数々の豪華な食事が並べられていた。 「うわぁっ、スゴイ!!これ全部師匠が?」 「ええ。材料は先に友人が買い出して冷蔵庫に保管してくれてましたから ね。助かりましたよ。」 「友人?」 「ええ、僕の学生時代の友人で、この別荘の持ち主でもあります。」 「えっ!?そんなところに俺なんかが来て良かったのか?」 「もちろんですよ。いつでも好きなときに使っていいと言われてますから。 鉄生君が心配することはありませんよ。それに・・・」 「?」 「僕が鉄生君以外の一体誰を連れて来るって言うんです?」 (またそういうことをサラリと言う・・・。) 鉄生はそっと心の中でため息を吐いた。 こうやっていつも自分は賀集の甘い言葉に心を奪われていくのだ。 でも・・・ (冷静に考えてみっと、こんなスゲー別荘を持ってる友人がいるなんて、 師匠ってなんかスゴイかも。それにいつでも好きなときに貸してくれるっ て、なんかめちゃくちゃ太っ腹だし・・・。う〜ん―――) やっぱり師匠って、謎な人だよなぁ・・・。 鉄生の困惑をよそに、賀集は上機嫌である。 手にはいつの間にかワインのボトルを持っていたりして。 「じゃあ、鉄生君。乾杯しましょう!」 「え?あ、ああ。」 2人、ワインの入ったグラスを掲げて――― 「鉄生君、お誕生日おめでとうございますv」 「あっ、ありがとう、師匠////」 「「かんぱーい♪」」 それを合図に、猛烈な勢いでご馳走を平らげていく鉄生だった・・・。 「あ〜っ、食った食ったぁ〜。満足ー。」 「フフ、鉄生君ってば、オヤジ臭いですよ?」 「ヒッデェなぁ、もう。でもスッゲー美味かった。師匠、ありがとう。」 「いえいえ、喜んで頂けて良かったです。」 2人はリビングのソファに移動して、ゆったりとくつろいでいた。 ちなみに『犬』は、ダイニングテーブル付近で丸くなって眠っている。 「なぁ、師匠。何で・・・その・・・帰って来てくれたんだ?」 「そんなの言うまでもないことですよ。大切な鉄生君のお誕生日なのです から、一緒に過ごしたい、お祝いしたいと思うのは当然じゃないですか。」 「し、師匠・・・////」 「愛してますよ、鉄生君vv」 「あっ・・・うっ・・・んなことサラリと言うなってばぁー。」 照れて涙目になってる鉄生は、まるで誘っているようにしか見えない。 「鉄生君っっ!!」 あっさりと理性を脱ぎ捨てて、賀集は鉄生をソファに押し倒した。 そして耳元で、そっと囁く。 「君の気持ちを聞かせて下さい。」 さらにかあぁっと真っ赤になって、 「んっ、んなこと言わなくても知ってるくせに・・・」 精一杯強がりを言う鉄生。 「ええ、知っています。知っていますが、どうしても君の口からその言葉を 聞きたいんです。ダメですか?」 甘く熱い息が耳に吹き込まれて、鉄生の中にまだ少しだけ残っていた羞 恥心とも呼ぶべきものが、音を立てて崩れていく。 「ダ、ダメ・・・じゃない。俺・・・俺も師匠のことが・・・俺も・・・・し、真吾さん が、好きvv」 思いがけず名前で呼ばれて、賀集は幸せそうに微笑んだ。 その後は2人、朝までずっと―――― Tessho,Happy Birthday!!! 【END】 [後書き] ・・・・ハーハー、ま、間に合った(ヨロリ)。今回ばかりはほんとダメかと思 いました(いや、いつも思ってるだろ?のツッコミは無しの方向で/笑)。 頭の中のモード切り替えがここまで難しいモンだとは・・・フゥ。って、肝心 なこと言わないで4行も使ってしまいマシタ(汗)。 改めまして。『鉄生君、お誕生日おめでとうございます!!!』 一応これ、鉄生君のお誕生日お祝いSS・・・のつもりです、はい。そして、 ひそかに『サイト開設半年&1万HIT感謝企画アンケート』のワイルドライ フ部門で1位だったCP(賀集×鉄生)を兼ねております。実は、アンケー ト実施中から、1位になったCPで「鉄生君のお誕生日祝いSS」を書こうと 決めておりました。そして結果が出て、賀鉄が1位になったときに気付きま した。誕生日を絡めた話って、陵鉄の方が圧倒的に書きやすいということ に!(笑)何故なら、陵鉄だったら舞台は色々あるじゃないですかぁ。陵刀 の家とか、R.E.D.内とか・・・etc.でも賀鉄だと、これがないんですよぉ 〜(というか、その前に師匠は異国の地だし/笑)。 なので、今回は別荘とか師匠の友人とか、かなり捏造しまくってしまいまし た。すみません>< 別荘の描写は、極力控えました(というか、描写が苦 手なだけというか←殴)ので、皆様が『豪華な別荘』と聞いて思い付かれる ようなものを想像して頂ければ幸いです(他力本願)←コラ とりあえず、鉄生君のお誕生日祝いに『賀集×鉄生』をアップしてるような サイトは、うち以外なさそうな気もしますが(苦笑)、きっと陵鉄などは他所 サマでたっくさん素敵な更新がなされていることと思いますので、逆に珍し いなvと目を留めてやって頂ければ嬉しゅうございます(賀鉄仲間サマ切実 募集中!!)。 そしてご感想など頂けましたら、さらにさらに嬉しいです(>▽<) ☆ひそかに、鉄生君に『真吾さん』と呼ばせることができて満足vの紅月 でした(←アホ) |