『ここから始まる恋の詩(うた)』 「朝日奈―――お前が好きだ。」 ある日、朝日奈大は導明寺壱茶に告白された。 放課後ということもあり、屋上には2人以外に人影はなく、爽やかな初夏 の風が2人の頬を時折優しく撫でていく。 大は一瞬目を見開いてから、すぐに笑顔になった。 「俺・・・俺も、壱茶さんのこと好きです。」 大から思いがけず嬉しい返事をもらった壱茶は、両目をいっぱいに見開き ながら、 「マ、マジで?」 呆然と呟く。 「はい!」 元気良く答える大に、壱茶は満面に笑みを浮かべた。 そして――― 大をグイッと抱き寄せると、耳元で囁く。 「好きだ、大。」 いきなり下の名前で呼ばれて、大の頬が真っ赤に染まる。 「壱茶さん―――」 そのまま上目使いに潤んだ瞳を向けてくる大に、壱茶の心臓が音を立て て跳ね上がった。 「大―――」 ゆっくりと近づく唇に、大が目を閉じて答える。 震えるまつげから大の緊張が伝わってくるようで、いっそう愛しさが増して いく。 壱茶の唇が、瞼に、頬にと優しく触れていき―――最後に大の唇をふん わりと包み込んだ。 「・・・んっ・・・・」 縋りつく大の手に指を絡めて、壱茶はより深く甘い果実のような唇を貪る のだった――――。 恋人同士になって約3ヶ月が経過し、2人は幸せの絶頂にいた。 いや、少なくとも大は、幸せな日々を送っていた。 しかし―――壱茶は少し違った。いや、幸せなことに変わりはない。変わ りはないのだが・・・変わりなさすぎて逆に不満なのである。 つまり―――進展しないのだ。キスから先に・・・。 大は言うまでもなく天然だった。 誰の目から見ても明らかにそうであるとわかるほどに。 だから壱茶と付き合い始めてからも、ちょっと目を離すと口説かれてるし、 迫られてるし、スキンシップと称してベタベタと触られていたりもする。 それもこれも2人が付き合い始めたときに、 「壱茶さんと俺が付き合ってることは、皆には内緒にして下さい。」 と大が壱茶に頼んだことが原因であった。 うるうると上目使いのお願いモードに入った大に、「否」と言える者が果た しているだろうか・・・? 例外なく壱茶は、「わかった」と頷いてしまったのである。 だが、まあそれだけならまだ良い。しかし大は超ド級の天然だ。だから自 分が皆に好かれていることも、口説かれていることにも全く気付いていない。 無防備に笑顔を振り撒く大に、恋人の壱茶がどれだけ日々頭を悩ませてい るか―――推して知るべしである。 それに加えて、2人の関係の進展のなさである。 大の天然っぷりは、ここでも嫌というほど発揮されていた。 壱茶がせっかく甘〜い雰囲気に持っていっても、大は的外れな言動でもっ て、その雰囲気をものの見事にぶち壊してくれるのである。 しかしもちろん大に悪気はない。天然とは悪気がないからこそ『魔性』なの だ。 そんなこんなで、壱茶はこの3ヶ月、大に全く手を出せずにいた。いつも理 屈より行動!を信条とする壱茶にとって、これは大きな苦痛である。しかし それを懸命に耐えているのは、ひとえに大への愛ゆえであった・・・。 そして――― そんなある日、ついに小さな事件は起こった・・・・・。 「朝日奈・・・そろそろ俺の気持ち、わかってくれよ!」 悲痛な叫びのようにも聞こえる宗近の声。 それを耳にした壱茶は、思わず足を止めた。そして物陰からそっと様子を 伺う。 そこ―学校の裏庭―には、宗近和寿と朝日奈大が深刻な表情で立って いた。 他に人影はない。 大の肩を掴む宗近の手に力がこもる。 「宗・・近さん・・・・痛いっ、離して下さい!」 顔を顰める大。 しかし興奮状態の宗近にはその声は届かない。 「朝日奈、好きなんだっ!」 叫ぶように言って、宗近は荒々しく大を抱きしめた。 「!?」 壱茶の額に無数の青筋が浮かぶ。 飛び出して、ぶん殴ってでも引き剥がしてやる! そう思って一歩を踏み出しかけたとき、戸惑ったような大の声が聞こえて きた。 「あっ・・・ご、ごめんなさい、宗近さん。俺、す・・好きな人がいるんです。」 (大・・・。) この言葉に、ほんの少〜しだけ壱茶の心が浮上する。 (それはもちろん俺のことだよな?そうだよな?大。) 物陰に隠れながら、心の中で問いかける壱茶の姿は、ある意味滑稽だっ たが、本人は至って真剣だった。 次の大の言葉を息を呑んで待つ壱茶。 しかし次に聞こえてきたのは、半分理性を失ったかのような宗近の叫び 声だった。 「うそだっ!そんなこと・・・信じたくない。」 まだ宗近に抱きしめられたままの大は、苦しそうに顔を歪めてもう一度同 じ言葉を口にする。 「いえ、あの・・・本当なんです。俺には好きな人が―――とても大切な人 がいるんです。」 (大・・・っ!!) その言葉を聞いた瞬間、壱茶は泣けてきそうなほどの喜びに、1人打ち 震えていた。 が、しかし。 惚れた相手に至近距離でノロけられて、宗近が納得できるはずもない。 「あ、朝日奈・・・教えてくれ。お前の好きな相手っていうのは、一体誰なん だ!?」 震える口調で問いかける宗近の表情には、知りたい、でも知りたくない、 そんな複雑な想いが見え隠れしていた。 「そっ、それは――――」 大が困ったように目を伏せたのを見た瞬間、壱茶は堪らず2人の前に飛 び出していた。 「壱茶!?」 「壱茶さん!?」 驚く2人の前に仁王立ちになって、壱茶は高らかに宣言した。 「大の恋人は、この俺だっ!!!」 「なっ、何だってぇ〜〜〜〜っ!?」 「っ!?」 宗近の眉がつり上がる。 大は絶句して、呆然と壱茶を見つめ返すばかりである。 しばらく経って――― 「ほっ、本当なのか・・・?朝日奈。」 なんとかショックから立ち直った宗近が、掠れた声で問う。 大はビクリッと肩を震わせ、目を泳がせるだけで何も答えない。 「大、言ってくれよ。お前の口から宗近にちゃんと言ってくれ!そうでないと 俺は・・・」 最後はか細い声だった。いつもの壱茶からは考えられないような。 「壱茶さん・・・。」 大は少しだけ逡巡した後、顔を上げて宗近を真っ直ぐに見つめた。 壱茶の登場に驚いたためか、いつの間にか宗近の腕は大から解けてい た。 ほんの少し空いた隙間が、宗近にはとてつもなく遠い距離に感じられる。 「すいません、宗近さん。俺、俺は・・・壱茶さんと付き合っているんです。」 きっぱりと言われて、宗近は静かに頷いた。 「・・・わかった。俺の方こそすまなかったな、朝日奈。」 そう言って、苦しい気持ちでいっぱいのはずの宗近は、それでもやんわり と微笑んでみせた。 それは、心優しい大が、自分に対して少しでも罪悪感などを感じないです むようにという、宗近なりの精一杯の優しさであった。 たとえそれが、泣き笑いのような表情(かお)であったとしても―――。 宗近が切ない笑みを残して去った後、大と壱茶は無言のまましばらく立 ち尽くしていた。 「壱茶さん・・・」 ふいに大が口を開く。 「ん?」 「ごめんなさい。」 「何で大が謝るんだ?」 「だって俺、壱茶さんのこと隠そうとして・・・」 「そんなこと・・・もう気にするな。」 優しく言って、クシャクシャと壱茶が大の頭を撫でる。 「でも・・・」 まだ何か言い続けようとする大を制して、 「大はちゃんと俺を恋人だと言ってくれただろ?だからもういいんだって。そ れに俺、スッゲー嬉しかったんだぜ?ちょっとこの頃、自信がなくなってきて たからな・・・。」 「え?自信って・・・何のですか?」 きょとんとした表情で、大が問う。 壱茶はクスリと笑って、 「いや、大が俺のことを本当に恋人と思ってくれてるのかどうかってな。」 「えぇっ!?そ、そんなの当たり前じゃないですか!」 目を見開いて慌てたように叫ぶ大に、さらに壱茶の笑みが深くなる。 そして―――壱茶は1つの賭けに出た。 「当たり前・・・か?」 「もちろんです!」 「じゃあ・・・俺にくれるか?」 「? 何をですか?」 「大。」 「へ?」 「大が欲しい。意味、わかるよな?」 「・・・・・・・・・・っ!?」 しばしの沈黙の後、大の顔が急激にボッと赤く染まった。 どうやら意味が通じたらしい。 「大?」 「あっ・・・うっ・・・・あ、あの・・・・・壱茶さんなら・・・お、俺・・・構いません。 だって・・・す、好きだから―――」 一生懸命言葉を繋ぐ姿がいじらしい。 「大っっ!!」 壱茶は幸せそうな笑みを満面に浮かべながら、大を強く強く抱きしめた。 勢いのままに重なった唇は、大が呼吸困難に陥る寸前まで解放されるこ とはなかった。 「大、好きだ・・・好きだ・・・・」 「んっ・・・・俺も・・・好・・・き・・・・です・・・・・」 キスの合間に囁かれる愛の詩に酔って酔わされて。 2人の恋は、ここから始まる―――――。 【END】 [後書き] 大君、お誕生日おめでとーっ!!こんなリハビリ崩れのSSだけど、なんと か間に合って良かったです・・・(ゼイゼイ)。 しかもコレ、以前やった『サイト開設半年&1万HIT感謝企画アンケート』で 第1位だった「壱茶×大」SSも兼ねてたりします(ニコ)←殴 (余談:ほんとはKYO(梵狂)の方を先にアップする予定だったんですけど、 ちょっと事情があって順番が逆になってしまいました。すみません。) 壱茶×大だからポップなかんじで!とか言ってたくせに、いざ書いてみたら エセシリアス風味になってしまいマシタ(遠い目)。しかも誕生日なのに全く 関係のないシロモノに・・・(汗)。やっぱり体調悪いと、ポップ調は無理なの かも(苦笑)。 色々ホントすみません。いつも以上にヘボヘボ文ですが、久々に頑張った ので許してやって下さい。そしてご感想など頂けましたら幸いです>< あああーーーっ、しかし紅月の本命こと宗っちは、今回あまりに可哀相な役 どころでした^^; 頑張れ、宗っち!!(←酷) ところで、もう皆様ご存知かもしれませんが、「鬼組 THE REVOLVER 1 巻」の鬼キャラプロフィール公開で、血液型が書いてありませんでしたよね。 実は、下書きの段階では書いてあったけど、ペン入れの段階で先生がお書 き忘れになったそうで、2巻からはしっかりと書いて下さるそうですよ〜(喜) そしてもちろん今回抜けていた大君と茜ちゃんの血液型も教えて頂きました !!(ウフフフv) 大君がA型・茜ちゃんがO型とのことです。なるほどなるほど!ってかんじ ですよね〜♪ あっ、この情報は、公式のHPで藤井先生から直接(掲示板で)教えて頂き ましたので、間違いありませんです!!思いきってご質問して本当に良か ったです>< 先生めちゃお優しい方で、大好きです〜vv ではでは、相変わらず後書き長くて失礼しました! |