White Christmas 〜臆病で幸せな恋〜 「朝日奈っ。」 後ろ姿に声をかける。 「・・・はい?」 振り向いた笑顔に、一瞬心が躍る。 「くっ・・・く・・・・」 でも言葉が続かない。 今、言わなければならないのに。 そう。今でなければ――― 「く?」 大は不思議そうに目の前の男の顔を見つめ返した。くりくりっとした瞳をさ らに見開くその様が可愛らしい。 そうだ。この可愛い存在を誰かに渡してなるものか! 宗近は心の中で、ぎゅっと拳を握りしめた。 そして――― 「クリスマスは何か予定が入っているか?」 言った。言い切った。 大は2、3度まばたきしてから、 「いいえ、特にありませんけど。」 宗近の望みどおりの答えを返した。 よっしゃあーーーっ!! 思わず心の中でガッツポーズする宗近。 しかしまだまだここからが本番だ。 「じゃあ・・・えっ、えっと・・・その・・・・」 また言葉が続かない。 「はい?」 大はなおもやんわりと宗近の言葉を待っている。 「つまり、その・・・・・」 「?」 は、早く・・・早く言わなければ! 逆に宗近は焦っていた。 朝日奈の時間を俺に・・・そうだ、言うんだ!! 「朝日奈を俺にくれっっ!!」 ・・・惜しい。『時間』が抜けている。 しかしここで、宗近は今自分がどれほど恐ろしい言葉を口にしたかというこ とに気付いた。 「いっ、いいいや!違っ、違うんだ。いや、違うくはないけど、とにかく違うん だっ!!」 焦りのあまり、意味不明なことを喚く宗近。 今にも火が吹き出しそうなほど、全身が真っ赤に染まっているのが、自分 でもよくわかった。 しかし――― 宗近が半錯乱状態に陥っているのに対して、大は物静かだった。 ポヤンとした表情で、 「俺を宗近さんに・・・?えーっと、何かお手伝いすればいいんでしょうか?」 そんな的外れなことを言う。 「ハ・・ハハハハ・・・」 宗近はまだバクバクと早鐘のように打つ心臓を抱えながら、脱力してその 場にうずくまった。 朝日奈が天然純度100%で良かったぁ〜っ。―――そう心から思いなが ら。 宗近の気の抜けた様子に、大は慌てて宗近の前にしゃがみ込んだ。 「だ、大丈夫ですか?宗近さん。」 大の手が肩に触れる。 視線が合わさる。 今度こそ宗近は、目の前の愛しい存在に、自分の気持ちを素直に伝える ことができた。 「朝日奈、クリスマスは俺に付き合ってくれないか?」 「―――はい。」 そのときの大の笑顔が、宗近にとっては一足早いクリスマスプレゼントに なったのであった・・・。 クリスマス当日――― 『10時に駅前の○×で。』 大は約束の時間より15分早い、9時45分には待ち合わせ場所に着いて いた。 その大を物陰から見つめる男が1人―――。 そう、もちろん宗近だ。 実は宗近は、さらに15分早い9時30分頃にはここに到着していた。が、 あまりに早すぎたため、一旦身を隠し、『大が来てから自分も今来た・・・と いうフリをして登場する』という筋書きを考えたのだ。 それは―――浮かれすぎて昨夜あまり眠れず、今日も嬉しさのあまり出 発の2時間も前に用意万端整っていた・・・そんな自分への精一杯の戒め。 こんな己の情けない姿を大に知られてしまったらと思うと、宗近は怖くて 仕方がない。 『恋』とは、これほどまでに人を臆病にしてしまうものなのだ。 9時55分になった。 宗近はさり気なく物陰から出て、自然な素振りで大に駆け寄って行く。 「朝日奈っ!」 大が振り向く。いつもの優しい笑みとともに。 「宗近さん。」 「わりぃな、待ったか?」 「いいえ、今来たところです。それにまだ時間前ですよ。」 「そっか、それなら良かった。」 「いいお天気ですね。」 「そうだな。今日はホワイトクリスマス・・・とはいきそうにないな。」 「フフッ。」 「どうかしたか?」 「いえ。宗近さんって、ロマンチックなんだなぁと思いまして。」 宗近の頬がうっすらと赤く染まる。 「が、ガラにもねぇこと言っちまったな////」 「いいえ、宗近さんらしくてステキだと思いますよ。」 クスクスと笑いながら言う大に、 「わ、笑いながら言われても説得力ねぇな。」 宗近は拗ねた子どものように唇を尖らせてみせた。 しばらく他愛ない会話が続き――― 不意に宗近が言った。 「朝日奈・・・今日は俺ん家でクリスマスパーティをしないか?まあパーティ っつっても、2人でだけどな。」 「え?宗近さんの家・・・ですか?」 「ああ、ダメか?」 「いいえ、そんな・・・嬉しいですvぜひお邪魔させて下さい。」 「そっか。まあ1人暮らしなんであまりキレイとは言い難いけどな。」 「そんなの全然かまいません。」 「じゃあ今から色々美味いモン買って行こうぜ。」 「はい!」 「お邪魔しまーす。」 「ああ。狭いところだけど、まあゆっくり寛いでくれよな。」 「はい。」 宗近の家は、こじんまりとしたマンションの1室にあった。 ワンルームで、部屋はだいたい10畳ほどの広さだろうか? 家具類は、テレビ・ベッド・パイプ机の他は何も置いておらず、真ん中に 小さなテーブルを置くと、ちょうどお互いが座ってギリギリくらいの状態であ る。 テーブルの上に、買って来たばかりのチキンやサンドイッチ、ケーキとい った料理を並べる。グラスにワインを注ぎ入れ、テレビの上には、同じく買 って来たばかりのミニツリーを飾ると、段々クリスマスらしいかんじになって きた。 「じゃあ、パーティの開始といくか♪」 「はい!」 グラスを持ち上げ、カチンと乾杯する。 そこからは、飲んで食べて・・・の繰り返し。 明凌連内の噂話などで盛り上がりつつ、2人(特に大)は少しずつデキあ がっていった。 安物のワイン1、2杯で酔えるとは、なかなかに経済的である(注.お酒 は20歳を過ぎてから!!) 「あっ!」 不意に大が大声を上げながら、窓の外を指差した。 「ん?」 宗近がそちらに目を向けると、チラチラと雪が舞っていた。 「おおっ!降ってるな。」 「ええ、降りましたねぇ。」 どこかフワフワとした表情で大が言う。 「大丈夫か?朝日奈。」 なんだか危なっかしくて、思わず問いかけた宗近だったが、それが逆に いけなかった。 「はい?」 振り向いた拍子に、大の足がもつれ、体が傾いだ。 「危ねぇっ!」 咄嗟に宗近が大を抱き止める。 ドサッと宗近の胸に倒れ込んだ大の体は、驚くほどに細くて軽かった。 「すっ、すみません・・・」 顔を上げた大の潤んだ瞳が、宗近の視線と絡まる。 その瞬間――― 「んっ・・・」 大の唇は宗近に塞がれていた。 「んふっ・・・」 ゆっくりと離れていく温もりとともに、 「好きだ。」 甘い囁きが耳に入り込んで。 大は頬を赤く染めながら、一筋の涙を零した。 宗近の唇が、その雫を掬い取る。 そして――― 「朝日奈・・・」 「宗近さん・・・」 見つめ合い、同じ言葉を口にする。 「「メリークリスマス!!」」 今宵、恋人たちに良い夢を―――― 〈追記〉 クリスマス恒例の(?)プレゼント交換は、大から宗近へはニット帽が、そし て宗近から大へは自分とお揃いの腕時計が、それぞれ渡された・・・らしい。 以上、クリスマス以降に2人と会った明凌連のある人物(M氏)からの情 報である―――。 【END】 [後書き] というわけで(?)、クリスマスSS(鬼組:宗大)でしたー!!いや〜遅筆な 紅月には、日にちが差し迫っていたこともあり、難産でございました・・・。い つも以上に文章がヘタレていることをまずはお詫び致します(ペコリ)。 前半は宗近さん壊れまくりでしたが(笑)、後半なんとか持ち直したんじゃな いかと(どうでしょ?←聞くな)。今回はクリスマスということで、最後はオトさ ないようにしました(苦笑)。ええ、普段は関西人の血が『オチ』を求めてしま うんですよねぇ(コラ)。本命の宗近×大を、こういう形で書くことが出来て、 私的にはスッゴク嬉しかったですvv微妙に、デキてないようでデキてるよう な雰囲気を目指してみたのですが・・・見事に玉砕しました(遠い目)。 誰も邪魔の入らない2人っきりのクリスマスv良かったね、宗近さん(笑)。 さて、なんとかクリスマスに間に合いそうです(ホッ)。お目汚しな部分もあ るかと思いますが(いや、それはいつものことですが/爆)、少しでも楽しん で頂ければ幸いです>< ご感想など頂けたらもっと幸せv(←コラコラ) ではでは皆様、Merry Christmas!!! |