☆このお話は、火村のお誕生日記念SS「魂の帰る場所」と多
少リンクしておりますので、できればそちらを先にお読み下さい。
お手数をおかけして、申し訳ありません☆  




  『大人の味?』





「なあ、火村。コーヒーってうまいか?」
 英都大学にほど近いとある喫茶店。
 レモンスカッシュをストローで意味もなくかき混ぜながら、アリ
スは目の前で優雅にコーヒーをすする火村に問うた。
「はあ?んなもんうまくなかったら飲むわけねーだろうが。」
 にべもなく返されて、それでもアリスはまだ納得のいかない顔
で、じとっと火村を見返した。
「せやけど、コーヒーって苦いんやろ?」
「当たり前だ。その苦さがいーんじゃねぇか。」
「ふぅーん。おやじくさっ。」
「なんでそうなる?」
「いや、なんとなく。」
「あのなぁ・・・。」
 アリスのあまりに勝手な言いぐさに、火村は苦笑する。
「俺もコーヒー飲めるようになるんかなぁ?」
 気弱に呟くアリス。
「別に無理に飲まなくてもいーんじゃないか?」
「うん。でもやっぱ喫茶店とかで『ご注文は?』って聞かれたら、
コーヒーって言えた方がカッコええやん?」
「プッ・・・あはははっ・・・。」
 真面目な顔で語るアリスに、ついに火村が吹き出した。
「なっ、なんで笑うんや!?」
 ぷぅっと膨れるアリスに、さらに火村が笑いを深める。
「もうっ。勝手に1人で笑とれっ!!」
 ぷいっとそっぽを向いてしまったアリスを見て、火村がようやく
笑いを引っ込める。が、まだ肩は小刻みに震えていたりする。
「悪かったってば。それは、切実な問題だ。」
「よう言うわっ。」
「いやいや、本当に。でもまあ、もう少し大人になったら飲めるよ
うになるんじゃないか?」
「大人に・・・って、今もう充分大人やろうがっ!」
「大人ぁー?21にもなって中学生に間違われてたのは、どこの
どなたでしたっけ?」
「うっ・・・。」
 痛いところをつかれて、アリスが唇をかむ。
「まあまあ。焦らなくても、いずれ1日1杯は飲まないと落ち着か
ない中毒患者になっているさっ。」
 火村のこの不気味な予言は、しかしこの数年後、見事に的中
することになるのだった・・・。




 アリスがコーヒーを飲むようになったのは、脱サラして推理作
家となったまさにその年のことである。
 一大決心をして自ら望む道を切り開いたとき、アリスは本当の
意味での大人となったのかもしれない。
 まあそれでも、外見の進歩はあまりなく、28歳にもなって「学
生さんですか?」と言われる始末ではあったが・・・。
 この頃から、アリスが原稿に追われて修羅場っているとき、火
村がおいしいコーヒーを淹れてくれるようになったとかならないと
か・・・。




 そしてさらに時間は経過して・・・現在。
 本日3○歳になったアリスは、火村の淹れた特製ブレンドコー
ヒーを幸せそうにすすっていた。
「はぁー、めっちゃうまいわー。この苦味がたまらーん。」
「おやじくさいぞ?アリス。」
 火村の憎まれ口に、アリスもすかさず「お互いさまやっ。」と返
す。
「まあ今日でめでたくまた同じ歳になったわけだしな。・・・という
わけで、このコーヒーに合うとびっきりのケーキを用意してやった
ので、ありがたく食えっ!!」
「なんや、自分。エラそうやなー。主役はもちっと敬うもんやで?」
「はいはい。」
 火村が台所からケーキの入った箱を持ってきて、テーブルに置
いた。
 アリスが箱の蓋を持ち上げると・・・中から真っ白い生クリーム
でおおわれた15センチ四方のケーキが姿を現した。その上部に
は、案の定というべきか、やはりメッセージが書かれてある。
「うわぁーvv」
 横から見ると、ケーキの中ほどには、アリスの大好きなイチゴ
がたくさん挟まっていた。
「どうだ?もちろん俺の手作りだぜ。」
「うん。うまそー・・・やけど、この上に書いてあるのんて、やっぱ
りこないだの仕返しなんか?」
「当たり前だ。嬉しいだろ?」
「ああ。嬉しすぎて涙が出そうやわ。」
 ヤケクソ気味に答えるアリス。ついでに泣きマネもしてみせる。
 火村は、してやったりと満足そうにニヤリと笑う。
 ケーキの上部には、茶色いチョコレートの文字でこう書かれて
あった・・・。

『アリスちゃん おたんじょうび おめでとう』





 ケーキを食べ終え、火村は台所で洗いものを片していた。
 アリスはというと、ゴロゴロと畳に寝そべって、そのへんに積
んであった本の1冊を手に取り、パラパラとめくっていた。
 片付け終えて火村が戻ると、アリスはいつの間にやら本を枕
にして、スヤスヤと気持ち良さそうに寝息をたてていた。
「ったく。」
火村がアリスの耳元にフッと息を吹きかけると、アリスの体が
ピクリと一瞬反応を返す。
「アリス、起きろ。襲うぞ?」
 さらに耳元で囁く。
「うーん。」
 ようやく覚醒したアリスは、あまりに間近にある火村の顔に驚
き、ひゃっと悲鳴を上げた。
「おいおい。俺は、化け物か?」
「せやかて、びっくりするやんかっ。」
「いやなに・・・食後のデザートのお誘いをしようかと思ってな。」
「デザート?」
 アリスの目が輝く。
「ああ。ケーキよりも甘ーいとびっきりの・・・なっ。」
 口の端を歪めて笑う火村に、イヤーな予感がアリスの胸をよぎ
る。
「ま・さ・か・・・。」
「そう。」
 火村がにーっこりと笑う。
「スケベっ。変態っ。」
「ずいぶんだな。・・・いらないのか?」
 ちょっと傷ついたように目を伏せる火村。
 アリスはため息をついて、
「しゃーないな。もろといたる。」
 火村の耳元で囁いた。
 アリスのオッケーが出たとあって、火村はいそいそと畳に積
んである本をよけ、布団を敷き始める。



 アリスの誕生日も、やっぱりまだまだ終わらない・・・。





                                   【END】






[後書き]
アリスのお誕生日記念SSでしたvv またの名を『火村の誕生
日リベンジ編』(笑)。お話の中で出てきたアリスのエピソード
(コーヒー&外見の話)は、実は私の実体験に基づいておりま
す(自爆)。・・・ってバラすなよ、自分(苦笑)。内容はともかく
(←オイ)間に合って良かったです!

↑上の補足ですが・・・間違っても28歳のときに学生に間違わ
れたわけではありません(笑)。でも、大学生のときに中学生に
間違われたのはほんとです(寒)。あと、コーヒーですけど、これ
も学生のときはまだ飲めませんでしたが、今は1日1杯は飲まな
いと・・・の中毒患者に成り果てております(苦笑)。とりあえず、
コーヒーの話はわりとリアルに書けてるんじゃないかと思います
が、どんなもんでしょうか?(笑)




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