『終わらないキス』





「アリス。寝てるのか?」
 火村の問いかけに、スヨスヨと気持ち良さそうな寝息が返る。
 そろそろとアリスの顔―なんともあどけない表情で眠っている―を覗き込んで、火村の動
悸がこころなしか速くなる。
(ほーんと、眠ってると可愛いな。あっいや、起きてても可愛いけど。)
 なんだかすっかり血迷った思考の火村である。
 それでもしばらくはアリスの可愛い寝顔を見るにとどめていたが、やっぱり火村は血迷っ
ていたらしく、そのままふらふらとアリスに顔を近づけていく。
 そして―――
 唇と唇が触れようとした、まさにその瞬間。
 アリスがぱちりと目を開けた。
「?!☆※△◎?!」
 火村の口から声にならない叫びが上がる。
 うっそだろー?なんでー?寝てたんじゃなかったのかー!?と冷静にツッコんでいる余
裕は、今の火村にはない。・・・ど、ど、どうしよう?な、なんて言い訳すれば・・・?いや、
それよりもこの態勢で(一応今は顔を離している)言い訳なんてできるのか?いや、でき
ないだろ。あーもうなんでもいいから、アリスっ!寝ぼけててくれっっ!!
 ぐーるぐーると頭の中で、まとまらない考えを巡らせている火村であった。
 アリスはと言えば―――
 火村の願いも空しく、寝とぼけてはいなかった。かなりしっかりとした目付きで、じっと火
村を見つめている。
 その視線に気付いて、ようやく火村も心を決め、アリスに向き直る。
「ア、アリス。い、一体いつから起きてたんだ?」
 おそるおそる口を開く。
 アリスは一瞬口ごもってから、
「・・・・え、ええと。5分くらい前・・・かな。」
(げっ!?うそっっ?!)
 火村の顔がピキっとこわばる。
 じゃあアリスは今さっき俺がキスしようとしたから目が覚めたわけじゃなくて、もっとずっ
と前から起きてたってことか!?だったら俺が手を出す前に起き上がって俺を止めてくれ
よぉー。
 すっかり壊れて思考のおかしい火村である。
「な、なぁ、火村。い、今その・・・俺に・・・・何しようとしてたん?」
 ふいにアリスが問いかける。
 火村の顔がまたまたピキーンとこわばる。
(そ、それを俺に言わせるのか!?わかってるくせに!?)
「・・・・・・・・」
 火村が答えられないでいると、
「火村?ど、どうしたん?怒ったんか?」
 アリスは何を勘違いしたのか、火村が怒って口を利いてくれなくなったと思ったらしい。
 火村はアリスの相変わらずのボケぶりに、はぁーーっとため息を吐いてから、
「キスしようとしたんだ。」
 と言い切った。
「えっ!?」
 アリスの思考が一瞬止まる。
「あんまりアリスの寝顔が可愛かったから、キスしたくなったんだ。」
 なおも火村は続ける。
 この一言は効いたようで、アリスの顔は途端に真っ赤になった。
「あ、あの・・・その・・・・」
 しばらく意味不明なことを呻いていたアリスは、やがてぎゅっと胸元で握りこぶしを2つ
作りながら、
「キ、キスするなら、お、俺が起きてるときに・・・したら・・・・え・・・え・・やん・・・・か・・・。」
 消え入りそうな声で言う。
 えっ?と火村は自分の耳を疑う。まさかアリスの口からそんな言葉が聞けるなんて?
 火村は一度ゴクリと唾を飲み込み、思い切って口を開く。
「じゃ、じゃあ、アリス。今からさっきのやり直しをしてもいいか?」
 アリスは無言のままコクリと頷く。相変わらず顔は赤い。
 火村は腕を伸ばして、ゆっくりとアリスを自分の胸に引き寄せた。
 アリスの手がおずおずと火村の背中に回される。
 火村がアリスの頬に手を添えると、アリスはゆっくりと目を閉じた。
 少し震えるまつ毛がアリスの緊張を物語っている。
 火村はそんなアリスを愛しく思いながら、その唇にゆっくりと自分の唇を重ね合わせた。
 触れるだけの優しいキス。
 だけどそれはなかなか終わらない。2人ともが、離そうと、離れようとしないから。
 一体どちらが先に離すのか。
 それは―――
 きっと2人だけが知っている・・・。






                                                  【END】








グワッ!古い…古すぎる…(滝汗)。えっと、データによりますと、このお話は、○年前シリ
ーズの最終作にあたるそうです(っつか、既に○年前シリーズって何だっけ…?とか思っ
てるあたり、書いた本人とは思えない耄碌っぷり/痛)。しかもなにやらこのお話の前に1
作「片思い」(←改「幸福へのプロローグ―片思い―」)というお話があったらしいです(ら
しいって…)。で、そのお話が長編で打ち込みに時間がかかりそうだから、先にこの「終
わらないキス」をアップすることにした…という流れだったようなのですが、そ、その肝心
の長編がどこを探しても見つからないんですけどー?(遠い目)アッハッハ…こうやって色
んなものが埋もれて消えていくのですね…(涙目)。そういえば、昔にアリスの誘拐ネタを
途中まで書いて放置した…とかいうこともあったなぁ(現実逃避)。




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