※このお話は、かなり古い作品となっております。書いた当時は折りたたみ式の携
帯が主流となり始めたばかりの頃であったため、作品中にそのような描写がなされ
ております。今読むとかなり違和感があるかと思いますが、何卒ご容赦下さいませ。
『ピンクな彼』 「アリス・・・おまえ、それ、誰のだ?」 引き攣った顔で言う火村の指差す方向には―――アリスの携帯。 「へ?俺のやけど?」 「は?」 何故か目が点状態になる火村。 アリスは『なんやー?』と疑問に思いながら、ハニワ状態の火村を面 白そうに見返す。 しかし火村のこの反応は、至極もっともだと言えた。 なにしろアリスの携帯は、『ピンク一色』だったのだから――― 「・・・美味い。」 とりあえず気を取り直して、アリスが淹れてくれたコーヒーを飲み、落 ち着く。 「で?俺の携帯になんか文句でもあんのか?」 火村の隣りに座り、あと数センチで唇が触れ合いそうなほどに詰め 寄りながら、アリスが問う。 普通の人間なら、『文句でもあんのか?』と言われて、『はいそうで す』とはなかなか言えないものだが、そこはそれ、火村である。 「文句と言うか・・・よりによって何でそんな色を選ぶかね?アリス君 は。」 バカにしてるのか憐れんでいるのか・・・とにかくそんな言われ方を されては、アリスとて面白くない。 「何やねん?文句があるんやったらもったいぶってんとはっきりゆうた らえーやないかっ!」 怒り爆発してもアリスは可愛い(火村談)。 「いや、だから文句じゃないと言ってるだろう?そうじゃなく・・ その携帯を持つに至った経緯を聞いてるんだ、俺は。」 「経緯て・・・んなもん携帯ショップの店員さんにすすめられてに決まっ とるやん。」 (・・・マジすか!?) 火村再び半ハニワ状態。 「えっ?えっ?普通携帯て、すすめられて買うもんちゃうんか?」 アリスはようやくここで自分の間違いに気付いたらしい。 「いや、別にすすめられて買っても構わないんだが、何故よりによって ピンクなんだ?(それだけは・・・それだけは・・・注.心の叫び)」 「せやかて、えらい熱心にすすめてくれはるんやもん。」 「熱心とは、どんな風にだ?」 「ええっと・・・」 以下、回想。 (携帯ショップにて) 「いらっしゃいませー。」 アリス、キョロキョロと携帯を見て回る。 そこへすかさず女子店員が寄ってくる。 「機種変更でいらっしゃいますか?」 「あっ、いえ。ええと、今まで違うメーカーのつこてたから、新規です。」 「ご新規でございますか。ありがとうございまーす。」 にこにこと愛想の良い店員。 「今でしたら、折りたたみタイプが人気でございます。」 「うんうん、せやなー。この頃、もう道行く人みな折りたたみ持ってるよ うな気ぃしますわ。」 「はい、さようでございますねぇ。最近の売れ筋商品でございますから、 確かに持ってらっしゃる方は多ございますね。」 「うん。でも皆持ってると、逆に持ってない方にしたならへん?」 「まぁっ!(笑)」 「いや、うそうそ。やっぱり今持つんやったら折りたたみがエエ思うし。」 「フフッ、さようでございますか。それでは折りたたみタイプでおすすめ のものがこちらにございます・・・。」 ―――現在。 「おい、なんかものすごく世間話してないか?」 「へ?そうかなぁ?」 「おまえ・・・いや、まあいい。これだけ店員にかまってもらえるというこ とは、平日だったわけだな?」 「おっ、ピンポーン!大正解や。さすが名探偵、名推理やな。」 「バーカ。誰でもそんなことわかるだろうが。」 「ヘヘッ。」 「で?どうやってこの携帯を買う羽目になったんだ?」 「うん、それでな―――」 再び、回想。 「こちらが只今当店一押しの商品でございます。」 「へぇーっ。あっ、やっぱ軽いなぁ。」 「はい。」 「形もすっきりしててエエな。でも・・・ピンクやしなぁ?他の色ってない のん?」 「あら、でもお客様。大変お似合いだと思いますわ。」 「へ?ピンクが?」 「はい。」 「いや、でも俺・・・年やし。」(←問題はそこじゃないって) 「何をおっしゃいます!お年なんて携帯を持つのに関係ございません わ。今の時代、70代、80代のお年を召された方でも、ピンク・赤とい った明るいカラーの携帯をお持ちです。お客様ほどお若くて素敵な方 でしたら、全く問題ございませんですわ。」 なにやら興奮しすぎて、日本語が破綻しかけている女店員。 「はあ・・・そんなもんですか。」 なんだか上手く乗せられてしまったアリス。 そこへ――― ダメ押しとばかりに別の店員たちが寄ってくる(よっぽど暇なのだ、 平日の正午ともなれば)。 「まあっ、ピンクの携帯を持たれるかでお悩みですか?」 「それは、ぜひお持ちになられてはいかがでしょう?」 「お客様にピッタリかと思いますわ。」 「お美しい・・・」←? 周りから凄まじい攻撃を受け、アリスはすっかりその気になってしま った(買い物とは、店の雰囲気に乗せられて、ついついいらない物や 間違った物を買ってしまうものである。合掌)。 気付けば、「じゃあ、これ下さい。」と言っているアリスであった・・・。 再び、現在。 「はぁ・・・」 話を聞き終わった火村は、どっと疲れていた。 「なっ、何や?どーせ俺はアホや!」 なんだか拗ねて逆ギレしちゃってるアリスである。 「いや、アホというか・・・・おまえ、壺とか買わされるタイプだよなぁ。」 しみじみと何を言いだすか助教授よ。 「わ、悪かったな!でも、うちのマンションはセールスお断りやから、 へーきやもんね!」 アッカンベーとかするアリスは、本当に30代の男であろうか。 いや、可愛いけど(火村談)。 「まあ、ようするに・・・店員にすすめられるまま、そのピンクの携帯を 買ってしまったわけだな?・・・フゥ。」 「ピンクを強調するな!それからため息も吐くなーーーっ!」 「いや、ツッコむ元気があるなら、打開策を考えないか?」 「だっ、打開策て、こうてもーたもんは、しゃーないやろっ?」 「しゃーないでアリスがいいなら、俺は別に構わないが・・・。しかし、 似合ってるというのは事実だけどな(笑)。」 「ムッ。似おてるて、男やのにピンクの携帯が似合うわけないやろー がっ!」 「とか言って、似合うと言われて、その気になって買って来たのはどこ の誰でしたっけ?」 「・・・・ひ、ひどいわっ!火村のアホぉっ!!!」 「アホって・・・。わかった、わかった。じゃあ打開策を一緒に考えよう。 なっ?アリス。」 諭すように言われて、 「うん、せやな。」 アリスもようやく頷く。 しばらく2人無言で考えて――― 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 何も考えつかない。 「ど、どうしょう?火村ぁーーっ。」 とうとうアリスは色仕掛けに出た(違っ)。 もとい、火村に体ごと泣きつく。 そう、アリスは火村の膝の上に乗り、そのままガバァッと抱きついた のだ。 なんと美味しい体勢であろう(オイ)。 「アリス・・・」 デレーと顔をにやけさせた火村が、アリスを強く抱きしめ返す。 しばらく2人無言で抱き合って――― 「・・・・・」 「・・・・・」 「アリス、わかった。俺がなんとかしよう!」 完全にアリスの術中(?)にハマッた火村であった・・・。 「その携帯、俺が持つよ。だからアリスはもう一度新しい携帯を買えば いい。」 「へ?」 きょとんと小首を傾げる仕草を腕の中に感じ、火村は優しく微笑む。 「つまり、そのピンクの携帯は、俺とアリスの専用ってこと。俺はずーっ とその携帯を電波状態のいい研究室のデスク周辺に置いておくから、 アリスはいつでもかけてきたらいい。もちろんメールでも構わないし、 なんなら〆切りの途中に憂さ晴らしでもいいぞ。その場合は留守録に しておくから、大声で何叫んでもオーケーだ。」 「えっ?ええっ!?」 アリスががばっと火村の腕の中で身を起こす。 必然的に、2人密着状態で顔を見合わせる体勢となった。 「それってつまり・・・火村と俺だけを繋ぐ携帯ってこと?」 「そうだ。」 ニコリと笑う火村。 「そっかー、このピンクの携帯で、俺が火村を縛れるってことやんなぁ ?」 凶悪に可愛く笑うアリスに、火村はもう理性が爆発寸前だ。 「アリス・・・いくらでも俺を縛ってくれ。そのかわり、アリスも俺に縛られ ろよ?もちろん身も心も、だ。」 耳元で熱く甘く囁く火村に、アリスも甘く掠れた声で、誘う。 「ええで、火村になら。俺んこといっぱい縛ってや?」 「アリス・・・」 「火村・・・」 火村の膝に乗っかったままで、アリスから口付けを落とす。 「んっ・・・」 一生懸命自分から舌を使おうとするアリスが愛しくて、火村はそのま ま体勢を入れ替え、あっという間にアリスをソファに押し倒した。 「ひ、むら・・・」 「アリス、愛してる。」 縛って縛られて。 2人の甘い時間が、ゆっくり激しく流れてゆく――― 結局、アリスのピンクの携帯は、火村が持つことになり、2人だけの 専用携帯として、火村の研究室に常備されることとなった(ピンクの携 帯は、まだアリスが買ったばかりであったため、誰にも電話番号等を 知らせていなかったことが幸いしたらしい)。 そして、アリスは無事、シルバーの携帯(折りたたみタイプ)を新たに 買うことが出来たらしい。 ピンクの携帯代金であるが、これは毎月アリスが支払い(もとがアリ スの携帯であるため、当然といえば当然だ)、その代金をアリスに支 払ってもらう代わりとして、火村が毎月1回、アリスに夕食を奢るという ことで取り引き成立(?)となったらしい(つまり月1回の『夕食デート』 が約束されたということである)。 ちなみに夕食代の方が、1人しか番号を知らない携帯代より、はる かに値段が高いことは言うまでもない。 アリスを甘やかすことにかけては、誰にも負けない火村であった。 「あの話知ってる?」 「火村先生の例の噂やろ?聞いたでー。」 「火村先生ってば、可愛いとこあるやん。」 「ほんまやなー。」 「えっ?何?」 「えぇっ!?知らんのん?」 「火村先生がぁ・・・」 「うんうん。」 「――――」 「――――」 今、英都大学――火村とアリスの母校――は、ある噂で持ちきりだ った。 1人の女子学生が、火村助教授の研究室に入った際、たまたま机 の上に置いてあった『あるモノ』を見たことが、そもそもの原因であっ た。 『火村先生の携帯、めっちゃ可愛いピンク色やねんて!』 『しかも着メロ、不思議の国のアリスやて!』 『うっそぉっ。火村先生、超可愛いーーっvv』 いまや火村助教授のイメージは、クールでカッコ良い先生から、ちょ っと変わってるけど、超可愛い先生へと、大幅に変わってしまった模様 である。 『ピンクな彼』に、アリスの愛を―――― 【END】 キリリク作品なので、当時の後書きは省略です…が、自爆ツッコミが 面白かったので、ちょっとだけ載せますね(笑)。『最初、このお話のタ イトルは、「ピンクな彼」=「ピンクの携帯を持ってるアリス」という意味 で付けました。が、気付けば『ピンクな彼』=『火村助教授』になってる !?』←自分で書いてて驚いたらしいです(笑)。そしてさらに、注意書 きとしてこんなことも書いてました。『このお話はフィクションです(笑)。 作中に出てきた携帯ショップの店員、女子学生等にモデルは存在しま せん(ちなみに女子学生’sは、設定として関西人・関東人が混ざって る・・・というつもりで書きました。ええ、あくまで「つもり」で(核爆)。』 後書きでここまで自爆してるというのもある意味スゴイのではないで しょうか(乾笑)。とりあえず今言えることは、これ絶対楽しんで書いて ただろ?私…ということですね(笑)。ちなみにこのSSを書いてたとき に私が持っていた携帯はピンク色でした(これがほんとのオチ/笑)。 |