『手作りチョコの作り方』―火村の場合―






 2月に入ったばかりのある夜、電気ストーブの頼りない温もりを頼りにしながら、
火村英生は1人机に向かっていた。
 京都の冬は、寒い。
 ましてや火村の下宿は、北白川にあるのだ。名前に「北」と付くだけあって、な
かなかの寒さだ(と言うと、北部に住む人はどうなのだ?という話もあるのだが、
それはこの際おいておくこととする。また、東北・北海道までの飛躍は勘弁しても
らいたい/爆)。
 ふと窓の外を見上げれば、粉雪が舞い始めていた。
 火村は目を細めて、しばし淡い雪の舞う様を見つめる。
(アリスも今頃、この雪を見ているのだろうか?)
 とりあえず、大阪で降っているとは到底思えないものの、それでもそんなロマン
チックなことを考えてしまう自分に、少し自嘲の笑みが洩れる。
「フッ・・・。もし降っていたとしても、今頃は原稿に追われて外なんか見てる暇は
ないか・・・。」
 思わず独りごちる。
 雪は、何故か人を切ない気持ちにさせる。
 火村は舞い落ちる粉雪を見つめながら、次にアリスに会える日―2月14日―の
ことを思い描いていた。
 その幸せな日を迎えるためにも、今は考えに集中しなければ。
 もう一度机に向かい、火村は『ある物』の思索に耽るのだった―――。





 2月14日―――
 ピンポーン♪
 火村の下宿の呼び鈴が鳴る。
 訪問者は・・・もちろん有栖川有栖、その人だ。
 アリスは火村の部屋に上がり込むと、寒そうに身を震わせ、そそくさとコタツにも
ぐり込んだ。
「おいおい、アリス。おまえ・・・ウリたちと体勢が変わんねぇぞ?」
 苦笑気味に言う火村の視線の先では、ウリ・コウ(ちなみに桃ちゃんはバアちゃ
んの部屋でお昼寝中♪)アリスが川の字・・・いや、逆川の字で、コタツから首から
上だけを覗かせながら、ゴロリと寝そべっていた。
 逆川の字・・・すなわち、ウリ→アリス→コウの順に並んでいる。まあ厳密に言え
ば、ウリとコウは同じくらいの体長なので、どちらにしても川の字にはなり切れてい
ないのだが・・・。
「それより火村ー。なーんか入って来たときから、スッゴイえー匂いがしてるなー思
てたんやけど、何?何作ってんのん?」
 それでもコタツから出ようとはせず、首だけムクリと起こして目を輝かせる。
「ああ、今日という日に因(ちな)んだ、旨いもんを作ってやるから、楽しみにしてい
ろよ?」
 と自信満々の火村シェフである。
 これは期待できそうだ。
 アリスは頭の中で、「今日という日に因んだ」→「バレンタインデー」→「チョコレー
ト」というわかりやすい図式を作り上げ、ますます目を輝かせる。
 甘いモン大好き、チョコレート大大好きのアリスであった。
「火村、何?どんなチョコなん?さっきから見てたら、なんやスッゴイ手ぇこんでる
みたいやけど・・・。」
 我慢できずにアリスがさらに問う。
 火村は可愛らしい猫柄のエプロン姿で(ちなみにコレは、以前アリスがプレゼント
した物である。黒一色というシンプルさと胸元の真っ白な猫ちゃん柄がアリスのお
気に入りで、実はアリスも色違いのお揃いを自宅に持っていたりする)、腰に手を
当て、心持ちエラぶった様子で、「ひ・み・つ♪」と意地悪なことを言う。
「なんや、それぇーーーっ!?」
 アリスがブーッと膨れる。
 火村はプッと吹き出して、「ハハハッ、冗談だ、冗談。でも、まだメニューが決まっ
てないのは本当だ。」
 と不可解なことを言う。
「へ?まだ決まってへん・・て?」
 不思議そうなアリスに、火村は楽しそうにこう告げた。ご丁寧にもウインク付きで
―――。
「メニューを決めるのは、アリスだからな。」





 ようやくアリスが身を起こし、コタツに座り直したとき、火村が何かの紙を持って
アリスの隣りに跪いた。
 ―――と。
「いらっしゃいませ。お1人様ですか?」
「は?」
 思わず間抜けな声を出してしまうアリス。
「おいおい、ここは、『はい、そうです。』とか答えるとこだろう?」
 いや、『とこだろう?』と言われても・・・。
 アリスは何だかなぁ?と思いながらも、火村に合わせることにした。
「・・・そうですぅ。」
「フッ、可愛げのない言い方だが、まあいい。―――こちらがメニューになっており
ます。」
 と言いながら、火村は手に持った白い紙―2つ折りになっている―を差し出した。
「えっ!?メニュー?エライまた本格的やなぁ・・・ギャグにしては。」
 今度は火村も聞き流すことにしたらしい。
 そ知らぬ顔で、「ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい。」と言って、さ
っさと台所に行ってしまった。
 アリスがそのメニューとやらを開くと、中にはこう書かれてあった。



       MENU        
 
1. ウイスキーボンボン
2. チョコレートケーキ
3. チョコレートパフェ
4. チョコバナナ
5. 火村店長のおすすめセットvv



 その種類の豊富さに、アリスはまたまた目を輝かせた。
「うーわぁー、スゴイやん、これ。ど、どれにしよう?」
 ここは定番のチョコケーキで・・・いやいや、チョコパフェもいいなぁ、でもウイスキ
ーボンボンも捨てがたいしぃ・・・でも何でここでチョコバナナやねん!?ここは屋台
かっちゅーねん。いや、それより・・・このおすすめセットってのが、やっぱ気になる
なぁ。セットってことは、絶対何種類かは入ってるはずやし・・・。」
 なんだかグルグルと真剣に考えちゃってるアリスである。
「よしっ、決めた!・・・えっと、店員さーーん。」
 と火村を呼び付ける。ノリノリ(死語)のアリスである。
「はい。」
 と言いながら、すぐに火村がこっちにやって来た。
「この『火村店長のおすすめセット』を下さい。」
「はい、かしこまりました。少々お時間がかかりますが、よろしいですか?」
「うん、エーよ。」
「それではお待ち下さい。」
 再び火村が台所に戻る。
 それから注文のチョコ料理(?)が出来上がるまでの暫くの間、アリスはウリ達と
戯れながら待つことにした。
 1時間ほどが経過した頃、ついに火村が料理を運んで来た。
 アリスのドキドキがピークに高まる。
 目の前に置かれたお盆の上には、アリスの読みどおり数種のチョコ料理が並べ
られていた。
 ホットチョコドリンク、チョコケーキ(小)1/4カット、チョコシャーベット、―――そし
て、チョコの家!?
 その家の形をしたチョコ菓子は、どうやらクラッカー・ウエハース・クッキーを土台
に作られているらしい。それらをチョコでコーティングし、見事チョコの家を作り上げ
たというわけだ。その遊び心満載の料理は、もはや芸術の域に達していると言っ
ても過言ではない・・・かもしれない。
 これらの凄まじいほどのチョコ攻撃に、普通人なら、見ただけでとっくに胸やけを
起こしていただろう。しかし、そこはそれ、このチョコ料理を食べるのはアリスであ
る。チョコ大好きなアリスは、この数々のチョコを見た瞬間、幸せの絶叫を上げた。
「うわぁーーーっ、おいしそーーーーっ!!!」
 あとは食べる・食べる・食べる。
 いや、頬張ると言った方が正解か。
 あっという間に、アリスはこれらのチョコ料理を平らげてしまった。
 もはやスゴイの一言に尽きよう。
「あーっ、おいしかった。ごちそうさまでした。」
 両手を合わせて、ご挨拶。
 その間、火村はずっとアリスの横で、食べ続けるアリスを眺めながら、微笑を浮
かべていた。実は、食べているアリスよりも、幸せそうだったりして?
 さて、食べ終わったアリスのすることと言えば、もはやただ1つ―――会計であ
る。
 いつの間にか、火村店長は、ちゃっかりと伝票をアリスの前に置いていた。
 そこには・・・


『火村店長のおすすめセット  1
  合計.アリスの独占権(今夜から朝まで)』


 と書かれてあった。
 それに目を通した瞬間、ボッとアリスの頬が真っ赤に染まる。
 しばらくして、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる火村の耳に飛び込んできたの
は、「お支払いします・・・。」というアリスの囁くような返事だった・・・。





 ★手作りチョコの作り方(火村の場合)★

その1→寒い夜、1人で部屋で思索に耽る。
その2→コタツでぬくぬく猫アリス&準備中火村。
その3→オーダー入りまーす♪(笑)
その4→背中でアリスとニャンコたちの楽しそうな声を聞きながら、
     火村シェフの本領発揮(?)。
その5→あとは甘ーいチョコで、アリスとの甘ーい夜もゲット!!!


 結論⇒ひたすら自力(笑)。



  Happy St.Valentine’s Day !!!






                                             【END】








[後書き]
このSSについての説明は、同時にアップした『手作りチョコの作り方』―アリスの
場合―の[後書き]をご覧下さいませ。そちらと同様に、こちらも【当時の後書き】は
割愛させて頂きました。しかしこれ、どうしたらいいものか…(←いや、書いたの私
だから!)。3○歳の【お店屋さんゴッコ】ですよ!?(自爆)こんなものを書かせる
とは、ヒムアリ恐るべし(違)。【アリスの場合】より数段弾けた内容でしたが、少し
でも楽しんで頂けましたら幸いですvv(あの大量のチョコ、私だったら多分アリスと
同じ反応(幸せ♪)をしそうですが、大半の方は、きっと読むだけで胸やけを起こさ
れたことと思います。どうか胃薬は各自ご用意下さいませ/笑)
ではでは、このような古い作品を読んで下さり、本当にありがとうございましたvv




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