『手作りチョコの作り方』―アリスの場合―






 2月13日。午前10時。
 チャラリララー♪
 モーニングコールならぬモーニングメールで、火村英生は最悪の目覚めを
迎えた。なにしろ昨日(今日?)寝たのは、朝日が昇ってからなのだ。
「うっ・・・。」
 布団に入ったまま、なんとか手だけを伸ばし、枕元に置いてある携帯を手
に取る。
 それがアリスからのメールであることは、着信のメロディーで既にわかって
いた。だからこそ、眠たさを堪えて携帯に手を伸ばしたのだ。それ以外なら、
見ずに無視を決め込んでいたことは、まず間違いない。
 目を擦りながらメールを開くと、

『火村、ごめん。今日休みやし、やっぱまだ寝てたやろ?でも、お願いや!
今すぐ来て手を貸してくれ!!1人では、もう・・・』

 まばたきを2、3度してから、火村は思わずツッコミを入れる。
「もう・・・何なんだよ!?」
 最近すっかりアリスの影響を受けてしまっているようだ。このままでは、い
ずれ俺も関西弁を話すようになったりして・・・?
 寝起きなだけあって、かなり馬鹿馬鹿しいことを考えてしまう。
 火村は思考を断ち切るように、勢いよく立ち上がった。
 テキパキと出かける準備をしながら、火村は心の中で毒づく。
(だいたいアリスも、俺がいつもいつも行くと思ったら大間違いだぞ!)
 思うこととやってることが違う火村であった・・・。





 ピンポーン♪
 愛車を酷使し、火村は超特急でアリスのマンション―702号室―にたどり
着いた。
(こうやっていつもいつも結局来てしまう俺も、やっぱり甘いよなー。)
 でも仕方がない。これが惚れた弱みというものだろう。
「はい、はーいv」
 上機嫌でアリスが出迎える。
「で、何が1人では、もう・・・なんだ?」
 家の中に入り、ソファに腰掛けてから、火村が口を開く。
「いやー、コレ。」
 アリスが指差したのは、キッチンの方。
 目を向けると、そこにはなにやらゴチャゴチャと色んな物が置かれている。
 それを見回した火村は、ふとある物に目を留めて、驚いた表情をした。
「おいっ、アリス。それって、クーベルチュールチョコじゃねぇか?」
「せや。」
 きっぱりと頷くアリスに、
「せやって・・・おまえ、まさかチョコを作る気なのか?」
 半分脱力しながら火村が問う。
「だからそう言うてるやないか!」
「わ、わかったわかった。それで・・・?」
「・・・・・・手伝って?」
 アリスは顔の前で手を合わせながら、上目使いに火村を見る。
「うっ・・・。」
(これだよ。これに弱いんだ、俺は・・・。)
「わかった。手伝ってやるよ。」
「やったー!ありがと、火村v」
 がばっと抱きついてくるアリスに、思わず火村の頬が緩む。
「それで一体何のためにチョコを作ろうとしてるんだ?」
 火村の疑問はもっともである。アリスはエッヘンと胸を張って答えた。
「あげるために決まっとるやんか!」
「だから・・・誰にだよ?」
「エヘヘッ。皆に。」
「みんなー?」
「うん。明日サイン会に来てくれるファンの子ら皆や。」
「ああ。そう言えば・・・明日だったか、サイン会。・・・それで?」
「せやからー、サイン会の日がたまたまバレンタインっちゅーことで、ここは
ファンの人達に日頃の感謝の気持ちとしてやなー・・・」
「でも、アリス。それだったら、ファンの人達の方からチョコをくれる確率だっ
て高いんじゃないか?」
「あっ・・・」
 そのまま固まるアリスに、火村は苦笑する。
「しょうがねぇなー。まあ、とりあえず作ってみるか?何か有栖川先生流の
工夫をしておいたら、きっとファンも喜ぶだろうぜ?」
「せ、せやな。よっし、じゃあ始めよう!」
 火村のフォローが効いたようで、アリスは元気いっぱいチョコ作りを開始し
た・・・。





「わっ、わぁーっ!!」
 ガッシャーン。
「大丈夫か?アリス。」
「俺は平気やけど、せっかくのチョコがー。」
「まあ、まだまだあるから気にするな。しっかし、アリス・・・おまえ体中チョコ
まみれだぞ?」
「うへぇー。ほんまやー。」
「手もすごいな。」
 と言って、ふいに火村がアリスの右手を掴み、その人差し指を自分の口の
中に含んだ。
「わっ、な、何すんねやーーっ!?」
 アリスのうろたえぶりをさらりと無視し、さらにその指をペロリと舐めて、
「うん、美味い。」
 などとのたまう。
 アリスは真っ赤になって、
「ア、アホッ!」
 と言うのが精一杯であった。
 しかし、その後。
 アリスのチョコレート攻撃(報復?)が火村を襲ったのは言うまでもない。





 ★手作りチョコの作り方(アリスの場合)★

その1→火村に緊急呼び出しをかける。
その2→火村に手作りチョコの作り方を習う。
その3→火村と一緒にチョコを作り始める。
その4→体中チョコまみれになって脱線。その後、火村にも同じ目に遭って
     もらう(←ヒドッ)。
その5→そんなこんなで・・・ジャレ合ってるうちに、チョコレートの完成(←す
     るかっ!)


 結論⇒他力本願(笑)。





 さて、そのチョコレートにどんな有栖川先生流の工夫が施されていたのか
?また、その味はどうだったのか?
 それは―――
 作った張本人である火村とアリス、そしてサイン会に来たファンだけが知
っている・・・。

 ちなみにそのサイン会では、やはり圧倒的にチョコレートを差し入れに持
って来たファンが多かったらしい。
 その日から、チョコレート地獄に付き合わされるハメになった火村だった
が、アリスからのチョコレートもしっかり貰えたらしく、やっぱり幸せなバレン
タインだった模様である・・・。






                                         【END】








[後書き]
今回は、【当時の後書き】を割愛させて頂きました。いつも以上に私信的内
容が多かったものですから…(汗)。一応このお話は、4年前のバレンタイン
にアップしたものだったりします(苦笑)。フッ、あの頃は若かった…(違)。
このSSは、遼ちゃんが描いてくれたトップイラストからイメージして書いた物
(の確か第3弾)でした。アリスを勝手にチョコまみれにしてみたりと、ずいぶ
んイラスト内容を無視していたような記憶が…(あわあわ)。でもアリスの指
をペロリと舐める火村は、イラストどおりだったんですヨ!(笑)
しかし痛い、痛すぎる。4年前のSSを読み返すのは(苦笑)。いや、それを
アップしちゃう自分もどうかと思うのですが…。やっぱりヒムアリは甘いです
よね。そしてうちの火村はアリスに甘すぎる(笑)。ではでは、こんな古い作
品を読んで下さった方(がもしいらっしゃれば)、本当にありがとうございまし
た〜vvちなみに同時にアップした『手作りチョコの作り方』―火村の場合―
は、このSSをアップしたちょうど1年後(つまり今から3年前)のバレンタイン
にアップしたものとなっております。特に話自体は繋がっておりませんが、お
気が向かれましたら、そちらも読んでやって下さいませ><




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