☆このお話は、昨年のハロウィーンに書いた『ハロウィーンに語らいを』
の続編(ヒムアリ同盟様の限定ページに投稿。他では読めません)です
が、特に読んでいなくても問題ありません、多分(爆)。一応今回の話に
関係のある部分だけ申し上げますと、「昨年のハロウィーンに、アリスは
火村にこう言いました。『来年は吸血鬼の仮装をやってくれ』と。それに
対して火村が返した言葉は、『じゃあアリスは吸血鬼に血を吸われる美
女の仮装をして来いよ?』というものでした。」そのときはアリスの敗北
(?)で終わった会話でしたが、今年のハロウィーンにアリスは・・・?☆







  『ハロウィーンにときめきを』






「真野さん、化粧品って高いんですねぇ?」
 そう言って笑うアリスの顔を、何か異様なモノを見る目付きで見て・・・
そのままゆっくりと後ずさる。
「そ、それでは。カナリア見て下さって、ありがとうございました。」
 と言ったときにはもう、隣りのドアの中へと消えていた。
 アリスはその後ろ姿(の残像?)を呆然と見送る。
 このときアリスは、知らなかった。
 隣人―真野早織―に、思いっきり誤解されていたことを。


『ついに!ついに有栖川さん、女装趣味に走ってしまったのねー。』





「火村ー。去年のハロウィーンで言ったこと覚えとるかぁ?」
 電話をかけてくるなり、アリスが言った。
「ああ?去年のハロウィーン?・・・で、俺何か言ったか?」
「とぼけんな!そのキショイ笑いを含んだ言い方は、覚えとる証拠や!」
「『キショイ』とは酷いな。」
「フン、意味わかっとるならエエわ。」
「俺もすっかりアリスに影響されてるな。」
「光栄に思え!」
「ハハッ。で?吸血鬼の仮装をしろとでも言うのか?」
「やっぱり覚えとるやん。」
「まあな。―――俺がアリスとのことで忘れたことが今まで一度でもあ
ったか?」
「キザったらしい言い方すんなや!」
「キザっ?・・・オイオイ、俺はただ愛してるって言ってるだけだぜ?」
「それがキザやっていうねん。ええか、そういう気持ちを相手に伝える
ときは、ストレートに言うのが普通の言い方や。」
「ストレートねぇ・・・例えば、どんな?」
「せ、せやから・・・」
「うん?」
「あ、愛してる・・・とか。」
「どーせなら『とか』じゃなくて、『火村、愛してる』って聞きたいものだ
な。」
「い、言えるかっ!んなもん。」
「フッ・・・ベッドの中でないと、素直になれないか?」
「・・・アホかっ!」
 という罵声とともに、ブツリと電話が切れた。
 アリスが怒りにまかせて受話器を叩き付けたからだ。


『フッ、今さらあんな言葉に照れるなんて・・・可愛いな、アリスは。』
 とか思ってる火村は、末期かもしれない―――。





 10月31日。夕陽丘のとあるマンション。
 その朝、702号室から、1人の美しい女性が姿を現した。
 ほかでもない、女装したアリスである。
 化粧がそこらの女性よりキマっているのは、先生が良かった・・・・の
ではなく、わざわざ本を買って1週間みっちりと特訓した賜物である。
 ちなみに先生というのは、何を隠そうアリスの同業者である『朝井小
夜子』女史であった。のだが、彼女の頭の中に、【化粧】という項目は
ほとんど存在しなかった。代わりに堂々とその脳内を占めていたのは、
【すっぴん】という言葉だけである。
 これでは教わりようがない。
 だいたいオトコマエという形容がぴったりな彼女に、化粧のやり方を
聞くこと自体が既に間違いであろう。
 家で特訓を始めたアリスは、もちろん変な趣味に目覚めることもなく、
ただ火村を驚かすためだけに、黙々と練習に励んだ。
 そして今日という日(本番)を迎え、どーにか見れる姿にまで漕ぎつ
けたわけである(最初の頃は、ただ塗りたくったというだけの化粧お化
けだった)。
 よしっ!とスカート姿で勇ましく、ガッツポーズをとり、さらにクルーリと
鏡の前で一回転して、変なところがないかどうかをチェックする。
 そうして家を出たアリスは、もちろん完璧に美しい1人の女性だった。
 見た者が思わず振り返るほどに美しいということを、本人は全く自覚
していなかったのだが・・・。





 さすがに電車で行くことには躊躇って、自動車(オンボロのブルーバ
ード)で行くことにする。
 もう少しで火村をあっと驚かすことが出来ると思うと、アリスの口元に
は自然と笑みが浮かんでくる。
 車の運転を始めて10分ほど経った頃、前方に見慣れた2人の男性
がいることに気が付いた(我ながらなかなかの視力だ)。
 いつもアリスがお世話になっている(?)大阪府警のダンディーコン
ビ(笑)―鮫山警部補と森下刑事―である。
 ちなみにお世話になっているのはアリスだけで、火村の方は逆にお
世話をしている立場であるとも言える。
 アリスは路肩に車を止めて、徒歩で2人に近付いていく。
「こんにちはー。」
 と挨拶しながら、2人の目の前に立ったアリスを、森下が驚きの表情
で見返した。
 ここでアリスは、『あれ?』と思う。
 いつもなら、アリスに気付いた森下が、明るく「有栖川さん、こんにち
はっ!」と挨拶を返してくれるはずである。
 それが無いうえに、このまるで幽霊か何かを見たかのような、異様な
目付きは、一体・・・?
 しかし次の瞬間、鮫山警部補の冷静な言葉に、アリスはようやく普段
とは違う自分の姿を思い出した。
「・・・その声は、有栖川さんですか?」
 ヒャーッ、しっ、失敗や。今日だけは、火村以外の誰とも喋ったらあか
んかったんや!
 アリスはアワアワとうろたえながらも、
「なっ、何言ってるんですか?人違いですよ?」
 とか嘯(うそぶ)いてみる。
 鮫山はプッと吹き出して、
「『何言ってる』のは、有栖川さんの方ですよ。先に声を掛けて来たの
は、有栖川さんの方なんですから・・・ネ?」
 その後ろでは、森下もクスクスと笑っている。
 最初は、こんな綺麗な女(ひと)どこで会ったんだろう?と軽くパニッ
ク状態に陥っていた森下だったが、今は鮫山のおかげで、『目の前の
女性』=『有栖川』であるとわかり、平常心を取り戻したようだ。
「す、すみません・・・。」
 アリスはついに観念して謝罪する。
 その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。
 そりゃー仕方ないだろう。知り合いに女装した姿がバレるなんて、恥
ずかしいに決まっている(思いっきり自爆したとはいえ)。
 しかし当然降ってくると思われた侮蔑の声は、全く聞こえない。
 ふと見ると、鮫山は上から下まで冷静にアリスを観察し、森下はとい
うと・・・ポーッとした目でアリスの顔に魅入っている。
 アリスは、『えっ?』『はい?』『どーなってんの?』といった心境であ
る。
 しばらくの後―――
 森下の現実離れした思考をゲンコツ一発で蘇らせた鮫山が、ボソリ
とこう呟いた。
「その姿で火村先生のところへ行かれるなら、お菓子を食べる前に食
べられてしまうかもしれませんね、有栖川さんが。」
「は?」
 小首を傾げつつ、きょとんと聞き返すアリス。
 その可愛い仕草に目を細めつつ、
「そろそろ行かれた方がいいんじゃないですか?駐車違反で捕まって
しまいますよ?」
 と、自分も警察官のくせに、そんなことを言う。
 続けて森下も、「そうですよ、早く車に戻って下さい。さっきから周りの
視線が有栖川さんを狙っています!」
 ここに火村がいたら、内心、『おまえもだろっ!』とツッコミを入れたか
もしれない。
 アリスはよくわからないと困惑した表情で、それでも自分がいつまで
もそこにいちゃいけないということだけはわかったらしく、「お仕事の邪
魔をしてしまって、すみませんでした。それでは、また!」
 と車に向かってパタパタと駆けて行く。
 その後ろ姿に、「いいえ。お気を付けて(色んな意味で)。」「邪魔だ
なんて、そんな・・・・目の保養になりました。」と、2人が口々に声をか
けた。
 アリスは車に乗り込む前に、もう一度振り返り、2人に向かって花の
ような笑顔で会釈する。
 その姿に、現実逃避再び・・・の森下と、内心で「火村先生も役得な
人だな。」と毒つく鮫山も、やっぱり笑顔で会釈を返す。
 なかなかに大人な2人である。
 車が発進して、アリスの姿が見えなくなった後、やはり遠くにイッてい
る森下をゲンコツ2発で正気に戻した鮫山は、ニヤリ☆とイヤーな笑み
を浮かべて、こう言った。
「今から火村先生の家に事件の書類でも持って伺えば、有栖川さんの
危険なハロウィーンも無事に救えるな。なあ、森下?」
「それはナイスなアイデアですね!って、ダメですよ。相手はあの火村
先生です。僕達が故意に行ったのがバレたら、後でどんな目に遭わさ
れるか・・・」
「まあ、そうだな。だがな、森下・・・こういうのは、どうだ?」
 その後しばらく2人は、大阪の喧騒を隠れ蓑に(笑)、ヒソヒソと怪しい
企みを話し合うのだった―――。
(っていうか、仕事しろよ!)





「Trick or treat!」
 アリスの声に、火村が部屋から顔を覗かせる。
 ここは言わずと知れた火村の下宿先。
 バアちゃんにはもう既に挨拶をすませ、「まあっ!」とその女装姿に
ひとしきり驚かれたところだ。が、何故か若い女の子のように、キャッ
キャッと喜び、写真まで撮ったバアちゃんは、結構強者(つわもの)か
もしれない。
 火村はというと、アリスの姿を見ると、驚くどころか嬉しそうにしてい
る。あまつさえ、「キレイだよ、アリス。」とか臆面もなくキザったらしい
台詞を吐く始末。
 逆に、驚かす立場であったハズのアリスの方が驚きに目を見開く。
 目の前にいる火村が、なんと吸血鬼の姿なのである!
 さらに、目が点状態で固まるアリスを『してやったり』と珍しく満面の
笑みを浮かべて見る火村。
「アリスがこの間電話してきたときに、この去年の仮装の話を持ち出し
ただろう?それで、女装してくるんじゃないかと思ってな。俺も約束通
り吸血鬼の仮装をしてたってわけだ。」
 そんな嬉しそうに説明されても・・・。
 アリスは内心、『どこからそんなマント調達してきたんや?』と、とり
あえずツッコんでおく。
「でも、火村・・・」
「ん?」
「もし俺が女装して来なかったら、どうしてたん?」
「どうって・・・?」
「だってんなもん一緒にやってたら平気やけど、一人でやってたらアホ
みたいやんか!」
「アホって・・・。いや、でも俺には確信があったからな。アリスは絶対
に女装して来るって。」
「ちなみにその確信って何%くらいなん?」
「そうだな・・・55%くらいか。」
 アリスが背を仰け反らせながら、
「ちゅうとはんぱやなー。」
 と例の独特の節で言う。
「いや、別にそんなギャグを期待して言ったわけじゃないんだが。」
 苦笑する火村につられ、アリスもクスクスと笑う。
「でもそんな半分くらいの確率やったら、『アホみたい』な結果になる
可能性も十分あったってことやんなぁ?」
「いや、別に。俺は家でやる仮装パーティーみたいなもんだからな。こ
れで外に出る勇気はさすがにないが。」
「そっか、家におるだけやったら、確かにかまへんわな。ハロウィーン
がもうちょっとクリスマスやお正月みたいに盛大やったらエエのにな、
日本も。ほしたら仮装姿でも堂々と街を歩けるで?」
「まあ、いいじゃないか。俺たちだけでもこんなに盛大にやっているん
だから。」
「ハハッ、ほんまや。ちょっと盛大にやり過ぎかもしれへんけどな。」
「まあ、せっかくだから・・・やるよ、ほら。」
 と言う火村から、去年よりバージョンアップした(推定)色とりどりのお
菓子―チョコレート・飴・キャラメル・ガム―入りの袋がアリスに手渡さ
れる(透明な袋であるため、中身が見えるのだ)。
 アリスは嬉しそうに、「わーい♪」と早速食べ始め・・・ようとしたのだ
が、ふいに火村に手を掴まれ、引き寄せられて、そのまま火村の胸に
倒れ込むこととなった。
「なっ・・・」
 驚くアリスを火村の両腕がキツク抱きしめる。
「何すんねん?せっかくチョコ食べよ思たのに。」
 それには答えず、
「アリス・・・もう我慢の限界だ。来たときに一目見たときから、もう触れ
たくて触れたくて堪らなかった。」
 囁くように言う火村の息は、熱い。
「なんや、火村。自分、倒錯趣味にでも宗旨変えか?」
 からかうように言うアリスだが、
「今日だけは、そうだと思ってくれ。」
 とか言われて、焦る。
「ちょっ、ちょっと・・・」
 これって―――?
 ここに来る前に鮫山に言われた言葉を思い出す。
 もしかして、こういうことを言ってたんかぁっ?
 その鋭い洞察力に感心・・・してる場合じゃないっ!いつの間にかア
リスの上着のボタンが全て外されている。
 そのまま畳の上に横たえられて、いよいよ『お菓子を食べる前に、ア
リスの方が食べられそう』になったとき―――
 火村の部屋の電話が鳴った。
 すぐに「FAXミリに切りかえます」という機械音がして、しばらくの後、
受信が完了する。
 火村は仕方なく立ち上がって、紙を手に取り―――――そのまま固
まってしまった。
 なっ、何や?
 不思議に思って、アリスが火村の手から紙を奪い取る。
 そこには、こう書かれてあった。


   『神聖なハロウィーンの日に、美しい
    婦女子を襲うとはいい度胸ですね。
    そんな不埒な輩は逮捕しますよ?    

              大阪府警 鮫山警部補
               本紙作成担当 森下』


 フルフルと怒りに打ち震える火村を尻目に、アリスは「あっ、鮫山警
部補と森下刑事やん。そういやさっきここ来る前に会ってん。」とかの
ん気に説明する。
 その声は、もちろん火村に届いているハズもない。
『さて、今度会ったとき、どーしてやろうか?』と、ただただ恐ろしい思
考を巡らせているばかりである。
 なんにしても、ダンディーコンビ改め、極悪コンビの『ハロウィーンに
アリスを危険から守ろう』という目的は、ドンピシャのタイミングで達せ
られた模様である・・・・・。



―――ハロウィーンにときめきを(どのへんが?)






                                      【END】








[後書き]
・・・・・すみません(涙)。半年ぶりに駄文更新をと頑張りました、ええ
頑張ったハズ。なのにどーしてこんなにヘボイうえ、ギャグオチに・・・
(遠い目)。文章が読みにくいのは、いえ、もはや文章と呼べるかどー
かも怪しいのは、単に紅月が文才のない駄文書きだからです(自爆)
リハビリのつもりだったんです、ええ。久しぶりの・・・ほんとに久しぶり
の更新ですからね(汗)。前以上に下手くそになっているのは、多分気
のせいではないでしょう(爆)。ちなみに紅月がこの半年間に書いたモ
ノは、原稿が計3本。それだけかーい!?というツッコミは、自分で十
分しておきましたので、ご容赦を。
えーと、そんなことより今回の駄作の言い訳でも(殴)。まずは、全国
五千万人(笑)のヒムラーの皆々様、本っ当にすみません!据え膳食
い損ねた助教授、哀れなり(核爆)。そして相変わらず、鮫山&森下コ
ンビが目立っているのは、単に私の趣味です(撲殺)。ちなみに鮫森じ
ゃないですよ?(誰もそんなこと聞いてません)それから、紅月が好き
なのは、鮫山さんです(それも聞いてないって・・・)。鮫山さん同盟とか
あったら入りたいくらい好きです(笑) やや話が逸れてしまいましたが、
今回の駄文のテーマは『ハロウィーン』(季節モノ)でした(読めばわか
るって・・・)。最後に、純粋な(?)アリシスト様にも謝罪を。『女装』とい
うありがちな、そして趣味に走りまくった内容で、本当にすみませんで
した。それでは、半年ぶりの駄文を読んで下さった方、本当にありがと
うございましたvv
                        2002.10 ■紅月しなの■


◎ハロウィーンに間に合いませんでした(汗)。せっかくの季節モノだっ
たのに・・・(遠い目)。上の執筆日が10月になっているのは、下書き・
打ち込みともに10月中に出来ていたからです(爆)。チェックのみ(あと
アップと)11月ということで(逃亡)◎



↑ うわぁ〜、ものっスゴ趣味に走った内容ですねぇ。って、2年前に自
分が書いたものですが(苦笑)。火村先生のキザっぷりは置いておくと
して(笑)、家から女装したまま火村宅まで行ってしまうアリスに乾杯!
(違)そしていい仕事してますねぇ、鮫山&森下コンビ(笑)。いや、本来
の仕事はしてませんが(爆)。でもこれを自分で読み返してて、思いまし
た。絶対これ、めちゃくちゃ楽しんで書いてただろ!?と(笑)。そして今
年もあと2ヶ月ちょっとでハロウィーンですか・・・行きたいなぁ、ディ○ニ
ーのハロウィーン(←って、また話が逸れてるし)。そうそう、このSSで
すが、アップしたときとっても反響が大きかったんですよ!(というのを
今思い出しました/爆)ほとんどが鮫&森の最後のオチを褒めて下さっ
ていて(笑)。関西人的には大成功だったかなと(いいのか?それで)。
あっ、そうそう。このSSの中に古いギャグ(=ちゅうとはんぱやな〜と
いうやつです)がありますが、まあ書いた当時は流行ってたということ
で、お見逃し(というか、お読み流し?/笑)下さいませ〜。
では、このSSを読みたいとメールして下さったM様に感謝を込めてvv




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