【注意】 このお話には火村の飼い猫が出てきますが、ウリちゃん・コウちゃん・桃ちゃん ではありません。このお話を書いたときには、まだこの3匹が原作に登場してい なかったので、火村の猫好きを勝手に想像して書いたお話となっております。今 読むにあたりましては、どうかパラレルという認識でお読み下さるようお願いいた します。 秘密の名前 「おーい、アリス。エサだぞ。」 ―――ミャーン。 真っ白な猫が嬉しそうな声を上げて、火村の元に駆け寄ってくる。 「よしよし。」 火村が頭を撫でてやると、白猫―アリス―は、気持ちよさそうに目を閉じてま るくなった。 「あれ?」 ここで火村は、ようやくいつもと様子が違うことに気がつく。 いつもならこのへんで、怒りの鉄拳ならぬ怒りのネコキックが、火村目がけて 炸裂しているはずである。ネコキック(←ネコパンチのときもある)を仕掛けてくる のは、もちろん『ヒム』だ。やはり火村の飼い猫で、クールがうりの茶トラである。 とにかくヒムは、相棒(?)のアリスに近づく者全てが気に入らないらしい。 「アリス。ヒムはどうした?」 呼ばれたアリスは薄く目を開けて、ちょっと首をかしげる。 「どこに行ったか知らないか?」 ―――ミャーン。 ふいに立ち上がり、アリスはそのまま部屋の出口に向かって走り出した。 「あっ・・・アリス?」 火村が慌てて呼び止めると、アリスは戸口で一度振り返り、ふんわりと微笑ん でみせた。そしてすぐにドアの向こうへと消えてしまう。 「はぁ・・・。」 そんなアリスを目で見送ってから、火村はそっとため息を吐いた。 仕方がないのはわかっている。アリスはヒムがいないと絶対にエサに手をつけ ようとはしない。それくらいヒムのことを大切に思っているのだということは、わか ってはいるのだが・・・。 (ちょっと妬けるよな。) 飼い猫のことで飼い猫に嫉妬してしまう。どうしようもない火村であった・・・。 「あれ?トラちゃん。」 アリス(こっちは人間である)は、いつの間にか足元にいる猫を見て、驚きの声 をあげた。 ―――ミャオ。 トラちゃんこと火村の飼い猫である茶トラの『ヒム』は、「よう」というかんじで返 事を返す。 火村の下宿から100メートル程北に行った路上である。 「こんなとこでどうしたの?あっ、もしかしてお出迎えに来てくれたんだ?」 アリスはその場にかがみ込んで、嬉しそうにヒムの顔を覗き込んだ。 ―――ミャア。 「そうだよ。」とヒムが頷く。 「ありがとうv じゃ、一緒に行こっか。」 ひょいとヒムを抱き上げると、アリスは再び下宿に向かって歩き出す。 玄関前に着いたとき、今度は入り口の隙間から、白い猫が飛び出してきた。 「わっ。あれ?シロちゃん?」 呼ばれた白猫はキキーッと急ブレーキをかけながら、アリスを3メートル程追い 越すと、そこでくるりと向きを変えて、もう一度アリスの前へ戻ってきた。 シロちゃんことやはり火村の飼い猫である白猫の『アリス』は、ヒムを見つける という目的を果たし、なおかつ偶然にも大好きなお客様のお出迎えができたとあ って、ちょっぴりご機嫌さんである。 「シロちゃんもお出迎えありがとうねv」 アリスがにこにこしながら、白猫に向かって「おいで」と手招きをする。 すると『アリス』は、待ってましたとばかりにアリスの胸に飛び込んだ。 先客のヒムが窮屈そうにちょっと顔をしかめたが、これはただのポーズらしい。 本音はやや上気した頬が物語っている。 よいしょと2匹を抱きかかえながら、アリスは右手のひじを使ってなんとか下宿 の戸を開けた。 ガラガラと昔懐かしい音が鳴る。 「こんにちは。」 「あら、有栖川さん。いらっしゃい。」 この下宿の大家である婆ちゃんが、奥から顔を覗かせる。 「お邪魔します。火村いますか?」 「ええ。上にいたはりますよ。」 婆ちゃんに軽く頭を下げてから、アリスはゆっくりと階段を上っていった。 「火村。入るでー。」 今度はちょっとお下品に、足を使って戸を開ける。 「おっ、なんだアリスか。って、なんでヒム・・・あ、いや、なんで猫達と一緒なん だ?」 ―――ミャーン。 ―――ミャーオ。 火村の声に重なって、2匹が続けて鳴いた。 火村は内心ギクリとする。なにしろこの2匹の名前は、アリスに秘密にしてい るのだから・・・。 前にアリスに猫達の名前を聞かれたとき、火村はとっさに「名前はつけてない」 と答えた。それ以来、アリスは2匹の外見から、『トラちゃん』『シロちゃん』と勝手 に呼んでいるのである。 「なんかねー。お出迎えしてくれたの。よく俺が来たのわかったよねー。」 火村は『なるほど』と思う。 『ヒム』はアリス(人間)によく懐いている。『アリス』(猫)もアリスのことを気に入っ てはいるようだが、『アリス』は割と誰に対しても愛想のよいタイプなので、本当の ところはよくわからない。 だが反対に『ヒム』は、気難しいというか人間嫌いで、誰に対しても警戒心が強 く、気を許さない。それがアリス(人間)に対してだけは、ひどく素直に甘えてみせ たりするのである。さっきもアリスの気配を感じて、いてもたってもいられずに迎え に行ったのだろう。 「アリス。飯は食ったか?」 時計の針は、ちょうど午後1時を指している。 ―――ミャーオ。 今の返事は猫のアリスである。 「まだだってシロちゃんが言ってるよ。」 アリスがくすくすと楽しげに笑う。 「ああ、そうだったな。」 言いながら立ち上がると、火村は先刻からずっと部屋の隅に置かれたままにな っていた(エサの入った)皿を取り、2匹の前に置いた。 2匹は同時にアリスの腕からするりと抜け出して、仲良く並んで食べ始める。 「なあ、火村。」 ―――ミャン。 今度はヒムが鳴いた。 『まずい』と火村が青ざめる。 しかしアリスは何も気づかずに、 「おいしい?トラちゃん。」 などと言っている。 火村は内心ほっとしながらも、『このままではやばい!』とアリスの腕を引っぱっ て、無理矢理外に連れ出した。 「イタタタ。なにすんの、火村。」 アリスはぷくっと膨れっ面をしてみせる。 「あっ、わ、悪い。その・・・猫達もエサ食べてることだし、こっちも何か買い出しに 行かないかと思って・・・。」 お腹が減っていたらしく、アリスはすぐに機嫌を直して、 「うーんと。じゃあ俺、パスタがいいな。」 にっこりと提案(おねだり)する。 買い出しでパスタ? それはつまり・・・ 「俺の手料理が食いたいってことだな?アリス。」 「えっ?あっ、まあそうかも・・・。」 そこまで深くは考えていなかったアリスだが、これは予想外のラッキーである。 アリスは火村の手料理が、『火村。いつでも嫁に来ーい』というくらい(?)好きな のだから・・・。 「じゃあ今日はスペシャルバージョンでもてなしてやろう。」 「ほんま?楽しみー♪」 アリスがはしゃいで火村に抱きついた。 「わわっ。」 ―――油断大敵。 かあっと火村の顔が赤くなる。 その顔をアリスに見られまいとして、火村は思わずアリスの華奢な体をぎゅっと 抱き返してしまった。 結果、アリスの目には火村の白いワイシャツが見えるだけ。そして耳には火村 の鼓動がはっきりと聞こえてくる。トクトクと少し早いのは、気のせいだろうか? 逆にアリスの顔もまた、火村からは(火村の胸に押しつけられる形となっていて) 全く見えない。しかしわずかに髪の間から覗く耳がピンクに染まっていて、アリス の心中を物語っていた。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 そのまま動くに動けず、長い沈黙が2人の間を支配する。 穏やかな昼下がり。 食事を済ませた2匹の猫が、下宿の窓から仲良く並んで顔を出し、じっと2人を 見つめていることに、火村もアリスももちろん気づいていなかった・・・・・。 【END】 [後書き] このお話は、○年前に書いたシリーズの第3弾・・・だったかな?(←オイ)にあた ります。当時のテーマは、ずばり「飼い猫を使って自分とアリスの将来をシミュレー ションする火村」(大笑)でした・・・。いやーアホですねぇ。自分で読み返してて泣 けてきました、全く・・・。まあ当時はまだひーさんの飼い猫ちゃん情報がなかった 時期だったので、できたネタではあるのですが・・・。 では恒例の(?)書いた当時の自滅的ツッコミです↓ 『アリスってばなんで「火村」って呼ぶたびに茶トラが「ミャーン」、「アリス」って呼 ばれるたびに白猫が「ミャーン」と返事をしているのに、それに気づかないのだろ うか?まあそんな鈍いところもまたアリスらしくっていいんだけど(←バカ)。火村 も一体いつまで隠し通せるかしら?フフフ・・・。それと猫ちゃん達。なんでアリス に「シロちゃん」「トラちゃん」と呼ばれて、そっぽ向かないのか不思議だ・・・。あ と、シミュレーションになってなくてすみません。展開が途中から違う方向にいっ てしまいました。そうよ、私は猫ちゃんが書きたかっただけ・・・(←本音はコレか ・・・?)。』 いやー、めちゃくちゃ自滅してますね(汗)。この他にも、今振り返るとツッコミどこ ろが満載なのですが、これ以上自滅するのも悲しいので、このへんで(笑)。 では、初の(?)パラレルにお付き合い頂きまして、ありがとうございましたvv ↑ さらに今、読み返してる私は、半卒倒状態です(爆)。う〜ん、パラレル・・・か ?有栖川でパラレルって、私あまり書いたことなかったよなぁとボンヤリと思い出 してみる今日この頃(遠い目)。あとパラレルで書いたのは、以前ゲストさせて頂 いた有栖川の陰陽師モノだけだったかと。あれは書いてて楽しかったなぁ(って、 また遠くに行ってるよ、この人/核爆)。火村が陰陽師で、アリスが殿上人(?)な の。うわぁ、懐かしい〜。とか言って、上のSSから逃げてたらダメですか?(←帰 れ!)そんなこんなで、やっぱり猫ちゃんは可愛いなvということで(笑)。あっ、ち なみにこのトラちゃんこと『ヒム』と、シロちゃんこと『アリス』もひそかにCPなので すよ!ある意味、ご主人様よりラブラブ・・・(笑)。では、この『秘密の名前』を読み たいとメールして下さったM様に感謝を込めてvv |