〜青い空の下で〜 アリスは、ミナミ―大阪の難波周辺―をぶらぶらと歩いていた。 特別な目的はなく、ただなんとなくである。 しいていえば、あまりに良いお天気なのでもったいないと思った からであり、ここ最近は原稿の締切りに追われていて、コンビニと 図書館に行く以外は外に出ることもままならぬ状態が続いていたの で、ちょっと外に出てみたくなったからでもあった。 ・・・ええお天気やな〜。 アリスはしみじみと空を見上げる。 雲ひとつない真っ青な空がどこまでも続いている。午後の日差 しは、まるで温かく街を見守っているかのようだ。 軽快な足取りで進んでいたアリスは、ふとあるショーウインドー の前で立ち止まった。そこには渋めでややレトロな雰囲気のライター が並べられていた。 ・・・火村に似合いそうやな。 アリスは、学生時代から十数年来のつき合いになる友人のこと を思った。今頃は、母校でもある京都の英都大学で、犯罪社会学の 講義を行っているはずである。 ・・・そういやもうだいぶおうてへんな。締切りに追われまくっとっ たからなぁ。 ボケーっと考えに耽っていたアリスは、急に背中を叩かれて、 「ひゃっ。」 と思わず飛び上がった。 「こんにちは。有栖川さん。」 立っていたのは、大阪府警捜査一課いちのはりきりボーイ森下 刑事である。 「もう、森下刑事。びっくりさせんといてーな。心臓が口から飛び出る か思たやんか。」 アリスはむっと膨れっ面をして、頭ひとつ分背の高い森下を見上げ た。 「あははっ。すみません。悪気はなかったんです。だからそんなにむ くれんといて下さい。」 アリスはますますぷくっと膨れて、 「別にむくれてなんかいーひんよ。」 と云う。 「むくれてますよ。」 「むくれてないってば。」 さらに口を尖らせるアリス。 「はいはい、わかりました。」 森下はそんなアリスの子どもっぽい態度に、この人は本当に自分 より一回りも年上なのだろうかと疑問に思った。 外見もどうひいき目に見ても学生くらいにしか見えないのだが。 「本当に有栖川さんは、なんていうか可愛い人ですね。」 「は?」 アリスはきょとんと森下を見返した。 「あっいえいえ、なんでもありません。それよりさっきは何を真剣に見 てらしたんですか。」 途端にアリスはぱあっと顔を輝かせて、 「あ、せやったせやった。かっこええライターが置いてあったんで、火 村に似合いそーやな思て見とったんです。」 「へえ、そうですか。どれどれ。」 森下はショーウインドーの中のライターに目を向けた。 「あっ、ほんとに。なかなか渋くて火村先生に似合いそうなかんじが しますね。」 「ほんまですか?そら良かった〜。森下刑事のお墨付きなら間違い ないですね。」 「えっ。どうしてですか?」 「だって森下刑事センスええやないですか。」 今日もアルマーニのスーツを品良く着こなし、うっすらと上品な香り を漂わせた森下は、確かにおしゃれには人一倍気を配るタイプである。 「それはどうも。おほめに預かりまして。」 森下はうやうやしく頭を下げてみせた。 「ところで森下刑事は今日はなんでまたこんなところに?」 「いえ別に用というほどのことは。今日は非番で、暇だからちょっとぶ らついてただけなんですよ。」 「へえ、そうですか。デートの約束とかしたはらへんのですか?」 アリスが無邪気な笑顔を向けると、 「いえいえ、とんでもない。残念ながら相手がいないんです。寂しい独 り者でして・・・。」 森下は苦笑まじりに答える。 「そら、もったいない。」 アリスはしみじみと呟いた。 「有栖川さんこそ恋人とかいらっしゃらないんですか?」 「いませんよ。いたらこんなとこで寂しくぶらぶらしてません。」 森下は内心意外に思いながら、アリスの顔をじいっと見つめた。 可愛く整った顔立ちに、色素の薄いふんわりとした髪。全体に漂った 温かく柔らかな雰囲気。そのどれもが女性の心をくすぐるであろうこと は、間違いないと思うのだが。 「ま、それでしたら、寂しい者同士どこか一緒に飲みにでも行きません か。」 「あっ、すみません。今日はちょっとこれから行くところがありまして。」 「そうですか。残念ですね。それじゃ、また。」 森下は右手を軽く上げ、そのまま駅の方向へと歩き出した。すぐにそ の後ろ姿は、人の波に紛れて見えなくなってゆく。 アリスは1人、しばらくその場に立ちつくしていた。 が、やがて。 「よしっ。」 と気合いを入れると、目の前のその店に入って行った。 数時間後。 京都の北白川にある火村の下宿の前には、彼へのプレゼントを持っ たアリスの姿があった。 さて、アリスのこのプレゼント。火村は一体どんな表情で受け取ること やら。その答えは、アリスのみぞ知る。 ――END―― 【後書き】 正真正銘これがアリスの初書きでした・・・(汗)。もう○年前に書いたも のです(って、実は古すぎて何年前だか自分でも覚えてなかったり←オ イ)。初書きで火村が出てないあたり、やはりアリシストってかんじでしょ うか・・・(自爆)。ってか、森下刑事でばりすぎやっちゅーねんっ!とりあ えずこのお話は、「アリスは遠く離れていても火村のことを想っている」と いうようなことを書きたくて、書いていたような気がします、たぶん(←殴)。 それにしても・・・健全ですね〜。自分でもびっくりです(笑)。 ↑恒例の当時の後書きでした。自爆しまくり・・・もはや何も付け加えるべ き言葉はありません(苦笑)。森下刑事いきなりの登場。一体当時の私は 何を考えて書いていたのやら。ただ今言えることは、今同じ話を書くとした ら、森下刑事のポジションは間違いなく鮫山警部補になっていたことでしょ う(←この鮫やんスキーが!)。 |