Get a cramp in the calf
                     (有栖川編)






 この間―――アリスを怒らせた。
『すまん』と何度も謝り、『何でもするから』そう言った俺に、アリスはにー
っこりと笑ってこう言った。
「ほんまに何でもするねんな?」





 そして・・・今日。
 その「何でも」に付き合わされている俺であった。
 フウッ。
 さっきから何度ため息を吐いたことか。
 アリスはというと・・・俺の右隣でスキップするように軽い足取りで歩い
ている。その手には、○○書店と書かれた袋と××ブックセンターと書
かれた袋が下げられている。
 そう。俺は今、アリスの『本屋めぐり』に付き合わされているのだった。
「アリス・・・あと何件行く気だ?」
「えっとー。あそことあそこは絶対やろっ。んで・・・」
 目を輝かせて指折り数えるアリスに、
「ああもういい。わかった。どこまでもお供しましょう、お姫さま?」
 白旗を揚げる俺であった・・・。





 それからさらに2時間後。
 さすがの俺も疲れを感じ始めていた。
「はぁーっ。足イターッ。」
 隣でアリスが大声で叫びながら、足首をぐるぐると回している。
「アリス。これで終わりか?」
「うん。完璧っ!!」
 満足そうにVサインを出すアリスに、思わず苦笑する。
「それじゃあ電車が混む前に帰るか?」
「せやな。この足で座れへんのはキツイしなー。」
 そうして俺達はアリスのマンションへと帰宅すべく、駅に向かって歩き
出した。
「帰ったらビールでも飲ませろよ?」
 アリスの荷物を半分持ちながら俺が言うと、
「うん、ええよ。今日はいっぱい付き合わせたしな。ほんまありがとうvv
火村・・・。」
 アリスの優しい笑みが返ってくる。
 俺はそれだけで疲れが吹き飛ぶのを感じた。
 我ながらゲンキンである。
 しばらく他愛無い話をしながら歩いていると、
「イタタタタタッ・・・。」
 急に右足を押さえてアリスが立ち止まった。
「どうした?アリス。」
「こ、こむらがえり・・・。」
 顔を顰めて今にもうずくまりそうなアリスの様子に、俺は慌ててアリス
を抱き上げた。
「わあぁーーっ。な、何すんねん!?」
 暴れるアリスを宥めて、俺はそのまますぐ近くの細い路地へと入った。
 幸い人影はなく、治療するにはもってこいだ。
 アリスは諦めたのか、恥ずかしさのあまり顔を見られたくなかったの
か、俺の首に腕を回して肩口に顔を埋めていた。
「アリス。下ろすぞ?」
 アリスはようやく顔を上げて(←頬のあたりが赤く染まっている)、『う
ん』と小さく頷く。
 俺はそっとアリスを下ろし、今度は俺の肩につかまらせた。
「こむら返りの場合、治療法は2つ・・・温めるか揉むかだ。ここで温める
のは無理だから、とりあえずマッサージしてみよう。」
 俺はゆっくりと特に痛むふくらはぎのあたりを重点的に揉んでやった。
 最初は「ううっ・・・。」と痛そうにしていたアリスも、だんだんと効いてき
たのか表情がやわらいでくる。
「大丈夫か?」
 俺が聞くと、
「うん。治った。火村のおかげや。」
 俺の肩から手を離し、アリスはその場でポンポンと飛び跳ねてみせる。
「あっ、バカッ!またぶり返すぞ?」
 俺の心配をよそに、「だーいじょうぶっ。」と可愛く舌を覗かせるアリス
だった。





 その後、アリスの『こむらがえり』がぶり返すこともなく、無事夕陽丘の
マンションに帰り着いた。
 シャワーを浴びて、ようやく2人でリビングのソファーに落ち着く。
「お疲れー。」
「お疲れさん。」
 カコンとビールの缶で乾杯する。
 グビグビと一気にあおって・・・
「はぁーっ。生き返るー。」
 アリスの大げさな物言いに、
「もう年だね・・・有栖川センセ?」
 からかうように言うと、
「ほんまになー。やーっぱ運動不足かもしれん・・・。」
『かも』じゃなくて、『確実に運動不足だろっ』とのツッコミはせず、
「なんだ。やけに殊勝じゃねぇか?」
「うん・・・。今日こむら返り起こしたやろ?ちょーっと歩いただけであんな
んなって・・・やーっぱ運動不足やしかなーって。」
『ちょっと』じゃなくて『かなり歩いたと思うが?』ともやはり口には出さず、
「まあな。誰でも急激に運動すると起こりやすいって言うからな。普段机
を友にしている身にはキツかったんじゃねぇか?」
 アリスはシュンとして黙ったままだ。
 やべぇ。言い過ぎたか?と俺の中で黄色信号が点滅する。
「よし。じゃあ『こむら返り』の予防法を教えてやるよ。まず1に、急激に
走り出したりしないこと。2に、精神疲労などのストレスをためないこと。
これはちょっと職業柄難しいな・・・。まあ〆切りを守るようにしたら、ちっ
たーマシになるんじゃねぇの?」
「〆切りは、破りたくて破っとるんやない。」
 アリスがプゥッと頬を膨らませる。
「わかったわかった。さあ、次が大事だ。足裏に湧泉ってとこがあるんだ
が、そこを刺激するのが効果的らしい。そのやり方は・・・」
「やり方は?」
 いつのまにか身を乗り出して真剣に聞いているアリスである。
「青竹踏みだ。」
「あおだけぇーーっ!?」
 イヤそうなアリスの声に、俺はたまらず吹き出した。
「アハハハッ・・・。」
「何や!?だましたんか?」
「いや、本当のことだ。まあ俺を信じてやってみろよ。・・・運動不足の有
栖川センセイ?」
 アリスはまだ疑いの眼差しで火村を見ていたが、しばらくして「やって
みてもえーけど。」と呟いた・・・。





 数日後。
 アリス宅に大きな荷物が届いた。
 差出人は?と見ると・・・火村だ。
 梱包を解くと、案の定というか・・・そこには青竹が入っていた。
「わざわざ普通送ってくるかー?」
 悪態を吐きながらも、アリスは嬉しそうにその青竹を仕事部屋へと持っ
て行く。
 それからというもの、仕事に行き詰まるたびに青竹を踏むアリスの姿
があった。
 どうやら『こむら返り』の予防の他に、気分転換にも効果があるらしい。
「今度なんかお礼せんとなー。」
 火村の愛(?)に感謝しつつ、日々仕事に励むアリスであった・・・。






                                       【END】








[後書き]
・・・不発(死)。この「こむら返り」ネタは、もう1つのサイト(←今現在サ
イト発足準備中)でも書いてます。が、こっちのが甘さが足りないわー
(涙)。先に書いた方の舞台が『家の中』だったので、こっちは『外』にし
ようと思って書いたのですが、やっぱ外だから甘さひかえめになっちゃ
ったのかも・・・。このネタは、遼ちゃんと買い物してるときに私がこむら
返りを起こしちゃって、それで出来ました(笑)。SSのタイトルは、「こむ
ら返りを起こす」をそのまま英語で書いただけ・・・だったりします(死)。
今回、ずーっと書いてなかった1人称で書いてみたのですが、書き方を
忘れてました(爆)。すみません。これから少しずつリハビリしていきます
ので・・・。


↑ 当時の後書きを読んでまず思ったこと。この頃から運動不足かよ?
私(遠い目)それにしても痛いですよねぇ、こむら返りって。このSSを書
くとき、医学書で色々調べたんですけど、SSのためというよりはむしろ自
分のために!みたいな(笑)。しかし青竹は買ってませんよ(苦笑)。って、
さっきからSSの内容について全く触れてませんね(汗)。え〜っと、甘さ
ひかえめと書いてますが、今となっては十分砂吐けそうな気が・・・(笑)。
でもイニD編の方が確実にこれより甘いです!もしよろしければぜひ読み
比べてみて下さいませ〜(宣伝か?)。




BACK