眠り姫の午後






 季節は、秋。
 火村の下宿に、提出期限を明日に控えたレポートをしにやって
来たアリスは、しかし昼食(火村の手料理)を食べ終えて、今まさ
に「勉学の秋」から「睡眠の秋」へと移行しようとしていた。
「あーねむいーっ。」
 目をパチパチと瞬かせながら、ふと火村を見ると、壁に寄りかか
って本を読んでいる。
 今まさに「読書の秋」といったところである。
 立ち上がるのも面倒で、そのままズルズルと這って火村に近づ
き、下から本のタイトルを見上げる。

『天使のゆりかご』

(てんしぃー?)
 目の前にいる男にあまりに似つかわしくないそのタイトルに、思
わず目を丸くする。
「火村。その本、何?」
 少し遠慮がちにアリスが聞くと、「何だろう?」逆に質問されてし
まった。
「何だろう?・・・って、自分が借りたんちゃうん!?」
「いや・・・なんか図書館で司書の人に薦められた。」
「はぁ?」
 火村が困ったような顔でアリスを見る。
 アリスはしばらく無言で火村を見つめ返して―――
「プッ・・・アハハハハッ・・・。」
 突然吹き出した。
 何!?と目線で問い返す火村に、アリスは笑いながら答える。
「いや、わかった。司書の人の気持ち・・・。つまり、あれや。火村
があんまり仏頂面しとるから、これでも読んで天使な気持ちを養っ
てね!と言いたかったっちゅうわけやな。うんうん。」
 勝手に納得して頷くアリスに、火村は「ア・ホ・か。」思いっきりし
らけた視線を投げつけた。
「火村。アホってそれ関西弁やで?」
「アリスに合わせてやったんだよ。」
「へえへえ。そりゃ、どーも。」
「どーいたしまして。」
 それから続く軽口の応酬。
 その発端が本のタイトルであったことなど、2人共すっかり忘れ
てしまっている。
 しばらくたって、2人はゼーハーと息切れし、言い合いはそこで
ストップした。
 仕方なく火村は本に目線を戻す。
 数ページ読んで、『あれ?静かだな。』と顔を上げると、いつの間
にかアリスは火村の膝の上でスヤスヤと眠っていた。
 火村はそれを見て、フフッと小さく幸せそうに笑い、起こさぬよう
にアリスの体をそっと自分の方に引き寄せた。
 そして本を片手に持ち、空いたもう片方の手で、アリスの髪を優
しく撫でる。
 その体勢に満足して、火村は再び本へと目を向けるのだった。






                                   【END】








[後書き]
秋ですねー。というわけで(?)トップイラからのイメージSS第2弾
でした。今回は遼ちゃんにトップイラの下書きを送ってもらい、それ
を見ながらイメージしました。まあ「膝枕」については、この前会った
ときすでに話してたんですけどねー。遼ちゃんのイラ見て、火村が
結構若いかんじだったので、学生時代の2人にしてみました。
あーやっぱ学生時代って書きにくいー。っていうか今の2人と変わ
らないような・・・げふげふっ・・・。ま、まあ微妙に初々しいというこ
とにしといて下さい(・・・逃げっ)。

↑ 当時の後書きで、既に自爆してる(遠)。このトップイラもラブラブ
なかんじで良かったんですよ〜(そればっか・・・)。いいですよね、
膝枕♪紅月はひそかに、火村に「アホ」って言わせるのが好きみた
いなんですよねぇ(苦笑)。アリスの関西弁を愛しく思ってる火村が、
たま〜にそれを真似て喋るんです!(萌)←アホ
こっちのSSは秋モノなので、ギリギリセーフでしょうか(苦笑)。




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