046.名前

サブタイトル 『アリスのミステリー講座―名前の付け方編―』

有栖川有栖 : ヒムアリ(?)


「あっ、鮫山さん。」
「おや、有栖川さん。奇遇ですねぇ。」
 鮫山の声は、いつもより幾分トーンが低めだった。
「もしかして、お仕事中ですか?」
 アリスもつられて囁くような声で問う。
「ピンポーン、大正解ですよ♪」
 楽しそうに言う鮫山に、『本当に仕事中なのだろうか?』と疑問を抱くアリスであった・・・。




 梅田の地下街。
 その賑やかな人込みの中、ターゲットは書店の雑誌コーナーで立ち読みをしていた。
 柱に隠れるようにして立つ鮫山は、いわゆる『張り込み』というやつをやっている真っ最中なのだ。
「じゃあ、私はそろそろ・・・」
 邪魔をしては悪いと、アリスが立ち去りかけたとき、
「あっ、待って下さい!」
 鮫山がガシリとアリスの腕をつかんだ。
「はい?」
 驚くアリスに、鮫山はターゲットに目を向けたままで、
「どうやら彼は喫茶店に入る模様です。有栖川さん、ノドが渇きませんか?」
「え?は、はい・・・・・お付き合いします。」
 かくしてアリスは、鮫山の尾行に付き合わされるハメになったのである・・・。




 コーヒーを2つ注文し、『うーん、これはなんかこないだと同じパターンだぞ?』という気がしてきた
アリスである。
 ちなみにこないだは、難波で非番の鮫山とバッタリ偶然出会ったのだった。
 同じパターンというよりは、似たパターンといったところか。
「有栖川さん、何かお話しましょう。あまり黙っていると怪しまれます。」
「あっ。す、すみません・・・。」
 尾行初心者のアリスは、鮫山に言われるがままである。
「そう言えば、こないだから有栖川さんにお聞きしたいと思っていたことがあるのですが…。」
「はい、なんでしょう?」
「有栖川さんは、小説中にたくさんの人物を登場させていらっしゃいますよね?」
「? え、ええ。」
「その際、登場人物の名前というのは、どうやって考えていらっしゃるんですか?」
 この唐突な質問は、アリスを少なからず驚かせた。
「先日拝見したデビュー作も、すごい登場人物の数だなぁと感心してたんですよ。それで途中何度
か、最初の登場人物紹介を捲りながら読んでしまいました。つい誰が誰だかごっちゃになってしま
って・・・。」
「そっ、それはお手数をおかけして・・・。すみません、実は頂いたファンレターの大半に、やはり鮫
山さんが仰ったのと同じようなことが書かれてあったんです。いや、そのたびに申し訳ないことをし
たなぁと・・・。」
「いえいえ、批判なんかじゃありませんよ!登場人物が増えれば、それだけフーダニットとしての
魅力が増しますからね。ただ、よくあれだけの名前をお考えになったな、と思いまして。純粋な興
味です。もし差しさわりがなければ教えて頂けますか?」
「ヒャーッ、なんか普段言われ慣れないせいか、褒められると照れますね。名前のことは、差しさわ
りなんてもちろんありませんが、たいしたあれでもないんで、聞いたら逆に鮫山さんガッカリされる
かもしれません。」
「そんなことないです、ぜひ!」
「そうですか?実は私、名前を考えるときはいつも2つのやり方のどちらかなんです。1つは、もう
インスピレーションといいますか・・・パッって思いつくことがあるんです。そのときは大抵もう無条件
にそれに決めちゃいます。あと、もう1つの方は、人名漢字辞典みたいなものがあるんですけど、そ
れを開いて使いたい漢字をピックアップして、あとはゴロの良さそうなのを組み合わせたりとか・・・。
もうはっきり言ってあまり考えないので、ありふれた名前とかつまらない名前ばかりになってしまう
んですけど。すみません、こんな面白味のない回答しか出来なくて・・・。」
「いえいえ、貴重なお話を聞かせて頂いて・・・。有栖川さんの書かれるあのそれぞれに個性的で
魅力的な若者たちは、そうやって名前が決まったわけですね!私は洋物ではエラリー・クイーン派
なもので、有栖川さんの○×編に出てくる望●君とかには、大変親近感を抱いていますよ。」
「そうなんですかー。なんか鮫山さんがクイーンお好きだなんて、嬉しいですvv今度ぜひそのへん
のこともじっくりお聞きしたいですねー。」
「ええ、いつでも。」
 なごやかな談笑は、そこで打ち切りとなった。
 ターゲットが喫茶店を出たからである。
「私たちも出ましょうか?」
「はい。」
 店を出た鮫山は、また尾行に戻った。
「有栖川さん、それでは私はここで失礼しますね。今日は無理に付き合わせてしまって、すみませ
んでした。」
「いえ、そんな・・・。こちらこそお話できて楽しかったです。あっ、そやコーヒー代。」
「いいですよ、そんなの。付き合って頂いたお礼です。――あっ、それでは!」
 鮫山は、ターゲットを追って雑踏の中へと消えて行った。
 アリスは、『名前の付け方』という新鮮な質問を思い返しながら、次回作のことをふと考え始めて
いた。
(なんや話より先に名前の方ができてしもたわ。)


 そうして今度のノンシリーズの探偵役は、『鮫川』という名前にめでたく決まったのであった・・・。





                                                       【END】








どのへんがヒムアリだ?とかどこらへんがヒムアリだ?とかどこをどう見たらヒムアリだ?とか・・・
etc.ツッコミどころ満載でお送りしました<瞬殺 お答えしましょう!心意気がヒムアリです<帰れ
!私の中でヒムアリは唯一絶対無二のCPですので、間違ってもこれは鮫アリではありません。え
え、初恋の人に誓ってもいい(違)。たとえ火村が全く出ていなくてもね・・・(遠い目)。ちなみにSS
中でのアリスの答えは、そのまま私が名前を考えるときのやり方だったりします・・・(つまりロクに
考えないと/殴)。鮫&アリという微妙な話でほんっと失礼しました。ただ鮫山さんが出したかっただ
けです<本音はそれか!

↑このSSを書いたときの自爆コメント(=後書き)です。お題作品ということで、ヒムアリで書くと決
まっていたにもかかわらず、この鮫アリ(?)SSを書いた自分は勇者だ!と思ったり思わなかった
り(苦笑)。なんとか過去のバックアップデータからこのお題SSを拾って来ることが出来たのも、読
みたいと言って下さったL様のおかげです。ありがとうございました!少しでもお楽しみ頂けましたら
幸いです。




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