025.のどあめ

サブタイトル 『そんな休日』

有栖川有栖 : ヒムアリ


「ええ天気やなぁ。」
「・・・ああ。」
 ある休日(火村にとって)の2人の時間。
 アリスはキーボードに手を載せた状態のまま、窓の外に広がる晴れた景色を窓ガラス越し
にボーッと見つめていた。
 ちなみにノート型パソコンをリビングの机の上に置き、火村と向かい合う形で座っているあ
たりが、〆切りにまだまだ猶予があることを物語っている。
 火村はと言えば・・・先程から新聞を広げ、アリスの独り言(?)に対して、ワンテンポずれ
た返事を返している。
 机の上には、コーヒーと吸いかけのタバコを載せた灰皿が置かれているあたり、オヤジの
休日を地で行っている気がしないでもない・・・のだが、本人はあまり気にしてはいない様子
である。
「なあなあ、火村。さっきから俺の話ちゃんと聞いてるか?」
「・・・ああ。」
「ほな、お金ちょうだい?」
「・・・イヤだ。」
「うっ・・・聞いてへんフリして、ちゃんと聞いとるがな。まあ、ええわ。せっかくこんなえー天気
やし、どっか出かけへん?」
「・・・悪いが、今日はそんな気分じゃない。」
「えっ?何でー?」
「いや、実は朝からちょっとノドが痛くてな。」
「ええっ!?だったら何でわざわざ朝から来んねん?おとなしゅー家で寝とったらええやない
かっ!」
「・・・・・言わせたいのか?」
「へ?」
 急に真剣な火村の声。
 ドキッとして顔を向けると、火村はいつの間にか新聞を下ろし、アリスを艶っぽい目付きで見
つめていた。
「いっ、いらん。言うな、何も言うな!」
 アリスは慌てて手で火村を制した。
 この火村英生という男は、たまーに恥ずかしいことを平気で口にするのだ。
 そんな台詞を聞いてしまったら、昼間っから盛り上がってしまうことはほぼ間違いない。せっ
かくの休日(火村のだけど・・・)に、そんな恥ずかしいこと出来るかっちゅーねん!(アリス心
の声より)
 火村は、『言いたかったのに・・・』とでも言いたげな、少し残念そうな表情をしている。
「あっ、せや。ノド痛いんやったら、のど飴舐めるか?ちょっと待ってや。」
 パタパタと自分の部屋に行くアリス。
 約2分後―――
 戻って来たアリスの両手には、色とりどりの小さな飴が幾つか載っかっていた。もちろん1個
ずつ包装が為されている。
「火村。ミルクとイチゴとラズベリーとオレンジ・メロン・レモン。さあ、どれがいい?」
「・・・・・・何でもいい。」
「うっわー、おもんないやっちゃなー。せっかく俺が全種類持って来たったのに・・・。」
(それなら袋ごと持って来れば良かったんじゃ・・・・?)
 火村は心の中で的確なツッコミを入れた。
 しかしアリスの優しさに泥を塗って終わるようでは、アリスの『恋人』を名乗る資格はない。
 火村は一生懸命頭の中で飴の種類を復唱し、
「じゃあ、レモンで。」
 と、とりあえず無難な選択をした。
「おっし、レモンやな♪―――はい。」
 アリスが嬉しそうにレモン味のノド飴を手渡そうとする。
 しかし火村は手を出そうとしない。
 首を傾げるアリスに、火村は今日1回目となる恥ずかしいことをサラリと言ってのけた。
「アリスが食べさせてくれ―――口移しでvv」
 一文字違っていたら(『が』→『を』)、大変である(そういう問題ではない!)。
 アリスは真っ赤になって、「じっ、自分で食べたらええやろっ!」と怒鳴る。
 しかしそれくらいでめげる火村英生(3○歳)ではない。
「そうかー、残念だな。せっかくレモン味のキスとやらを実践で体験できるかと思ったのに。」
 本日2度目となる恥ずかしい台詞は、アリスを本気で怒らせるには十分だった・・・。
「もうっ、火村のアホーッ!そこで勝手に言うとれ!!」
 そのままバタバタと自分の部屋に行き、鍵までかけるアリス。

 火村英生(3○歳)、『アリスをからかうのもほどほどにしよう』そう誓ったある休日の話であ
った―――。





                                                  【おしまい】








以前お題で書いたSSを拾って来よう企画第2弾でした〜(苦笑)。いやもう…どこをどう言い
訳したらいいのか…(汗)。火村とアリスは2人っきりのとき、こんな会話(=じゃれ合い)ばか
りしてたらいいな…みたいな(笑)。結局この後、火村はのど飴を貰えたのか貰えなかったの
か…一体どっちなのでしょう?(←オイ)




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