※このお話は、原作『乱鴉の島』を読んだ後に書いたものです。 もし原作を未読の方は、このお話に出てくる拓海くんと鮎ちゃんは、上記の原 作に登場した小学生(今は5年生)で、アリスが過去に1冊だけ出した児童向け の推理小説の読者(ファン)であり、上記の原作中には火村&アリスとともにキャ ッチボールをした仲である…と思って、読んでやって下さいませ。 ☆ 黒根島…いや、烏(からす)島と呼ぶほうがふさわしいだろうか? その絶海の孤島から、火村英生と有栖川有栖が日常という名のリアルへと生 還してから、既に1ケ月以上が経とうとしていた……。 名探偵誕生秘話(!?) ある日の昼下がり―――。 「ひ〜むらっ♪」 英都大学にある火村の研究室を訪れたアリスは、火村の前で嬉しそうに1通の 手紙を掲げてみせた。 ちょうどお昼休みなうえ、今日の講義は午前のみで全て終了という珍しく(?) 余裕のある状態だった火村は、アリスの話に快く付き合ってやることにする。 アリスの分もコーヒーを淹れてやり(ちなみに自分の分は既に淹れてある)、向 かい合ってソファに腰かけた。 「で、それは何だ?」 改めて火村が話を振ってやると、アリスはニコーッと満面に笑みを湛えながら、 「ラブレターに決まってるやん。」 と言うのだった。 「何!?」 火村が思わず顔色を変えると(しかも無意識だろうが、体が若干ソファから浮き 上がっている)、アリスはさらにプフッと変な笑いを漏らし、 「何本気にしとんねん。これはラブレターはラブレターでも、小さな女の子からのラ ブレターや!しかもその女の子は火村もよぅ知ってる子ぉやで。」 さらりとネタばらしをしてくれた。 「ああ、何だ…そういうことか。つまりその手紙は、小山鮎ちゃんからのラブレター ってわけだな?」 「正解や。」 「やれやれ…。」 「なんやその呆れたような顔は…。」 「これは失敬!三十路を越えた男が少女からの手紙に浮かれてる姿を見てたら …こうなんか悲しくなってな。」 「ムカッ!じゃーその手紙に嫉妬してた火村先生は、もーっと悲しいんとちゃう?」 「ア・ホ・か!俺が嫉妬なんかするわけねぇだろーが。」 「アホって言うなや!関西人にアホって言うたらアカンって、いつも言うとるやろ!」 「はいはい。」 「ムーッ。」 「そうむくれるなよ、アリス。」 「…………。」 「わかった、悪かった!もう茶化さねぇから、話を先に進めてくれ。鮎ちゃんからの 手紙が何だって?」 「そ・の・ま・え・に!や。1つ聞いておきたいことがある。」 ビシッと火村の前に右手の人差し指を突きつけるアリスの顔は、さっきの不機嫌 さは消えたものの、何やら深刻な色を帯びていた。 「何でしょうか?有栖川先生。」 火村も思わず背筋を伸ばしてみたり。 「火村もあれから鮎ちゃんや拓海君と手紙のやり取りをずいぶんしてたみたいや な?」 「ああ、まあそうだな。どちらもかなりの筆まめらしくてな。週1くらいではやり取り してたかな。特に鮎ちゃんは返事が早くて、こちらが追いつかないくらいだった。」 言ってから、火村は「ん?」と訝しく思う。 「アリス…お前さっき俺が2人とかなりの回数手紙のやり取りをしていたことを知っ てるような口振りだったよな?」 「ああ、よーぉ知ってんで。火村がどんなことを2人に吹き込んどったかってことも 全部、ぜぇーんぶ、な。」 「いや、あの…アリス…さん?」 「なんや?」 「何かそのぅ…もしかして怒ってらっしゃいます?」 「フッ…気のせいやろ。」 「いやいやいやいや!お前その顔、完全に怒ってるって。」 「じゃー俺が何で怒ってるか、自分の胸に手ぇ当てて、よー考えてみぃ!」 「いや、その……」 「ん?」 「えーっと、だから……」 「んん?」 「…………ごめんなさい。」 「よろしい!」 「鮎ちゃん…か?」 「ん?」 「鮎ちゃんから聞いたのか?」 「まあな。」 「しまった…子どもは正直だからな。うっかり口止めしとくのを忘れてたぜ。」 「アホかッ!」 ゴンッ キーンコーンカーンコーン♪ アリスの拳骨が火村の頭上に投下されたのと、昼休み終了の鐘が鳴り響いた のは、ほぼ同時のことだった。 「イッテェ〜…。」 頭を押さえて呻く火村に、 「自業自得や!」 お怒りモードのアリスの反応は冷たい。 「悪かったよ。お前に内緒で俺たちのことを鮎ちゃんに話したことは謝る。しかし 俺は嘘はついてない。というより、嘘がつけなくて話す羽目になったとも言えるが な…。」 神妙に話し始めた火村に、アリスは「ん?」と首を傾げる。 「それ、どーいう意味や?」 「小学生の女の子の興味といえば、『恋』と決まってるらしくてな。鮎ちゃんからの 手紙の話題も自然とそっち方面に流れていったんだ。で、聞かれたわけだ。」 「聞かれた…?」 「ああ、恋人はいますか?ってな。」 「で、何て答えたんや?」 「一応いると返した。すると次の返事に……」 ここで火村がいったん言葉を切る。 アリスはゴクリと一度唾を飲み込み、 「な、なんて書いてあったんや?」 先を促す。 「それは有栖川さんですか?と。」 「なっ、なんやて!?」 「驚いたか?」 「あっ、当たり前や!」 「俺も驚いたよ。でもさすがに言い当てられてしまうと嘘をつくのは躊躇われてな。 正直にそうだと返したんだ。」 「そっ、そうやったんか…。確かに小学生に嘘をつくんは、ちょっと俺も躊躇うかも しれんなぁ。しかも相手は貴重な俺の読者やしな。」 「ああ、確かに貴重だな。というか、むしろ希少…か?」 「ほっとけ!それにしても…なんでバレてもうたんやろ?」 「それは俺も不思議だった。」 「理由は聞いたんか?」 「ああ、もちろん聞いたさ。」 「で、鮎ちゃんは、何て?」 「フッ、知りたいか?」 「もったいぶらんと、はよー言え!」 アリスの両手が火村の首に回され、キュ〜ッと締め付ける。 「グッ…苦し…アリス……」 「はーやーくー。」 「いや…これ…じゃ……言いたく…ても……言えな………」 息も絶え絶えといった火村の様子に、 「あっ、スマン。」 パッとアリスの手が離され、火村はやっとホッと息を吐いた。 「おまえ今、ちょっと本気入ってただろ?」 てへッと笑うアリスが、一瞬悪魔に見えた火村だった。 「で、鮎ちゃんに俺と火村が恋人やとバレた理由は何やったんや?」 改めて問うアリスに、火村が返した答えは――― 「鮎ちゃん曰く、『だって火村先生が有栖川さんを見るときの目って、いつもとって も優しいんだもん。』…だそうだ。」 「なっ……なっ…………////」 口をパクパクさせて何も言葉を紡げないアリスに向けて、火村は晴れやか〜な 笑顔でさらにこう続けるのだった。 「悪いな、アリス。俺のお前への愛は、無意識のうちに溢れ出しているらしい…。」 しばらくして――― 「…アハハハッ…………」 何かもう諦めたように乾いた笑いを漏らすアリスの姿があったとか――――。 【END】 <追記> その後、ちょっぴり不安になったアリスが、『俺と火村が恋人同士やってことは、 誰にも言わんとってくれる?』と鮎ちゃんへの手紙に書いたところ、すぐさま返事 が届いた…のだが。 そこにはたった一言、こう書かれてあったという。 『アブソルートリー』 小さな名探偵……誕生!? [後書き] 有栖川での新作は何年ぶりでしょうか…?読んで下さった方(がいて下さるとい いなぁ)、本当にありがとうございます!久しぶりにちょっと長めのお話を書いたり なんかしますと、文章のガタガタっぷりが目立つこと目立つこと(←オイ)。読みに くかったら、本当に申し訳ございません。しょ、精進します…。 それにしても、本当にお待たせしてしまって、申し訳ございませんでした(深々)。 でも久しぶりに火村とアリスの掛け合い漫才(?)が書けて、楽しかったです♪ そして相変わらずうちのヒムアリは、アリスが強いです(笑)。最後はラブラブな雰 囲気になるはず(※プロット段階)が、あまりの火村の台詞の寒さにアリスが呆れ …いや、諦めて終わってしまったという……。あれ〜?(笑) ちなみに拓海君との手紙では、『恋』の話は一切出ていません。スポーツとか経 済・政治の話を主にしていたりします(笑)。 それでは、ここまで読んで頂きまして、本当にありがとうございました。もしよろし ければ、ご感想などお聞かせ頂けましたら嬉しゅうございます。 |