『愛にはまだ遠い』 発端は、アキラの一言だった。 「ねぇ、狂は・・・ボンやほたるに襲われたりしたことあるの?」 「ブーーッ。」 「っ!?」 その言葉に反応したのは、問い掛けられた狂ではなく、梵天丸とほたる の方だった。 梵天丸は飲みかけた酒を盛大に吹き出し、ほたるは手に持った杯を口 元の手前で止めたまま固まってしまった。 「ななななんだ、やぶからぼうに。」 動揺しまくりの梵天丸と、 「・・・・・忘れた。」 白々しい台詞を吐くほたるに(まあ、ほたるの場合マジかもしれないが)、 アキラは答えを確信した。 「あるんだね?」 先程から一言も発しない狂を見遣って――― アキラはあんぐりと口を開けて固まった。 狂は眠っていた。 木に凭れかかり、座ったままの体勢で。 「・・・・・・・・」 しばらくの沈黙の後、なんとか立ち直ったアキラが、声を大にして叫んだ。 「ズルイよ、狂っ!起きてちゃんと質問に答えてよ!!」 「いや、アキラ。悪いことは言わねぇ、狂を起こすのはやめといた方がいい ぞ!」 「うん、狂って寝起き悪いから・・・。」 梵天丸とほたるの忠告は、綺麗さっぱり無視された。 「きょーおーってば!」 なおも叫び続けるアキラに、梵天丸とほたるは白旗を揚げた・・・もとい、 その場から退避することにした。 このまま巻き添えを食ってはかなわない。 「ほたる、ここは逃げるぞ。」 「賛成。」 ザザッとその場を離れる2人。 「とりあえず半径2キロ圏内は危険だな。」 「うーん、3キロくらいはヤバいんじゃない?」 「そ、そうだな。オレ様も狂の寝起きを見くびって、エライ目に遭ったことが あるからな。ここは5キロくらいいっとくか?」 「うん、そのほうがいいかも・・・。」 そそくさと逃げる四聖天2人。 この世で最も恐ろしいものは、鬼眼の狂の寝起き(しかも無理矢理起こ されたバージョン)――そう信じて疑わない梵天丸とほたるであった・・・。 しばらくして――― アキラはいつの間にか邪魔者2人―梵天丸とほたる―がいなくなってい ることに気付いた。 そして、チャーンスとばかりに狂に向き直り・・・そっと顔を近付けていく。 さっきまではさんざん狂を起こそうとしていたくせに、今は『まだ起きない でね?狂』とか思っていたりする。 我侭アキラの本領発揮(?)である。 そのままゆっくりと唇を重ねようとした瞬間、狂の口元がニヤリという形 に歪んだ。 「っ!?」 ビクッと肩を震わせ、至近距離でそのまま固まってしまったアキラに、 「バーカ!」 狂の辛辣な一言がクリーンヒットした。 「ひどいよ、狂。ずっと起きてたの?」 アキラはすでに涙目になっている。 「いいや。今まで気持ち良く眠ってたぜ?だがさすがにそんな荒い息を吐 かれちゃー気が付くってもんだろ。」 「荒い息!?」 途端にアキラは顔を真っ赤に染めて俯いた。 狂に欲情した自分を責められているようで、恥ずかしい。 「まあ、接吻くらい別にかまやしねーけどな。減るもんじゃなし。」 意外な狂の言葉に、 「ほ、ほんと?」 アキラは途端にパアッと顔を輝かせた。 「ああ、やりたきゃやってもいいぜ?」 狂の誘いをアキラが拒もうはずがない。 アキラはそのまま顔を傾け―――ゆっくりと狂に口付けた。 しっとりと濡れた感触に、アキラの背筋に得体の知れない何かが走る。 そして欲望のままに狂を押し倒そうと体重をかけようとして・・・狂に押し 戻されてしまう。 「ダメ・・・?」 シュンとして問いかけるアキラに、狂は優しく笑って言った。 「ああ。この先は、もう少し大人になったらさせてやるよ。」 その夜――― いくら待っても、狂が寝起きの1発―怒りの『みずち』―を放つことは なかった。 半径5キロ以上避難していた梵天丸とほたるが、恐る恐る元いた場所 に戻ってみると、アキラが狂にむぎゅーっと抱きつきながら、眠っていた という・・・。 その光景を見た梵天丸とほたるは、ほぼ同時にこう呟いた。 『さすがの狂も泣く子には勝てねぇか・・・。』 『アキラ、ずるい・・・。』 最強にして最凶の男は、ただの子煩悩だったりする・・・のかもしれな い。 【終わり】 [後書き] 初「アキ狂」・・・見事にすべった気がします(遠い目)。四聖天時代の彼ら の日常(?)の1コマ(のつもりでした。ええ、灯ちゃんいなくてすみません /汗)。狂さんの安眠を妨害しても、アキラだと許される・・・なんだかんだ 言っても狂さんはアキラには甘いのです!といったところを見て頂ければ 嬉しいです(苦笑)。どうも狂さん受は、『狂さん最強』というスタンスを崩 すことができないようですねぇ<人事かい!? 梵天丸とほたるの扱い、酷くってすみませんでした(滝汗)。とりあえず アキ狂だとギャグ色が濃くなることが判明しました・・・では!(逃亡) |