「三橋っ!」 いつものように朝練にやって来た三橋を待っていたのは、怒りを 含んだ阿部の呼びかけだった……。 『たった一言でいいから』 (ビクッ) 立ち止まり、肩を揺らして、ギギギギと音がしそうなほど固い首を 回すと、目の前に阿部が仁王立ちしていた。 (ヒッ!) 三橋は声も出せず、その場に固まる。 「何で黙ってたんだよ!?三橋。」 両肩を掴んで、激しく揺さぶる阿部の剣幕に、三橋はますます固 まってしまう。 (あ、謝らなきゃ!) 理由はわからないけど、とにかく謝らないと! そう思って口を開いた三橋の声と、 「ご、ごごごめんなさいっ!!!!」 「昨日が誕生日だって!」 阿部の声が重なる。 「ハヒ?」 「あ?」 「たん…じょう…日?」 「ああ。おまえ昨日誕生日だったんだろ?」 「あぅ…う、うん。」 「何でんな大事なこと、もっと早く言わねぇんだよ?」 「ご、ごめんなさっ…」 「いや、何も謝ることは…。俺、怒ってるんじゃないからな?ただ、 もっと早く知ってたら、ちゃんとお祝い出来たのにって。」 「おおお祝い?オレ…の?」 「ああ。」 「……ッく………ふぇっ………」 「な、泣くなよ?」 「…だって……嬉し………」 「あー、もうっ!」 グイッと引き寄せられ、閉じ込められる―――その腕の中。 「あ、阿部…く…ん?」 びっくりしすぎて、涙は一瞬で止まっていた。 「1日過ぎちまったけど、誕生日おめでとう…廉。」 「!?」 初めて呼ばれた下の名前。 ドキドキしすぎて、心臓が壊れそう。 でも、言わなくちゃ! この幸せな気持ちを伝えなくちゃ! 「…阿部…く……好き。」 「ああ、俺も三橋が好きだよ。」 もういつもどおりの呼び方に戻っていたけど、それでも幸せ。 最高に幸せな―――誕生日(1日遅れだけど)。 |