最初で最後の山行記
〜春の蝶ヶ岳 編〜
(↑「編」って最初で最後だってば)

 2002年5月3〜5日にかけて蝶ヶ岳に行った来た。都岳連の雪山教室での成果を活かすべく、単独での初の雪山である。が、雪山初心者の私にとっては分からないことも多く、失敗ばかりの山行となってしまった。これを読んで頂いた方からいろいろとご教示頂ければ幸いである(堅いって)。とはいえ、不必要に長いので、お暇な方だけどうぞ。おそらく人様の参考になるようなことは間違いなく書いていないであろう。

 今回は出だしからつまずきだらけだった。出発前日、チケット屋にあずさの券を買いに行ったら、「GW中は使えませんが宜しいですか?」と店のニーチャン。「どうせ知らなかったんだろ?」と言わんばかりの顔だ。ハイハイ、図星ですよ。
 5/3出発の日。7時新宿発のスーパーあずさ1号の貧乏人用自由席に乗る予定で6時半に新宿に到着。通常の週末の感覚で「これなら座れるだろう」と思っていたが、アマチャンだった。ホームは既に人で溢れ、長蛇の列が出来ている。ディズニーランドよろしく駅員さんが「ここまで1時間待ち」という看板を持っていそうなくらいだ(いや電車だから待ち時間はみんな一緒だって)
 せめて電車の通路に座っていこうと思ったが、これまた大甘。列の10人くらい前から既に電車に乗れなくなっており、何人かが列を抜けて臨時列車へと変えたようだ。しかし、そんなことであきらめるわけにはいかない。山で鍛えたルートファインディング術(ウソウソ(^^ゞ )を駆使し、山の手線で30cmの隙間に座り込む中年のおばさん顔負けのプッシュで入り込み、エアーポケットのごとく空いていたトイレの前のスペースを確保した(それは皆さんが開けといたんだってば)。隣ではカップルがイチャついているが、まぁ良しとしよう。
 道中は長い。幸い本も持ってきているので、早速読書に没頭した。女「総務のHさん、GWに帰省するって言ってたよね。」男「ああ、そういえば、方向一緒か。」女「乗ってたらどうしよう。バレちゃうね。」ふむふむ、車内恋愛でまだ秘密だな。おっといけない、つい聞き耳を立ててしまった。・・・そんなこんなでずっと立ちんぼながら、2時間半はあっという間だ(ずっと聞いてたわけじゃないっすよ)

 松本駅から松本電鉄で新島々へ、さらにバスと乗り継いで上高地に着く頃には既に昼になっていた。春山の登山基地・上高地。雪に閉ざされた、とは言わないまでも、もう少しアルピニストの世界かと思ったが、完全に夏と一緒だった。おまけに今日はメチャメチャ暑い。河童橋の上は、「ここは原宿か!?」と言いたくなるほど人また人だ(原宿には滅多に行かないけど・・・)。長居は無用とばかり、徳沢園へと歩き始めた。
 明神館までの道のりは観光客も多い。スカートの人、ハイヒールの人。どうも気分が台無しだ。「オイラは君たちとは違うんでぇ」とばかりに、靴紐も結ばず、ポケットに手を突っ込んで歩いて見たが、歩き難いことこの上ないのですぐ止めた。

やたらと人が多い河童橋
 明神館から徳沢園に向かう途中で、雪山若葉マーク仲間のN村さんに出会った。聞く所によると涸沢はテントだらけで、奥穂への登山道は行列ができるほどだという。やはり蝶にしてよかった。ふと見ると、N村さんのザックに赤いスコップが。こ、これは、私が今回の山行のために購入したおニューのスコップとお揃ではないか。聞くと、彼も今回買ったのだそうだ。唯一違うのは、彼のスコップは先っぽの塗料が剥げていること。やっぱりアルピニストはこうでなくっちゃ。よっしゃ、オイラも掘って掘って掘りまくるゾ、と心に決めて、中Mさんに別れを告げた(若葉マーク仲間の名前が分かったアナタはもうミステリーファン。っていうかフツー分かるっつーの)
 徳沢園到着が午後2時すぎ。まだ時間は早いが、ノンビリ山行を信条としているので、早々と宿泊とした。真夏のような陽気、平らで芝の生えたテン場、怠慢なおじさんはペグも張り綱もフライも無視して、テントだけを設営。持参したワインをキープとし、ビールを買いに行ったのだった。
 念の為登山口まで下見に行くと下山してくる人がいる。アイゼンを手に下げている人がいたので上の様子を聞いて見ると「一応アイゼン使ったけど、履いていない人の方が多かったですね」と言う。確かに後から来た人は妙に軽装だ。「てめぇら、山をなめんじゃねぇ」なんて気持ちはおくびにも出さずしばらく下山者を眺めていた。中には目印の赤旗(共産党の方?)を持っている人までいる。キミたちはごうかーく!あっ、でもオイラも旗は持ってないや。
 GWとあって徳沢園もかなりの人出。できるだけ静かな場所にしようと端っこの方にテントを設営したが、5時頃単独行のおじさん―オイラより明らかに年上なのでRealおじさんだ―が、Myテントの入口正面に設営し始めた。ま、閉めれば同じだからいっか、と思っていたが、おじさんはテント設営時から鼻唄を唄い始め、それからずっと8時まで唄いっぱなしだった。「♪クチナシのはな〜の〜♪」ウルサイっつーの!と思いつつ、折角気分よく唄っているようなので大目に見てあげることにしたが、酒が入って声が大きくなってきたのにはさすがに参った。仕方なくイヤホンでラジオを聞くことにしたが、谷間のせいか電波の入りが良くない。砂嵐の向こうから聞こえてくるような雑音に耳を傾ける。おじさんの鼻唄よりはまだましか。その日はおじさんの鼻唄終了とともに眠りについた。
 
 翌5/4、朝4時頃目覚めると、ナント雨が降っているではないか。やっべぇー。やはり手を抜くと良いことはない。今日の行動予定はさておき、とりあえずフライだけ張り、ラジオの天気予報に耳を傾ける。「今日は全国的に雨。明日は九州地方を除き晴れるでしょう」アチャー。今日は一日ダメか。いや、折角来たのだから上まで行こう。でも・・・。この程度の雨で停滞を決め込むのもあまりに軟弱かと思ったが、今回は槍を見に来たので、見えないのに登ってもしょうがないと思い腰を落ち着けることに。これまた昨日怠慢で出さなかったエアマットを敷いて、ノンビリ朝食とした。
 と、ところが、である。9時前頃から雨足が弱まり始めたではないか。再度悩む。とはいえあまり時間はない。10時に出れば、3時には蝶ヶ岳ヒュッテに着くはず、との読みのもと、改めて出発の準備に取りかかる。
 先程出したエアマット。従来は銀マットを使っていたが、「雪山ではリュックから出っ張っているものがあると危ない」とのアドバイスのもと最近購入した代物。が、畳むのが結構面倒。どうしても空気が残ってしまう。1人ならともかく、数人でのテント山行だと、大きく広げて畳むわけにもいかず、かえって嵩張ってしまう。エアマットを畳むいい方法はないものだろうか。それとも銀マットが一番便利なのか?
 それはさておき午前10時半。小雨をついてかなり遅い出発となった。登山口からしばらくは雪も全くなく、ごく普通の夏道。歩き始めて約10分。小学校低学年程度の子供3人を連れた親子に出会う。この雨の中、感心感心。「こんにちはー」という子供たちの挨拶に大声で応えつつ、お兄さんは颯爽と追いぬいてみせる。
 そのままの勢いで一気に登って行くと、早くも雪が出てくる。ここはルートか、と思い周りをを見渡すと、横の笹藪のなかにトレースがあるではないか。なーんだ、と歩を進めるが次第に道が狭くなって行く。もしかして間違えた?いやトレースがあるということは前に通った人がいるということ、行くべし。さらに進むと、どんどん道が曖昧になっていく。もしかして、利口な人ほど早く引き返し、お馬鹿だけが先に進んでいるため、トレースがだんだん曖昧になっていくのだろうか・・・。むむむ、どうする?ついには藪漕ぎ状態となり、それでも隣の雪のある部分を目指して進んで行くと、とうとう藪漕ぎからの脱出に成功。やった!お馬鹿一番!!念の為後ろを振り返ってみたが、子供チームはまだ来ていないようだ。ふー、ほっと一息。
 気を取りなおして先へ進むが、余計な力を使ったせいかへばっている。行動食のアンドーナツを食べるが、今回のアンドーナツはパサパサしていて失敗だ。次第に雪が多くなり、2000mあたりからはすっかり雪山となった。こうでなくちゃ自主トレに来た甲斐がないというものだ。アイゼンを着けるにはちと雪が腐っているので、雪上歩行の練習とする。つぼ足、つぼ足、キックステップ、キックステップ、とつぶやきながら歩くが、ちょっと虚しい。
 途中で若者男女4人のパーティとすれ違った。3番目にいた女性がなかなかかわいい。おっ、と思って振り返ったら、ザックカバーの代わりに黒いゴミ袋を付けていた。やるなぁ若人。東京都民なら半透明だぞ、と一人つぶやく。でも、以前雨の日に、スーパーの袋を頭にかぶって自転車に乗っていたおばさんに出会った時のインパクトにはかなわない。
 朝方止みそうだった雨は、困ったことにまた強くなってきた。霧も出てきた。先行者も後続も見当らない。朝のうちはすれ違う下山者もいたがいつしか出会わなくなり、昼以降誰にも会っていない。道は合っているんだろうか?ちょっと心細い。比較的トレースははっきりしており、多分間違っていないと思う。人に会わなくなって2時間ほどした頃、上から単独行者が降りてきた。おおっ!この道で合っていたんだ。下山者に後光が射して見える(んな大げさな)。神様は黄色と青のウェアー「神様、センスいいー」と心でおだてて、蝶までの所要時間を聞いた。あと1時間半程度とわかり、気持ちも新たに歩を進めた。
 とはいえ、雨と霧は相変わらずで、手袋はずぶ濡れだ。時々、セカンドバッグに入れたパサパサのアンドーナツやカントリーマアムを口にするが、お腹が減ってしょうがない。ようやく樹林帯を終え、稜線に出た。と同時に横から強い風が吹き、雨がフードをたたく。やがて、風で雪が飛ばされるのか剥き出しの岩場となった。蝶ヶ岳ヒュッテも近い。午後3時過ぎ、とうとう蝶ヶ岳ヒュッテが目の前に現れた。疲れたっす。
 
 疲労とずぶ濡れゆえに小屋に泊まってしまおうかとも思ったが、1泊2食で9,000円、素泊まりでも6,000円という料金を見て気を引き締めた。「ここで泊まっては訓練にならない」と後付けの理由で、テン場をお借りすることにした。
 外は相変わらずの雨と強風。意を決して外に出てテン場に向かう。見ると雪が底溜まったような場所に3張、岩がむき出しになった場所に5張ほどある。どっちに張るのが正しいのだろう?雪のある場所はすぐそばにハイマツが生えており、風よけになりそうだが、雪が軟いためペグは効かなそうだ。岩場は張り綱を括る場所はいくらでもありそうだが、風をもろに受けてしまう。考えた末、訓練の成果を活かすべく雪上テントとする。
 とうとうおニュースコップの出番である(っていうか、これを使いたいがために雪上にしたって感じ?)。ザクッザクッとスコップで整地していく。そして、それとともにスコップの赤い塗料が剥げる。これこれ、こうじゃなくっちゃ。白い雪に赤い塗料のカスが映えるってものです。ん?待てよ!?赤い塗料が入ったんじゃ、融かして飲めないじゃないか!どないしてくれんじゃー。

雨と強風に晒された雪上のテン場
オレンジ色のフライがMyテントっす
 それにしても風が強い。やっとの思いでテントを組み立てると、途端に風を受けて飛ばされそうになる。これはマズいと重り代わりにザックを中に放り込もうとするが、ザックもびしょ濡れだ。どうする?とりあえず、ザックカバーを外してザックだけ投げ込み、カバーもはたいただけで中に放り込む。それでもテントは飛ばされそうだ。やむを得ず、張り綱にカラビナをかけて、ハイマツに引っ掛ける。張り綱で直接結え付けようかと思ったが、手がかじかむし、翌朝ほどけなくなりそうだったので止めにした。さらにテントにフライを被せて、ベグを埋め込む。手際が悪いせいか設営を終えるまでに30分もかかってしまった。
 ようやくテントに潜り込むが、そこら中濡れ物だらけだ。マットや寝袋を出すわけにもいかず、まずは濡れ物の処理から。手袋や靴下などは諦めて新しいのに変えるとして、悩ましいのは山靴。雨の中を歩いてきたせいで中まで濡れている。かと言ってほうっておいたら、明け方に凍ってしまっても困る。かわかすべきか、濡れたままテント内に置くべきか。ガスの残量に余裕があったので乾かすことにした。両手に靴を持ってコンロの上にかざすと、意外に早く湯気が立つ。しばらくそうやってボーッとしていたが、気がつくとなんか臭い。あ゙ー、オイラの靴が焦げてるー!!!知らない間に靴の重さで手が下がっていたらしい。慌てた拍子にコンロに腕が近づき過ぎ、右手にの毛が焦げ小さなゼンマイに変身。おまけに焦げた靴を触った左手は火傷してしまった。泣き面に蜂とはまさにこのことだ。あー、哀しい。
 意気消沈していても時間だけは過ぎて行く。晩御飯のカレーにしよう。アルファ米に湯を入れ、レトルトカレーを温める。そして、そのままカレーをアルファ米の袋に注ぐ。これなら汚れ物がでない。これは若葉マーク仲間のK子さんから盗んだ技だ(どうでもいいことだが、K子さんとは女性ではなく、金子さんのことだ)
 いろいろあって疲れた1日だった。明日の好天を祈りつつ眠りにつく。

 5/5早朝、二重靴下の間にホカロンを入れたにも係らず、夜中に何度も目が醒める。やっぱり、スリーシーズン用シュラフでは、雪山は寒いのだろうか?その間、ずっと雨音と風がフライを叩く音が聞こえる。朝4時、未だ雨音が聞こえるが、とりあえず起きることにする。時々風が止むのは良い兆候か。天気予報でも、雨は午前中に止むっていってたっけ。今日は下山するだけなので、いつでも出られるよう準備だけしておく。
 7時、風が止み、雨も弱まる。外に出ると、かなり雲はあるものの、前穂の下半身が見えている。なんとかなりそうだ。急いで支度し7時45分、やや遅い出発。
 テン場のすぐ近く、蝶ヶ岳山頂で景色を眺める。槍が見えるとしたら一体どっちの方向になるのだろう。少しずつ天気も快方に向かっているようだ。山頂の石に腰掛け、ノンビリと雲が流れるのを眺めている。そこかしこに、天候回復を待つ登山者がいる。待つこと40分、槍の頭がちょっとだけ見えた。あと少しだ。徐々にだが雲が薄れて行く。そしてとうとう、槍がその姿を見せてくれた。体は雪の衣をまとっているものの、尖塔は雪すらも寄せ付けない。これでこそ、雨のなかを突いて登ってきたかいもあるというものだ。
 しばし槍を眺めた後、名残を惜しみつつ山頂を後にした。帰路は快晴のなか、軽快な樹林帯を下山。所々で、木の隙間から穂高の岩肌、雪が覗く。腐れ雪だが、アイゼンの練習と思って、履くだけ履いて見る。昨日とはうってかわって登山者も多い。ようやく春山らしい雰囲気になっきた。
 下山はなんとも言えず淋しい。徳沢園に辿りつくと、涸沢帰りの登山者で溢れている。さらに上高地に近づくにつれ観光客もちらほら。また、下界に戻ってきたようだ。
 いろいろあったが、楽しい山行であった、と締めくくっておこう。
7:50
ようやく晴れたので蝶ヶ岳山頂まで行く。
槍はドコ?
どの辺に見えるの?

8:20
あ゙!あれってもしかして、槍の穂先?
もうちょい、もうちょい。

8:30
おおっ!ついに槍が・・・。
いつ見ても素敵だねぇ。