by 「ヴァーチャル クライマー」GAMO
【 傾向と対策 編 】

モンブランとマッターホルンに登るうえでポイントになると思われる点を、Q&A形式でまとめてみました。申し上げるまでもないことですが、あくまで私個人の1回の経験に基づく見解であり、私の事例がレアなケースもあるかもしれません。また、年齢や経験、体力、知識等々によって、当然対策も変わってくると思われます。あくまで参考としてご覧下さい。


 
 
   (1)事前準備 編
 
体力作り
高所順化
 
   (2)山 行  編
 
装備
服装
雪山技術
登攀技術
 
   (3)ガ イ ド 編
 
 
 
ガイドについて
「スピード=安全」とは
個人山行の可能性
 


(1)事前準備 編

体力作り  ヨーロッパアルプス登山で重要なのは1にも2にも体力という気がします。もちろん、雪山に関する技術や岩壁登攀も必要ですが、ポイントは体力です。
 私の場合、3月下旬、すなわち出発の約4ヶ月前から以下の体力作りを実践しました。
毎晩30分程度ジョギング(雨の日、飲み会の日を除く。結果的には、週5日のうち4日程度となりました)
毎土日に自転車漕ぎ30分で、市営ジムへ。ジムで1時間半ほど筋トレ&ランニング(山へ行く日を除く。雨の日は車で行ったので、こちらはほぼ毎週行きました)

 これにより、かなり持久力、心肺機能、筋力が向上した思いますが、これをしなかったら登れなかったかというと何とも言えません。後で書きますが、ガイドによっては体力に合わせてある程度ゆっくり登ってくれますから、一定レベルを下回らない範囲であれば、年齢や体力なりの登り方も可能です。
 体力作りは、登れない要因を少しでも減らすため自分が後悔しないために、できるだけのことをする、としか言いようがありません。ちなみに、体力の1つの目安として、1時間に標高差400mを登れる程度の体力は必要と言われています。
高所順化  高所に強いか弱いかは体質の問題であり、個人差がかなりあるようです。私はと言えば、残念ながらかなり弱いようです。どの程度弱いかというと、今年の4月に日帰りで富士山に行った際、山頂に30分程度しかいなかったのに高山病になり、帰路、3回ほど吐きました。ここまで弱いので、高山病には特に注意し、以下のような順化を行いました。
出発5週間前(6/21〜22)に富士山頂で1泊。4月の順化が少しは残っているかと思ったのですが、やはり高山病になり、吐きこそしなかったものの食欲が低下し、晩はほとんど食べず、朝はラーメン半分程度でした。
出発4週間前(6/28〜29)に富士山8合目で1泊、翌朝山頂へ(山頂泊の予定が悪天のため8合目で泊まることに)。8合目だったせいか、ほとんど影響はありませんでした。
出発1週間前(7/19〜21)に富士山頂で2泊。影響なし。
もちろん、シャモニ入り後、ヴァレーブランシュ(標高3,000〜3,500m)で高度順化(マッターホルンのみの場合、通常、ブライトホルン登頂で順化を図ります)。

 以上の結果、無事高山病を克服したかというとさにあらず。グーテ小屋(3,820m)、ヘルンリ小屋(3,260m)に泊まった時には大丈夫だったものの、モンブランでは登頂後グーテ小屋に戻った際に気持ち悪くなり2度嘔吐。マッターホルンでは登頂後ソルベイ小屋あたりから気持ち悪くなり、吐きこそしなかったものの極度にペースダウン。やはり体質改善には至りませんでしたが、一方で高度順化をしたからこの程度で済んだとの見方も可能です。こちらも体力作り同様、やれることはやっておくとしか言えません。

  
(2)山行 編


モンブラン
マッターホルン
装備  モンブランは基本的に雪山ですから、日本の冬山と同じ装備と考えれば良いでしょう。重登山靴、アイゼン、ピッケル、等々。日本と異なるのはヒドンクレバスがあるため、ガイド山行はもちろん個人山行の場合でもアンザイレンすることくらいで、そのためにハーネス等が必要になります。
 また、モンブランもマッターホルンも早朝暗いうちに出発するため、ヘッドランプは必須です。
 マッターホルンは上部が岩と雪のミックス、その下が岩山ですので、登攀用具とアイゼンが必要です。と言っても、セカンドでついていくだけですから、必要なのはハーネスくらいのものです。セルフビレーはメインロープから取りますが、アイゼン装着時や休憩時にザック等を落さないように、カラビナと細引きorシュリンゲくらい持っていった方がいいかもしれません。
 また、ピッケルはほとんど使う場所がなく、どちらかというと邪魔になります。ガイドの判断にはなりますが、今回はヘルンリ小屋に置いていきました。
服装  日本における冬山と同じ服装で、後はその日の天候により判断することとなります。通常、出発が早朝となるため、出発時が特に寒いようです。
 今回は悪天のため7時過ぎ出発となったため、早朝の寒気は関係ありませんでしたが、途中吹雪かれたためかなり体感温度が下がりました。Tシャツ、長袖、フリース、ジャケットの4枚でも、行動中暑いと感じることはないという程度の気温でした(これも個人差がありますが・・・)。
 標高や出発時間から言えば、モンブラン同様、冬山並みの防寒が必要です。ただ、今回に関して言えば好天続きで暖かく、Tシャツとジャケットの2枚でも暑いくらいでした。
 悩ましいのは手袋で、素手でないと困るような細かいホールドはないものの、できるだけ薄手で岩の感触がつかみ易いものの方が良いと思われます。多少の寒さは我慢して皮の手袋1枚、あるいはオーバー手袋のみが良いようです。
雪山技術 日本における雪山と同じですが、夏であればラッセルもないし、ピッケルを使う箇所もほとんどないので、重要なのはアイゼン歩行くらいでしょうか。頂上直下のナイフリッジでアイゼンを引っ掛けたら助からないでしょうからね。マッターホルンの場合、雪というより氷です。アイゼン歩行が重要という点ではモンブランと変わりありませんが、アイスクライミングをかじっておくと、上部ミックスでより安全に登れるかもしれません。
登攀技術モンブランにおける岩場は、グーテ小屋手前だけで、それもせいぜい2級程度です。人並みの運動神経を持っている人であれば、自然に登れますので登攀技術は必須ではありません。マッターホルンは、槍の穂先が何時間も続くイメージ。ソルベイ小屋までは2級中心から、徐々に3級の岩場へ。ソルベイ小屋からは3級中心に、時々4級が混じる。ただ、4級になると太いフィックスロープが張られており、それを使ってゴボウで登るため技術は要らない。

(注)当然のことながら、ガイド山行を前提としたQ&Aとなっています。

 
(3)ガイド 編

ガイド
について
 ガイドについてはいろいろな噂が飛び交っていますが、結論から言えば人それぞれかと思います。つまり、良い人もいれば今いちという人もいるということです。
 今回恵まれていたのは、アトラストレックの場合、シャモニにあるスネルスポーツの神田さんがガイドの手配をしてくれた点です。神田さんはシャモニに移り住んで数十年(30年くらい?)、地元ガイドからの信頼も厚い人です。彼の眼鏡にかなったガイドしか使わないため、ハズレはありません。しかも、通常の場合、モンブランならテートルース小屋、マッターホルンならヘルンリ小屋でガイドと顔合わせをするのですが、今回はモンンブラン登山の前日夜に顔合わせがあり、2山ともホテルからずっと一緒に出かけました。その分、コミュニケーションが図れ仲良くなれますし、登山中もやりやすくなるというわけです。加えて、モンブラン、マッターホルンとも同じガイドと出掛けています。いろいろな意味で恵まれていたと言えましょう。
 ただ、ここまで恵まれていない場合でも、ガイドとて人の子、悪い人はほとんどいない気がします。登れなかった理由をガイドのせいにする人もいますが、おそらくその人本人にも問題があったはずです。ガイドの名誉(?)のためにも、そこは勘違いしないで欲しいと思います。自分では登れるつもりなのに、ガイドが引き返せと言った。それは、気温が上昇した後の落石の危険性や午後の天候変化まで考えての判断です。 ガイドが顔見知りのガイドと話してばかりで、そのせいで遅くなり登れなかった。ガイドとちゃんと会話しましたか?黙りこくっていたり、仲間内で話してばかりでは、ガイドも疎外感を感じているはずです。
 長くなりましたが、ガイドについては当り外れは確かにあるものの、総じて良い人たちばかりであり、しっかりコニュニケーションを取って付き合えば、そんな理不尽なことにはならないと思います。
「スピード=安全」とは ヨーロッパ・アルプスでは、「スピード=安全」という言い方がされます。これは、「高所=危険」との考え方に基づくものです。高所では高山病の危険があり、そこに長く止まっているのは危ない、高所では天候が急変するため天候が安定しているうちにできるだけ速く下山すべき、ということです。加えて、モンブラン、マッターホルンとも上部は雪があり、午後になって陽が差し始めると落石が多くなります。これも早立ち、ハイペースの要因です。
 ただ、この「スピード」とは速く歩くということではなく、休まずに歩くという意味のようです。私のガイドの場合、おおよそ日本におけるガイドブックのコースタイムの、8〜9割程度の時間で歩いているというイメージで、多少速めという程度でした。同行した他の方々の場合、モンブラン、マッターホルンとも、2時間程度余計にかかかったようです。これは、ガイドが各人の体力に合わせて歩いてくれているからです。しかし、休まずに歩くという部分は共通で、ガイドに「休みたい」と言っても決して5分以上は休んでくれません。5分経っても動けないようなら、恐らくガイドは「降りる」という判断をすると思います。逆に、ゆっくりでも歩いている限りは、「降りよう」とは言わないでしょう(もちろん限度はありますが・・・)。
個人山行
の可能性
 技術のない私がこんな判断をするのは僭越な話ですが、イメージでお話します。
 モンブランは技術的に危険なところはほとんどなく、問題はルートとヒドンクレバスくらいだと思います。モンブランは山域が広いため、ガスるとルートが分かり難くなります。ただ、夏であれば入山者が多いためトレースもはっきりしており、ルートを見失う可能性は低いと思われます。ヒドンクレバスについては、日本人は甘く見る傾向があるようです。日本にはないだけに充分な注意が必要です。個人で行く場合には、必ずアンザイレンすることが必要です。以上に注意すれば、モンブランのガイドレス山行は充分可能かと思います。
 マッターホルンの場合も個人山行は可能かと思いますが、あまりお勧めしません。1つにはルートがわかりにくいためです。この山は、ある意味でルートがいくらでもあって、どこからでも登れるのですが、正規のルート以外から行く場合にはその分危険が増すことになります。もう1つには、個人山行で行った日本人が多々迷惑を掛けているためです。ヨーロッパにはヨーロッパなりの哲学・経験・天候に基づいた登り方があり、日本式の登り方を持ち込むのはいかがなものかと思います。「郷に入っては郷に従え」です。