by 「ヴァーチャル クライマー」GAMO
【 山行記 〜モンブラン編 】

 ヨーロッパ・アルプスの名峰モンブラン&マッターホルン。本ページは、2003年夏に二大名峰を登頂したGAMOによるモンブラン山行記です。全体については、右下から目次へ飛んでご覧下さい。


 
【第1日目】グーテ小屋まで
  シャモニ入りして4日目。前日バレーブランシュで高度順化を済ませ、ついにモンブランへと向かう日となった。
  7時半ホテル前集合。日本の感覚からするとずいぶん遅い。ガイドの車に同乗してレズーシュのロープウェイ乗り場へ。通常はテートルース小屋でガイドと顔合わせだというから、今回のツアーはいろんな意味で恵まれている。
  ロープウェイで登山鉄道のベルビュー駅へ。ここにはモンブランへ向かう人が大勢いる。1時間に1本あるかないかという程度の本数の少ない電車だ。アプト式のゆっくりした走りの電車に乗って、モンブラン山群の眺めを楽しみながらニ・デーグル駅へ。ここがモンブラン登山の起点だ。

   シャモニから見上げるモンブランは
   たおやかで、どこが最高点かわかり
   にくい
 
  ここまではツアー客8人で一緒に来たが、ここからはガイドと2人だけで、それぞれのペースで進むこととなる。自分のガイドはホーマンという33歳の若者。普段は学校の先生をしている2児の父だそうだ。ヨーロッパ・アルプスのガイド、特にフランス人ガイドは歩くペースが速いと聞いており、若者だけにかなりハイ・ペースでいくのではないかとちょっと不安がよぎる。
  午前9時。準備のできたパーティから順に出発していく。しばらくは同じ登山電車に乗っていた人達が数珠つなぎだが、次第にばらけてくる。この辺りで標高2,700m以上。森林限界はとっくに超えており、北アルプスのガレ場を歩くようなそんな脆い岩の道が続く。

   ベルビュー駅。これに乗る人のほとん
   どがモンブランへと向かう人
  ホーマンのペースは思ったほど速くはなかったが、それでも日本でいうところのガイドブック標準タイムの8割くらいで歩く速めのペースで歩き続ける。途中3分ほどのトイレ休憩を挟んで、11時5分過ぎ、約2時間で標高約3,150mのテートルース小屋に到着。ここで大休止となる。
  日本から持参した行動食を食べ、小屋のホット・ティーを頼む。これが結構ウマイ。一方ガイドは、皆パスタをしっかり食べている。やはり体が資本ということか。
  11時35分出発。ここまで雪はほとんどなく、テートルース小屋手前に大雪渓があっただけだったが、ここからは次第に雪がでてきた。そして、小屋を出て間もなく、前方から大きな崩落音が聞こえてくる。そう、モンブラン一危険と言われているクーロアールである。今年も1人が死亡、5人が怪我をしたと聞かされた。ここを通り抜けなければならない。クーロワール横断はわずか数十メートル。そこにケーブルが渡してあり、ガイドと結んだロープをケーブルに引っ掛けて、一気に走りぬけるのだ。
  耳をすます。落石音はない。ホーマンが一言“Go!”。2人で全力疾走。脆い岩場。崩れ落ちる足元の瓦礫。ハッ!ハッ!ハッ! ガラガラガラ ハッ!ハッ!ハッ! ガラガラガラ
  わずか一瞬のこと。振り返ればたいしたことないように見える。だからといって油断はできない。そういう場所だ。さっきから聞こえていた崩落音は、何のことはない、クーロワールを通る人が落した岩の音だったのだ。
  クーロワールを越えてからまた単調な岩稜帯、ガレ場が続く。頭上にはグーテ小屋のあるエギーユ・ドゥ・グーテがある。1時間弱歩くと傾斜が急になってきて岩場、壁となる。と言ってもせいぜい2級程度で、両手を使うもののこれといって危険はない。ただ、結構長いのだ。富士山頂直下、あるいは槍沢から肩の小屋までのように、目的地は見えているのにちっとも近づかない。そんな状態での岩場が続く。しかも、ホーマンは次々と先行者を横から抜いて攀じっていく。ヘロヘロになりながらも、ここで弱音を吐いたら置いていかれるかも・・・との懸念を払拭しきれず、ひたすらついて行く。休みはない。ただひたすらホーマンの背中を見ながら付いていく。シンドイ、息が荒くなる。なんとかしてくれ!と思った頃やっと小屋に辿りついた。時間は13時45分テートルース小屋から1時間40分ノンストップだ。
  “Good job”気楽に言うホーマンに、それでもお礼をせにゃいかんと思って、とりあえずジュースで乾杯。初日はなんとか乗り越えた。フゥ。
  グーテ小屋は標高3,820m。既に富士山よりも高い。振り返って下を見ると、先ほどまで苦しめられた岩場を登ってくる人がまだまだ大勢いる。
  小屋を一通り眺めた後、明日に備えベットで体を休める。夕飯は6時から。ちなみに、ツール・ド・モンブランなどで泊まる山小屋は食事も美味しいらしいが、この辺まで来るとそうたいしたことはない。長粒米で作った味のないド

   グーテ小屋のカイコ棚。山小屋は日本
   とあまり変わらない
ライスカレー風料理。なんだかよくわからないが、あまりうまくないってことだ。
  こちらは9時頃まで明るいが、明日は朝2時起床と早いので、気にしていられない。夕食後早々に床に就いた。明日は晴れますように・・・。
 
【第2日目】山頂へ、そして一気に下山
  夜半、嫌な音で目が覚めた。雷鳴、強風、雹?・・・とにかく天気が悪そうだ。ここまで来て登れずに引き返すのか!?気になってしょうがないが、気にしても天候が回復するわけでもない。いざという時に備え、体を休めることにする。
  深夜2時起床。相変わらず風がゴウゴウ唸っている。窓の外を見ると、雪が降りガスがかかっている。やはりダメか・・・。ガイドらが話し合い、様子を見ることに。幸い予備日があるから、遅く出て山頂まで往復、もう1日グーテ小屋に泊まることもできる。最悪、明朝出発も可能だ。半ばあきらめつつ再度床に就く。
  3時に様子見に起きたが、むしろガスが濃くなっている感じだ。8割以上あきらめ、再びの眠りについた。
  ・・・ ・・・ 「急いで準備して下さい」  ん?寝ぼけた頭に、ツアーリーダー棚橋さんの声が入ってくる。朝6時過ぎに起された。まだガスはあるものの、雪が止み、天気は快方に向かっているという。慌てて準備する。諦めていただけに対応が遅れた。朝食、服装、装備、etc. 結局出発は7時15分になった。
  グーテ小屋から上は完全に雪山。7時を回っているため多少気温は上がっているものの、風もあり寒い。アイゼン、防寒帽、ピッケル・・・目出帽こそ被らなかったものの、完全雪山装備で出発。
  出発後すぐに単調で急な登り。ジグザグに登りながら高度を稼ぐ。標高が高いだけにつらい。前のパーティに追いついてホッと一息ついたと思ったら、ホーマンはまたも追い越しにかかる。オイオイ、ゆっくり行こうゼ。
  天気は快方に向かっているはずだが、未だ視界は悪く。時折吹雪いたりする。風が冷たい。急登、クレバス、吹雪、ただ無心に足を前に出す。
  傾斜が少し緩やかになり、ドーム・ドゥ・グーテを越えたところで今日最初の休憩。既に1時間半歩いている。前方には笠雲を伴ったモンブランが見える。少し天気が良くなったようだ。

   笠雲がかかる朝方のモンブラン。
   風が強い
  わずか5分ほどの休憩で出発。疲れはとれない。しかし、バロ小屋は近いしガンバロー、と思っていたら、ホーマンはバロ小屋をあっさり通過。んー、キビシー!
  仕方なくそのまま行くと、バロ小屋から先はまた急登。天候も再度悪化し始め、強風に体をもっていかれそうになる。疲れた・・・。
  シャモニの街から見ると緩やかに見えたモンブラン稜線は思いの他キツイ。これでこそヨーロッパアルプス最高峰だ。途中でガスが晴れ山頂が見えた。それでも休むことなくひたすら歩き続ける。山頂を目指す。1歩また1歩と足を前に出す。止まってはいけない。進むんだ。

   バロ避難小屋。ホーマンったら休まな
   いんだもんなぁ。これは帰りに撮った
   もの
  途中しんどくなって、1度だけ休憩を要求した。9時54分。給水、行動食、ひと心地。あと30分ほどで山頂だという。ここまで来たらもう行くしかない。
  疲れた体にムチ打って再出発。きつい登りが続く。もうそんなに遠くないはずだ、そう自分に言い聞かせながら歩き続けると、とうとう最後のナイフリッジが見えてきた。ナイフリッジは両側が切れ落ちていて恐いと聞いていたが、トレースがしっかりしており、思ったほどではない。傾斜も幾分緩やかだ。
  もうあと一息。「1,2,3・・・」最後は自分の歩数を数えながら無我の境地に。100まで数えたらまた1から。「1,2,3・・・」山頂が見える。雲海が見える。「1,2,3・・・」 もうすぐだ。「1,2,3」そして、なだらかなモンブラン山頂へと辿り着いた。2003年7月31日午前10時25分である。
  ホーマンと抱き合って喜びを分かち合い。一足先に山頂に着いていた外国人パーティとも握手。一面の雲海で景色はほとんど見えないが、空はいつしか青々と晴れ渡っている。

   ガイドのホーマンと山頂で記念撮影
  わずか15分ほどで下山にかかる。これがヨーロッパ流。 下りは一気だ。12時20分、グーテ小屋着。異常な疲れを感じた。動くのもだるい。そのうち胸のあたりがムカムカしてきた。恐れていた高山病だ。我慢できずに少し戻してしまった。ホーマンにもらった薬を飲み、しばし休憩。シンドイ。
  かといって、いつまでもここにいるわけにもいかない。12時45分、体調不良のまま下山再開。登りの際には全く雪がついていなかったグーテ小屋下の岩場も、今朝の雪で滑りやすくなっている。スリップしないように気をつけながら下って行く。テートルース小屋の脇を過ぎ、ニ・デーグル駅へ。途中雨にも降られたが、15時10分到着。本当の意味でモンブラン登山の終わりだ。
  思えば3年間。長い道のりだったが、ようやくここまで辿り着いた。深い感慨を胸に、シャモニの街へと向かった。