by 「ヴァーチャル クライマー」GAMO
【 山行記 〜マッターホルン編 】

 ヨーロッパ・アルプスの名峰モンブラン&マッターホルン。本ページは、2003年夏に二大名峰を登頂したGAMOによるマッターホルン山行記です。全体については、右下から目次へ飛んでご覧下さい。


 
【第1日目】憧れのマッタ−ホルンとの対面
  モンブラン登頂からわずか2日後。その疲れを抱えたまま、シャモニからツェルマットへ移動。しかも、荷物をホテルに置いただけで、そのまま山へと向かう。
  13時、ツェルマット郊外のロープウェイ乗り場へ。途中、スキー場のあるクラインマッターホルン方面のロープウェイと別れ、自分達はシュワルツゼーへと向かう。そして、眼前に聳えるマッターホルンと対面した。
  この峰を自らの目で見ることを何度夢見たことか。その憧れの峰が、今、目の前にある。それだけでもう満足だった。
  13時半シュワルツゼー発。ここからからヘルンリ小屋までの道はトレッキングコースにもなっており、マッターホルンに登る人も登らない人も陽気に歩いている。おおよそ2時間ほどの行程でヘルンリ小屋に到着。
  小屋のテラスは、真正面に高く聳えるマッターホルンを仰ぎ見ることができるだけでなく、モンテローザ、リスカム、ブライトホルンといった雪を被った山々をみることができる絶好の展望台だ。今日マッターホルンに登り、下山してきたばかりの人が祝杯をあげている。トレッキングに来た人々が、自然の壮大さに見入っている。そして、明日への期待と不安から、覆い被さるような壁を見つめ続ける人がいる。そんなテラスだ。天気がよいせいか、標高の割にかなり暑い。できれば明日までこの好天が続いて欲しいものだ。
  明日は4時起床。いかに早く出発するか、そのスピードが重要だ。19時に夕食を取り、翌朝の準備を済ませ、早々に床に就いた。ちなみに、ヘルンリ小屋は2段ベッド(カイコ棚の部屋もあるようですが)。ゆったりと寝ることができる。
 

   標高3,260mのヘルンリ小屋。
   たった今下山してきた人も、
   明日登る人もここでくつろぐ。

  ヘルンリ小屋から仰ぎ見るマッター
  ホルン。首が痛くなるほどだ。
【第2日目】早朝出発、山頂へ
 朝4時起床。スピード勝負と聞いており、そのつもりで夜のうちにできるだけ準備をしたつもりだったが、想像を超えていた。まずトイレが2個しかない。今回は珍しく人が少なめで30〜40名程度だったが、多くなるとかなり待たされそうだ。それから食事。食堂へ行くと相当数の人が食事を始めており、かつテーブル毎にパンとお湯がまとめて出されている。しかも、小屋の人はもういない。そう、遅く行くと下手をすると食べ損ねることになるのだ。パンは何枚か食べられたものの水分はほとんど取れず、持って行く予定だった水を飲んでなんとか凌ぐ。そんなこんなで準備に手間取り、結局ビリでの出発となってしまった。ホーマン、スマン。
  4時40分、ヘルンリ小屋発。外はまだ暗く、ヘッドランプを点けて出発。気温は明け方寒いと聞いていたが、かなり暑い。出発直前にTシャツとジャケットの2枚だけに変えたが、それでも暑かった。
  小屋を出るとすぐ岩場。ヘッ電の照らす足元、ホーマンの背中だけを見ながら登る。暗くてよくわからないが、穂高の大キレットか槍の穂先くらいのイメージの岩場が続く。ほどなく先行パーティに追いつきペースダウン。岩場であるため簡単には追い抜けない。早く出ないとその分帰りが遅くなる、下手をすると登れなくなる、とはこのことか。とはいえ、モンブランの疲れを残す身にはスローペースの方がありがたい。
  が、先行パーティがもたもたしていると、ホーマンはすぐ抜きにかかる。そしてまた別のパーティの後ろにつき、機会を見つけては抜いていく。その繰り返し。
  そうこうしているうちに、傾斜が次第に急になってきた。ここまでずっとコンテで来たが、3級の岩場も出てくるようになり、場所によってはガイドが先行しトップロープとなる。
  6時過ぎ、ソルベイ小屋の少し下のあたりで夜が明けてきた。マッターホルンの東壁がモルゲンロートに染まり幻想的だ。ホーマンのコールがかかるのを待つ間、カメラを出してパチリ。先行パーティの待ち時間やガイドが登っている間は体を休めることができるので、体力的にはモンブランより楽のような気がする。

   モルゲンロートに染まるマッター
   ホルン東壁
  6時半、ソルベイ小屋着。ここで一服かと思ったが、ホーマンはノンストップで休憩パーティを抜いていく。ここまで1時間50分。ガイドブックによると、ヘルンリ小屋から3時間以上かかる場合、ソルベイ小屋で引き返すよう宣言されるらしい。
  ソルベイ小屋から先はほとんどが3級で、しばしば4級が混じる。もっとも4級と思しき岩場にはぶっといフィックスロープが張ってあり、皆ゴボウで登っていくから何の問題もない(時間節約のためにガイドもゴボウで登れと言うそうな)。
  陽が出て明るくなった岩場をひたすら登って行く。猛暑のお陰で今年は東壁に全く雪がついておらず、岩自体は登りやすい。ただ、すっと岩場。この長さが辛い。振り向くと遠くヘルンリ小屋も見えるが、さほど高度感はない。
  随所に大きな鉄杭が打ってあって、ガイドがビレーする時も、自分がセルフビレーを取る時もこの鉄杭を使うが、同時に複数組が登っているため、同じ鉄杭を何人もが使うことになり混雑する。時間が遅くなると、登りと下りの両方が使うため、混雑振りも加速する。この辺も早出が推奨される理由の一つのようだ。

   フィックスロープをゴボウで登る
   ツアーリーダーの棚橋さん
  フィックスロープがなくなったあたりで右側、すなわち北壁の方へ廻り込んでの登攀となる。例年ならば雪と氷なのであろうが、今年は岩もむき出しのミックス壁。斜度はたいしたことはないが、氷がガリガリでスリップしたら危ない。しばらく登ったところでアイゼン装着。かなり斜めな場所で、自身のほかにザックもビレーし、アイゼンを落さないように気をつけながら装着。
  この高度でこの傾斜のミックス壁。1ピッチごとに肩で息する始末だ。それでも4ピッチほど登ると傾斜が少しずつ緩やかになり、スタカットからコンテへ。氷の斜面をしばらく登るとお地蔵様(?)が目の上に現れる。これがスイス側山頂の目印だ。
  ホーマンはそこでは全く止まらず、そのままイタリア側山頂へ。憧れの十字架まで辿り着いたところで、感激の登頂の握手だ。時間は8時40分。ちなみに、時間が遅いと、ガイドはイタリア側へも行ってくれないそうなのでご注意を。

   憧れのイタリア側山頂にある
   十字架。バックがスイス側山頂。
  9時には下山開始。あとは下るだけと言いたいところだが、この傾斜になるとむしろ下りの方が難しい。ホーマンに確保してもらいながら、すこしずつクライムダウン(これも時間によってはロワーダウンになるそうです)。
  1時間少し下った頃から持病が出てきた。そう高山病である。モンブラン、富士山、キリマンジャロ。いろいろな場所で高山病になった。体質的に弱いようだ。 で、高山病のために次第に体調が悪くなり、足元が覚束ない。ホーマンに調子が悪い旨を告げたが、ゆっくりでいいから休まず降りようと言う。休まず動く、これがヨーロッパスタイルだ。
  下りはとにかく辛かった。フラフラしながらゆっくり下る。ルートは判然としない。登る時に暗かったせいもあり、ほとんど覚えていないのだ。残念なことに、ホーマンはシャモニのガイドだから、そんなにしょっ中マッターホルンに来ているわけではない。フラフラしているため、脆い岩を何度も落す。あまり頻繁に落すものだから、下にいた人間に嫌な顔をされた。当然だろう。ゴメンナサイ。
  結局ヘルンリ小屋到着13時前。所要時間4時間。登りと同じ時間だけ掛かってしまった。小屋に辿り着いてから30分は、気持ち悪くて動くことすらできなかった。この高山病は重症だ。まぁ、こればっかりは体質の問題だし、如何ともし難い。
  体調が戻ってきたところで小屋のテラスへ。他のメンバーが降りてくるまで、ヘルンリ小屋のテラスでひなたぼっこ。何の心配事もなく、平和なひとときだ。そして、メンバーが揃ったところで、ビールで乾杯。全員無事登頂だ。ホーマン、棚橋さん、奥様、同行の方々、お天道サマ、皆々様に感謝しつつ、マッターホルンを見上げる。登った後のマッターホルンは、少し優し気に見えた。ありがとう、マッターホルン。
 

            モルゲンロートに染まるマッターホルン
 
 
 
 
リッフェルゼーに映る 
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