(ヴァーチャル マニア)
似非マニアの小部屋
 
 
 
 第2回
古本との邂逅 〜加藤保男写真集〜
 
 


 私GAMOが山を始めて最初に憧れた登山家が加藤保男だった。弱冠23歳にしてヨーロッパアルプス三大北壁を完登し、24歳の時にエベレストに登頂。その際に手足の指13本を失ってしまうが、それにめげることなく挑戦し続けた。世界で初めて、エベレストにネパール側とチベット側の両方から登頂、マナスル無酸素登頂、そして秋季・春季・厳冬期にエベレストに登頂するという三冠王となった直後に行方不明となった。33歳の若さだった。
 短期間にこれだけの山行を成しながら、その著書を読むと非常にさわやかな好青年。おまけに当時の日本人にしては珍しく身長180cmという体躯、そしてめちゃめちゃ色男。私は♂だが、♂でも惚れるようなナイスガイだ。今年が没後30年に当たるせいもあるが、『山と渓谷』2012年2月号の「冒険者の墓碑銘」で取り上げられ、『岳人』2012年3月号では「没後30年 天才クライマー加藤保男の夢」という記事が載るなど、いまなお人気が高いクライマーだ。
 ヴァーチャルクライマーなので、加藤保男に関する本を読みまくったことは言うまでもない。


 
 加藤自身による爽やかな著書『雪煙をめざして』はもちろんのこと、加藤について記したノンフィクション『エベレストに死す』長尾三郎)や『未踏への挑戦』田中館哲彦)、兄でありクライマーでもある加藤滝男氏の『赤い岩壁』、母・加藤ハナさんによる『エベレストに消えた息子よ』、さらにアイガー北壁直登の際にメンバーだった今井通子『続 私の北壁』、二度目のエベレスト登頂となった日本山岳会隊の記録『チョモランマに立つ』、日本初(?)のアルパインスタイルでの8000m峰攻略となったマナスル無酸素登頂に同行した尾崎隆『果てしなき山行』、そのほか加藤保男が登場する各種ノンフィクション、加藤の山行記録が掲載された年の『山岳』などを読み漁ったものだった。

 やがて飽き足らなくなった私は、さらに手を広げてみた。横浜に、放送番組センターという財団法人が運営している「放送ライブラリー」という施設がある。実はここ、昔のテレビ番組が見られるのだ。もちろん、あらゆる番組を視聴可能というわけではないようだが、番組によっては見
られるので要チェックだ。ここに出かけ、日本テレビで1980年11月に放送されたドキュメンタリー番組、『生と死に賭けた36時間!これがチョモランマだ』を視聴した。おぉ!加藤保男が動いてる!・・・・・当然か。この番組は、芸術祭賞や放送文化基金賞などを受賞した力作だそうだ。
 さらに、加藤保男のお墓参りにも出かけた。大宮市(当時)生まれで、大宮市の市民栄誉賞第一号にも選ばれている加藤保男のお墓は、さいたま市見沼区にある市営霊園「思い出の里」にある。GAMOの家からは二時間以上かかったと記憶している。遠かった・・・。

 そんなこんなで、一時期加藤保男がマイブームだったのだが、なかなか手に入らない本があった。それが読売新聞社から出ていた『わがエベレスト 加藤保男写真集』だった。クライマーなのに写真集が出るって、それだけで加藤保男の人気ぶりがわかるというものだ。
 私がこの本を探していたのは、2000年過ぎだったと思うが、すでにネットの古本屋もあるにはあったが、今よりはまだまだ少なく、ネットでは見つからなかった。時々、リアルの古本屋に行った時には気をつけて見るようにしていたが、なかなか出遭えなかった。
 偶然、その本を見つけたのは、阿佐ヶ谷にある穂高書房さんだった。「山好き∩古本好き」には有名な老舗古本屋だ。阿佐ヶ谷も家から近くはないのだが、まだ店舗販売をしていた頃の晴山書房さんや木風舎さんなど、近くにアウトドア系のお店がいくつかあったので、時々出かけていた。
 そこで見つけたのが『わがエベレスト 加藤保男写真集』。正確な値段は忘れたが、7,000円とか8,000円とかそれなりの値段だった。○万円もする古本を即買いする古本マニアからすればたいしたことはないのだろうが、当時の私にとって(今でも同じだが)、古本1冊でその値段というのは決して安くはなかった。しばらく本を手にしたまま考え込んだり、一度本を棚に戻してからまた手に取ったり・・・・・。あぁ、私は本物のマニアにはなれそうもない。とはいえ、ずっと探していた本とようやく出遭えたのだ。古本との邂逅は大切にしなければいけない。たかが数千円をケチっては男が廃る。そう思い、勇気をふりしぼって、買って帰ったのでした。
 う〜ん・・・、加藤保男カッコいい!

 

↑先日行ってみたら、看板の文字はさ  らにはげ落ち、ほとんど判読不能。そ  れとは対照的に、隣のお店の窓枠が  パステルカラーの緑色になってました

 さて、「読みあさった」とか「読みまくった」とか書いてる割に、大事な本が1冊出てきていないことに気付いた方、アナタは本物のマニアです。そう・・・、『加藤保男追想集』が登場していないのだ。読んで字のごとく、加藤保男が亡くなったあとに編纂された追想集で、多くのゆかりの方々が加藤保男への思いを寄せている。マロリーの最後の姿を目撃したノエル・オデル、アンナ・プルナの初登頂者モーリス・エルゾーグのコメントに始まり、西掘栄三郎橋本龍太郎宮下秀樹重広恒夫・・・などの名前が並んでいる。
 この本は限定版で、五百部発行とのこと。レアな逸品だ。もちろんみんなの国立国会図書館には、所蔵されている。「限定五百部のうち五十九番」だそうだ。なぜ五十九番?
 非売品だろうか・・・・・。残念ながら手に入らない・・・・・と思いきや、検索してみると中古で売っているお店が1軒だけあった。そのお値段はナント10万円!! 「・・・・・」 手も足も、ぐうの音も出ない。
 あぁ、やっぱり私は本物のマニアにはなれない(;;)
 
 
(2012年4月8日 記)