山岳ノンフィクション(評論・ルポ)
〜詳細データ・な行〜
 
 
 
作  品  名
「新田次郎の跫音」
 (内藤 成雄、2003年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
新田次郎の作品は、何年経っても風化しない。何時の世にも共通する「いのち」を伝えているからだ・・・・・・。
新田次郎文学の精髄に迫る。
内容・感想等
 新田次郎に学び、自然保護を実践する団体「富士こぶしの会」の会長である著者がまとめた、新田次郎の作品を今に伝えるための書である。
 数多ある新田次郎の作品群を、いくつかのジャンルに分類して紹介しているのだが、具体的には「初期の科学小説、推理、SF小説」「山岳小説1富士山とその周辺」「山岳小説2中部甲信山岳とその周辺」「山岳小説3ヨーロッパ山岳とその周辺」「海洋小説」「時代、歴史小説」「随筆及び紀行」と分けている。
 その良し悪しは別にして、新田次郎という作家を知るうえで大変参考になり、資料的価値も高い一冊である。

 
 
 
作  品  名
「エベレストに死す」 〜天才クライマー加藤保男〜
 (長尾 三郎、1984年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
世界最高峰エベレストの冬は、寒気はむろんのこと、吹きすさぶジェット・ストリームとの闘いとなる。この厳冬期のエベレストに単独でアタックし、見事“三冠王”(春、秋、冬登頂)の偉業を、世界にさきがけて達成した天才クライマー加藤保男。だが、快挙の直後、氷雪に消え、三十三歳の劇的な生涯を閉じた。
内容・感想等
 世界で初めて、春・秋・冬の3回エベレストに登頂した男。天才クライマー加藤保男の伝記である。
 無邪気、天衣無縫とでも言うべき加藤の魅力が余すところなく描かれているという点もさることながら、天才・加藤が陰でいかに努力をし、苦労していたかという点が興味深い。
 「雪煙をめざして」を読むと、加藤がいかに山を楽しんでいるのかがよくわかるが、本書では加藤が人には見せようとしなかった裏の一面を知ることができる。「雪煙をめざして」と併せて読むことをお勧めしたい。

 
 
 
作  品  名
「マッキンリーに死す」 〜植村直己の栄光と修羅〜
 (長尾 三郎、1986年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
世界初の五大陸最高峰登頂や北極圏単独走行を成功させて、栄光に輝いた植村直己は「前進」のみを選んで、ついに厳冬期のマッキンリーに消えた。手記や手紙を軸に広範な取材を加えて、43歳で幕を閉じたこの現代の英雄の素顔に迫り、冒険行の壮絶なドラマを感動的に描く。
内容・感想等
 世界初の五大陸最高峰登頂や、北極圏犬ゾリ単独走行などを成し遂げ、マッキンリーに消えた登山家・冒険家植村直己の伝記。
 植村直己について書いた書籍はいろいろあり、また植村自身による著作も数多い。そうした中で、本書は植村直己の生涯とその人柄をバランス良く取り上げ、氏の魅力をうまく伝えている。是非、植村氏自身の著書と併せて読んでみて欲しい。
 ちなみに、1986年講談社ノンフィクション賞。

 
 
 
作  品  名
「精鋭たちの挽歌」
 〜「運命のエベレスト」1983年10月8日〜
 (長尾 三郎、1989年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
運命のその日、エベレスト山頂で何が怒ったか。
世界最高峰の無酸素登頂に挑んだ二つの日本隊。一つの頂点を目指し、「生と死」が交錯した男たちの生きさまを追う!
内容・感想等
 1983年10月エベレストに日本登山界の精鋭が集結した。川村晴一、鈴木昇己ら山学同志会隊、吉野寛、禿博信らイエティ同人隊、高橋和之、山田昇らカモシカ同人隊である。
 期せずしてエベレストベースキャンプに集結してしまった精鋭たち。特に、山頂直下でのちょっとした差が生死を分けることとなった川村・鈴木、吉野・禿に焦点を当て、運命の日に至るまでの彼らの活躍、葛藤、成長を描く。一個人を追うドキュメントに比べると焦点がボケがちであるが、「運命の日」をキーにうまくまとめてある。
 それにしても、「こんな偶然は今後もありえないだろう」と筆者が言った登頂ラッシュ。その後、96年の大量遭難などエベレストも大きく変わっている。時代の移り変わりは早いものである。

 
 
 
作  品  名
「激しすぎる夢」
 〜「鉄の男」と呼ばれた登山家・小西政継の生涯〜
 (長尾 三郎、2001年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
国内の岩壁初登攀からヨーロッパアルプス北壁の冬季登攀、ヒマラヤ難峰の無酸素登頂、そして時を経てヒマラヤの8000メートル峰へ―
「激しい夢」を抱いて登山界を牽引し続けた天性のリーダー・小西政継が、58歳の誕生日を目前にしてマナスル登頂後、消息を絶った。
内容・感想等
 町の山岳会に過ぎなかった山学同志会を、鉄の規律を持つ世界的な登攀集団に仕上げたリーダー小西政継。氏のクライマーとしての凄さ、あるいはリーダー(これはオピニオンリーダーとしての意味合いも含めてだが)としての凄さは、その著書を読めばよくわかる。
 本書では、そうした小西の生涯を登山家としての側面だけでなく、オクちゃん(妻)や子供たちとの日常、植村直己や佐藤久一朗らとの交流、小川信之や川村晴一ら後輩たちとの語らいなどを通じて、人間・小西政継を描き出している。
 本書に限らず長尾氏の著書は、展開が必ずしも時系列でないことと、話が横に逸れがちであることから、もともと知っていないとやや分かり辛いという難点はあるが、その分深みのあるノンフィクションに仕上がっている。

 
 
 
作  品  名
「無酸素登頂8000m峰14座への挑戦」
 〜スーパークライマー小西浩文の愛と墓標〜
 (長尾 三郎、2003年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
日本屈指の鉄人クライマーが神々の山嶺に無酸素で挑む!!
愛と死のドキュメント!!
親友シェルパ雪崩死、家庭を捨て山を選んだ末の離婚、再婚した妻の38歳での死!!現役最強の登山家が描く「果したい夢」
内容・感想等
 世界中の山々が、バリエーションルートも含めて登り尽くされ、いわゆるパイオニアワークに属する領域がほとんどなくなってしまった登山界においては、その分スーパースターを産み出しにくくなっている。山野井泰史、小西浩文、平山ユージが、その数少ないスーパースターと言えよう。
 とはいえ、小西浩文の目指す8000m峰14座無酸素登頂とて、既にメスナーやロレタンら複数名のクライマーがとうに成し遂げた分野である。ある意味遅くやってきた登山家・小西浩文の早過ぎる記録。ここ数年失敗続きなだけ、最愛の妻・里絵の死を機に敢えてまとめたとの感が否めない。登山家・小西浩文の今後に対する期待を込めて、本書の続編がいつか書かれることを望みたい。

 
 
 
作  品  名
「文豪が愛した百名山」
 (中川博樹+泉久恵、2008年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
― 百の頂に百の憩いありき ―
百名山志向者たちのバイブルにもなった深田久弥の『日本百名山』。
「もう一つの百名山」
新旧の文芸に主役、名脇役として描かれてきた数々の名峰と作品、作家の関わりを独自の視点から紹介する。
内容・感想等
 深田久弥氏の「日本百名山」が出てくる小説を紹介。見る山、愛でる山、舞台としての山、何かの象徴としての山など、とにかく山が重要な位置づけとなっている作品が紹介されており、登る対象としての山ではないもののこれはこれで面白い。
 登場する文豪が天童荒太など一部の作家を除くと古い人ばかり。致し方のないことなのかもしれないが、もう少し新しい作品はないのかなと思ってしまう。
 とはいえ、内容的には読みやすく興味深いもので、山を登りながら文豪たちに思いを馳せるのもまた楽しいに違いない。
 
 
 
作  品  名
「ライチョウを絶滅から守る!」
 (中村浩志・小林篤、2018年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
いま、日本のライチョウが危ない!
生息数わずか約1700羽!
日本のライチョウは生き残れるのか?
内容・感想等
 氷河期に大陸から日本に移り住んだライチョウが、絶滅の危機に瀕している。既に中央アルプスや八ヶ岳では絶滅し、南アルプスでも減少が目立つという。温暖化で生息域が減少しているだけでなく、キツネやテン、チョウゲンポウなど捕食者が高山に侵入し始めているのだ。
 著者は、大学でライチョウの研究しながら、保護活動にも取り組んでいる中村先生と、その弟子で後継者ともいうべき小林さん。ライチョウは何を食べているのか、日本のライチョウはなぜ人を恐れないのか、ライチョウはどれだけ卵を産み、その何割が成鳥になるのか、そんな疑問への答えが書かれている。
 ライチョウの生態を知り、北岳山荘周辺で行われた保護活動の様子を読むにつけ、これまで以上にライチョウに愛着が湧いてくる。何とか保護活動に成功し、今後も愛らしい姿を見せて欲しいものである。
 
 
 
作  品  名
「新田次郎文学事典」
 (財団法人 新田次郎記念会 編、2005年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
昭和31年に「強力伝」で直木賞受賞以後、「武田信玄」「孤高の人」「八甲田山死の彷徨」など数々の名作を残した新田次郎。その全文業を鳥瞰し、人と作品はじめ、年譜・文学碑も紹介した新田文学の集大成。
内容・感想等
 森村誠一氏や西木正明氏、阿刀田高氏など錚々たる作家陣が寄せる新田次郎評もさることながら、資料集がとにかく充実している。
 全著作の紹介から全作品一覧、年譜、さらには墓や文学碑・展示室の案内など、新田次郎に関するものは全て網羅されている感のある見事なまでのデータ集。作品によっては、あらすじだけでなく解説や書き出しも載っている。さすが“事典”というだけのことはある。さすが“新田次郎記念会 編”だけのことはある。
 新田次郎ファン必携の1冊といえよう。

 
 
 
作  品  名
「明解 日本登山史」
 (布川 欣一、2012年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
日本近代登山発祥から120年あまり。日本人は山とどう向き合ってきたのか。先蹤者たちの数々の挑戦と思索の歴史、社会とのかかわりを通史として解説し、時代を象徴するエピソードを紹介する。
内容・感想等
 登山や山道具の歴史に詳しい布川欣一による登山史。登山史本は、山崎安治や安川茂雄、田口二郎など何人かが書いているが、久しぶりの登山史本ではないとかと思う。
 宗教登山の時代から山野井泰史・小山田大まで幅広く網羅しているが、一方で「エピソードで読む登山史」をふんだんに盛り込むことで、登山史の羅列ではなく読み物としても面白い内容となっている。巻末に付いている50頁近い年表も嬉しい。
 なお本書は、「週刊ふるさと百名山」全50号に掲載された「近代登山史のできごと」と、「目で見る日本登山史」の年表を1冊にまとめたものとのこと。両方お持ちの方はお気をつけください
 
  
 
 
作  品  名
「山岳名著読書ノート」
 (布川 欣一、2016年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
これだけは読んでおきたい山岳書の名作60冊を紹介
その豊穣な世界の魅力と先蹤者の姿に迫る
 
登山の豊かな世界を知るために、欠かせないのが山岳書である。先蹤者たちの挑戦の歴史と、思索、自然観照の道程を描き出す山の名著60冊を選び、その魅力と時代背景、著者の姿を解説する。
内容・感想等
 何か面白い山書がないかと思って、山書紹介本として本書を手に取った人にとっては、正直物足りないかも知れない。半分以上が戦前の本だし、一番新しい本でも1981年出版と古臭い。
 しかしながら、それは読み方が間違っている。本書は、山岳名著を軸に書かれた登山史の本であり、登山家列伝なのだ。そう思って読むと、各書籍の横の繋がりが見えてきて面白い。何より、布川氏がそれぞれの本を相当に読み込み、各著者の生き様や思想を深く理解した上で本書を書いており、その深さには驚くばかりだ。登山史に興味のある方にとっては必読書と言えよう。
 なお、海外本が国内での出版年順で並べられているため、ママリーの「アルプス・コーカサス登攀記」やヘディンの「トランスヒマラヤ」がだいぶ後ろの方に並んでおり違和感がある
 
 
 
 
作  品  名
「シェルパ ヒマラヤの栄光と死」
 (根深 誠、2008年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
ヒマラヤ登山の黎明期から今日に至るまで、欠かすことのできない存在のシェルパ″たち。彼らはいったい何者なのか・・・・・・?豊富な文献資料と綿密な現地取材を基にシェルパ族の真実に迫る筆者渾身のノンフィクション。(2002年中公文庫版裏表紙より)
内容・感想等
 輝かしいヒマラヤ8000m峰登山の歴史を支えたシェルパについて書かれた本は、多くはないものの何冊かはあると思う。しかし、そのいずれもが勇敢で優れた技術を持ちながらも、献身的な働きをする善良なる人々、といった登山隊・登山家目線で書かれており、本書のようにシェルパの本音の声を拾ったものはなかったように思う。その意味で本書は貴重な本である。
 「ほかに仕事がないから、お金のためにその仕事をしなければなりません」「山の仕事はほんとうに辛いことばかりでした」「シェルパたちは山でたくさん死にました」・・・・・・。ヒマラヤ登山史がもたらした負の側面から目を逸らしてはいけないと思う。
 ただ、読み物という意味では、構成をもう少し考えて欲しかったように思う。「とりとめもない」と表現したくなるようなまとめ方で、読んでいるうちに人物名や時代が混乱してくる。そこが残念だ。

 
 
 
作  品  名
「ヒマラヤのドン・キホーテ
 ネパール人になった日本人・宮原巍の挑戦
 (根深誠、2010年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
プロスキーヤー・冒険家 三浦雄一郎氏絶賛!!
「宮原さんは三十歳代で壮大な夢をヒマラヤに懸け、山奥に三ツ星クラスのホテルをつくり、七十歳代でネパール国土開発党の党首になり、人生そのものを冒険的に生きている。
 この作品は登山作家・根深さんがネパールの政治、歴史、探検史も含めて描いた、夢を追い続ける男の物語であると同時に、ヒマラヤ五十年の物語でもある。
内容・感想等
 1962年、ヒマラヤ登山(ムクト・ヒマールの最高峰ホングデ)のために初めてネパールに入り、この国に魅せられた宮原巍。本書は、彼が66年にネパールを再訪して住み着いて以来40数年にわたる活動、ネパールへの想いをまとめたものだ。
 ホテル・エベレスト・ビューを建てた人という程度の知識しかなかった自分にとっては、ホテル建設の背景にあった宮原の思いを知り、またその延長としてネパール国籍を取得してまで政治活動を行っている氏の生き方・行動力に感嘆した。
 一方で、本の良し悪しとは違う次元の問題として、本書の約半分がネパールの政治の歴史・現状、それに対する宮原の主義・主張で占められており、私の関心とは異なる内容だった。その方面に関心のある人にとっては、非常に参考になるのではないかと思う。また、本の記述の順番と、実際の時系列が前後している箇所が多く、やや分かりにくい気がする。



 
作  品  名
「冬人庵書房 山岳書蒐集家の60年
 (野口冬人、2013年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
現代に逆行するごとく山の本蒐集に賭けた昭和の濃密な時代を描く
山岳書コレクターの本への愛着と拘泥
内容・感想等
 「わらじの仲間」初代会長にして、「日本山書の会」会員、温泉関係の著書も多数ある野口冬人氏が、半世紀を超える自らの山書蒐集歴を振り返る本。1日1冊古本を買い集めたとか、古本ハイキングとか、同じ話が何度も出てくるのはご愛敬。いつの間にか1万3000冊も買い集めてしまったという野口氏が語る、戦後しばらくの山岳雑誌の流れや、当時の出版事情・山書事情などは、生の時代を生きてきた人物ならではの興味深い話が満載。自分の蔵書で山岳図書館を作りたいという気持ちはよくわかる。大分県長湯温泉の山岳図書館にも行ってみたいと思う。
 あくまで自分個人にとって残念な点は、もともとが沢などの情報収集のためにガイドブックや古雑誌を買い集めたのが山書蒐集の始まりとのことなので、自分とは関心の方向が異なるという点。それと、取り上げている雑誌・本などが昭和50年くらいまでの書籍だという点。これはやむを得ないだろう。