山岳ノンフィクション(評論・ルポ)
〜詳細データ・さ行〜
 
 
 
作  品  名
「山を読む」
 (斎藤 一男、1993年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
ヒマラヤ、アルプス、冬の穂高・・・。高峰と困難を求めた登山のなかから、幾多の名著が生まれた。膨大な山の情報・文献から選りすぐった100冊の本。
内容・感想等
 山岳研究、登山史、山行記、随筆など、山に関連した名著を紹介。山本好きとしては大変有り難い1冊。
 19世紀に書かれた本まで紹介されているので山岳書籍史としては意味があるかもしれないが、現代の人がこの中から読みたい本を探そうと考えた場合、紹介されている本が古すぎる。1993年出版だが、半数近くが戦前のもので、80年代のものは10冊あるかどうか程度。加えて幅広い分野の山岳書籍を取り上げているために「なんでこんな本まで」というものまで入っている気がする。自分の感覚からするとズレてると言わざるを得ない。著者は山学同志会を創立した斎藤一男氏、1925年生まれ。むべなるかな。

 
 
 
作  品  名
「狼は帰らず」 〜アルピニスト森田勝の生と死〜
 (佐瀬 稔、1980年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
“狼”と呼ばれ、20年間攀じることしか考えていなかった孤高のクライマー森田勝。谷川岳、アイガー、K2と、なにかに復讐するかのように、森田は死と隣り合わせの岩壁に挑み続けた。登山界になじまず、一匹狼として名を馳せた男がたどった修羅の生涯を、追真の筆に描く山岳ノンフィクションの名作。
内容・感想等
  反骨のアウトロー、反逆者、"狼"…etc.と呼ばれた男・森田勝。とことんわがままなようでいて、紳士で、また純粋無垢な一面を持っている。それゆえに一部の人から愛されながらも、純粋さが逆に人を傷つけ、疎まれる原因となる。
 得も言われぬ魅力を持ったクライマー・森田勝は、文章をほとんど残していない。それだけに、本書はひょっとしたら埋もれてしまったかもしれない森田勝という稀有な存在を、長くそして印象深く今に伝える貴重な書となっている。

 
 
 
作  品  名
「喪われた岩壁」 〜第2次RCCの青春群像〜
 (佐瀬 稔、1982年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
霧に閉ざされた雨山峠を越えて少年達は谷川岳をめざす―。戦後の荒廃の中で、戦時の傷跡を背負い満たされぬ思いを抱いていた彼らは、ここで一瞬の光芒を放ち、魔の岩壁を走り抜けた。登山界の伝統に風穴をあけた第二次RCCに加わるクライマー達の「不器用で一途で戦闘的な青春」を縦横に描いた力作。
内容・感想等
 戦後、日本のアルピニズムをリードした第2次RCC。その設立の中心となった奥山章や同世代の長越茂雄(安川茂雄)、円山雅也、また奥山の影響を受けて尖鋭的クライミングにのめり込んでいく吉尾弘、芳野満彦、湯浅道男、松本龍雄ら若手クライマーらの生き様。
 青春時代に山に惹かれ、山に憧れ、山に魅入られながらも、戦争や戦後の混乱、貧困などで思うように山へ行けなかった男たちの青春像であると同時に、第二次RCCという組織の生き様、盛衰をも描いている。
 戦後日本のアルピニズムを理解するうえで必読。青春の記としてもちょっとホロ苦い。

 
 
 
作  品  名
「ヒマラヤを駆け抜けた男」 〜山田昇の青春譜〜
 (佐瀬 稔、1990年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
八千メートル峰に12回登頂の快記録をうち立てた登山家山田昇。とくに1985年には、世界最高峰のエベレスト、第二位のK2、そして厳冬のマナスルに連続登頂し、登山界を驚かせた。89年冬、八千メートル峰14座完登を目前にして極北のマッキンリーに散るまでの稀有のアルピニストの生涯と、壮絶な高所登山の実態を克明に描く。
内容・感想等
 8000m峰14座完登を目指しながら、9座にしてマッキンリーで逝くなった男。8000m峰に年に3回登頂するハットトリックを2度も達成した男。まぎれもなく、わが国最高の登山家の1人であった山田昇の生涯を描くドキュメント。
 「人間との生活に倦んで山に行くのではなく、人間を愛するがゆえに山を登る」という山田昇の人柄、あたたかさが随所から伝わってくる。一度も会ったことのない男に是非一度会ってみたいと思わせるそんな不思議な書である。
 加えて、小暮勝義遺稿集からの引用、山田昇のザイルにまつわる話、本書のラスト、随所で思わず涙がこぼれてしまう。人間かくありたいと思いながら、登山あるいは登山家の罪作りな部分をみせられてしまう。感じ方は人それぞれかもしれないが、一読をお勧めする。

 
 
 
作  品  名
「長谷川恒男−虚空の登攀者」
 (佐瀬 稔、1994年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
アルプス三大北壁冬期単独登攀を成し遂げ、アコンカグア南壁、チョモランマと足跡を刻んで、43年の生涯を疾走した稀有のクライマー長谷川恒男。群雄割拠する登山界の中で頭角を現し、やがて単独登攀という手法を選ぶことに。生が僥倖でしかない道を一途に求めた長谷川を共感込めて描く。
内容・感想等
 アルプス三大北壁冬期単独登攀を成し遂げた長谷川恒男の伝記。佐瀬稔の描く長谷川恒男はどこか哀れで切ない。強烈なまでの自意識、自信、自己顕示欲ゆえに、パートナーを、友を失っていった若き頃。そして、三大北壁で有名になり、夢を実現したにもかかわらずヒマラヤにこだわり続け、不遇のままウルタルに消えた晩年。常に何かを追い求め、何かに追われていたような感じだ。
 登山家長谷川恒男以上に興味深いのが、人間長谷川恒男ではないかと思う。ガイド山行でのサービス精神、子供向けの登山教室、自然を愛する心…etc. 三大北壁を機に、あるいはそのしばらく後、人間として成長したと言われている。その辺の分析は、残念ながらあまりない。

 
 
 
作  品  名
「残された山靴」 〜志なかばで逝った8人の登山家の最後〜
 (佐瀬 稔、1999年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
森田勝、加藤保男、植村直己、鈴木紀夫…。志なかばで逝った8人の登山家たち。彼らの最期を追った佐瀬稔の文章を収める。また、夫人が綴った著者の闘病生活と最期、毎日新聞に掲載された絶筆のコラムも収録する
内容・感想等
 加藤保男や小西政継、植村直己ら他にも伝記の類がたくさん出ている登山家・冒険家だけでなく、難波康子、山崎彰人らそこまで有名ではない人にまで焦点を当てた伝記集。
 「志なかばで逝った8人の登山家の最後」との副題が付いているが、そのタイトルは「佐瀬稔遺稿集」とあるように、佐瀬氏自身にも当てはまる。その意味で、本作の読みどころは終章にあるとも言えよう。
 時には病を人に隠し、病を押しての必死の仕事ぶり、その間における佐瀬氏の優しさ、その生き様は、どこか彼が描き続けた登山家・冒険家に通ずるものがある。

 
 
 
作  品  名
「凍」
 (沢木 耕太郎、2005年)
紹  介  文
(帯、裏表紙等)
最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい山行を続ける彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった―。絶望的状況下、究極の選択。鮮かに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。
内容・感想等
 山野井泰史・長尾妙子夫妻のギャチュンカン行、そして死地からの脱出を中心に、山野井泰史の山を描いた作品。実は、本書については「新潮」に出た時から知っていたがずっと読まずにいた。というのも、山野井氏の『垂直の記憶』があまりに良かったので、他人が書いたものがそれを超えることはできないと思っていたからだ。しかし、沢木氏の冷静でありながら暖かい文章で紡ぎだされる山野井夫妻像は、山野井氏自身による表現とはまた異なる凄みと感動をもたらしてくれる。これはこれで凄い。ただ、それでも「垂直の記憶」には及ばないと付言しておく。
 それにしても妙子さんという人は凄い女性だとひたすら感心。
 ちなみに、「新潮」に掲載された際のタイトル『百の谷、雪の嶺』とは、ギャチュンカンを日本語にしたものである。