山岳小説(国内)・詳細データ
〜加藤 薫〜
 
 
 
作 品 名
「アルプスに死す」 (加藤 薫、1969年)
あらすじ
 浜田はスイスアルプス最後の未踏壁ルート、ブラウエンベルク北斜面初登攀を狙って5年間も通っていた。フランス人のアンリーも浜田同様初登攀を狙って、毎年そこに来ていた。
 麓のアローザにある山荘の管理人であるゲルツ老人はブラウエンベルクに詳しく、いつも彼らを暖かく迎えてくれていた。ゲルツ老人の娘ヘレーネ嬢は美しい女性に成長し、求婚するイタリア人商人まで現れたが、ヘレーネ嬢はアンリーと恋仲になっていた。
 ある年、ドイツ人のヴェルツェンバッハがやはり初登攀を狙って現れ、3人はライバル意識を燃やし始めた。3人が競争することによって事故が起こることを懸念したゲルツ老人は、3人でパーティを組むことを提案し、北壁の写真を用意してルートを教えた。
 3人の卓抜した技術と経験で頂上直下のオーバーハングまで辿り着いたものの、そこで進退極まってしまった。しかもゲルツ老人の好天予測が外れ、吹雪になってしまった。3人の運命は・・・。そして、3人の遭難の裏に隠されていた意外な陥穽とは・・・。
感 想 等
( 評価 : B )
 ヨーロッパアルプスを舞台にした山岳推理小説。登攀シーンの良さもさることながら、意外な結末はミステリーとしてもおもしろい。短編ながら実に楽しめる作品に仕上がっている。
 加藤薫という作家は、本作に続く5年ほどの間に山岳推理小説ばかりを何作か発表したあと、忽然と文壇から姿を消している。残されている作品を読む限りでは、非常に質の高いおもしろい推理物を書くという印象を受けるが、わずか数年で活動しなくなってしまったのはどういうわけか。ちょっと興味のあるところだ。
 本作品は、第8回「オール読物」推理小説新人賞受賞。
山  度
( 山度 : 100% )
 登攀シーン描写の確かさ、リアルさは、作者がアルピニストであることを物語っていると言えよう。

 
 
 
作 品 名
「遭難」 (加藤 薫、1970年)
あらすじ
 江田ら6名は、標高3千メートルある北アルプスK峰の積雪期登頂を目指していた。リーダーの江田、同級生で理学部に席を置く宮本、新入部員の青木の3人は北尾根から、サブリーダーの大杉、新入部員の桑原、女性ながら男勝りゆえに「田吾作」とあだ名されていた小浜通子の3人が東尾根から登頂を目指した。
 体力に絶対的な自信を持つ大杉と何事にも合理的で几帳面な宮本とは性格が合わなかった。それゆえ、江田は宮本を自分の隊に入れた。
 ドカ雪で2日間閉じ込められたが、2日目の晩に天気は回復した。交信の途絶えていた大杉隊は雪でテントの支柱が折れていたが、江田が止めるのも聞かず、翌々日の登頂を目指して行動を開始すると言う。江田の隊は、翌日、偵察とトレース付けをして、登頂に備えた。
 晩から体調を崩した江田はテント・キーパーとして残り、宮本と青木が登頂を目指して出かけた。大杉隊と宮本らが登頂を目指した日の夕刻から天気が再び悪化し始めた…。
感 想 等
( 評価 : C )
 大学山岳部におけるエピソード、様々な人間模様、恐らくは実体験に基づくものであろうが、加藤薫らしい作品。大学山岳部出身者にとってはたまらない作品ではなかろうか。
 直木賞の候補にも上がった作品とのことであるが、作品として今ひとつ中途半端で、個人的には他作品の方をもっと高く評価したい。
山  度
( 山度 : 100% )
 加藤薫の作品、と来れば山岳描写、登攀シーンが豊富であることは言うまでもない。

 
 
 
作 品 名
「残雪」 (加藤 薫、1971年)
あらすじ
 江田は現役山岳部員からの誘いに応じて、15年ぶりに北アルプスT峰に来たが、体力の衰えを感じないわけにはいかなかった。登山靴や登山服などの装備も時代遅れのものとなっていた。
 江田が現役だった当時、皆から「爺さん」を呼ばれていた黒田という男がいた。何事にもテンポが遅いせいもあったが、5万分の1の地図を広げては虫眼鏡で見ている様が爺さんそのものだったからだ。爺さんは、こと岩登りに関しては名人で、地図で新しい岩場を見つけては登っていた。
 そんな爺さんが、北アルプスのT峰で試登に行ったきり帰ってこなかった。同行者は、爺さんの良き助手となっていた北川玲子、自らに厳しさを求めるがゆえに「行者」と呼ばれていた村上、それに下級生2名でだった。数日後、救援に来た江田によって、チムニーに挟まって死んでいる爺さんが発見されたが、死因は釈然としなかった。
 江田がここに来たのはそれ以来のことだった。疲労からテントキーパーを買って出た江田は、夕刻、現役部員が拾ってきた古臭いアブミを見て驚いた。
 15年後に見つかったアブミのよって謎が明らかにされてゆく・・・。
感 想 等
( 評価 : C )
 作品の古臭さは確かに如何ともしがたい。しかし、ほんの十数ページながら、ピリッとわさびの利いた作品を仕上げる加藤薫氏の手腕はさすがである。殺人の理由や曖昧な証拠など短編のせいか描ききれていない部分があるように思われるが、展開のうまさなど随所に光るものがある。
山  度
( 山度 : 90% )
 山を舞台にしたミステリー、主人公は元山岳部員、山度は満点である。でも、古臭いので、昔を懐かしみたい人には特にいいかも・・・。

 
 
 
作 品 名
「雪崩」 (加藤 薫、1972年)
あらすじ
 12月、北アルプスK峰山頂直下の雪田で伊能が転落死した。伊能が所属する東峰山岳会メンバーは、伊能の卓抜した体力・腕力を認めつつも、計画の無謀さを非難した。
 その2か月後に送られてきた伊能追悼の会報で、その遭難原因について雪崩と断定してあった。会報には、伊能の遭難と同じ時期に、寺田と森の2人が、K峰近くのA峰、B峰にアタックしたことが記されていた。伊能と付き合っていた古川悦子は、同じ条件の下で、なぜ最も経験豊富な伊能だけが遭難したのか不思議に思い、2人の山行について調べることにした。
 古川が伊能と付き合うきっかけは甲斐駒山行にあった。伊能と古川、寺田、森の4人で甲斐駒に出かけた際のこと、4人でキャンプサイトの滝を見に出かけたが、伊能と古川が戻るのが遅れてしまった。2人が戻ろうとした時に近くの工事現場の土工5人と出会い、古川が強姦されるという事件があった。古川を守ることができなかった伊能は、責任を感じて古川に結婚を申し込み、そのことに感激した古川は付き合うことにしたのだった。
 古川は寺田、森から山行の様子を聞いた。また独自にガイドの星山貢一を雇い、K峰にも出かけた。星山も伊能の遭難には不審を抱いていた。
 東峰山岳会会長の佐伯が経営するK峰山小屋が完成し、そのそばに伊能の遭難碑が作られた。遭難碑除幕式の日、古川と星山は、北壁を見ようと言って寺田と森を誘い出した。
感 想 等
( 評価 : C )
 作品自体は格別優れている、おもしろいという感じではないが、確かな経験と技術に裏打ちされたリアルな描写は、読む者に冬山の恐怖・凄惨さを安定感をもって伝えてくると言えよう。ラストでひとひねり加えてあるあたりはさすがと言うべきか・・・。
山  度
( 山度 : 90% )
 加藤氏らしい山岳色豊かな作品。何はともあれ、山にドップリ浸かっているというだけでうれしい限り。

 
 
 
作 品 名
「アクロバット=クライマー」 (加藤 薫、1972年)
あらすじ
 日本を代表する尖鋭的クライマー集団RCAに属する近藤洋は、アクロバティックな岩登りを目指し困難に挑戦していた。
 ある時、近藤のもとに水沼容子という女性が入会希望だと言ってやってきた。水沼容子は肥り過ぎでとても岩壁登攀ができるような体ではなかった。近藤は岩登りがいかにきつく大変かを説いて入会を止めさせようとしたが、水沼は頑として聞かない。仕方なく、今度は丹沢の沢登りに連れて行き、実地に苦しさを体験させて諦めさせようとした。
 近藤の思惑通り、水沼は大滝で宙ずりになり、手と足も血だらけになったが、会を辞めようとはしなかった。その後も鷹取山や谷川岳、早朝トレーニングと、近藤は周りから批判が出るほどに水沼をしごいたが、一向にやめようとはしなかった。
 やがて、水沼の体形も締まってきて、技術もそれなりに身についてきた頃、RCAのライバルでもあるJASがヨローッパアルプスのアイスベルク北壁登攀を計画し、水沼はその隊員に応募したと言ってきた。近藤の反対を押し切って参加した水沼は、一度もトップを登らずに登頂したにも係らず、マスコミからもてはやされる存在となった。
 そして、アイスベルクから帰国した水沼は、谷川岳一の倉沢へ行こうと、近藤を誘った。
感 想 等
( 評価 : C )
 ミステリーとしては途中で何となく先が読めないことはないが、加藤薫らしい確かな山の技術から来る安心感と、山に満ち溢れた感じがいい。ミステリーとしても、山岳小説としてもハズレの少ない作家ではなかろうか。
 珍しく大学山岳部ではなく町の山岳会を舞台にしているが、その対立の様など当時の様子もわかり興味深い。
山  度
( 山度 : 100% )
 上記の通り、山また山で山度100%。

 
 
 
作 品 名
「雪煙」 (加藤 薫、1972年)
あらすじ
 プロ・スキーヤーである杉田浩と北山正二郎は学生時代からのライバルだった。技術的には杉田の方が高く、学生時代、北山は一度も杉田に勝てなかった。しかしプロになってからは、朴訥で武骨な杉田に対して、能弁で社交的な北山は新機軸を次々と打ち出しており、北山の方が成功を収めていた。大手S資本と提携する北山は、次なる企画としてヘリコプターから山岳地帯のカールめがけてスキーを履いてダイブする、スキー・ダイビングを打ち出した。
 一方の杉田は、前穂三・四のコルで転倒して亡くなった親友のプロ・スキーヤー阿部五郎の死因にこだわっていた。阿部の腕をもってすれば転倒するような場所ではなく、何らかの人為的な力が働いたとしか思えなかったからだ。唯一の目撃者で、今は北山の専属カメラマンとなっている上田に話を聞いたが真相はわからなかった。しかし、阿部のスキーの一方のトップに血が付いており、転倒して体とスキーが一緒に落ちたのであれば、トップに血が付くはずがないことに気付いた杉田は、さらに疑念を深めていった。
 杉田のことを高く評価し、阿部の死に疑問を感じていたスキー・ガゼット誌の編集長・中山も、科学的な見地から真相を探ろうとしていた。杉田や中山の調査は次第に真相に近付きつつあったが、北山や上田のバックには、スキー界に隠然たる勢力を持つ加能和義が付いており、いろいろな形で妨害が入るのだった。
 そんな折、北山は加能から、スキー・ダイビングの決行を命じられた。北アルプスでは初雪が降ったばかりで、この時期に実行するのは危険極まりない。北山はスキー・ダイビングを実行できる場所を求めて北海道に飛んだ。真相に気付いた杉田は、北山と話をするために北山の後を追った。
感 想 等
( 評価 : C )
 山岳小説というよりはスキー小説なのだが、いわゆるゲレンデスキーではなく、アドベンチャー・スキー(本書内での呼称)の世界の話。針ノ木雪渓や白馬岳登山のシーンなどもあり、山岳色もあるので取り上げた。
 話自体は、いつの間にか先に進んでしまう上手さがあり読みやすいのだが、黒幕的存在の加能の背景が全く書かれていないために、その凄さが今一つ伝わってこなかったりと、何となく盛り上がりに欠ける。ラストもちょっと唐突な感じして残念。
山  度
( 山度 : 50% )
登山シーンも出てくるスキー小説。

 
 
 
作 品 名
「雪渓は笑った」 (加藤 薫、1972年)
あらすじ
 岡田は北アルプス源五郎小屋で小屋番を務めていた。岡田は東京で事業に失敗し、職を転々とするうちに妻にも愛想をつかされ、逃げられてしまったのだった。小屋に上がる前に源五郎爺さんから前借りをして、妻の幸江に送金をしたが、幸江はそれすらも迷惑がっていた。
 ある嵐の晩、岡田が2階で雨漏りの修理をしていると、階下で扉を叩く音がする。遭難者かと思ったら、麓に住む少女・志乃だった。志乃は白痴だったが、岡田のことを慕っていた。ストーブで志乃を暖めてやっていた岡田の耳に、遭難者の救助を求める声が届いた。休む間もなく遭難者救助に出かけた岡田は、男性と連れの女性を助けるため2度に亘って暴風雨の中へ飛び出し、志乃と2人で手当てに当った。
 翌朝、晴れ渡った好天の中、志乃を探して源爺さんが登ってきた。なぜか岡田の妻・幸江が一緒だった。今朝方下って行った遭難者の男女から話を聞いたという幸江は、岡田と志乃の関係を詮索した。そのとき、岡田は幸江に対して殺意を抱いていた。
感 想 等
( 評価 : D )
 リアルな山岳描写はさすが加藤薫氏といえるが、本作品については全体的に今ひとつかもしれない。途中のすり替えもほぼ読めるし、ラストの展開も納得性・意外感とも一歩足りない。残念である。
山  度
( 山度 : 100% )
 小屋番が主人公という小説はあまりないかもしれない。それだけに山度はたっぷりだが・・・。

 
 
 
作 品 名
「人喰い山脈」 (加藤 薫、1973年)
あらすじ
 谷川岳一ノ倉沢で、30年前の白骨死体2体が発見された。その新聞記事を見た江田は、なぜ30年間も見つからなかったのか、発見者はなぜそんな場所に足を踏み入れたのか気になり、発見者の大宮に会いに行った。大宮によると、彼らは初めて一ノ倉沢に入った初心者で、悪天でルートに迷って見つけてしまったらしかった。
 記事を見て、自分の弟かもしれないという斎藤常治と、そのパートナーだった石田の父・時蔵が名乗り出た。斎藤と石田、それにリーダーの小林の3人は、昭和18年に一ノ倉沢第四ルンゼを目指して登ったが、途中で石田の具合が悪くなったために、小林が一人助けを求めに下山したが、二人を見つけることができなかったのだ。
 かつて北アルプスで仲間四人を失って生き残ってしまった過去を持つ江田は、なぜかこの事件が気になってしまい、斎藤・石田の遺体搬出に立ち会い、また石田の父・時蔵を訪ねて話を聞こうとした。さらには、生き残った小林の消息を尋ね、戦死した小林の父から当時の話を聞いた。
感 想 等
( 評価 : D )
 「人喰い山脈」の異名を持つ谷川岳を巡る物語。その一ノ倉沢で発見された30年前の遺体に興味を抱いた江田が、関係者に話を聞いて回るというお話。
 江田が、かつて北アルプスで仲間を失った生き残りの人間として、同じ生き残りの小林に関心を持つ気持ちもわからなくはないが、赤の他人の話にここまで首を突っ込む、そもそもの動機がやや曖昧。途中に出てくる「生者の論理」や「死者の論理」という考え方も、本作の主題なのか今ひとつハッキリしない。全体的にやや入り込めない部分がある感じは否めない。
山  度
( 山度 : 70% )
 登攀に関する加藤氏の描写については、本作でも安定感がある。

 
 
 
作 品 名
「ひとつの山」 (加藤 薫、1974年)
あらすじ
 その年の東都学院大山岳部の新人は18名だった。その中に、大講義堂で行われた山岳部主将・松岡の話に惹かれて入部した寺田陽子、勝気で何事にも物怖じしない森幸江など6名の女子が含まれていた。森幸江は、訓練のランニングでカモシカのようなすごい走りを見せたことから、「カモシカ」とあだ名を付けられ、皆からカモと呼ばれるようになった。
 谷川岳での春合宿における雪上訓練、三ツ峠登攀、穂高涸沢、さらには滝谷での夏合宿、剣チンネ、北岳バットレス、鹿島槍東尾根…数々の登攀でザイルを結んだ陽子とカモは、遭難救助、墜落、落石、雪崩など様々な経験を積み、技術を身につけていった。陽子は森幸江のわがままさ、身勝手さに時には飽きれ、反発を感じながらも、徐々にザイルパートナーとしての信頼を築いていった。
 そして2年生になった年、陽子とカモは、主将の松岡、副主将の北川とともに、社会人山岳会の登山倶楽部や東洋大山岳部も狙っている未踏の黒部別山東壁にチャレンジすることとなった。
感 想 等
( 評価 : B)
 自分には経験がないが、大学山岳部というものはこういうものなのだろうという雰囲気がよくわかる。大学山岳部が華やかなりし頃の物語であり、その頃を知る人にとってはたまらない郷愁を感じさせる小説であろう。それだけでも充分に楽しめる内容となっているが、ちょっと不気味なラストの中途半端さが残念。
山  度
( 山度 : 100% )
 次々と色々な山が出てくる山づくしの展開、しかもミステリーやハードボイルド系を絡めない純粋な山岳小説。最近では見かけなくなってしまった稀有な作品。