山岳小説(海外)・詳細データ 〜タ行〜
 
 
 
作 品 名
「白の奇跡」 (ニコライ・チーホノフ、1958年)
あらすじ
 地理学雑誌の編集人で、有名な登山家でもあるフストは、パキスタンのラホールにやってきた。そこで、地元の豪商アブユ・フセインの紹介で、ファズールというチトラル出身の若者を案内人として雇った。フストの目的は、チトラルにある高峰チラッジ・ミルに登ることだった。フストは、「白の奇跡」と呼ばれるその山に2年前にも挑戦したが、親友ナイトを失った挙げ句、敗退したのだった。
 フストが雇った青年ファズールは、アブユ・フセインの姪ニゲールの恋人で、パキスタン独立のために戦う老作家アリフ・ザフルを支援している若者だった。ニゲールは、ザフルが逮捕されそうだという話を聞き、ファズールをラホールの街から逃がすために、フストを紹介したのだった。
 ところが、この話には裏があった。フストと、彼の仲間で山岳建設専門の土木技師と名乗っていたギフトは、アメリカのスパイだった。2年前に中国に送り込んだ仲間のキンクとチョブルンの脱出を手助けする事が本当の目的だった。フストとギフトは、元軍人だという寡黙な男ウマル・アリを運転手に雇い、ファズールを案内人にして、チトラルへと旅立っていった。
感 想 等
( 評価 : D )
 どうにも、読み方がよくわからない。というか、正直に言ってしまえば面白くなかった。いつ本題になるのだろうかと期待感を持ちながら読んでいたら、いつまでも余談のような話が続いて、最後に一気に急展開して終わってしまった。自分の読み方や期待度に偏りがあって、反帝国主義・反植民地主義とか、当時のパキンスタン情勢とかに対する理解が深まれば、本当は面白いのかもしれない。必要かどうかわからない人物がやたらと登場し、それら登場人物に魅力が感じられず、話の展開にも飛躍感があって、入り込めないまま終わってしまったというのが個人的な感想。好意的な評価もあるので、あとはご自身の目でお確かめ下さい。
山  度
( 山度 : 10% )
 著者自身登山家だとのこと。本作では、過去の回想のような形で登山シーンが語られているが、山度はさほど高くない。登場するチラッジ・ミルという山は架空のもので、エピソードなどからK2がモデルということになっているが、場所や標高からするとウルタルの方が近いかもしれない。


 
作 品 名
「エベレスト・ファイル」 (マット・ディキンソン、2016年)
あらすじ
 ぼくの仕事は、ボランティアでネパール僻地に医療品を届けること。タンチェ村まで歩いてやってきたぼくは、途中で知り合ったシュリーヤという少女の家に泊めてもらって、医療品を診療所まで届けた。ところがぼくは、高熱を出して寝込んでしまい、シュリーヤの献身的な看病のお陰で、なんとか回復した。そのお礼に、ぼくは行方不明のカミというシェルパの少年を探す旅に出た。
 4日かけてカミを探し出したが、カミは首から下が麻痺しており、話すことはできるものの、ずっと寝たきりだった。ぼくは、カミから事情を聞くことができた。
 カミとシュリーヤは恋仲だったが、カミには8歳の時に親が決めた許嫁がいた。カミの親が既に持参金をもらっていたために、それを返さないとカミはシュリーヤと結婚できない。カミはお金を稼ぐために、シェルパを目指した。幸いなことに、村の先輩シェルパであるジャムリンの口利きで、カミはエベレスト遠征隊に雇ってもらうことができた。
 雇い主はブレナンというアメリカの政治家で、スポーツマンでもある彼はエベレスト登頂の報道を通じて、大統領選を優位に進めようと、記者やカメラマンを連れてきていた。登山は順調に進んだが、アクシデントが起こった・・・。
感 想 等
( 評価 : C )
 小学校高学年を対象にした児童書だそうだが、特にイラストなどはなく、1ページの行数が少ないことを除けば、内容的には一般書と変わらない。
 肝心の内容は、シェルパの少年を主人公にした、エベレスト登山物語。完全なシェルパ目線の物語も珍しい。シェルパのカミは、読んでいるこちらがもどかしい思いになるくらいに、とにかく真面目な好青年。一方のアメリカ人政治家のブレナンは、一見爽やかでありながら、その実、裏表のある人物。その対比を通して、ネパールの人々の厳しい現状を描くとともに、先進諸国の大名登山あるいは金権政治的体質に対するアイロニー、批判が散りばめられている。
山  度
( 山度 : 80% )
 作者は、実際に北壁からエベレストに登った経験を持つ登山家。その辺のディテールの確からしさは、安心して読める。山度も高い。。


 
作 品 名
「類推の山」 (ルネ・ドーマル、1944年)
あらすじ
 私のもとにピエール・ソゴルと名乗る見知らぬ男から手紙が届いた。私が雑誌に書いた記事を読んだというのだ。それは、神話に出てくる象徴的な「山」を検証し、エベレストよりも高い「類推の山」が存在しているとしたものだった。
 私はソゴルの家を訪問した。ソゴルと私はお互いの身の上話をしたが、彼の話はすっかり私を感服させてしまい、我々は「類推の山」探検を計画した。この計画に8人が参加した。私と私の妻、ソゴル、登山家アーサー・ビーヴァー、言語学者イワン・ラプス、アクロバティック登攀の専門化・ハンスとカールの兄弟、高山画家ジュディス・パンケーキの8人だ。
 一行はアーサーのヨットで遠征に出かけ、ソゴルの計算に基づき南太平洋上で、不可視の大陸へと入るチャンスを辛抱強く待った。そしてついに、我々は類推の山の沿岸へと到着した。
感 想 等
( 評価 : C )
 この物語には多くの「象徴」が込められていると言う。極めて単純化された登山冒険小説の中に、ルネ・ドーマル自身の生涯や、この世の様々なものがシンボライズされているという。しかし、本文だけでそれを読み取るのは容易ではない。だが、ある意味それでいいのだろう。象徴とは読み手の生涯・経験によって異なる受け取り方をされるもので、分かる人には分かり、伝わる人には伝わればいいのかもしれない。ただ、自分にはよくわからない部分が多かったというのも正直なところ。
 一方、ただの登山冒険小説としてみても、面白い着想であり、未完で終わっているのは残念だ。
山  度
( 山度 : 30% )
 象徴性を重視した物語のせいか、ディテール描写についてはちょっと妙な感じがする。登攀シーンが豊富なわけではないし、出てくる用具も時代背景の古さは如何ともしがたく、「山岳小説」というこだわりは捨てた方がいいだろう。

 
 
 
作 品 名
「アイガー・サンクション」 (トレヴェニアン、1985年)
あらすじ
 本美術の大学教授であるヘムロックは、実はCIIの依頼により仕事を行う暗殺者でもあった。ある時、ターゲットがアイガーの国際登山隊に参加することから、登山家としても国際的に有名なヘムロックにサンクション(暗殺)の指示が出された。しかし、ターゲットがメンバーの中の誰なのかはまだ判明していない。
 ヘムロックは今回の登山隊のグラウンド・マンを務め、彼の旧友でもあるベンの下で訓練をし、登山に参加した。ヘムロックは、登山隊メンバーであるカール、アンデルル、ビデとともに4人でアイガーへ向かい、ターゲット不明のまま登攀を開始した。しかし、途中ビデが滑落。命は取り留めたものの、その後フェーンに遭い凍死、一向は退却を余儀なくされることとなった。あと少しというところで残り2人も墜落してしまい、ヘムロックだけがなんとか助かった。結果的にサンクションは成功したかに見えたが・・・。
感 想 等
( 評価 : D )
 クリント・イーストウッド主演で映画化された有名な作品ということもあり、自分の中での期待が高かっただけに、正直あの名高い作品がこの程度のものとはガッカリだ。ラストの意外感などはうまく引っ張っており、期待度の高さゆえの低評価で、実はそんなに悪い作品ではないのかもしれない。映画の方もまだ見ていないので、登山シーンが豊富だというそちらには少し興味がある。
 主人公の独特のキャラと米国流のウィットが売りということなのかもしれないが、「ウィットに富んだ…」というセリフ回しも、自分には下らない回りくどい言い方にしか聞こえず、かえってわかりにくく鼻につく。
山  度
( 山度 : 20% )
 アイガーのシーンはラスト1/5ほど。その前の登攀訓練の部分と合わせても、登山そのものの描写は思ったほど多くない。

 
 
 
作 品 名
「喪の銀嶺」 (アンリ・トロワイヤ、1955年)
あらすじ
 イザイは優秀なガイドだったが、雪崩や岩の崩落など不運な事故で相次いで顧客を死なせてしまったため、ガイドを廃業した。今は20歳以上離れた弟のマルスランと2人で郊外の先祖代々の家に住み、羊を飼ったりしながら細々と暮らしていた。早くに両親が死んだため、イザイはマルスランの親代わりとなって1人で育て上げたのだった。イザイはわがままなマルスランを愛していたが、マルスランは暗く侘しい生活から脱したいと思っていた。
 マルスランは家を売って事業を始めようとしたが、買い手が付かず腐っていた。そんな時、山中にインドからの飛行機が墜落するという事故があり、救援隊が向かったがイザイのかつてのガイド仲間だったセルヴォの墜死により断念せざるを得なくなっていた。それを聞いたマルスランは死んだ乗客の財産を奪って事業資金にしようと考えイザイの同行を求めた。イザイは大反対だったが、マルスランを元気付けるために渋々同意した。
 幾多の困難を乗り越えてリードするイザイ。2人はついに飛行機の所まで辿り着いたが・・・。
感 想 等
( 評価 : C )
 正直で真面目、敬虔な兄イザイ、わがままで堪え性のない弟マルスラン。対照的な2人。静かな山村で起こる出来事。全体的な雰囲気はなかなかいい。
 ただ、半世紀の古さゆえなのか今ひとつ盛りあがらないし、ラストの方はもう少しなんとかならないものか。
 モナコ文学大賞受賞、パラマウントが映画化、とのこと。
山  度
( 山度 : 40% )
 元ガイドのイザイが久しぶりに登攀に挑戦。後半は山度もなかなか濃いが、やや迫力に欠けるかもしれない。