山岳小説(海外)・詳細データ 〜サ行〜
 
 
 
 
作 品 名
「緋い空の下で」 (マーク・サリヴァン、2019年)
あらすじ
 1943年6月、イタリア・ミラノ。ピノ・レッラは、痩せてヒョロっとした17歳の若者だった。その日、親友のカルレットと弟のミモと一緒に大聖堂近くを歩いていた時、飛びっきりの美女アンナを見かけて夜映画に行く約束を取り付けたものの、その晩、ミラノは連合国軍に空爆された。戦況は日増しに悪化し、ピノの父は、ピノたちをレ神父がいるカーサ・アルピナへ疎開させた。
 レ神父は喜んで迎え入れると、毎日ピノに山登りをやらせた。ある晩ピノは、3人のユダヤ人男女を案内してグロッペラ山を越え、スイス国境まで連れていくよう命じられた。ナチスの影響がイタリアにも及んでおり、ヒトラーがユダヤ人狩りを始めていたのだ。ピノは喜んでユダヤ人の逃亡に協力した。その日から、数日置きにピノはユダヤ人の山越えを手伝うようになった。
 44年2月に案内した人の中に、シニョーラ・ナポリターノという女性がいた。ナポリターノはミラノで初めて空爆を受けた日に、ピノの家に来ていたバイオリニストだった。彼女は体力に欠けている上に妊娠していた。ピノは怖がる彼女を励まして岩場や痩せ尾根を越えたものの、吹雪で逃げ込んだ小屋にいる時に雪崩で閉じ込められてしまった。それでもピノは諦めず、丸1日かけて雪にトンネルを掘り脱出に成功した。
 それから2カ月後、ピノは父に呼び戻された。18歳になって召集され、ロシア最前線に送られてしまう前に自らドイツ軍志願すれば、安全な場所に行けるのだという。ドイツ軍に協力するのは嫌だったが、ピノは母の言い付けに従い入隊した。ところが、モデナで警備中に怪我をし、療養中に偶然ライヤース少将に気に入られ、44年8月、ピノはイタリアの全権を任されている少将の運転手になった。ピノはアルバート叔父に頼まれ、喜んでパルチザンのスパイになった。ライヤース少将から見聞きした情報を、アルバート叔父経由で連合国軍に流すのだ。ライヤース少将とムッソリーニの会談で通訳を務めたり、武器庫の確認に立ち会ったり、スパイとしての成果は大きかった。親友トゥリオが射殺される現場を見たり、弟ミモや親友カルレットに裏切り者呼ばわりされたことは堪えたが、ライヤース少将のメイドとして働いていたアンナと再会したことで、全ての苦労が報われた気持ちになった。
 ある日、ライヤースがいつも抱えているブリーフケースの中身を見るために、部屋で鍵を探していた所をアンナに見つかってしまったが、同じイタリア人として2人の思いが同じであることを確認し、2人は恋人同士になった。その後もピノは、ライヤース少将に付いて回り、アウシュビッツに送られる奴隷や、イタリアから食糧が略奪される様子を見て心を痛めた。1945年に入る頃にはドイツの敗色は濃厚だった。
 45年4月末、ピノはパルチザンとの約束通りライヤースを捕まえ、パルチザンに引き渡した。これでスパイとしてのピノの役割も終わりだ。アンナとも幸せに過ごせると喜んだのもつかの間、イタリアが解放された日、アンナはナチスの手先と誤解され、ピノの目の前でパルチザンにより処刑されてしまった。
 失望と後悔で自棄になったピノは、アルバート叔父に頼まれて通訳をしていたアメリカ軍クネーベル少佐からの危険な依頼を引き受けた。それは、ライヤースを国境まで連れていって欲しいというものだった。怒りで我を失いそうになったピノだが、ライヤースを殺すチャンスだと思い直した。ピノは、アメリカ軍とドイツ軍の紛争地帯をフィアットで飛ばした。
感 想 等
( 評価 : B )
 第二次世界大戦中、ナチスが支配するイタリアで、ユダヤ人の国境越えを手伝ったり、パルチザンのスパイとして命の危険を冒し続けた若者ピノの波乱の2年間を描く歴史冒険小説。これが事実だと聞かされていなかったら、偶然やタイミングの良さにハラハラしつつも、こんなに上手くいかなでしょうと冷めた目で見てしまう部分があったかもしれないが、事実ということに改めて驚いてしまう。一方、作者が小説仕立てのノンフィクションではなく伝記小説・歴史小説だと言っているように、事実にこだわっているため、ライヤースがなぜ処刑されなかったのか、ライヤースがピノについてどこまで知っていたのかなど、謎が謎のまま終わっており、釈然としない部分が残ってしまう。
 最後に「その後」が付いており、ゲーリー・クーパーやジェームズ・ディーンと知り合いになったりと、それはそれでピノは驚きの生涯を送っているのだが、こと本作にとっては蛇足の気がする。最後が付いていることで、重要な要素の一つであるアンナとの愛が、ピノの中で美化された愛になってしまっており残念。
山  度
( 山度 : 10% )
 登山関連は上巻のみ。ユダヤ人を案内してグロッペラ山を越えていく描写、雪崩で閉じ込められて脱出するシーンなどがあるが、全体からすると10%強程度。

  
 
作 品 名
「カナカレデスとK2に登る」 (ダン・シモンズ、2002年)
あらすじ
 ゲイリー、ポール、そして私ジェイクの3人は、K2登山に向けて体を慣らすために、許可も取らずないでエベレストサウスコルに来ていた。ザウスコルは、1世紀にもわたる登山隊の排泄物や酸素ボンベなどのゴミで溢れていた。突然、国連の黒いCMGが現れ、我々3人は密登山の罪で捕まってしまった。エベレスト山頂にあるレストランに連れて行かれた我々は、ブライトムーン国務長官から意外なことを告げられた。カマキリ型の宇宙人と一緒に、K2に登って欲しいというのだ。
 カマキリ型の"虫"は10年前に現れ、人類にCMGをもたらしてくれたが、それ以外の技術については一切口を閉ざしていた。国連は、虫のアドゥラダケ代表の息子・カナカレデスを無事に登山させるという目的と同時に、虫からの初めての要求という機会を使って、虫と仲良くなって情報を聞き出すという狙いを持っていたのだった。我々3人への報酬は、火星オリュンポス山登山だった。
 こうして、3人と虫のK2登山が始まった。20世紀に較べて用具や登山法が進歩したとはいえ、K2は8000m峰の中でも飛び抜けて難しい山だ。我々は、クレバスや雪崩、悪天候、高山病に苦しめられながら高みを目指していった。
感 想 等
( 評価 : B )
 SFと登山という不思議な組み合わせ。しかも異形の異星人とK2に登るという設定。違和感を感じるかと思いきや、SFの要素をたっぷりと出しつつも、高所登山の雰囲気、過酷さも存分に味わえる絶妙なバランス。うまいです。ラストシーンは、読んでいるうちに次第に想像がついてしまうのに、最後のセリフを読んだ瞬間、思わずニヤリとしてしまう。この辺もなんだか嬉しい。
 SFと言えば、H・G・ウェルズやジュール・ベルヌ、J・P・ホーガンなど古典しか読んだことがない私が評しても、あまり信憑性のある評価ができるとも思えませんが、翻訳ものにもかかわらず、山好きもSF好きも納得できる作品ではないかと思う。
山  度
( 山度 : 100% )
 実際のK2登山をしたことがないので何とも言えないが、著者は山の本を読んでちゃんと調べた上で書いているようで、その辺の描写に違和感はない。唯一、訳者の登山知識に多少不安を感じる。著者の前書きで、「アルペン・スタイル」と訳したり(やはりアルパイン・スタイルと訳して欲しい)、「ピラミッド・スタイル」と書いたりしている(たぶん英文自体がそうなっているのでしょうが、ここは「極地法」と訳してもらった方がしっくりきます)。そこを除けば、山度たっぷりで堪能できます。

 
 
 
作 品 名
「この死すべき山」 (ロジャー・ゼラズニイ、1967年)
あらすじ
 登山家ジャック・サマーズは、23歳でエベレストを登り、31歳の時には標高9万フィート弱の宇宙一の最高峰リタン星カスラ山を征服した唯一の男だった。ジャックは新しく見つかった宇宙最高峰に来ていた。それは、グレイ・シスターという標高40マイル(約64万メートル)もある、もはや山とは呼べないほどの代物だった。
 ジャックは、彼のパートナーたちに召集をかけ、仲間6人とともにグレイ・シスターへと挑んだ。その山では不可思議な現象が起こった。エネルギー生物のような鳥が襲ってきて、剣を持った男が現れ、キラキラ光る蛇どもがやってきた。だが、いくら検査をしてもそれが一体何なのか、結果は得られなかった。果して幻覚か、超常現象か。
 数々の妨害にもめげずジャックら一行は頂上へと向った。そこで、ジャックが目にしたものは…。
感 想 等
( 評価 : D )
 SF山岳小説とでもいうべきジャンル。未知の高峰を登場させるには宇宙はもってこいではあるが、64万メートルという標高はいくらなんでもねぇ。そこまでいくと空気もないし、重力もなくてクライミングが楽なのでは、とどうでもいいことを考えてしまう。ストーリー自体は悪くないし、ラストも意外感があるが、どうも???のまま終わってしまった。やはりSFと登山という組み合わせは今いちか。
山  度
( 山度 : 80% )
 舞台は宇宙ではあるものの、始終登山に絡んだ話として進んでいる。もっともSFなので、登山技術や装備が進んでいるという想定?なのか、作者の登山経験がないせいなのか、今ひとつ登山としてのリアリティには欠ける。

 
 
 
作 品 名
「メイジュの北壁」 (ジョルジュ・ソニエ、1952年)
あらすじ
 ジョゼフ・アンドレアは、メイジュの北壁に挑戦しようとしていた。これまで9人の男たちの挑戦をはねのけ、うち2人の命を奪った絶壁だ。パートナーは英国きっての登山家ランダールとワルターだった。2人と山行を共にしたのは1回しかなかったが、彼らはお互いを信頼しきっていた。
 3人は順調に高度を稼いでいった。主に、アンドレアとランダールがトップに立って1メートル1メートルと勝ち取ってゆき、午後3時にはあと250mで頂上という場所まで辿り着いた。しかし、頂上までの最後の直線コースというところでランダールが滑落し、アンドレアとワルターも巻き込まれた。ランダールは墜死してしまったものの、アンドレアら2人は奇跡的に途中の岩棚で止まっていた。が、2人とも怪我で身動きができなかった。
 アンドレアは麓で待っている妻・ジュヌビエーヴに向けて救難信号を送った。それを見つけた地元のガイドたちが、夜中から救出に向けて準備を始めた。しかし、天候が悪化し始めていた。
感 想 等
( 評価 : B)
 未踏の北壁における遭難救助物語。あたかも本物の山行記を読んでいるかのような登攀シーンは、それだけで迫力がある。しかし本書はノンフィクションではない。
 クライマー・アンドレアを主人公に物語は始まるが、時には自らの危険も顧みずに救出に向かうガイドの立場で、時には愛する夫の身を心配する妻の視点から語られる。遭難者はお互いを気遣い、ガイドは見知らぬ遭難者のために全力を尽くし、妻はガイドに全幅の信頼を寄せる。そうした心の有り様が素晴らしい。古き良きフランスの香り漂う名作である。
山  度
( 山度 : 100% )
 文句なし。山度100%の純山岳小説です。