山岳小説(海外)・詳細データ 〜ラ行〜
 
 
 
作 品 名
「そこに山があるから」 (ピーター・ラヴゼイ、1998年)
あらすじ
 60歳になるパトリック・ストーム教授の元に見知らぬ男から電話がかかってきた。男はケイプ・ブラウンと名乗り、キース・カレッジ時代に山岳クラブで一緒だったという。パトリックは確かに、ベン・タタソールらとスンードンに行ったことを思い出した。男はそのベンが主教になっていること、スノードンの山頂で40年後の再登山を約したことを話し、その約束を実行しようと提案してきた。パトリックは乗り気はしなかったが、ベンが了解したと聞いて参加することにした。
 登山当日、ケイプは友人だと言ってカメラマンを連れてきた。久しぶりの登山はきつかった。ケイプは元気を出すためだといって、ベンが学生の頃言っていた卑猥なジョークや、パトリックに言い寄ってくる女学生の話などを聞きたがった。
 実はケイプがそうした話を聞きたがるのには訳があった。そして、それを知ったパトリックは・・・。
感 想 等
( 評価 : D )
 わずか20Pほどの短編。そういう意味ではちゃんと落ちもついているし、こんなものかもしれない。ちょっとしたショート・ショートのつもりで読めばそれなりに楽しめるかも。
山  度
( 山度 : 40% )
 後半はずっと舞台が山。にもかかわらず、あんまりそういう印象がないのは、ただ尾根を歩いているだけというシーンのせいと、話のメインがその間の会話等にあるためだろう。

 
 
 
作 品 名
「北壁の死闘」 (ボブ・ラングレー、1980年)
あらすじ
 アイガー北壁でシュペングラーという名の入った騎士十字章を首からかけた旧ドイツ兵の遺体が発見された。
 時は遡り第二次世界大戦末期、前線から呼び戻されたシュペングラーは、女医にして連合軍スパイのヘレーネ・レスナーらとともに第5山岳歩兵師団に編入された。数々の初登攀記録を持つシュペングラーらに課せられた任務は、スイスの山中で原爆の研究を行っているラッサー博士を連れ出すことだった。シュペングラーらは厳しい訓練をさせられたが、訓練を通じて、シュペングラーはヘレーネに惹かれていった。
 吹雪の夜をついてアイガー山中にある研究所を急襲したシュペングラー一行は博士を連れ出すことに成功したが、駆けつけた連合軍に追い詰められて退路を断たれてしまうこととなった。シュペングラーには、アイガー北壁で友を死なせたというトラウマがあったが、この状況ではアイガー北壁に挑むしか道がない。一行は、吹雪が駆け巡る北壁登攀へと乗り出した。
 途中、追跡してきた米国軍の襲撃、アルノの墜落、ヘンケによるシュペングラー救出などを経て神々のトラバースまで辿りつくが、ラッサー博士の様子が悪化する。一行は吹雪のアイガー北壁を経て、無事脱出することができるのか。
感 想 等
( 評価 : A )
 山岳冒険小説の古典的名作と名高い「北壁の死闘」。その評価、期待に違わぬ名作である。通常、翻訳本というのは翻訳という致し方ない部分によるのか、あるいは翻訳家の巧拙によるのかはわからないが、なんとなく違和感を覚えながら読み進むものだが、本作品について言えば、そうした違和感を一切感じることなく、ぐいぐい物語りに引き込まれていく。そして、緊迫感溢れる展開と意外なラストシーン。思わず「やられた!」と感じてしまう。見事としか言いようがない。
 登攀シーンといい、ストーリー展開といい、確かに名作である。
山  度
( 山度 : 60% )
 原題「Traverse of Gods」は、アイガー北壁の“白い蜘蛛”の手前にあるトラバースルートの名称。それだけでも、本書がアイガー北壁という大きな舞台を軸に描かれた冒険小説であることがわかるというものだ。
 また、主人公シュペングラーのトラウマとなっている事件は、アイガー北壁で実際にあった遭難事件を取り入れたもの。このほか、極秘ミッションに向かうまでの登攀訓練、メインでもあるアイガー北壁登攀と山のシーンは豊富かつ迫力満点。

 
 
 
作 品 名
「エベレストの彼方」 (ボブ・ラングレー、1984年)
あらすじ
 CIA工作員のハロルド・モリルは、70年代後半に、中国を撹乱させるためにネパール国境付近でゲリラ活動を行っていたが、中国軍に追われて負傷し、盟友ションフェルドの手で殺されてしまった。ところが、死んだはずのモリルが依然ゲリラ活動を行っているとして、中国がアメリカに抗議してきた。
 実は、モリルは仲間のチャムドによって僧院まで運ばれ、奇跡的に助かっていたのだった。そこでバイマという最愛の女性を見つけ、一生そこを暮らす決心をしたモリルだったが、中国軍にバイマを殺され、モリルは中国軍への憎悪を強めていった。
 一方、中国との科学技術協定締結を目前に控え、関係悪化を恐れたアメリカは、彼の妻トレイシーをチベットに送り、モリルの説得を図った。しかし、モリルのいる場所はギャンカーラという非常に危険な地区で、そこまで行ってくれるパイロットがいない。トレーシーは、やっとのことでイギリス人のラムドンという気狂いじみたパイロットを見つけ、ラムドンの飛行機でギャンカーラへと向かったが・・・。
感 想 等
( 評価 : C )
 チベットを舞台にした冒険小説。冒険小説としてそこそこ楽しめるものの、何となく緊迫感というのか、つい先へ先へと急ぎたくなるような面白さがないのはなぜであろうか。ラングレーの「北壁の死闘」が凄かっただけに、どうしても印象が薄まってしまっている感はある。
山  度
( 山度 : 20% )
 チベットが舞台となっているものの、山岳的要素は薄い。


 
 
作 品 名
「熱い氷壁」 (ジャクリーヌ・ルイス、1985年)
あらすじ
 高名な登山家である父と兄から手ほどきを受け、登山を愛して止まないジョアンヌにとって、ダウラギリ登山は若い頃からの夢だった。そんな時、実業家であり登山家でもあるブライアントがダウラギリ遠征隊員を募集していることを知ったジョアンヌはすぐさま応募したものの何の連絡もなかかった。そこでジョアンヌは、ブライアントが出席するというパーティに恋人のスコティーと一緒に参加した。
 ブライアントは背が高くて魅力的な男たったが、ジョアンヌは近寄り難いものを感じていた。それでも、ダウラギリ登山のために勇気を振り絞って直談判したところ、隊に女性を加えるつもりはないと断られてしまった。弁護士でもあるジョアンヌは、女性差別が法律違反であることを盾に隊員に加えることを了承させたが、今度は突然電話をかけてきて、ジョギングや登山に連れ出されるようになった。自分が試されていると感じたジョアンヌは、真夜中のジョギングもベイカー山登山も遅れることなく付いていき、体力があることを証明した。そうした時間を過ごすうちに2人はお互いのことが気になり始め、シュクサン山登山の帰りに2人は欲望のまま結ばれた。
 ブライアントはジョアンヌの参加を正式に認めたものの、隊には女性の参加を快く思わない隊員が何人かいるため、ブライアントはベースキャンプより上には連れて行かないという内容でジョアンヌと契約時した。何があるかわからないのが登山、そう思ってジョアンヌはその条件付けを飲んだ。隊には、副隊長のフリーランドや若いアンディー、リード医師など18人のメンバーがいた。出発までの間、ジョアンヌは仕事の合間をぬってはサンフランシスコの倉庫に通い、メンバーと一緒に荷造り作業を行った。その間、ブライアントと喧嘩したり、フリーランドとその妻ベスの夫婦喧嘩に巻き込まれたりと、心休まる時がなかった。
 あっという間に出発の2月になった。カトマンズでの荷物の受け取り、ポカラからのキャラバン、ベースキャンプの設営と順調に進んだ。体調が悪くなった隊員もいたが、ジョアンヌは好調そのものだった。ところが、いざルート決めの段になって隊長のブライアントと副隊長のフリーランドの意見が対立した。可能性のない南東稜を諦めて北東稜ルートからの登頂を主張するフリーランドと、手垢のついた北東稜ではなく未踏の南東稜に拘るブライアント。結局話し合いでは決着が付かず、投票によりブライアントとシェルパ頭のダージーが2人だけで北東稜に向かい、帰りは南東稜から登頂するメンバーに合流する計画となった。
 もうブライアントと会えないかもしれない。そんな不安を抱えながらベースキャンプに残ったジョアンヌだったが、高山病で脱落する隊員が相次ぎ、彼女にも登頂のチャンスが巡ってきた。
感 想 等
( 評価 : C )
 出版社は、見ての通りハーレークイン・スーパー・ロマンス。ある意味「らしくない」し、ある意味「それらしい」内容となっている。「らしくない」のは意外と山度が高く、出発前の荷造り作業から、極地法ではあるものの登山隊の様子がよく描かれており、山岳小説としても十分楽しめる。
 一方、「それらしい」のは、途中出てくる障害のほとんどが、人間関係、しかも男女問題絡みばかりだという点だ。正直、最初の頃は男女差別を理由に法律を振りかざしてまで隊員に加えてもらおうとするジョアンヌは、アメリカっぽいとはいえ、いけ好かない女だし、アメリカ風の軽い男女関係はチョット馴染めない。正直、真面目過ぎるスコティーが可哀想だ。
 全体的はバランスとしては、ハーレークインファンには丁度いいのかもしれないが、出発前の人間関係の描写が少し長過ぎる。その割には、ラストがあっさりし過ぎている印象。
山  度
( 山度 : 50% )
 山度が高いとはいうものの、前半のベイカー山、シュクサン山、後半のダウラギリも、実際の登山シーンはそんなに長くなく、荷造りやキャラバン、ルート選定など、関連描写全てを合わせると、50%といったことろか。


 
 
作 品 名
「クリフハンガー」 (ジェフ・ロビン、1993年)
あらすじ
 ロッキー山岳警備隊のゲイブは、同僚ハルの恋人サラを救出できなかったことで、自責の念にかられ、ハルとゲイブの恋人ジェシーの前から姿を消した。
 その8ヶ月後、現金輸送機がハイジャックされるという事件が起き、輸送機はロッキー山中に不時着し、現金を詰め込んだ3つのケースもばらばらに山中に墜落した。ハイジャック犯は現金を探すために山岳警備隊を呼び出し、ハルが単独で救助に向かった。たまたま居合せたゲイブもハルを追って山に入ったが、2人とも犯人グループに捕まってしまった。
 ハルは犯人グループのケース探しの道案内をさせられることになり、ゲイブは殺されかけたところを辛うじて逃げ延び、犯人グループの先回りして金を奪い、ハル救出のチャンスを伺った。恋人ジェシーと協力して犯人グループに立ち向かうゲイブ、犯人グループとの死闘。
感 想 等
( 評価 : B )
 スタローン主演の映画で有名な「クリフハンガー」。映画を見てこんなパワークライムはやらないだろうけどスタローンっぽいなぁと思っていたら、当時のトップクライマー・ギュリッヒのスタントだったそうである。
 それはともかく、映画には映画の迫力や面白さがあるが、原作を読むと、映画ではよくわからなかったシーンの意味や、ハルの心理描写などもあり、映画とはまた違った楽しみ方ができる。映画を見た人も、見ていない人も楽しめる作品となっている。
山  度
( 山度 : 90% )
 冒頭の救助シーンに始まり、数々のクライミングや雪山のシーンなど山度はいっぱい。

 
 
 
作 品 名
「ザイルのトップ」 (フリゾン・ロッシュ、1941年)
あらすじ
 アルプスの名ガイド、ジャン・セルヴェタは客をドリュに案内している途中、落雷に逢って死んでしまった。同行していたポーターのジョルジュは、ジャンの遺体を残したまま客を連れてなんとか下山したものの、足の指を凍傷にやられ切らざるを得なくなってしまった。
 ジャンの息子ピエール・セルヴェタは、父親からは、ガイドなどにはならず宿屋をやるように言われていたが、山が好きで好きでしょうがなかった。ジャンの死を聞いたピエールは仲間とともに遺体回収に向かうが、悪天候と気持ちが急いていたこともあり墜落してしまい、それ以降高所でめまいを起こすようになってしまった。
 山に行けなくなったピエールは人生に絶望しふさぎ込むことが多くなった。仲間や恋人の励ましで徐々に心を開き始めたピエールは、再度山を目指すジョルジュとともにエギーユ・ヴェルトに挑戦する。
感 想 等
( 評価 : B )
 ヨーロッパ・アルプスを舞台にガイドを目指す若者を描く、まさに山岳小説の王道のような物語。ヨーロッパにおけるガイドという職業の特殊性もおもしろい。
山  度
( 山度 : 90% )
 美しい山岳描写と力強い登攀シーンは、まるで一つの映像を見ているかのよう。

 
 
 
作 品 名
「大クレバス」 (フリゾン・ロッシュ、1948年)
あらすじ
 ジアンは優秀なガイドだった。ある時彼は、ガイド祭で男爵の令嬢ブリジットと知り合いになった。ブリジットは岩登りなどやったこともなく興味もなかったが、ジアンに興味があったから彼にガイドを頼み、何度か岩場へと出かけた。
 エギーユ・ラヴァネル、エギーユ・マンメリーでは他のパーティーの滑落に遭遇し、モンブランでは嵐により道を見失い危うく遭難しかかった。しかし、2人はそうした経験を通じて、お互い惹かれ合うようになっていった。
 そしてジアンとブリジットは結婚した。ジアンは朝から晩まで野良仕事に出かけ、夏にはガイドの仕事も入った。しかし、お嬢様であるブリジットは山での生活に慣れず、ブリジットにとっては近くの別荘にたまに遊び来る人々を家に招くくらいしか楽しみがなかった。ブリジットは、ジアンと一緒に山へ行きたかったがそれもままならず、ついには夫の留守中に実家へと帰ってしまった。
 ジアンはブリジットを愛しており、いつか戻ってくると信じていた。そんなある日のこと、1人で山へ出掛けたジアンはクレバスに落ちてしまう。
感 想 等
( 評価 : C)
 自らも登山家であるフランスの山岳小説家ロッシュの作品。全体的な古臭さは如何ともしがたいが、山での生活に馴染めないお嬢様と根っからの山男の恋愛、そして結婚生活、その葛藤が巧みに描かれている。ともすると、登山・登攀に無知・無関心なお嬢様がガイドに惹かれ、障害を乗り越えて結ばれました、めでたし、めでたし、で終わってしまいそうなストーリーを、陰陽織り交ぜながら男女の機微を描いている。
 なお、本作品のタイトルは、「大クレバス」と「青春の氷河」と2通りあるが、原題は「大クレバス」。
山  度
( 山度 : 80% )
 フランスのガイドの生活を軸に、ガイド山行、岩登りなど山のシーンが次々と出てくる。が、なんと言っても圧巻は、ラストでジアンがクレバスに嵌ってからの展開。これは読ませる。

 
 
 
作 品 名
「山に還る」 (フリゾン・ロッシュ、1957年)
あらすじ
 ジアンの遭難を知ったブリジットはシャモニに戻って来た。シャモニのガイドたちのブリジットを見る目を冷たかった。しかし彼女はシャモニで生きていくつもりだった。お腹の中にジアンの子供がいたのだ。味方はジアンの叔母・マリーとクータ先生、カミーユ・マパ、そしてポーターのポーダーヌなど少ししかいなかった。
 ブリジットはまずプラの古い家を買い戻すことにした。そこにはジアンの思い出が詰まっていたからだ。男の子が生まれた後、ブリジットは生活費の足しにするために働こうとしたが、世間の目は相変わらず冷たく、仕事はなかなか見つからなかった。ブリジットはクータ先生の産休の間だけ看護婦の代わりを務めたあと、イム・ホルンの旅行案内所で勤めることになったが、高齢のイム・ホルンが亡くなってまた仕事を失ってしまった。
 そうしてやっと得た仕事が、グランド・ジョラス北壁を望む場所にあるレショ小屋の小屋番だった。滅多の客の来ない小屋で、毎年のように小屋番が代わっていたが、ブリジットはここで頑張ることにしたのだった。
感 想 等
( 評価 : B)
 「大クレバス」の続編になっており、ジアンが亡くなった後に戻ってきたブリジットが、苦労しながらも子供を育て、徐々に地元に認めてもらえるようになっていくまでを描いた物語。
 前二作と違って女性を主人公にしており、登山がメインの前二作とは少し異なるものの、シャモニの町・山を舞台にした良作だ。登山に関しては、素人だったはずのブリジットにそこまでさせていいのかやや不安。ポーダーヌとブリジットの今後が気になる。
山  度
( 山度 : 60% )
山の雰囲気満載の作品。途中までながらグレポンやグランド・ジョラス北壁登攀シーンもある。

 
 
 
作 品 名
「復讐渓谷」 (ジェフ・ロング、1989年)
あらすじ
 ヨセミテに定住するクライマー、ジョン・コロラダスは。一時はクレシンスキーとともに優れたクライマーとして第四キャンプの尊敬を集めていたが、既に年を取りすぎていた。一方若くてクライミングに長けたタッカーは、素直で一途ゆえに小僧として扱われていたが、ジョンはタッカーの実力を認め、ザイルパートナーとしていた。タッカーの夢はバイザーを登ることだった。
 そんなある日、シエラネバダ山中の湖に飛行機が墜落した。飛行機の積荷は大量のマリファナだった。クライマー達は一夜にして、金持ちへと変身した。
 ところが、クライマーたちの前に死んだはずのパイロットが姿を現した。そして、ジョンとタッカーが組んでバイザーをやっつけた後、タッカーが何者かに殺された。次いでブルザイが崖から落とされた。一体、何が起こっているのか。 
感 想 等
( 評価 : C )
 「死の渦」 (デイヴィッド・ハリス)同様に、実際にあった飛行機事故にヒントを得て書かれたという作品。「クリフハンガー」も本作品をアレンジして作られたものだという。
 が、サスペンスだかミステリーだかわからないが、ストーリーはさっぱり盛りあがらず、無駄にページを使っているだけという感じがしないでもない。「死の渦」や「クリフハンガー」と比べると、正直今いち。
山  度
( 山度 : 70% )
 本物のクライマーが書いているだけに、クライミング・シーンは見事なものだし、情熱が感じられる。