山岳小説(海外)・詳細データ 〜ア行〜
 
 
 
作 品 名
「遥かなる未踏峰」 (ジェフリー・アーチャー、2009年)
あらすじ
 マロリー家の長男として生まれたジョージは、幼いころから高い所に登るのが好きで、非凡な才能を顕わしていた。化学教師のディーコンや寮監のアーヴィングに連れられて、スコットランドやスイスアルプスの山々へ出掛けて腕を磨いていったマロリーは、ケンブリッジ大学で山岳クラブに入った。マロリーはそこでも、クラブのメンバーで優れた登山家のソマーヴェルやオデール、名誉会長で英国アルパイン・クラブのメンバーであるジェフリー・ヤングに勝るとも劣らない能力を見せつけた。
 大学卒業後、マロリーは教職に就いた。その頃、第一次世界大戦が始まり、教員は兵役を免除されているにも係らず、マロリーは教師を辞めて入隊した。
 終戦後の1921年、王立地理学会とアルパイン・クラブは、かねてからの懸案だったエベレスト遠征を決め、エベレスト委員会の副委員長に就任したジェフリー・ヤングの薦めもあって、マロリーはその登攀隊長に選ばれた。登攀メンバーにはソマーヴェルやオデール、フィンチ、ガイなどもいた。愛する妻のルース、娘たちを置いて、マロリーは未踏の世界最高峰・エベレスト登頂に向けて旅立っていった。
感 想 等
( 評価 : B )
 かの有名なマロリーを題材にした小説、と聞いただけでワクワクしてくる。題材もいいし、話の展開もいい。にも係らず、やや違和感が残った。いろいろな点が事実と異なるのだ。いや、フィクションなのだから違っても何ら問題ではない。
 どこまでが事実か確認していないが、学生の頃のエピソードやルースとの逸話などは面白い。エベレストに登ったかどうかを描いている辺りは、フィクションならではの醍醐味だ。一方、マロリーはエベレストに3回行ってるし(小説では1回目と2回目が合体した感じに描かれている)、登攀隊長になったのは第3回目の途中からだし、フィンチやオデールとの出会いも異なっている。どう変えても誰かが違和感を感じる、これはモデル小説の宿命なのかもしれない。
 書評などを見ると、作り物を事実と誤解?混同?している感じに見受けられる。読者サイドとしても、フィクションをフィクションとして受け取ることが大切だ。
 それでも、この題材に挑戦した意欲と、題材自体の素晴らしさに免じて"B"評価です。
山  度
( 山度 : 90% )
 マロリーを題材にしているので、かなりの部分が山に関連した話になっているが、登山シーンそのものはやや迫力に欠けているかも・・・。

 
 
 
作 品 名
「白銀の嶺」 (ジェームズ・R・アルマン、1945年)
あらすじ
 時は第二次世界大戦中。米国空軍兵士のマーティン・オードウェイは、戦闘飛行中に機が爆撃され、落下傘で不時着した。落ちた場所は中立地帯のスイス。彼が12年前に滞在していた場所だった。そこで偶然にもむかし世話になったガイドのアンドレアスや、当時思いを寄せていたカルラに再会した。親友のシュテファンはいなかったが、マーティンはカルラとの再会を喜んだ。
 マーティンはここから脱出しなければいけなかったが、その前に以前からの課題だった未踏のホワイト・タワーに登ることにした。そのためには6人の仲間が必要だった。アンドレアスとカルラ、それに登山に来ていたドイツ人のハイン、ホテルに泊まっていたフランス作家のデランブル、イギリス人の地質学者ラドクリフがメンバーとなった。
 一行はホワイト・タワー初登頂に向けて出発したが、その道は平たんではなかった。自らの体力不足を痛感し下山することにしたラドクリフ、アルコール依存症のデランブル、勝手な行動を取ろうとするハイン……それでも一行は頂上を目指していった。
感 想 等
( 評価 : B )
 アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストリア、スイス。国籍がばらばらの6人が、アルプスの未踏峰を目指す。各メンバーの過去や心情などに絡んだサイドストーリーもなかなか面白く、登山シーンも楽しめる。マーティンやカルラを巡る反戦的な話も物語に深みを与えている。もっとも、書かれた時代(第二次大戦中)が時代だけに、登場人物がその国籍を代表するプロトタイプ的に描かれており、アメリカ人以外にとってはあまり気持ちの良い描かれ方ではないかもしれない。
 登山に関して言えば、いろいろな意味で設定に無理があるような気がする。1940年代にヨーロッパアルプスに未踏峰というのもどうかと思うが、6人必要という割には読んでいくとどう見ても6人も要らない。それに、未踏峰に挑戦しようというのに、ガイドとドイツ人登山家以外は、ブランクが長かったり本格的な登山家でなかったりと、そもそも挑戦する資格があるように思えない。その辺がもう少し自然な流れになっていれば、もっと楽しめたかもしれない。
山  度
( 山度 : 70% )
 登山に関しては上記の通りいろいろ気になる点はあるが、6人で未踏峰に登るというのが物語の軸であり、そこに向けた準備やメンバーの心情、登攀シーンなど、かなりの部分が登山関連の話で占められている。
 上巻末に、「跋」と題して(今で言えば序文のような解説のような感じの内容)深田久弥氏がコメントを寄せている。

 
 
 
作 品 名
「雪豹」 (スティーブン・ヴォイエン、1992年)
あらすじ
 動物学者のトローブリッジは、ヒマラヤの奥地・ラクリノールに国立公園を作るために、雪豹やヒマラヤアオヒツジの生態調査に出掛ける遠征隊のポーターをポカラで探していた。見つかったメンバーは、過去2回の調査にも同行したベテラントレーッカー・ノルブのほか、サーダーのドルジェ、大柄のシェルパ族の男ジート、退役軍人のチャンドラー、ネワール族の女・ニマほか少人数の遠征隊だった。
 遠征許可へのインド軍事顧問の妨害やインド人猟師ナカラとのいざこざなどはあったものの無事ポカラを出発し、一路ラクリノールへと向かった。アンナプルナやダウラギリを横目に眺めながらキャラバンを続けた一行は、途中、怪しげなインド人巡礼者クリシュナ・サンワルの同行、ジョルカンの警察署長の妨害とヴィクラムの手助けクリムシラ峠を越えてラクリノールへと入った。
 ところが、ラクリノールで動物の調査を続けるトローブリッジの前になぜか、クリシュナとナカラが現れた。チベット上空を飛ぶ中国空軍機。チベットの山奥で何かが起こっていた。
感 想 等
( 評価 : C )
 ヒマラヤ奥地で展開される物語。冒険小説というべきか、サスペンスというべきか、恋愛小説というべきか。いろいろな要素が織り込まれた小説といえば聞こえはいいが、冒険小説やサスペンスを期待して読み進んでいる人にとっては、前半のキャラバンシーンは単に冗長で長いだけ。ストーリー上はここまで長い必要はないかもしれない。逆に、山岳小説や恋愛小説的な要素の盛り込み方も中途半端になっており、全体的に一気に読ませるという感じではない。スパイ小説的な要素の背景が壮大なだけにもったいない気がする。
山  度
( 山度 : 10% )
 登山シーンはほとんどないものの、アンナプルナ、ダウラギリ山麓のキャラバンシーンは、ヒマラヤ遠征隊の雰囲気が味わえる。

 
 
 
作 品 名
「バーティカル・リミット」 (メル・オドム、2000年)
あらすじ
 ギャレット親子3人はユタ州の岩壁に取りついていたが、先行パーティの墜落に巻き込まれて宙吊りになってしまった。父・ロイスに命じられるままピーターがザイル切断したことにより兄妹は助かったが、アニーはピーターを許すことができなかった。
 その3年後、ピーターは山から離れネイチャーフォトグラファーとして活躍し、雪ヒョウを撮影するためヒマラヤ山麓に来ていた。そこで、父の意思を継いで著名な登山家になり、K2登頂の為に近くに来ていたアニーと再会した。
 アニーは、企業家にして登山家のヴォーン、優秀な登山ガイドのトム・マクラレンらとともにK2を目指すが、天候の急変により雪崩に巻き込まれ、3人は8000m付近のクレバスに閉じ込められてしまった。
 早く助け出さないと肺水腫で死んでしまう。ピーターは、妹を助けるために、ヴォーンに恨みを持つベテランクライマー・ウィック、シリルとマルコムのベンチ兄弟、ポーターとして参加して遭難したアリの従兄弟カリーム、ヒマラヤ山麓から逃げ出したがっている女性クライマー・モニクらと共に救出に向かった。その背中には、クレバスを塞ぐ氷塊爆破のためのニトログリセリンを担いでいた。
 彼らの行く手を、滑落、雪崩、ニトロの爆発などが次々と待ち受ける。果たして無事救出することができるのか。
感 想 等
( 評価 : A )
(以下、一部結末に関連する部分があるためご注意下さい)
 同名映画のために書き下ろされたものであり、ストーリーはほぼ映画と同じ。映画での雪崩や滑落シーンなどその迫力は確かに凄かったが、その良さは原作の持つ練られたストーリー展開やキャラクター設定があって初めて活きてくるものと言えよう。特に、ピーターにとって一種のトラウマのようになっているザイル切断は、なかなかうまい展開だ。
 3人を助けるために、結局は多くの命が犠牲になってしまったことについて批判の向きもあろうが、それは結果論であってやむなしとしましょう。多少の無理はさておき、エンターテイメントとしても、文学作品としても印象に残る一作だ。
山  度
( 山度 : 90% )
 舞台の大半がK2。迫力ある登攀シーン、標高8000mでの苦闘などなど山岳小説としても読み応え充分。