山岳小説等の受賞歴
 数は少ないものの、山岳小説もしばしば文学の晴れ舞台に登場しています。当コーナーではそんな文学賞受賞作品を、小説・漫画を問わずご紹介します。

 
(作品リスト)
発表年
受 賞 作 品
作 家
受 賞 ・ 候 補
1955年
「強力伝」新田 次郎第34回直木賞 受賞
1957年
「単独登攀」瓜生 卓造第38回直木賞 候補
1969年
「アルプスに死す」加藤 薫第8回オール読物推理小説新人賞 受賞
1970年
「遭難」加藤 薫第63回直木賞 候補
1971年
「密閉山脈」森村 誠一日本推理作家協会賞 候補
1972年
「腐蝕の構造」森村 誠一日本推理作家協会賞 受賞
1980年
「九月の渓で」梓 林太郎エンタテインメント小説大賞 受賞
1982年
「遠見二人山行」長井 彬日本推理作家協会賞短編部門 候補
1990年
「遥かなり神々の座」谷 甲州「このミステリーがすごい!」 第4位
1993年
「マークスの山」高村 薫 第109回直木賞 受賞
第12回日本冒険小説協会大賞 受賞
「このミステリーがすごい!」 第1位
「週刊文春」傑作ミステリーベスト10 第1位
1994年
「凍樹の森」谷 甲州日本推理作家協会賞長編部門 候補
「夢幻の山旅」西木 正明第14回新田次郎文学賞 受賞
1995年
「ホワイトアウト」真保 裕一 第17回吉川英治文学新人賞 受賞
「このミステリーがすごい!」 第1位
「週刊文春」傑作ミステリーベスト10 第2位
「白き嶺の男」谷 甲州第15回新田次郎文学賞 受賞
1998年
「神々の山嶺」夢枕 獏 第11回柴田錬三郎賞 受賞
第16回日本冒険小説大賞 受賞
「このミステリーがすごい!」 第6位
2000年
「脳男」首藤 瓜男 第46回江戸川乱歩賞 受賞
「週刊文春」傑作ミステリーベスト10 第1位
「狼は瞑らない」樋口 明雄日本冒険小説協会大賞 第3位
2001年
漫画版「神々の山嶺」谷口 ジロー第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞 受賞
2003年
「クライマーズ・ハイ」横山 秀夫 「このミステリーがすごい!」 第7位
「週刊文春」傑作ミステリーベスト10 第1位
2006年
「灰色の北壁」真保 裕一第25回新田次郎文学賞 受賞
2008年
「岳」石塚 真一 第1回マンガ大賞 受賞
第54回小学館漫画賞一般向け部門 受賞
「草すべり その他の短編」南木佳士 第36回泉鏡花文学賞 受賞
2008年度芸術選奨文部科学大臣賞 受賞
2010年
「孤高の人」坂本眞一文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞 受賞

 
 
 
 
作品・作家
「強力伝」 新田 次郎
受 賞 等
第34回直木賞(昭和30年下半期)
作品について
言わずと知れた新田次郎の処女作。もともとは「サンデー毎日」の大衆文芸賞(1951年)に入選したもの。白馬山頂に風景指示板を運んだ富士の強力を描いた作品であるが、まさに「山を舞台に人を描く」新田次郎の原点がこの作品にあると言えよう。
直木賞について
菊地寛の提唱により、文芸春秋社が芥川賞とともに1935年に創設。その後日本文学振興会が引き継いでいる。長編・短編を問わず、新進・中堅作家の大衆文芸作品の中で最も優れた作品に贈られる賞。

 
 
作品・作家
「単独登攀」 瓜生 卓造
受 賞 等
第38回直木賞候補(昭和32年下半期)
作品について
ナンガ・パルバットを単独登攀した超人ヘルマン・ブールの伝記小説。瓜生卓造初期の作品。瓜生卓造の求める男性像と、彼ならではの写実性、史実への忠実さがよく現れた作品ではなかろうか。
直木賞について
上記「強力伝」の欄参照

 
 
作品・作家
「アルプスに死す」 加藤 薫
受 賞 等
第8回オール読物推理小説新人賞(1969年)
作品について
短期間に質の高い山岳ミステリーを発表した加藤薫の処女作。ヨーロッパ未踏壁の登攀シーンは加藤薫の本領発揮といったところか。加えて、ラストの意外な結末は見事。
オール読物推理小説新人賞について
文芸春秋社が主催する公募の賞。応募規定は50〜100枚と短編だが、推理小説作家になるための登竜門として有名。宮部みゆき、赤川次郎などを輩出している。

 
 
作品・作家
「遭難」 加藤 薫
受 賞 等
第63回直木賞候補(昭和45年上半期)
作品について
加藤薫らしい大学山岳部を舞台にした本格的な山岳小説。作品的にはもっと優れた同氏の作品があると思うが、数々のエピソードは、大学山岳部出身者にとっては懐かしさ溢れる作品だろう。
直木賞について
上記「強力伝」の欄参照

 
 
作品・作家
「密閉山脈」 森村 誠一
受 賞 等
第25回日本推理作家協会賞候補(1972年)
作品について
世に山岳ミステリーは数多いが、本当にミステリーと呼びうる作品は意外と少ない。が、本作品はトリックといい、背景のドラマといい見事としか言いようがない。比較的山度の低い森村作品の中では、山に真正面から取り組んでおり、山岳小説としてもお勧め。
日本推理作家協会賞について
1947年、日本探偵作家クラブ(現・日本推理小説作家協会)設立と同時に日本探偵作家クラブ賞として創設。その後、1963年に日本推理作家協会賞と改称。長編、短編、評論その他、の3部門に分かれ、各部門ごとに授賞を行う。

 
 
作品・作家
「腐蝕の構造」 森村 誠一
受 賞 等
第26回日本推理作家協会賞(1973年)
作品について
いかにも社会派ミステリー作家・森村誠一らしい作品。ザイルパートナーで対照的な男2人と女1人という人間関係、辛らつな企業批判、既に森村氏のスタイルを確立している様が伺える。山度は低いものの、森村好きにはたまらない一作であろう。
日本推理作家協会賞について
上記「密閉山脈」の欄参照

 
 
作品・作家
「九月の渓で」 梓 林太郎
受 賞 等
第3回エンタテイメント小説大賞(1980年)
作品について
多くの山岳ミステリーを生み出している梓林太郎のデビュー作。その後の作品のようにワンパターンで安易なミステリーとはなっていないものの、ラストは今ひとつ。本作品は「雪渓下の密室」(光文社文庫、日文文庫)に所収。
エンタテイメント小説大賞について
光文社が1978年に創設した賞。これまでの受賞者の顔ぶれを見る限りでは、大成した作家は残念ながら少ない。

 
 
作品・作家
「遠見二人山行」 長井 彬
受 賞 等
第36回日本推理作家協会賞短編部門候補(1983年)
作品について
長井彬の山岳ミステリーは、よく練られており実にうまい。但し、「北アルプス殺人組曲」「槍ヶ岳殺人山行」などでも同系統のトリックが用いられているところが難点。本作は「白馬岳の殺人」(大陸書房)に所収。
日本推理作家協会賞について上記「密閉山脈」の欄参照

 
 
作品・作家
「遥かなり神々の座」 谷 甲州
受 賞 等
1991年版「このミステリーがすごい!」第4位
作品について
絶妙な筆致で描く迫真の登攀シーン、息をもつかせぬストーリー展開、谷甲州の魅力が余すところなく出ている作品。山度も高く読み応えがあることはもちろん、冒険小説としても秀逸。
「このミス」について
毎年12月に宝島社より発刊される「このミステリーがすごい!」。前年11月〜本年10月に出版されたミステリーを対象にランキング。国内編と海外編とがある。週刊文春ベスト10と並びミステリーマニア必見!

 
 
作品・作家
「マークスの山」 高村薫
受 賞 等
第109回直木賞(平成5年上半期)
第12回日本冒険小説協会大賞(93年)
1994年版「このミステリーがすごい!」第1位
1993年「週刊文春」傑作ミステリーベストテン第1位
作品について
受賞内容を見ればわかるように、同年のミステリー会を席巻した感のある作品。山が物語のキーになっているものの、山岳描写はごくわずか。中井貴一主演で映画化。
直木賞について
上記「強力伝」の欄参照
日本冒険小説大賞について
内藤陳の呼びかけにより設立された日本冒険小説協会が、1983年に創立した賞。前年1年間に出版された本の中から、会員の投票により決定される。国内・海外部門の大賞の他に、特別賞、映画賞などもある。
「このミス」について上記「遥かなり神々の座」の欄参照
「週刊文春」ベスト10 について1977年から「週刊文春」の年末号で発表しているミステエリーベスト10.前年12月〜本年11月までに発表された作品を対象に、推理作家協会会員等へのアンケートを元に作成。

 
 
作品・作家
「凍樹の森」 谷 甲州
受 賞 等
第48回日本推理作家協会賞長編部門候補(1995年)
作品について
日露戦争直後の閉塞した時代を背景に、必死に生きる人々を描いた壮大な大河ドラマ的戦争小説、時代小説。いわゆるピークハント登山はないものの、森吉山やロシアの過酷な自然描写に谷甲州らしさが出ている。
日本推理作家協会賞について上記「密閉山脈」の欄参照

 
 
作品・作家
「夢幻の山旅」 西木 正明
受 賞 等
第14回新田次郎文学賞(1995年)
作品について
登山家にして画家、文筆家。“稀有の自由人”と言われた辻まことの伝記小説。作品への評価は辻まことの生き方に共感できるかどうかによると思われるが、山岳小説としては登山シーンが冒頭のみと少なめ。
新田次郎文学賞について
新田次郎の遺志により、その遺産の一部を基金にして1981年に設立された文学賞。形式は問わない(小説の他、伝記、エッセイ等も可)が、主に、ノンフィクション文学又は自然界に材を取ったものを対象とする。



作品・作家
「ホワイトアウト」 真保 裕一
受 賞 等
第17回吉川英治文学新人賞(1996年)
1996年版「このミステリーがすごい!」第1位
1995年「週刊文春」傑作ミステリーベストテン第2位
作品について
雪に閉ざされた奥遠和ダムを占拠したテロリストにただ1人立向う富樫。非現実的な事件に巻き込まれていく普通の人・富樫がうまく描かれており、物語にぐいぐい惹きこまれていく。織田裕二主演で2000年に映画化。
吉川英治文学新人賞について
吉川英治の業績を記念して1967年に設立された吉川英治文学賞の新人部門(新人賞は1988年から)。吉川英治国民文化振興会主催、講談社後援。前年に発表された小説の中から、将来性の高い新人を選出。
「このミス」について
上記「遥かなり神々の座」の欄参照
「週刊文春」ベスト10 について上記「マークスの山」の欄参照

 
 
作品・作家
「白き嶺の男」 谷 甲州
受 賞 等
第15回新田次郎文学賞(1996年)
作品について
我流ながら、天性のセンスで自然に親しむ加藤武郎。谷甲州言うところの「もう一人の文太郎」物語の序章とも言うべき短編集。本格そのものとも言えるストーリーは、山岳小説ファンにはうれしい限り。
新田次郎文学賞について
上記「夢幻の山旅」の欄参照

 
 
作品・作家
「神々の山嶺」 夢枕 獏
受 賞 等
第11回柴田錬三郎賞(1998年)
第16回日本冒険小説協会大賞(97年)
1998年版「このミステリーがすごい!」第6位
作品について
エヴェレスト冬期南西壁無酸素単独登頂を目指す羽生の物語。森田勝をモデルに使い、マロリーのカメラにまつわる逸話を巧みに組みこんだことから「盗作」との中傷も一部にはあるものの、山に登ること、そして生きることに真正面から取り組んだ力作。
柴田練三郎賞について
集英社主催、一ツ橋綜合財団後援により、1988年から表彰されている文学賞。集英社文芸三賞の一つ(他は、すばる文学賞、小説すばる新人賞)。
日本冒険小説大賞について上記「マークスの山」の欄参照
「このミス」について上記「遥かなり神々の座」の欄参照

 
 
作品・作家
「脳男」 首藤 瓜於
受 賞 等
第46回江戸川乱歩賞(2000年度)
2000年「週刊文春」傑作ミステリーベストテン第1位
作品について
感情を持たない男・鈴木一郎。特異なキャラクターを持つ主人公を通して描かれる人間の本質。ちなみに、谷川岳の登攀シーンはあるものの、山岳シーンはそこだけで山岳小説ではない。
江戸川乱歩賞について
江戸川乱歩の還暦を祝して創設された賞で、書き下ろしの長編推理小説を対象とする。日本推理作家協会主催。受賞作は講談社より刊行。これまで、森村誠一、長井彬、東野圭吾、真保裕一などが受賞。
「週刊文春」ベスト10 について上記「マークスの山」の欄参照

 
 
作品・作家
「狼は瞑らない」 樋口 明雄
受 賞 等
第19回日本冒険小説協会大賞 第3位
作品について
かつて大物政治家のSPを務めたゆえに、秘密を知りすぎ命を狙われる山岳警備隊員・佐伯。暴風雨の山中で繰り広げられる死闘、ラストのどんでん返しは冒険小説の王道。山岳小説としてもおもしろい。
日本冒険小説大賞について上記「マークスの山」の欄参照

 
 
作品・作家
「神々の山嶺」 谷口 ジロー
受 賞 等
第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞
作品について
柴田錬三郎賞を受賞した夢枕獏の「神々の山嶺」を漫画化した作品。谷口ジローの繊細かつ力強いタッチが作品にマッチしており、小説とはまた一味違う芸術に仕上がっている。
文化庁メディア芸術祭についてメディア芸術の創造・発展のために、文化庁が主催している芸術祭。平成9年度から毎年実施されており、 アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門について、大賞と優秀賞を選定している。

 
 
作品・作家
「クライマーズ・ハイ」 横山 秀夫
受 賞 等
2004年版「このミステリーがすごい!」第7位
2003年「週刊文春」傑作ミステリーベストテン第1位
作品について
日航ジャンボ機墜落事件を舞台に描かれる、男にとっての仕事、家族、山仲間の世界。深く考えさせられる作品。元新聞記者としての経験も遺憾なく発揮されている。登攀シーンを効果的にオーバーラップさせており、うまさが光る。
「このミス」、「週刊文春ベスト10」について上記「マークスの山」の欄参照

 
 
作品・作家
「灰色の北壁」 真保 裕一
受 賞 等
第25回新田次郎文学賞(2006年)
作品について
ヒマラヤのカスール・ベーラ初登攀を巡る謎を描いた作品。疑惑の初登攀などという陳腐な展開ではなく、男としての、クライマーとしての生き様が描かれている。真保氏の筆致、ストーリー展開が心憎いばかり。
新田次郎文学賞について
上記「夢幻の山旅」の欄参照

 
 
作品・作家
「岳」 石塚 真一
受 賞 等
第1回マンガ大賞(2008年)
第54回小学館漫画賞一般向け部門受賞
作品について
北アルプスで、山岳救助ボランティアをしている島崎三歩。山岳マンガとしても、人間ドラマとしても秀逸。その普遍性ゆえに山を知らない人も含めて、これだけ多くの人から支持されたのだろう。
マンガ大賞について
マンガ好きが、友達に勧めるならコレ!という気持ちで選ぶ賞。審査員は書店のマンガ担当者を中心に、新聞・雑誌記者やライターなど各界のマンガ好きの有志。2008年新設。
小学館漫画賞について
連載中の作品も含め、過去1年間に発表された作品の中から、対象読者を基準に「児童向け部門」、「少年向け部門」、「少女向け部門」、「一般向け部門」の4部門が設けられている。

 
 
作品・作家
「草すべり その他の短編集」 南木 佳士
受 賞 等
第36回泉鏡花賞(2008年)
2008年度芸術選奨文部科学大臣賞門受賞
作品について
作者を彷彿させるような主人公が、50歳を過ぎてから山へと向かい、自らの心と向き合い、生と死を見つめる。純文学の香り高き私小説。
泉鏡花文学賞について
金沢市が主催している賞で、「豊かな心をはぐくむ文芸の復興を通じ、市民文化の向上と地方文化の振興を期待し、昭和48年に泉鏡花生誕100年を記念し、泉鏡花文学賞(全国対象)および泉鏡花記念金沢市民文学賞を制定」したもの(「いいねっと金沢」より)。
芸術選奨文部科学大臣賞について
1950年に創設された文化庁が主催する賞で、各芸術部門ごとに顕著な活躍をみせた人に贈られる。文部科学大臣賞と新人賞とがある。部門は、演劇、映画、音楽、舞踏、文学、美術、放送、大衆芸能、芸術振興、評論等、メディア芸術の11部門。

 
 
作品・作家
「孤高の人」 坂本 眞一
受 賞 等
第14回(平成22年度)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞
作品について
新田次郎の「孤高の人」をモチーフにして現代の文太郎を描いた作品。人はなぜ山に登るのか、人はなぜ生きるのかを問いかけてくる。緻密な画も迫力満点。
文化庁メディア芸術祭について
メディア芸術の創造とその発展を図ることを目的として、文化庁が1997年から開催している。アート部門、エンターテイメント部門、アニメーション部門、マンガ部門の4部門がある。