ご挨拶(2009年2月3日)

 最近巷に多い、個人的ホームページとかブログとか、実はどうも苦手でして、そういうの、やった方が良いよ、とはまわりから言われましても「オレは稿料の出ない文章は書かない主義なんだ」なんて粋がってたんですが・・・でも仕事もここんとことんとヒマだし、少なからず思うところもあって、クライミング日記みたいなページ、私も作ることにしました。

 つっても私、こういうこと書き始めるとついつい文句の方にシフトしていってしまうクセがあるので、それでお客さん、ますますいなくなったら元も子もないんですが、まあせいぜい、敵を作らず、某Yさんのようにネコ日記にもならないように気をつけつつ、岩場で気づいたこと、感じたことを綴っていってみようと思うちょります。よろしく。

と、言いつつ、いきなり「考えるネコ」だす


2月3日 節分

 まず最初の報告は、この日曜(2月1日)に行なわれた湯河原幕岩清掃&整備山行から。
 これは地元OCC(小田原クライマーズクラブ)の西村誠さんが主催したイベントだったんですが、当日参加者はなんと130人! 幕岩が、まこと「国民の岩場」であることを、まざまざと感じさせる集まりでした。

 詳しくはOCCのホームページ見ていただくとして、ここで報告しておきたいのは、正面壁No1ルートの当面クライミング自粛のお願いです。
 これは中間部の大フレークが浮いていて、下手に力を加えると崩落する危険がある。もちろん取り越し苦労かもしれないし、逆に大騒ぎして町側を刺激してもどうもだし、といって本当に事故が起こったらそれこそたいへんだ、え〜と、どうしたら・・・ということだったんですが、結局、その可能性があるなら公表して当面自粛をお願いしようということに落ち着きました。皆さん、よろしく。


 それにしても、今回こうしたイベントに同席させていただいて感じたのは、やはり岩場整備の必要性と方法論ですね。
 私自身はかつては岩場にボルトなど、なければない方が良い、邪悪だ! なんて口をとんがらしてた方だったんですが、幕岩があのように使われ、しかもボルトがあのように「与えられた実存情況」として現にあるとですね、やはり公共物としてしっかりしたものは設置しなければならない。そう考えるようになってきました。

 ちなみに、このボルトの「与えられた実存情況」というのは、かつて私、『最新クライミング技術』で使った言葉なんですが、我ながらよくできた、なかなか奥深い意味を持つ、たいした(そこまで言うか?)言い回しだと思います。これはいずれ山の壁、特にロング&フリールートのボルトをどうするか、なんて時にもひとつのキーワードになると思いますから、皆さんぜひあの本買って、じっくり考えてみてください。

 って、話が逸れましたが、少し戻すと、その翌日、城ケ崎のファミリーエリアに講習で行った時のこと。ここはまた最近やたら残置スリング、ロープが増えていて(トップロープ、あるいはロアーダウン用)、今度はそれがたいへん気になりました。
 というのは、ひとつにはこんな人の多い観光地にこんな目立つもの、やたら残しちゃっていいのかな? という懸念。またひとつには、こういうものって、昔は自分で木にスリング巻いて支点にして、後でそれを回収して済ませていたのに、ここまでやる必要あるのかな、という疑問です。

 もちろんこういうのが非常に設置しづらい所、あるいは回収が危険な所(シーサイドなど)、たくさんの人がのべつ使うルートなどでは、終了点にボルトを打ったり、木に残置スリングかけておいたりも「有り」でしょう。しかし、自然を自然のまま保つことが可能で、それがちょっと労力をかければすむ所では、それで済ませるのが、「スジ」のような気がします。

 それは確かに面倒くさいものではあるかもしれないけれど、そもそも「フリークライミング」って、そういう「自然」に近付くための面倒くささをあえて甘受しようとするものじゃなかったでしょうか? 安藤忠雄の「住吉の長屋」みたいにですね、雨が降ったら隣の部屋に行くにも傘を差す、っていう面倒くささが、「自然への回帰」を旨としたフリークライミングの、原点だったんじゃないでしょうか。

 じゃあ、幕岩はどうなんだ、あるいは設置しやすいしづらいの差は誰が決める? と思う人もいるかもしれないけれど、そこはやはり、その岩場に即した、基準というか、スタンダードというか、要はパラダイムのようなものが必ずあると思います。そしてそれは、その岩場に何年も通う、ということで、わかるもののような気がします。

 良くないのは、下積みをせず安易に物事を決めること、逆にやたら原理主義にこだわってその岩場の現状を無視することでしょう。もちろん同時に、日本全国の「クライミングの常識」を理解するということも忘れてはならない。
 つまり、謙虚に、その岩場、そこの〇〇ルートを目指す1クライマーのココロを忘れないこと。
 それが結局、いろいろな意味で健全な、「フリークライミングの文化」を引き継いでいくことになるものなのではないでしょうか。
 100人からが集まる幕岩と、平日の静かな城ケ崎を訪れ、そんなことを思った2日間でした。


その岩場にはその岩場の基準がある。それはその岩場に通わないと見えてこないものだ


2月9日 

 幕岩の正面壁、行ってきました。
 で、例によって、No3ルート、登ってきました。
 このルート、講習会とはいえ、もう今シーズンだけでも5回目くらいになるんだけれど・・・、いやあ、なかなか、何度登っても、いいルートですなあ。

 だいたいこういう、やや複雑で、そこそこスケールもあり、なによりオリジナルティーあふれる名ルートというのはですね、何度登っても味わい深いつうか何つうか・・・、登る度に、その都度、なんか新しい発見があるもので、まあ、いうなれば、聞きなれた、しかし何度聞いてもほほ〜と唸る、お気に入りの音楽を聞くみたいなもんで・・・ちょっとエエカッコしいですかね。

 で、途中のフィンガークラックなんかも、「あれ、ここ、こんなに決まったっけ?」とか、小さいと思っていたフットホールドが「こんなに大きかっんだなあ、ホントは」とか、オレ、ひょっとして上手くなったのかな、なんて、別にたいした難しさじゃあないんだけれど、なんかこう、味わい方が磨かれてくるというかね。フリークライミングって、新たなルートやグレードを登れた時も面白いけど、こうやって、同じルートを何度も登って感覚が冴えてくるのを感じた時も、意外と面白いし、私はそういうの結構好きなんですよ。

 空にはノスリが飛んでいるし、振り返れば海はひねもすのたりのたりかな。
 豊一っつぁん(西村さん)に追いつくまで、もう少し通うか。


2月11日

 建国記念(ってどういう日なの?)の祝日は城山南壁、登って来ました。
 ここの高度感、狩野川からはじまる眺めの良さは「推薦ルート」のページにも書いたとおり最近の私のお気に入りになっとるわけで、今年はさらにここを、「ロング&フリー」のエリアとして整備再生させようかな、なんても考えてるところであります。

 で、それならさっさとボルトを打ち変えりゃいいんですが、しかしそれをいざ実行に移すとなると、ん〜、と少しばかり迷うこともなくはない。
 というのも、ここの既成ルート、って、確かにそれぞれフリー化されてはいるものの、それで改めて「フリーで登る」を前提に見てみると、???がちょっとばかり浮かんできてしまう部分がいくつかあるんですね。例えば横に良いホールドが続いているのに、ボルトラダーのラインは全然違うとこ登っているとか・・・。

 まあ、これはこの壁に限らず日本中のどこの壁でもそうで、特にアルパインエリアでは残念ながら日常茶飯事ともいえることではあるのですが(最近はフリーのルートでもそういうの、多いけどね)、なんかやっぱり、違和感あるよね。特に「ロング&フリー」っていう考え方からすると、ますます、ね。

 もちろんだからといって、この半分腐ったボルトラダーをただそのままにしておくってのも、今後改めて見直されるであろう(と、わたくし勝手に推測してるわけですが)「ロング&フリー」の場としてのこの壁の価値を考えると、ちょっとなあ・・・。

 さてさて、どうしたもんでしょうね?
狩野川〜天城山を見下ろす城山南壁
いい壁なんだけどなあ・・・


2月18日

 今日はクライミングの話じゃないけど、友達に、ええ本教えてもらいました。
 ジェリー・ロペス著『サーフ・リアライゼーション』(美術出版社刊 3200円)

 J・ロペスっていえば、サーフィン界で知らぬ者はいない、まさに頂点に立つ人で、氏の言った「サーフィンはスポーツじゃない。ライフスタイルだ」というセリフは、私、サーファーでもないのにあちこちで得意気に使わしてもらっているんだけど、要はそういう、自然を相手にしたリアルスポーツの、単に物質的成果だけではない、精神的なものを何より伝えてくれる、いわば神様的存在の、これは自伝なわけです。

 で、内容は、アタリメーですが、スバラシイです。
 この本、もちろん山とは無縁のものだけど、私的には10数年前に出た『ビヨンド・リスク』以来の、ご推薦“山の本”に挙げたい一冊ですね。海と人との誠実な関係、生きるか死ぬかという緊張感を前にしての精神的ありようなど、ん〜、これってクライミングにも通じるものがあるよな、と思わせる部分がテンコモリです(本国での出版は、なんとパタゴニア・ブックスでした)。

 特に私的には「1950年代から60年代初期にハワイで育つことは最高の幸せだった」という書き出しから続くサーフィンの黎明期というのかな、氏自身にとっても下積みの時代に関してのクダリが、手前味噌ながら自分の70年代タカトリ時代(詳しくは『我々はいかに石にかじりついてきたか』参照)となんかダブるものを感じられて、良かったですね。

 そういえば最近、『セテップ・イントゥ・リキッド』っていう、これまたサーフィンのドキュメントムービーで、60歳近くになったロペス氏が出ていたんだけれど、そこで語ったセリフが、またシビレました。
 曰く「最初の20年は、そのスポーツを自分が本当に好きなのか、自分はそれをやるべきなのか、問う20年だ。その次の20年が、本当にそれを楽しむことができる」

 く〜〜、なんともいえないですな。しかもこれを、きわめて若い頃からパイプラインの神様と崇められてきたロペス氏が言うってんだから・・・。
 このセリフも、そのうちどっかで使おう思ちょります。その節はよろしく。

こんなのも、なかなかクライミングの糧になりますぜ


2月21日

 視覚障害者の体験クライミング教室を手伝ってきました。
 これはNPO法人「モンキーマジック」が主催したもので、場所は世田谷区の烏山中学校一般開放施設にあるクライミングウォール。今回は久我山盲学校の子供たちが対象でした。

 実は私、前々からこの団体のお手伝いを、たまにではありますがさせていただいてまして、最初は「目の見えない人がクライミング?」と思ったものですが、やってみるとこれがなかなか。モンキーマジック代表の言う「クライミングは視覚障害者に適したスポーツ」という言葉が、なるほどと頷くことしきりでした。

 なにしろクライミングっていうのは、相手が動いて来るわけではなし、目が見えなくて全部手探りにせよ、なんとか探せば掴み所が見つかって、それを辿っていけばなんだかんだ登れてしまう。視覚障害者だからといって特別な設備を作る必要もない。で、登りきった時の嬉しさは、おそらく我々となんら変わりはしない。

 まあね、そりゃそうでしょうね。クライミングって、あたりまえだけど、基本的に面白いものですからね。

 しかし、そういう彼らを見ていると(本当はそうやって特別視してはいけないんでしょうけど)、やはり「クオリティー・オブ・ライフ」というものを考えずにはいられません。人間が人間らしく生きるための一要素としての「遊び」が、我々にとっていかに大切か、ということでしょうか。

 私なぞ、その「遊び」を仕事にしているわけで、たまに後ろめたい気もする時あるんですが、ここはひとつ開き直ってですね、その「遊び」の大切さをもっと伝えていかなきゃ、と、思った次第でした。
こんな壁でも手探りで登っちゃう。
なかなか楽しそうだよ


2月22日

 天気予報は「日差しに恵まれた暖かい週末」とのことでしたが、いやあ、寒い城ケ崎でした。海は大時化、うさぎぴょんぴょん(業界用語)のドン吹きで、よりによってそんな時にオーシャン、なみだちと回ったものだから、髪の毛ごわごわになってしまいました。

 しかし、クライミングには辛いものだったけど、海って、荒れてても、やはりエエですなあ。オーシャンのてっぺんでビレイなんかしていると、波頭に風が当ってそれが鳥の群れのように散り、ビャッって感じで海面に見事な模様を作る。海鳥はそんな海面をかすめて飛んで、ドン吹く風もまるで5.7のスラブのように自由に行き来している。

 いやあ、たいしたもんだね、自然て。

 いつもはボルトの打たれた壁だけ見て、指先が滑った滑らないなんてことにシャカリキになっているわけなんだけど、たまにはいいね、こういうシチュエーションも。
 ああ、フリークライミングって、こういう世界を登るものだったんだなあ、なんて、ミョーに感じいってしまいました。
 ロペスの本の影響かな?

 そのロペスについて昔、トム・カレン(80年代の西海岸のサーファー。10代でワールドチャンピオンに君臨した)が言っていた言葉。
 「大波の中で、すべてのサーファーは顔面を引きつらせ恐怖におののきながら波をメイクしている。でもロペスだけはまるで散歩でもしているようにリラックスして平然と乗っているんだ」

 ん〜、カッコええ。
 でも波間の鳥を見ていると、彼らもそうだよね。
 こいつはなかなか、適いませんわ。
なみだちの「シンクロックス」。風がちょっと・・・


3月5日

 首の後ろから肩、背中にかけて、ミョーにだるいのは、珍しく2日続けてやったボルダリングのせいなのか、風邪気味のせいなのか、昨日知り合いが家に来て久々に飲んだせいなのか、わかりません。ま、ボルダリングも飲みも、楽しかったからいいや。

 ところで、その知り合いというのはここ数年、NGOでカンボジアに行っている「ちゅうさん」なる人で、もともとは小川山なんかにもルート作ったりしていたのですが、今回の赴任先でもアメリカ人と結託してなにやらルート開拓なんかしているという、まあ、根っからのクライマー人種です。ヤマケイとか岳人なんかにもその報告、出てるんじゃないかな。

 で、いろいろ話を進めるうちに、カンボジアに「クライミング」を根付かせたいという話になりまして、私も大いに盛り上がりました。
 というのも、クライミングって、一般的には贅沢な遊びというか、それなりにお金のかかるスポーツという印象が強いけれども、私に言わせれば、そうでもない。
 靴さえあれば(普通のズックでもいいよ、この際)ボルダリングはできるし、ロープ1本あればそれこそスゴイ体験ができる。
 そういや私、昔陸上競技やってた頃はスパイクさえ買えなくて情けない思いしたんだけれども、アップシューズで鷹取山登っているのは、なんか楽しかったなあ、なんて思い出してしまいました。

 それと、カンボジアというとすぐこれに結びつけちゃうのもどうかと思うんだけれど、地雷で片足なくした人。そういう人にとっても、考えようによっちゃ、クライミングって、最適なスポーツなんじゃないかな。なんか日本にも、片足で、他人の登れないような所、平気で登るオッサンもいるしね。

 おっ、いいね、この案は! つうわけで、これからいろいろ画策してみるか、という話になったんだけれども、さて、どこまでできるか。ちょっと心踊りますね。


                 カンボジアの岩場とクライミング風景↓


3月8日

 幕岩から城ケ崎と、回ってきました。
 城ケ崎では富戸から午後は、オーシャンロックに転進。
 両エリアとも相変わらず誰もいない中、いくつかのクラックを登ったんですが、城ケ崎のクラックって、意外とナッツがよく利きますね。

 いや、意外と、というのはウソで、予想通り、と言うべきかな。
 特にオーシャンで登った「カラス」なんて、ほとんどナッツのみで登れて、しかもそちらの方が登りやすくさえ感じました。

 実は私、最近、幕岩正面壁とか城ケ崎のクラックを登る時、ナッツを努めて使うようにしてるんですが、これってあえて難しいことやろうとしてるのではなくて、この方がよく利くし、セットしやすいからなんですよね。強度的にももちろん強い。

 最近、クラックが流行りだって言うけど、どうも見ていると高性能カムに頼りすぎているように思えてならない。ずっと以前、瑞牆の某ルートでカムが外れて事故った人を運び下ろしたことがあるですが、それもナッツならバチ利きに利く所(シンクラック)だったから、なんか違和感を覚えたものです。

 みんなもっと、ナッツを使うようにすれば良いのになあ、と、常々思っていて、それで最近、強いて自分でも使ってみるようにした、結果、やっぱり使いやすかった、というわけです。

 しかもそれで登ってみると、なんか、やっぱいいね。「フリー」っていう気が、すごくする。
 私自身はカムの方が利く所であえてナッツにこだわろうと言う気はないけれども、ナッツでしか登れない所をナッツで登る、っていうのは、これはこれで楽しい気がします。

 城ケ崎って、そういうクラック、実は結構あるから、これからそれを探してみようかな。
オーシャンロックのカラス
ナッツの練習にいいよ


3月9日

 変わって城山。
 天気予報いまいちに加え月曜ということもあって、誰もいませんでした。
 で、それなら、ということで、前から気になっていた、バトルランナー〜ダイレクトルート間のフェースを、50m2本つなげての長いトップロープで登ってみました。

 というのも、このあたり、私、講習会でバトルランナーからハング下を左に巻いてよく登るんだけれども、うんとやさしいんだよね。ひょっとして、南壁の中で最もやさしいラインが引けるんじゃないか、って、前々から感じていて、さて、それでそのラインを下からダイレクトに登ってみると、確かに5.7〜5.8くらいでした。
 さらに上もやさしそうなホールドが続いていて、やっぱりここって、南壁で最もやさしいラインじゃん、と確信するに至りました。

 でも、考えてみれば、それって不思議だよね。
 クライミングって、そもそもその壁の一番やさしそうな所を選んでルートを作るものなのに、なぜここはそういうラインにルートが無いの? しかもこのラインって、だからどうでもいい所に逃げた、というものではなくて、立派に壁のど真ん中を直上してる。
 なんでそこにルートが無い?

 しかしまあ、それも城山の、人工登攀で開拓されて、そのボルトラダーがフリー化されてルートになったという歴史的経緯を考えればわからないでもない。でも、だからといって、他の誰もここに目をつけないというのも、ちょっと・・・という気がします。
 さて、それならここにボルトを打つか、と思ったんだけれど、しかしそれもちょっと・・・と考えてしまいました。

 というのは、なんかそれって、ガイドがお客さん登らせるためにルートを作ってるみたいで、気が引けるんですよね。そういうルートって、実はあちこちの岩場によくあるけれども、一クライマーとしてその岩場に出かけていってそういうルートを見ると、なんか違和感を感じる。それがどうも引っかかるからです。

 といって、岩場の本来のオリジナルラインを無視し続けるっていうのもなあ・・・。
 さて、どうしたものか・・・。
ラインはほぼ中央、グレードは5.8×100m、かな


3月15日、16日

 日曜日だというのにお客さん、いなかったもので、(ジムを除けば)久々のプライベート・クライミングしてきました。っつっても城山南壁で前から気になっていたラインを登るというだけでしたが、目先の変わったことをやったので、これがなかなか充実でした。

 まず15日は登研の増本亮くん(クロヒゲ)と、静岡北嶺ルートへ。ここはどのトポにも5.10、A0 と書いてあるので気になってたんですが、なんとか無事(二人とも岩が欠けて1回ずつ落ちましたが)、フリー化できました。
 グレードは予想外に高く、5.11bくらいかな。
 顕著な2つのハングの、下が10c、上が11bで、どちらもリングボルトに加え、ハング上に微妙に立ち込むムーブで、たいへんに怖いです。
 ここはクロヒゲがリードしたんだけれど、さすがという感じでした。
 内容的にはなかなか濃いので、そのうちボルト打ち変えようかと思っています。

 さらに午後は前回このページで紹介した、ダイレクトルート〜バトルランナー間のフェースへ。
 結局ここにはボルトは打たず、この際だから穴にカムなどを利かせた、オール・ナチュプロ・クライミングを試してみようということで取り付きました。
 で、結果は、2ピッチ目で怖くなって古いリングボルト1本使用、上部も私、怖くなって左のダイレクトルートのビレイ点に入り込んでしまい、その上のピッチはカムが全然利かずにボルト1本使わざるをえなく、オール・ナチュプロは完遂できませんでした。
 でも久々に緊張感のある、いいクライミングでした。
 特に2ピッチ目、クロヒゲは、いい度胸してました。なんだかんだ私はこのあたり、講習会でしょっちゅう登っているし、前回などトップロープもしているので登れて当たり前なんですが、クロヒゲの場合は完全にオンサイトですからね。そこに、5.9とはいえ、ボルトから先は20mほどのフェースに甘く差し込んだキャメロット赤1つのみ。ビレイしてても「ボルト使って!」と懇願したくなるようなクライミングでした。
 さすが、毎週のように際どい冬壁登ってるだけはあります。
 思うに、フリークライミングの集中力鍛えるために、冬壁って、結構良いんじゃないかな。
 3ピッチ目は私も完全にオンサイトで臨んだんですが、さすがに40m近くロープを伸ばしてしまうと、落ちたらあんなカムなんか全部吹っ飛ぶんだろうなあ、と考え出した途端に怖くなり、イモ引いてしまいました。
 う〜ん、セルフコントロール脳力がいまいちだったな。冬壁で鍛えなおすか。



 翌16日は、南裏家の隠れた(隠れてないか)鉄砲玉、保恵氏と再び南壁。
 どこ登ろうかと迷った末、もう一度昨日のナチュプロルートをやってみたくなって、再チャレンジとなりました。まあ、今日は昨日の試登があるので大分気は楽ですが、それでも相当頑張ってボルトには一切触れずに、壁の終了点まで登りきることができました。
 グレードは、2p目が5.9で、あとは5.8くらいかな。
 形容詞グレードは、基本的にやさしいし、カムも、最後以外は意外とたくさん(5mおきくらいに)セットできたので、R。しかし、落ちた時にこのカムが、あの柔らかい岩に本当に利いているかどうか考えると、X。どっちが正しいかは実際に落ちてみないとわからないですね。とりあえずビレイしてくれた保恵ちゃん、ありがとう。
 このライン、実はもともと古いボルトがあるので、これらを使って登っても、「オリジナル」という感覚が味わえる良いルートだと思います。

 午後は前回(昨年暮)に登った三日月ハングのAルートのボルト打ち。
 しかし、ここも、人工のボルトラダー沿いだと5.10cなんだけれど、その左のラインがホールドが多く続いていて、いかにも自然に見える。
 既成ラインか自然なラインかでずっと悩んでたんですが、三日月ハング下のビレイ点からロアーダウンしてトライしてみると、5.9+くらいでなんともほどよい。やっぱフリーって、自然なラインでしょ、ということで、そちらにボルト打つことにしました。
 で、結局そのボルト打ちも、途中でまたもバッテリーが無くなり、4本+ビレイ点2本しか打てませんでした。が、とりあえずオリジナル部分はカバーできたので、古いボルトとあわせてルートは完成です。名前はA”ルート。
 講習会用ということではなく、あくまで自然なラインということで作ったものなので、ぜひ登ってみてください。そのうちボルトも整理します。


3月28、29日

 28日土曜越沢、29日日曜二子山中央稜と、珍しくアルパイン系の岩場に行ってきました。

 二子はまあいいとして、越沢は、久々に登ると怖いですね。つるっこいホールド、剥がれそうな岩、しかも支点はハーケン。グレードは低いけれど、逆にここでは失敗は許されません。
 というわけでまわりの連中に「越沢行って来た」なんて話すと「仕事もたいへんだね」なんて言われるんだけれども、でも私、こういうクライミングも、「フリー」の練習にはけっこういいんじゃないかと思ってます。
 それはやはり、集中力と注意深さ、コントロール能力を試されるからでしょう。そういえば昔、池田功さんが、自分はよくここでフリーソロをしているんだということを教えてくれたことがあるけど、それも、いろんな意味で、さすが、という気がしますね。


 ところで、それとは別に気になったのは、こうした系列の岩場にもハンガーボルトがずいぶん増えてきたなということです。
 私自身、リングボルトをハンガータイプに打ち替えるのは大賛成なんですが、越沢にそういうのがあると、なんか違和感あるよね。
 それは、ここがフリーの岩場じゃないから、という理由ではなく(私は、「フリーの岩場」だと思ってますが)、ハーケンという方法が生きている岩場で、それが怖いからとボルト打っちゃうのは、これはこれで、どうかな、という意味です。
 実際、一般右ルートなど、リングがハンガーに打ち変わっているのはいいとして、ハーケンの横にまでハンガーがバーンと設置されているのには、ちょっと首をかしげてしまいました。

 そもそもボルトって、ハーケンが打てない所に仕方なく使うもんだよね?
 さすがに今、ナチュプロが使えるクラックの脇にボルト打つ人はいないけれど、ハーケンだって、ある意味ナチュプロ、少なくともナチュラル由来のプロテクションではあるわけだしね。
 リボルトを中心とした岩場の整備が最近あちこちで進んでいるけれども、クライミングのフィロソフィーというの?ちょっとおこがましい言い方ではありますが、それをしっかり考えないと、逆に変な方向に進んじゃうんじゃないかな。

 翌日行った二子のローソク岩なんかもね、ちょっと猛烈すぎる気がしました。要するに、岩場をだいじに使っていない、あるいは、クライミングを真剣に考えていない、というのかな。そんなこと言っちゃあ失礼かもしれないけど、どうしてもそういう感じを抱かざるを得ませんでした。

 などなどということをあれこれ考えつつ中央稜登った後、ちょっと東岳のフリーエリアに寄ってみると、相変わらずいますわいますわ。
 午後もそろそろ終りというのに、60過ぎたオッサン(実は登山界では高名な人)が、下でクダまくワカモノたちを尻目に「ホテル二子」を何度も続けざまに登ってたり、そういう下にいる連中だって、あそこのムーブはああがいいとかこうがいいとか、指、ずいぶん疲れちゃったけど、次登れるかな、とか、みんなそれなりに真剣で、なんか、こう、渇いた喉に清涼剤を一気に流しこむような感覚を覚えました。
 二子ってたまに来ても全然登れなくて、ああ、真面目に岩場来てちゃんと登んなきゃダメだなといつも反省させられるわけなんだけれども、岩場はやはり、しっかり教えてくれるもんですね。

越沢第2スラブと二子山中央稜。両方とも楽しかったです。 東岳のルートを登るクライマー。


4月25日

 先々週の頭からずっと瑞牆に撮影、&取って返して伊豆方面で講習会、&いろいろで、久々に“ぎうぎう”(これわかる人、相当ハマってます)でした。
 おかげで、私の真の生き甲斐であるお花見も、今年はできずに終ってしまいました。ガッカリ。
 でも今回、十一面岩と大面のマルチピッチルートの取材で(次号ロクスノから少し連載します。よろしく)ほとんどのルートを再登することができたし、天気も良かったから、まあいいや。モデル代もあげられないのに一緒に登ってくれた皆さん、本当にありがとう。

 それにしても、瑞牆は、やっぱりいいですね。
 あの山深さ、なんか住んでいるとしか思えないアニミズム的な雰囲気、岩場からの「ほ〜、こりゃまた〜」と思わずため息つきたくなるような眺め、加えて、硬い花崗岩を掴んで高みにどんどん登っていけるクライミングの面白さ。
 ああ、やっぱ私は、この山だわ、と、つくづく、感じ入ってしまいました。

 で、そうした数々の思い入れの中で、特にこれ、ってのは、この山には人の臭いがしない、人工物が実に少ない、ということでしょうか。
 まあ、そりゃね、下には林道が走っているし、大きな植樹祭公園もある。岩場にだって、ボルトや残置支点は決して少なくはない。
 しかし、それでもやはり、他の山、クライミングエリアに比べると、人工的な部分は最小限に抑えられていて、山本来の姿が残されているように感じる。それは、必ずしも私1人の思い入れによるものではないでしょう。
 「ウィルダネス」っていうんでしょうかね、そういう言葉が思い浮かんできます。

 そういえばヨセミテのトォラミメドウズにはカシードラルピークという、とても目立つ山があって、そこには10ピッチくらいの、非常に人気のあるクライミングルートがあるんだけど、驚くことにこの山、全山、全岩場を通して、人工物が何ひとつ無いんですよ。
 特に岩場など、北岳バットレスくらいの大きさの壁に、中間支点はおろか、ビレイ点まで何一つ無い。どころか、頂上は完全な独立ピナクルで、そこに上がるには5mほどW+くらいのクライミングをしなければならないんだけど、その頂上にも懸垂下降ピンは無い。つまり、下りる時はクライムダウンしなければならない。
 この山、初登頂はかのジョン・ミュアで、それもあって再登者たちも「完全自然のまま」を守ってるんだろうけれど、それでもシーズン中は毎日10パーティーは登るような所ですからね。今まで何十年もそれで、1本もボルトやハーケンが打たれなかったっていうのは、実にすごい気がする。
 クライミングの(いや、登山の、か)文化というものが、成熟して、生きているんでしょうね。

 瑞牆山も、まあ、そこまではいかないまでも、できるかぎり完全な山でいてもらいたい気がする。
 さずがに今の時代、ボルトを打つなとは言えないし、それどころか自分でも何本も打ってるんだけど、それでもそういうボルトを設置する際、このボルトは、この山に、この山の一部としてふさわしいものなのか、それこそ1本1本、常に考えつつ打つくらいの意識は欲しいものです。
 そういう意識が、自然をリスペクトしつつ登る「フリークライミング」ってもんで、それをこの瑞牆山は、どっしりと抱え込みつつ、我々に至福の体験を与えてくれているのでしょう。
 なんて、瑞牆のことになると、ついつい思い入れが強くなりますね。






←お馴染みベルジュエール。こりゃ爽快だ
↑瑞牆山庭園からの十一面岩の眺め。拝みたくなります


 さて、かわって小川山。
 瑞牆の取材で人が足んない時に2日ほど登りに行きました。
 で、瑞牆からこっち来ると、当然、ヒトくさいっていうか、人工的な雰囲気に、気分は一気に変わってしまうんだけど、こちらはこちらで、また感心することはたくさんありました。
 っていうのは、やはりここのルートって、一つ一つがホント厳しいんですよね。
 11aだのbだののスラブなんて、話だけ聞くとなんとも軽く感じちゃうのに、やってみると、実に難しい。
 確かにここには瑞牆みたいなワイルドさはないけれど、その分、にっちもさっちもいかない技術手的な難しさがある。
 例えば水晶スラブの「ノイズ」なんて、十一面あたりの感覚では11bとかcでもいいとさえ思えるのに(十一面は確かにグレードは甘いね)、ここで登ってるごく一般的なクライマーに聞くと、「ええ? あれはお買い得の11aでしょ」なんて言われる。
 とは〜、ほんとですかね?
 ここで久々にそういうクラシックルート登ると、こういう厳しいグレードきっちり登ってる人たちって、ホント偉いと思いますよ。

 小川山も一時期、そういう「ちゃんとしたルート」を登るクライマーが減って、ボルダラーか(彼らは彼らで頑張っているけどね)、講習会、または山岳会がお茶濁しでセレクションを1日かけて登る、なんていうのばかりになっちゃってたけど、今回は2峰でも「お手柄ブルースさん」や「蜘蛛糸」なんかをやってる人がいて、ん〜、クライマーが、戻ってきたなあ、とつくづく感じ入ってしまいました。
 こういうルートって、登ったからって記録にもなんにもならない割りに、いざ登ろうとすると、そう簡単ではない。特に小川山の場合、力さえ鍛えりゃ良いってもんじゃないから、ホントたいへんだよね。しかもこのくらいのグレードだと、スタイルも当然問われる。
 いやいや、考えるだに、楽じゃない。
 でも、それが「フリークライミング」に取り組むってことだろうな。
 今年は私も、まだ登れてないルート、頑張ってやってみるか。
←屋根岩2峰「PTA」。11bって、こんなに難しいの?


4月30日

 小川山で、今年初の講習会やってきました。
 本当は甲府幕岩の予定だったんですが、竜王経由で行ったら、観音峠手前で通行止めになっていて、急遽転進しました。
 (ちなみにこのゲートは、当分開かないみたいです。比志からの道は通じてる模様)

 先週より大分寒かったけど、天気は相変わらず最高で、静かなクライミングを楽しむことができました。
 この日はシーズン初めということで、まずはマラ岩。
 川上小唄から始まり、ホリデー、龍の子太郎、カサブランカ、カシオペア軌道など、名クラシックを一通りなぞりました。
 久々にこういうの登ると、ん〜、スラブが怖い。
 しかしそういう一方で、登っていて全身にα波を感じる、素晴しいルートでした。

 ところで、こうした名クラシックが、なぜ“名”なのか?
 講習生からもそう聞かれて、私自身もちょっと答に窮したんですが、う〜ん、やはり、小川山の、小川山らしさを、しっかり持っているというか、ここで始まった「フリークライミング」という文化を、その考え方も含めて、具現化してるというか――こういう話になるとついついこんな口調になっちゃうんだけど――、要はそうしたフィロソフィーを、肌で感じることができるルートだということでしょうかね、結局。
 そのライン取りの絶妙さ、ミニマム・ボルトの冒険性、しかも攻撃的な難度。
 クライミングルートって、やはり一つの芸術作品ですからね。
 ホリデーやカシオペア軌道なんて、本当に質の高い芸術、という気がします。

 そういった意味で、「クラシックルート」って、うちの講習会では大切にしているんですが、けど問題は、今現在のクライマーには、どれが「クラシック」なんだか、わからない、ってことですよね。
 例えばマラ岩で一番最初に登られたルートが「ホリデー」だなんて、普通、知らない(マラ岩なんて名前つけたの誰だ? なんてこともね)。
 そういうこと、本当は知った方が良いし、我々もそういうの、しっかり伝えるべきなんでしょう。

 そういえばピーター・クラフトが『ビヨンド・リスク』の中で「私には人より歴史を重んじるところがあるのかもしれませんが・・・」なんて発言していて、なんか今の時代にはそぐわないんじゃないかなんていらぬ心配もしてしまったんだけれど、でも逆に、こういうことを自信を持って言うって、すごくカッコイイ気がする。
 日本にも、そういう気運が高まるといいですね。
←マラ岩「ホリデー」。昔によくこんなの登ったなあと感じさせる、絶妙なイヤラシサです

→次の日は2峰セレクションへ。カラマツの淡い新緑が、α波全開でした


5月18日

 G・W明けたと思ったら、あらまあ、もう18日?
 なんか、たいした仕事もないのに、落ち着かない日々を過ごしてしまいました。
 連休も、お客さん少なくて、さえない感じだったしなあ・・・。

 で、早くも梅雨空を予感させる今週末で、久々にジム(パンプ2)で登りました。
 ツナミが変わってて、久々にオンサイトトライをたくさん楽しめたけど、なんか、今回、グレードがずいぶん変に感じられました。
 どれもこれも異常に甘めで、話によるとリニューアル直後、お客さんに「グレード辛すぎる」と言われてスタッフが数字変えちゃったんだとか。
 それにしてもヤケになりすぎというか、ここまでしなくても・・・と思わせるくらいの混沌ぶりですよ、どうも。12aでも甘いくらいの12cがあったりね。

 しかし、この4〜5月ずっと行ってた瑞牆でも感じたんだけど、グレードはやっぱ適正なものじゃないと困るよね。
 外国なんかではルート図集も、改訂版が出る度にグレードが変更になっていて、「インフォメーション」としてのグレードというものに非常に気を使っていることがわかる。
 でも日本では「初登者に勝手に・・・」なんて言って、これを変えることをどうも嫌う。つったってなあ、初登者だって勝手につけてんだろうに、と思って私、昔、編集者時代にグレード変更を平気でやって、結構文句言われた覚えがあります。
 まあ、さすがに今はそんなこともないだろうけど・・・。

 でもそのグレーディングも、よくよく聞いていると、「?」と思うことが少なくない。
 「私が〇回目で登れたんだから、いくついくつだ」あるいは「自分がこれだけ苦労したんだからいつくだ」というやつですね、一番気になるのは。
 これは意外と経験豊かな人も口にすることなのでビックリしてしまうんだけど、グレードって、そういう基準でつけるものではないんじゃないかな。
 〇〇ルートと比べて、このぐらい難しいから、いくつだ、と決めるものでしょ?
 あくまで他ルートとの比較で述べるものであって、しかもその比較のためには、膨大な量の他ルートの経験が必要になる。かつ、それらを客観的に判断できる能力、経験も必要になる。

 それを、自分を基準に主観的な感覚でつけたら、やはりおかしなものにはなるよ。
 今回パンプでも「自分はこのグレードならもっと簡単に登れた。これは辛い」という人が多かったっていうんだけど、そういう自分の記憶って、結構いいかげんなものだよね。さんざん通ってようやく登ったものでも、後から考えるとずいぶん簡単だったように感じられてしまう(だからレッドポイントって、できるんだよ)。
 瑞牆も、エリアによって、またルートによって、ずいぶんとグレードに差があったなあ。
 感情的ではなく、あくまでオトナの見方で、グレードはもう一度しっかり考え直さないと。
 なんていったって、これを最大のインフォメーション、しかも共通のインフォメーションとして、フリークライミングは成り立っているんだから。
パンプ2のツナミ。
やっぱここは、素直に面白いけどね


5月29日

 またまた、ずっと小川山〜瑞牆に行っていました。
 今回もロクスノの取材で大面、カンマンボロンだったんだけど、ゲストはなんと平山ユージ。いや〜、良い写真が撮れるかどうか、緊張しますわ。

 と、その前に、今回は小川山で大ハプニング。
 廻り目平駐車場に車を入れた瞬間、石が車底にぶつかり、オイルパイプが切れてしまいました。
 当然、車はエンコで、ジャフ呼んで野辺山の工場で修理することになってしまい、あ〜、ショック。
 その石ってのは、みんながよく車止めに置いてるやつなんだけれど、だいたいオートマ車で車止めなんかいりゃしねえよ、石置いたら片付けとけよ、って感じで八つ当たりしたくなってしまいました。
 なんせ修理費4万円だったからね。皆さんも石には気をつけましょう。

 さて、気を取り直して瑞牆。
 豪華なゲストに加え、登るルートもわたくしめの作ったルート「イクストランへの旅」ですからして、心は踊りに躍ります。
 ビレイヤーも、室岡省吾新婚夫妻と、ノリ君(本名忘れた、すまん)が協力してくれて、ほんまありがたいこってす。みなさん頑張りましょう!

 ってことで、結果は「イクストラン」、核心の1、2p目を見事オンサイト。3p目のスラブでフォールしたものの(あのペロペロの靴ではねえ・・・、オレをなめてますぜ)、見事ワンプッシュで第2登を記録いたしました。
 つっても、初登のワタクシ、実は各ピッチを別々の日にレッドポイントしたに留まり、ワンプッシュでは登ってなかったから、実質今回が初登かな。

 それにしても、核心2p目のオンサイトはさすがでした。
 まあ、このグレードならユージさんならアタリメエと言やアタリメエなんだけど、それでも私、このピッチはムーブを解明するのにえらい苦労しましたからね。それをほとんど寸分違わぬムーブで一撃したのには、感動してしまいました。
 まるで自分の手柄のように、雄たけびをあげたくなってしまいましたわ。
 いや〜、いいもん、見せてもらいました。

 しかし、こうして自分が苦労して作ったルートを、こうして素晴しいクライマーが来てオンサイトしてくれるのって、しかもそれを目の当たりに見られるのって、すごい体験だよね。
 開拓冥利に尽きる、っていうんでしょうか。
 私自身はそう開拓ってする方じゃないんだけど、やはりルートって、一つの芸術、とまではいかなくても「作品」ではあるからね。それを完璧に理解して受け取ってもらえるというのは、創作者にとってはやはり至福の瞬間でしょう。
 作って良かった、ってつくづく思える今回のオンサイト劇でした。

 ちなみにグレードはクロニクルの発表より若干上がって、1p目12c、2p目13a、3p目12a、というところに落ち着きました。
 皆さんもぜひ登ってね。
2p目をオンサイトするユージさん

5p目をフォローするノリ君。
クラック、ガンバ!

省吾くん夫妻もありがとう。
楽しかったす

2日目はカンマンボロンのN・N社長ルートへ。こちらも超三ツ星


6月5日

 三宅島へ行ってきました。
 目的は、なんと、海鳥の調査。

 って、何それ? なんで? って説明すると長くなるんですが、実はこの島の沖合い10kmほどの所に「三本嶽」っていう100mほどの岩塔がにょっきり生えてまして、そこには「カンムリウミスズメ」という稀少の鳥が棲息している。で、三宅島のあるイベントに協賛社「ホグロフス」の一員として訪れた磯川君が「あの岩、登りたい」と島の人に話したところ、では調査も兼ねて、と、コラボが成立したというわけなんであります。

 ちなみにこの「カンムリウミスズメ」というのは、かつてNHKの『ダーウィンが来た』でもやったことがある非常に変わった鳥で、私、そんなのがいること、もちろんこれまで知らなかったんですが、話を聞くうちにたいへん興味を沸かされまして、すっかり夢中になってしまいました。

 鳥はもともと好きだったけれど、こういうふうに新しい世界を知るのって、いいよね。
 これからこちらの方向に少しシフトしていってみたいな、なんて密かに思ってしまいました。日本野鳥の会にでも入るかな(マジの話)。

 さて、それでこの「三本嶽」の登攀なんですが、残念ながら海のコンディションが悪く、上陸さえできずに終ってしまいました。トホホ。
 でもまたいつか、必ず、ということで、コラボは継続中です。よろしく。

 (協力:(財)日本野鳥の会三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館)

船からの三本嶽。
いや〜心が躍る

三本嶽の全貌。
予定では正面の壁を登ろうかと・・・

 さて、それで余った1日半をどうするかということで、お決まりの岩場探しへ。
 「三本嶽」からの岐路、船の船長さんが寄ってくれたあたりへ行ってみようということになり、新しくできた溶岩流の跡をはるばる越えていくと・・・。

 ガビョ〜ン! 出ました、夢のような絶壁が!
 溶岩流に封鎖されたかのようなシークレットビーチに、高さ20〜30m、幅200m近くに及ぶ岩壁が、忽然と目の前に(なんか、紋切り型の表現だな)。

 いや、マジ、こりゃすごいですぜ。
 規模はシーサイドと同じか、ひょっとしてそれ以上かな。
 傾斜はそこまでないけど、クラックの数は確実に多いし、その気になればハングにフェースルートも引ける。
 いや〜、こんなことって、あるもんだね。

 ということで、早速4本ほどのルートを登りました。
 上が急な草付で木が無く、道も無いので終了点の設置がたいへんだけれど、とりあえずはナチュラルなクラックが多いので、それを登ってボルトを打つという感じかな。
 アクセスも、いろいろ考慮しなければならないことも多いとは思いますが、地元の人たちとも相談しつつ、これから開拓を進めていきたいと考えております。乞う御期待。

 (協力:沖倉商店(ブログ http://ameblo.jp/okikura)、民宿スナッパー)

突如現われた奇跡のような入り江

まったく夢のようです

早速中央のクラックを磯川君が初登。5.9くらいかな

こんな規模でクラックがたくさんあります

三宅島ではボルダリングもできます


6月10日

 梅雨入り間近、小川山で講習会してきました。
 みなさん、小川山にもそこそこ慣れてきたということで、今回は小川山レイバックへ。
 しかし自分の講習会ながら、「小川山にもそこそこ慣れてきた」から、小川山レイバック、っていうのも、ちょっと変だよね。
 昔は、小川山に行く、といったら、まず最初に小川山レイバック、っていうのが当たり前だった。
 でも今は、小川山ストーリーとかの方がポピュラーで、しかもその小川山ストーリーすらランナウトするから、レギュラー(5.10c)の方が先、なんて人もいる。
 なんか、?な気がするのはオヤジな証拠でしょうか。

 で、その小川山レイバックも、クラックが終った所でボルトでロアダウンして終わりという人がほとんどだと思うんだけど、今回はあえて頂上まで。
 これも昔は当たり前のコースだったんだけど、でもここまで来て頂上行かないって、もったいないというか、ちょっと考えられないよ。
 廻り目平を見下ろすまっ平らな頂上で、露出間抜群。屋根岩や廻り目平岩峰群、マラ岩方面の眺めも素晴しい。ここにジャグジーでもあったら、もう言うことなしでしょう。

 そういえば以前、古い知り合いが、ここで檜谷さんがお客さんに、あれが何岩、あそこには何々ルートがあって、それは誰それがこう登って、その時代っていうのは・・・と細かく説明しているのを見て、感動したという話をしてくれたことがあります。
 ココロに響くイイ話で、ここに来るたび、それを思い出さしてくれるというのも、私にとってはスバラシイ場所でありますね、ここは。


おなじみ小川山レイバック

頂上はこんな感じ

頂上からは新緑の屋根岩が

 さて、感動したところで、次はちょっとネガティブな話。
 翌日、屋根岩3峰レモンルートへ行ったんですが、RCC神奈川ルートを登るという先行パーティが2p目出だしで妙に苦労している。
 で、その苦労の仕方がどうも変なので、もしやと思って「カムとか持ってるんですか?」と聞くと、なんと「カムがいるんですか?」という返事。

 思わず「ここは小川山ですよ」と、口とんがらせてしまいましたが、断っておくと、この人たち、決して悪い感じの人たちではなかったです。
 でも、小川山のマルチに来るのにそういうもの持ってこないってのはどうかね。
 その人たち曰く「ルート図にはそうは書いてなかった」っていうんだけど、そんなの、小川山の岩を見れば誰でもわかりそうなもんでしょう。

 しかしこういう現場に出くわすと、ルート図って、ある意味恐ろしいと思うよね。
 「書いてないから」が判断基準のひとつになっちゃうのもそうだし、逆に書いてあることがすべてと思っちゃうことも恐ろしい。
 今回のこの人たちも「でも5.8だからなあ」なんて言って突っ込もうとしてたんだけど、これもちょっと・・・。

 こういうのを見ると、今回、私、ロクスノ最新号に瑞牆山十一面岩のトポ出したんだけど、そこで今まで10aとされていたベルジュエールのフレークピッチ、5.9にしちゃったの、本当はまずかったんじゃないかな、なんて思ってしまいました。
 といって、こういう人たちのために事実を曲げて書くというのもねえ・・・。

 またまた同じフレーズになるけど、そういえば以前、室井登喜男君が、瑞牆のボルダートポをある人に求められて「最近の人たちって、トポが無いとボルダリングできないんですかねえ」なんて嘆いていたことがある。
 トポを作ることによってボルダリング文化を確立した登喜男君だけど、なんかその気持ち、わかる気もするなあ。


6月20日

 ギックリ腰をやって、1週間寝たきりでした。
 ギックリ腰はもう18の時から日常茶飯事なのですが、いや〜、毎度毎度、やられますわ。
 そのたびに1週間、時には10日以上寝込むから、当然その後のリハビリにも時間を取られるわけで、これじゃクライミング、上達しないわけだよなあ、などと思いつつ、また一から出直しでごわす。トホホ。
 (リハビリの要領については、ワンポイントアドバイスにアップするつもりです。同じような境遇で悩む人、参考にしてみてください)

 さて、そのギックリもそろそろ治りかけという梅雨のひぬまの1日、瑞牆山大面岩の左稜線を登ってきました。
 これは上の事情と梅雨空で伸ばし伸ばしにしていたもので、腰はまだちょっと怖かったんですが、幸いユカジラ(遠藤由加)氏がどうせ1日ヒマなので同行してくれるということで、安心して(むしろそう思ったのは、私よりお客さんだろうな)臨むことができました。

 で、左稜線。やっぱスバラシかったですね。
 もともとここは、私の好きな瑞牆山の中でもマイフェバリットな場所のひとつで、というのも、なにしろ人がいない。おまけに眺めが素晴しい。&ルート内容も素晴しい。余計なリングボルトが多いのがちょっと気になるけど、それでもかなり整理された方だし、それも今後、さらに良くなることでしょう。
 気になる腰も、出だしはぎこちなかったけれど、きっと適度に伸ばしたのが良かったんでしょうね、登るにつれて良くなってきて、最後のオフウィズスまでしっかり堪能することができました。
 あー良かった、&ユカジラさん、とお客さんも、本当にありがとう。
 今回は頂上瑞牆山庭園のスバラシさが、いつになく、身に染みた1日でした。

左稜線は高度感もスバラシイ

変な格好で最後のオフウィズスを登るユカジラ氏

毎度染み入る瑞牆山庭園からの眺め


6月23日

 昨日(22日)、労山主催の「ヤング・クライマーズ・フォーラム」というところで講演してきました。
 お題は「新しいアルパインクライミング」。
 といっても内容はいつもながらのヨセミテのマルチピッチや、日本国内の、瑞牆や錫杖、屏風などのロング&フリークライミングで、まあ、「予想どうり」のものです。

 「アルパインクライミング」なんて銘打つと、「アルパインは雪がついてなきゃダメ」という意見の人たちから不満を述べられそうな気もするけれど、要するに(いささかしつこくではありますが)述べたかったのは、「アルパインクライミング」って、本当は「ロッククライミング」であって、さらにそれは本来、その本来的な登り方――フリー、かつその岩場の本来的な支点方法(ナチュラルプロテクション)――で、行なわれるべきものだ。ボルトや人工的手段に頼りすぎた従来の日本の「アルパインクライミング」は、もっと本来的な観点から見直すべきだし、そういう観点で、岩場やルートそのものも捉えなおすべきだ、ということです。

 で、そうしたことの例として、上に挙げたクライミングを紹介したわけですが、う〜ん、これがどうも、話したいことがたくさんありすぎてまとまりがなくなってしまい、上手く伝えられたかどうかわかりませんね。
 特に「ありゃ〜」と思ったのは、後援後、参加者の1人から「なんかレベルが高すぎて、自分たちには来るなって言っているように聞こえました」って言われたことでした。
 ん〜〜〜、毎度よくある話ではあるんだけど、なんでそう思っちゃうのかな?
 話し方が悪かったんだろうか?

 「レベル」ではなく「スタイル」の問題として、ぜひとも捉えて欲しかったんですけれどね。
 で、そうした「スタイル」の例として、今回も最後にトォラミにあるカシードラルピークの話をしたんですが、改めて紹介しておくと、この山の初登は、1869年、かのジュン・ミュア。1945年には南西バットレスが登られ、それはこの地でも年間100パーティ以上が登る大人気ルートになってるんだけれども、この約10ピッチ、最高グレード5.8のルートに、なんと残置支点は何もない。いや、ルートどころか、岩場全体、山全体を通しても、人工物は何も残されていない(最後の頂上ピナクルも、懸垂ができないので、クライムダウンしなければならない)。
 これを日本に置き換えると、北岳バットレスに、支点が何も残されていない、ということになるでしょうかね。岩の規模、構成、難度も、ほぼ同じくらいですし、良い比較になるんじゃないかと思いますが・・・。
 ま、そういう山がアチラにはあるし、この山は初登後、何十年も、こうしたモラルがすべてのクライマー(もちろん最高グレードが5.8だから、そんなにレベルの高い人たちではないです)によって、ずっと受け継がれている。
 それって、素晴しいと思いませんか?

 日本にもそういう「本来的な」クライミングが復活して根付けば・・・と、いつもながら思うのですが・・・。


7月21日

 またえらい時間があいてしまいました。
 この間、NPOモンキーマジック主催久我山盲学校のクライミング教室をやったり、モンベル・チャレンジ・アワードの発表授賞式に参加させていただいたり、瑞牆でルート整備したりと、なんやかや、していました。
 ついでにロクスノ次号の原稿(マルチピッチエリア連載と、特集クライマーズ・ボディの少々)にも突然追われ、その合間にパンプ行ったり、たまに宴会などもやって、まあ、忙しいというのか、遊んでばかりというのか、今日は雨で錫杖岳が中止になり、それで久々にこんなものを書いているという次第です。よく「菊地さんって、何で食べてるの?」と聞かれんだけど、ホント、何で食ってるんですかね?

 さてそれで、何を報告しようかと思うんですが、ここはやはり、瑞牆のルート整備ですかね。
 ちょっと前になるんですけど、関東地方に梅雨明け宣言が出された先週、パンプの内藤さんと一緒にカンマンボロンにルート整備&新ルートの偵察に行ってまいりました。
 ここは1昨年前から内藤さんがマルチピッチのルート開拓をしていて(来年くらい、発表になるんじゃないかと思います)、その整備と、私は既成ルートのワイルド・アット・ホームの掃除&支点整備。ついでに新ルートの可能性も探ってきました。
 ワイルド〜は、鎌形ハングのフリー化ルートで、初登は室井登喜男君と、先日亡くなった加藤泰平氏。1992年と古く、ラインも素晴しいルートながら、結構難しいため、登ったことがある人はあまり多くないのではないかと思います。
 で、泰平さんのこともあるし、せっかく良いルートなのに、一部汚くて支点状況も良くない個所もあるので(古くて変な所に打ってあるリングボルトを無理やり使って登る)、その部分を掃除して、ハンガーに打ち変えてきました。これで前より大分快適に登れるようになったのではないかと思います。

 それにしても、こうしたルート整備って、気を使いますよね。
 前に私、十一面のベルジュエールでもリングボルト撤去してハンガーに替え、賛否両論いただいたんですが、今回はまあ、文句言う奴はいないだろうなとは思いつつも(登喜男君には報告してあります)、やはり気にはなります。
 そういえば先日のヤングクライマーズフォーラムで、「ボルトを打つ打たないの判断はどうすればよいんでしょうか?」という質問が出ました。
 これはたいへん良い質問で、それに対する私の答はこうでした。
 「その岩場、あるいはその手のクライミングに精通している人が、これが本当にここに必要なのか、この岩場に即した“あるべきもの”なのか、じっくり考えて打つ」
 まあ、だから自分にはボルトを打つ権利がある、と言うわけではないけれど、でも1本1本を、そういうふうに過剰なくらいに神経使って打つという態度は、必要ですよね。
 そういった意味では、カンマンや大面に多量にある無節操なボルトラダーって、ちょっとひどい気がする。また、「整備事業」と称して、その岩場に通ったこともない人が杓子定規的にボルトの打ち替えやるのも、私はどうかと思います。
 やはり岩場は、その岩場に通って心血を注いだ人たちが、どうこうすべきだと思う。それが良い意味でのローカリズムだと、私は思うんですが・・・。

カンマンボロンと大面岩
瑞牆の代表的なビッグウォールです


8月7日

 またまた時間があいてしまいました。って、もうお決まりのセリフになっちゃってるけど、もうお盆ですよ、明日から。
 というわけで報告が遅くなりましたが、1週間ほど前、小川山で子供のクライミング教室頼まれて、やってきました。

 「アクティブスポーツつくば」というNPO団体がやっているもので今年で3回目になるのですが、子供教えるのって、たまには面白いものですね。
 まずいいのは、ここは親が同伴しない。
 で、参加するのはみんな小学生で、このくらいだと、猿みたいに上手い子や、逆に怖がって動けなる子、泣き出しちゃう子なんかもいて(でも下りてくると、すぐまた登りたがるんだ、これが)、ほんと楽しい、いやいや、たいへんです。

 で、今回感心したのは、この子たち、楽しむにしても怖がるにしても、本能が正しく作用してるなと思ったことです。またそれに対して理性を働かせる部分も、まずまず品よく教育されてる気がする。
 いや、教育なんかされなくても、この年代の子供たちって、こういう環境さえ与えてやれば、自然にそういうの、身につけていけるのかな?

 1人うんと怖がる子がいて、最初途中で泣き出しちゃったんだけど、下りて来てから「じゃあ、途中のあそこまで、頑張ってみる?」と聞くと、「みる」と言う。
 で、次になんとか頑張って登りきり、笑顔で下りてきたわけなんだけど、こういうのって、いいね。親や先生に対してではなく、自分自身の満足感に対して、心底喜んでいる気がする。本能vs理性に関しての自らの有り様も、子供らしさが素直に出ているようで、感心する。

 「子どもは決して純朴ではなく、人の顔を見るものだ」とはある人に聞かされた言葉で、私もそうだと思ってはいるんですが、顔を見させる人さえいなければ、やはり正直は正直ですよね。
 そういった意味じゃあ、本能と正直に向き合わなくちゃならない、自分たちだけでのアウトドアのクライミングって、なかなかいい気がするな。


 それから1週間。天気はまたまたダメダメで、めずらしく3日間も連続でパンプ通ってしまいました。
 体重が、ほんのわずか減ったこともあるし、毎日ちんたらやったこともあって、思いのほか調子よかったんだけど、驚いたのは子供たちですね。

 といってもユース、あるいはワールドカップの選手たちで、コンペに備えて日本全国から連日大量に来てたんだけど、これがまあ、登ること登ること。
 こっちがド必死になって数日越しのトライでなんとか登るようなルートを、ウォーミングアップ代わりに、しかも歩くように登りやがって、おまけにインターバルの短いこと!
 さらにそのうちの中1日、平山君なんかも加わっちゃったものだから、それはもう、たいへんな騒ぎでした。連日ツナミの13ルート、3〜40回はレッドポイントされてたんじゃないかな。

 しかしこういう連中見てると、そのモチベーションにまず感心するね。中には先生に言われて・・・みたいなのもいるけど、やはりトップクラスの連中というのは、なんか一つ、剥けている気がする。ハタで考えるほど、「外的コンテンジェンシー」に支配されたものではない、っていうのかな。こういっちゃ失礼だけど、意外と健全なんですよね(コンペや、教師に連れられた部活動が嫌いな人間の見方として聞いてください)。

 う〜ん、やはり子供は恐るべし。オレも見習わなくちゃ。


キャンプ場での集合写真。小雨の中、元気です


8月20日

 やっと晴れました。
 で、久々に山壁に行ってきました。
 ルートは錫杖岳左方カンテ。
 アルパインの人気ルートで、基本的に「フリー」を謳った私の講習会では、「そんなとこもやるんですか?」なんて言われたりもするんだけれど、もちろん、やります。
 もともとは私、アルパインガイドですからね。

 なんて意味ではなく、やはりクライミングはさまざまな楽しみ方があり、またそれを、広く追及してこそ楽しい、と私は思っているからです。
 一身上の都合で本格的な登山は止めてしまいましたが、錫杖とか瑞牆とかのこうしたマルチピッチは、今でも自分の最も上位の楽しさの一部です。クライミングの楽しさというものを、本当にたくさん秘めていますからね。
 商売だから言うわけでなく、皆さんにもぜひ味わってもらいたいものです。

 また、こうしたルートは、「楽しさ」という意味だけでなく、クライミング上達のためにも、とてもためになると思います。
 コリン・カーカスという人の『さあ、クライミングに行こう』という本にもある言葉。
 「クライミングで大成したかったら、まず登山をしなさい。クライミングを肉体的運動のみに捉える人は、まず大成しない」
 今の時代、ちょっと違和感ある意見かもしれないけれど、私もこの言葉にはまったく賛成です。
 山では、判断力、洞察力、応用力、などが絶対に必要で、またやっていれば自然にこういうものが身についていく。そしてこれらは、スポーツクライミングでも絶対役に立つ。というより、これがないとスポーツクライミングだって、まともにできるようにはならない。と、私個人的にはやはり思います。

 なんかまたまた話が説教くさい方向に行っちゃったけど、まあ、そんなことどもを抜きにしても、高い所は素晴しいですね。
 気持ちをリフレッシュさせたところで、また登れないパンプの〇〇じるしにトライするか。
錫杖岳前衛フェース。ハイグレードなフリーのマルチがたくさん拓かれている 左方カンテはアルパインの入門ルート。高度感が素晴しい 頂上からの穂高連峰の眺め。やっぱいいですなあ、こういう所は


8月24日

 珍しく大岳山岳部の講習を、小川山でやってきました。
 これは普段お世話になっているOBの方から直接頼まれたもので、なんでもその大学ではこの夏ヨセミテに行くという話。
 付け焼刃でちょっとやっても・・・とは思ったんですが、まあ、大学の山岳部なんかにいると、こういうこと、なかなかやる機会もないだろうし、大学山岳部でヨセミテっていうのも、なかなかだな、と思って、請け負いました。

 しかし、大学山岳部って、今、ある意味、辛いところだよね。
 昔はお決まりのヒマラヤ登山というのがあって、それで充分食っていけたけど、今はフリーだアルパインだと多極化していて、価値観は大いに揺らいでいる。そんな中で、いったい何をしていいのかわからない、という大学は結構多いんじゃないでしょうか。

 そうした中、あえてヨセミテを選ぶというのは、わたし的にはとても興味深く感じるんですけど、さてさて、それで彼らはいったい何を得て来るのでしょうか。
 「人は旅に出て、自分の持っているもののみを、持ち帰る」
 とはあるドえらい文豪のお言葉だそうですが、これは「すでに持っているもの」という意味ではないにしても、やはりその感性というかね、今までに培ってきた心の持ちようで、持ち帰れるものは大いに違ってくる、ということだけは確かですわね。
 特にヨセミテなんかは与えてくれるもの無限に近いわけだから、ぜひぜひ、いろいろなものを体験し、感じ取って、そして持ち帰って欲しいと思います。
 頑張れ!


8月31日

 先週はまたまた山。穂高屏風岩に行って来ました。
 前はガイドとして実によく登った壁ですが、体を壊してからはとんとご無沙汰。もうこんな所まで来ることは無いだろうと思っていたけれど、体の具合も大分よくなったので、思い切って出かけてみました。大事をとって前後山小屋泊まりを快諾してくれたお客さんには、本当に感謝です。

 登攀ルートはまず雲稜ルートをガイドとして。翌日、ロクスノの取材をかねて「フリークライミング」(東壁ルンゼルートに沿ってオールフリー、オールナチュラルプロテクションで登った草野君のルート)と、最終日に半日、「オープンロード」(東稜のフリー化ルート)の核心部だけを登って、終了としました。

 いやあ、しかし、久々の上高地&徳沢とか横尾は、よかったですなあ。
 特に私、昔から横尾で見る前穂の夕照は大好きだったんですが、それが何年かぶりで見られて、ほんと嬉しかったです。フロもいいしね、ここは(ついでに、風呂場にかかっている絵も良い。いや実に)。

 で、クライミングに関してですが、なんかしばらく来ないうちに草ぼうぼうになってますな、この壁は。
 前から確かにブッシュは多かったけど、こんなにオガッって(女房の実家庄内の方言)いたかな? ひょっとして温暖化の影響じゃ・・・。
 なんてのも冗談ばかりではない気がするんだけど、しかしやはり人が登らないことが一番大きいんじゃないでしょうかね。特に「フリークライミング」は、すごく面白いルートなのに、いかんせん放置されすぎている。ブッシュが伸び放題だし、ホールドも滑りやすい。もっと人に触わられれば、もっと登りやすくなるのに。

 一月ほど前、某ジム社長と瑞牆のマルチ行った時にも話したことなんだけど、やっぱルートは人が登らないとダメだよね。1年ほどで、ほんと、荒れてしまう。
 屏風なんて、ロングフリーのエリアとしてすごく面白いし、優れたルートもたくさんある。また普通に人工で登っても、雲稜ルートなんか、最高に素晴しい。
 近頃流行りの「里山」じゃないけど、クライミングルートも人手が入ることで、初めてまったきものになる。
 どうか、人気が出て欲しいものですね、こういう優れた壁、そしてルートは。

日本のビッグウォール、屏風岩。ロングフリーの壁としても秀逸だよ フリークライミング1p目。ナチュプロで、とても面白い 横尾からの夕方の屏風。なんと透明な大気!


9月7日

 2週に渡って、小川山は烏帽子岩に行ってきました。
 ここはロクスノ29号(05年9月)で発表されたニュー(でもないか、もう)エリアで、北山真さんたちの開拓した裏烏帽子と、大岩さんたちの開拓した本峰西壁の、2岩場があります。
 両方ともアプローチが遠いとあって、まあ〜、静かですわね。

 それでも裏烏帽子の方は道もしっかりしていて、思ったより近くは感じるんですが、大岩エリアの方は、いや遠かった。道もわかりづらくて、発表以来、ほとんど人が来ていないように思えました。
 ルートも裏烏帽子はよく登られているようだったけれど、本峰の方はかなり新鮮な感じでしたね。

 で、両エリアとも、マルチ(裏烏帽子はロケットマン、3p、5.10c、本峰は森の天使、3p、5.12a→11cくらい)を登ったんですけど、これは良かった。
 ロケットマンは、ええ、マジ!? と思うようなピナクルに上がって、その地形に驚かされるし、森の天使の方は、まさに烏帽子本峰、って感じの頂上で、小川山がまったく一望のもと、眼下に見渡せる、素晴しい所でした。

 へ〜、涸沢岩峰群の周辺って、ああなってんのか、などと感心しつつ眺めていると、すぐ脇から大きな鷹が1羽、静かに飛び上がって、悠々とゴジラ岩の方へと飛んでいきました。
 雄大な景色の中でのそのゆったりとした飛び様を見ていたら、は〜、鷹って、いつも、こんな景色を見ながら飛んでたのか、と、なんか突然、いたく感動してしまいました。

 高い所って、やっぱ、いいね。
 次に生まれる時は、鷹でもいいかな(って、贅沢か)。
烏帽子本峰からの小川山の眺め 森の天使2p目。快適なカチフェースでした 本峰から見るロケットマンのピナクル


9月12日

 昨日、瑞牆山は久々のベルジュエール、行ってきました。
 ここはこの春、ロクスノの取材で何回も来たんだけれど、ベルジュそのものは登らなかったから、数年ぶり。さらに頂上も実はこの時登らなかったから、これも数年ぶりの来訪になりました。

 ちなみに今回はガイドだったんですが、お客さんのOさん夫妻は自分たちでヨセミテのマルチなども登られている方だし、このルートもいずれ自分たちで、という希望なので、半分、プライベートクライミングのようなものでした。
 しかもこの日は、私の誕生日。8年前には私もアメリカにいて大騒ぎだったけど、まあ、あれから多少落ち着きも戻ったようだし、なにしろそんな日にベルジュ登って十一面岩の頂上に立てるなんて、ということで、もう完全に自分の楽しみのために出かけたようなものでした。

 で、久々のベルジュ、出だしの部分が少し岩が崩れていたけど、後は特に問題なく、途中、Oさんにクラックの核心である7p目T字クラックをリードしてもらったりしながら、秋晴れの十一面頂上へ。
 久々にここに立つと、いや〜、改めてすごい眺めですな。
 大ヤスリも見事だし、まわりの山々も素晴しい。
 それにも増して、瑞牆山の、岩の多いこと。
 途中、期待していたハヤブサにも会え、もうまったく、言うことなしの1日でした。
 人にはそれぞれ自分の一番好きな場所、ってのがあると思うんだけど、私はやっぱここかな。プラス、大面岩の頂上と、トォラミのフェアビュードームの頂上。その3箇所にぜひ散骨してもらいたい(かなりマジ)。

 それにしても、こんな1日を与えてくださった山には(もちろんOさん夫妻にも)、感謝! そんな気持ちを抱かせてくれた山にも、なお感謝! ってとこでした。
核心のT字クラック、Oさんオンサイト! こんな所で過ごす1日って・・・贅沢だよね 久々に踏んだ十一面岩の頂上。やっぱスバラシイ!


9月28日

 ちょっと報告が遅くなりましたが、例の“シルバーウィーク”の直前、またまた屏風に行って来ました。
 今回はガイドではなくロクスノ「マルチピッチ・フリーエリアガイド」の取材で、目標は「青白ハングフリー」。小野寺賢治くんと兼原慶太くんがあっさりフリー化して5.11dとグレードつけたものの、その後ホールドが欠けたらしく、再登した横山勝丘くんが12bと報告していたルートです。
 プラス、草野俊達くんが以前フリー化した「パラノイア」も、できたら登ってみようということで(こちらもグレード、怪しいからね)、またまた磯川暁くんと、長いアプローチに向かいました。つっても横尾までだけれどね。

 で、「青白ハングフリー」。いやあ、キビシかった。
 T4からの4ピッチ目に入る所で「次、11dか」と軽く行こうとした瞬間、「ん? 11d?」と、突然ビックリしてしまいました。
 11dって、ジムじゃなんてことないけど、外岩じゃそれなりに苦労するグレードだし、花崗岩なんかでこんなの出てきた日にゃほとんどその日の課題と化してしまう。しかもここは屏風のど真ん中。
 ルート図見ると、5.8、10d、5.8、11d、11a、12b、11b、とあって、他の凄い記録見慣れた目には、ふーん、って感じだけど、よくよく考えるとこれって「アストロマン」より厳しいじゃん!
 ここにきて改めてそんなことに気付き、急に緊張してしまいました。

 というわけでその11dは無事オンサイトできたけれども、核心の12bでは落ちまくり。次の11bも、こここそホールドが欠けてて、やはり12bはあったなあ。
 おまけに終了点から懸垂できずにブッシュ帯をもう2ピッチ登らされたもんだから(そこから、無事雲稜ルートを下れました)、肉体的にも精神的にもヘトヘト。
 翌日、パラノイアを、この日はさすがに上まで抜けたくないもんだからアルムテラスまでにしたけど、これも「奮闘的」を絵に描いたようなレイバックの連続で登って、またもヘトヘト。プラス、帰りがけに「オープンロード」の2p目核心12aをレッドポイントして(でもボルトフェースだから結構楽だったな)、もうボロボロ。

 横尾に帰ってきてからの体のだるさは、もう並ではありませんでした
 例えて言えば、以前ヨセミテでマルチ登ってた時と同じようなへばり具合だったかな。瑞牆ではこんなには疲れなかった。やっぱ屏風って、傾斜は強いし、内容も奮闘系が多いし、アプローチもあるし、何かとすべてがめんどくさくて、ホント、ヨセミテに似ているとつくづく思いました。

 結論。ヨセミテへの道は、屏風にこそある。
 ここ登ってたら(もちろん、フリーで、が大前提だが)、ホント、強くなる気がしますよ。これからヨセミテのロングフリー目指す人は、皆ここに来るといい。そしたらルートもきれいになって、もっと登りやすくなると期待してるんだけど・・・。
青白ハングに向かうピッチ。傾斜もアストロマンに似てる?
パラノイア(マニアック)も、ヨセミテ的なコーナーレイバックで面白かったよ


10月6日

 珍しく、奥多摩(奥武蔵?)の河又で講習会してきました。
 つっても参加者1人だけで単に一緒に登りに行っただけのようなものだったんですが、たまにはああいう、石灰岩スポーツクライミングの講習も、いいすね。
 スポーツクライミングはスポーツクライミングなりに結構やることもたくさんあって、いつもの小川山、瑞牆系とはまた違った手応えが感じられました。

 石灰岩というと、去年、久々に二子山行って、顔見知りに「石灰岩も登るんですか? 花崗岩、っていうイメージばかりだけど・・・」なんて言われてしまったんだけど(おまけに、なんと、ノースマウンテンで落ちてもしまったんだけど)、私、かつてはそれなりに二子クライマーでもあったんですよ。
 でもそう言われないために、これからまた石灰岩、通わなきゃね。
 なんだかんだ石灰岩って、肉体的には花崗岩なんかよりずっと厳しくって、やっぱ「クライマー」としては、この厳しさはいつも身に染みて感じてなきゃいけないものではある。さすがに二子はどのルートもちょっと飽きちゃってるけど、河又はわりと新鮮だし、これからこの手の岩場、あちこち行ってみようかな、なんて思いを新たにしました。

 しかしちょっと気になったのは、この日、後から来た団体。うるさかったなあ。
 おそらくジムで知り合って集まって来たんだろうけど、まあ、でかい声で笑ったりしゃべったり、叫び声あげたり。
 女の子たくいさんいて楽しそうなのはいいけど、やっぱ「マナー」というものも考えて欲しいよね。
 そういう団体の、一人一人と話すると案外紳士的で好感持てる子もいるんだけど、集まるとどうしても全体の音量は高くなる。
 朝からいたおじさんたちはなんとか我慢して登っていたけど、なんせあれじゃあ集中力殺がれるし、本気トライしている時など、ちょっと勘弁して欲しい。
 (ちなみに「ガンバ!」も、私はどうかと思います。集中力殺ぐという意味じゃあ、これも時に同罪なことがあるよね)

 でも考えてみれば、自分らも実はこういう雰囲気、醸し出している時もあるんだろうなあ。これから気をつけねば。と、ちょっと自戒の念も抱いてしまいました。


10月20日

 奥武蔵(って、よくわからない地名だな)の聖人岩、行って来ました。
 ここ、小さいながらも良いルートが揃っていて、講習会なんかでもよく使われている、って聞いてたんですが、私、行ったのは初めて。
 天気は上々、道々、ドのんびりとした里の景色も味わいあり、なによりルートが、短いながら個性あって、なかなか良かったです。
 割と悪い5.10ルートでアップした後、看板ルートの「貂が見ていた」を講習生がトライする合間を縫って「ウェーブ」5.12aやらしてもらったんだけど、いや〜、ポケットホールド痛くて、落ちました。2回目でなんとか登ったけど、後半の11cセクションも、悪かったなあ。やっぱ外岩の12って、難しいね。ジムばっかじゃなく、こういう所ちゃんと登んなくちゃ、ダメだわ。

 ところでこの日、気になったのが、ボルトと終了点です。
 ボルトはオールアンカー、ネジの錆びたの、アイボルトと、ひゃ〜と思うようなものが結構目に付いたし、終了点も、この岩ですか? ってのに打たれてたり、上の木からロープで持ってきてたりで、ちょっと緊張するものも多かった。
 河又でもこういう終了点って多くて、まあ、岩場は最後まで登るというコンセプトはわかるんだけど、安全性を考えると、どうもね・・・。
 こういうスポーツルートって、古い(あるいは場違いな)クライミングモラルに固執せず、安全性や使いやすさに重きを置いた方がいいんじゃないすかね、私が言うのもなんだけど。
 終了点は浮石などが出てくる前に設置すべきだし、木は危ないから使うべきじゃない(小川山なんかでも、これは危ないよ。岩場の木ってだいたい根なんかいくらも張ってないし、枯れかかってるものも、たくさんある)。
 ボルト打ちかえる時も、もとあった場所に、ってのが決まりみたいだけど、私はそれは必ずしも正しいとは思わない。開拓の時に変な場所に打ってしまったものも中にはあるわけだから、大勢がそう思うような場合は、より良い場所に変えた方が良い気がする。
 そういった中で、本当にクリップが悪くて危険なルートがあった時には、それが本当のそのルートの個性として、逆に尊重されるようになるんじゃないでしょうか。

 何が良くて、何が悪いかは、長い時間をかけて大勢に利用されていくうちに、自然にわかってくることでしょう。
 そういった意味じゃあ、整備ってのは、その岩場を使っている人、そこのルートを登りたいと苦労しつつ通っている人たちが、行なうべきだと、私、思います。
 プラス、一般的な知識――こういう場合、ボルトは何がいいとか、終了点はこうすべきだとかといったこと――や、できたら資材なんかを、公的な機関が提供するようになれば、それが一番健全なような気がするんですが・・・。
岩場には犬連れの人も。のんびりした、いい岩場でした にょほほ、嬉しいでしゅ ウェーブを頑張って登る人


10月30日

 明星山南壁、登ってきました。ルートはフリースピリッツ。
 連休前の平日(金曜日)で空いているだろうと思ったら、3パーティーもいて、ビックリ。なんかバタバタしたクライミングになってしまいました。
 特に3p目のウメボシ岩を越えるピッチ。1時間ほど前に出た先行に早くも追いついてしまい、ここでもちょっと苦労していたようなので、私、次のピッチまで無理やりロープのばして抜いてしまったんですが、その後、こちらのフォローも時間がかかってしまい、この人たちには申し訳ないことしました。

 こういうことって実は私、よくあるんだけど、決まり悪いですよね。もちろん決まり悪いだけじゃなく、失礼でもある。
 この時はさすがに悪かったなと思い、私が飛ばした途中のビレイ点で待っている2人に「私のプロテクション外して登っちゃって良いですよ」と声かけ、そうしてもらったんだけど(でも結局、その後も我々が先に行くことにはなってしまったんだけど)、なにしろこういう時に大切なのは、しっかりした、そして誠意あるコミニュケーションだと思いますね。それともちろん、自分たちに対する状況把握。
 この時も自分がちゃんと挨拶できていたか、ちょと自信はないんだけど、一応、抜く時は「抜いていいですか」と声かけ、自分たちが遅い時は「抜いてください」と声かける。こういうことって、非常に大切なんじゃないかなと思います。

 よくアルパインルートとかマルチピッチって、俺たち先に取り付いんだから絶対抜かさせない、みたいなところあるじゃないですか。私、そういうの大嫌いで、いや嫌いというだけじゃなくて間違っている、マナー違反だと思うんだけど、そういう時に追い抜くのも、黙って無愛想にやると、これも軋轢の原因になる。
 追いつかれたら、自分たちが遅くて後続の人たちに迷惑かけてるんだから、まず道を譲るをルールにする。そして道を譲られる方も、それなりの謝意を表する。そしてこういう時に、できれば友好関係を築くような挨拶が上手く交わされれば、お互い、1日が楽しくなる。と思うんですどね。特に山ヤさん系にはこれを強く提言したいな。
ウメボシ岩付近の先行パーティー。抜かさせてもらってすいませんでしたね いつもながらの最終トラバースの眺め。素晴しい


10月31日

 瑞牆山でレスキュー技術講習、やってきました。
 今回受講したのは、パンプ2の講習会卒業生で、自分たちで外岩(って言うよね、ジム上がりの人たちは)行く時に、何かあったらどうしたらいいかわからない、ということでプログラム組んで講習することになりました。
 ジム上がりの人たちって、やはり見てると危なっかしい人たちが多いんだけど、それは安全管理に関してちゃんとした知識を教わっていないからであって、こうして一人一人と話するととてもしっかりしていて、問題意識も高いことがわかります。失礼な言い方だけど、「まとも」っていうのかな、ちょっと見直してしまいました(そうじゃないのも、もちろんいるけどね)。

 で、こういう講習会っていうと、とかく特殊技術を使ったり、普段持ち歩かないような道具を使わされることが多いんだけど、今回は、いつも持っている道具だけで、自分たちが何ができるか、それを勉強してもらいました。
 ロープワークも、壁からの脱出とかそういう派手なことじゃなくて、岩場の取付からアプローチ道をどう下ろすか、どうやって安全を確保するか、ということを主体に行ないました。そして、それができないときの対処の仕方、また連絡や初期対応などについても、あれこれ。
 まあ、いざという時のレスキューで一番難しいのは、本当はその部分の判断なんですけど、これも実際に自分たちがどういう状況になり得るか、想像力を働かせてしっかり考えていれば、何を知っておくべきか見えてくると思います。そういった意味でも今回のメンバーはなかなかだったと思います。

 それと、今回ちょっと気になって講習に加えたのは、城ケ崎、シーサイドに行く時、帰る時の、安全確保の方法です。なんか先シーズン、ここで事故が相次いで今年はフィックスロープを撤去するという話だけど(それでみんなどうやって行って帰ってくるんだろうね? 誰かしらがその日のフィックス残すしかないんじゃないのかな?)、そういう場合の、セルフビレイの取り方とか、簡単なビレイの方法とか。これ、それぞれの講習会で絶対教えるべきだと思います。
 今度誰かが事故ったら、その人を教えたインストラクターも責任問われる、そのくらいの厳しさがあっても良い。そんな気さえ、私はしています(って、自分の首絞めてないだろうな)。


11月3日

 ド寒波襲来で木枯らし吹きまくりの翌日は、湯川行きました。
 予想していたより暖かくて良かったけど、来るたんびに思うことながら、ここはグレード辛いですね。
 なんせここは開拓時期がクラック全盛時代だからなあ。そういう岩場って他にもあって(例えばビュークス全盛時代の二子、とかね)、関東周辺だけでも岩場によってグレードがうんと違う。
 でもグレードって、次のルートを選ぶ際の大きな目安ですからね。できるだけ他と比べて正確な方が良い。ということで、私的ではありますが、ここのグレードをちょっと付け直してみました。もちろん人によって感じ方も違いもあるだろうけど、参考までに。

デゲンナー(5.8→5.9) さよなら百恵ちゃんより難しい。小川山レイバックくらいはあるでしょう。
台湾坊主(5.9→5.10a) これ5.9って、ひどいす。プロテクションも悪いし。5.9限界の人が取り付いたら死ぬす。
北風小僧(5.9→5.10a) 5.9+でも良いけど、これも10aでいいんじゃないの? 上部悪いよ。
フォーサイト(5.10a→5.10c) キビタキ、ノーリターン(上部)より確実に難しい。

バンパイア(5.10c→5.10b/c) ジャク豆と比べてどうかな? 同じじゃないかな。
テレポーテーション(5.10d→5.10c/d) 私はサイコキネシスより簡単に感じます。笠間のピンキーと同じくらいじゃないかな。
山案山子(5.10a→5.10b) これも難しいよ。10aじゃあんまりだ。
サイコキネシス(5.10c→5.10d) キビタキより確実に1ランク上。T&Tと同じか、あるいはもっと難しい気が・・・。
コークスクリュー(5.9→5.10a) これも5.9じゃあんまりだ。脇にボルト打ってあっても10aはあるでしょう。
デゲンナー(5.8)は、5.9のスタンダードじゃないかな フォーサイトも悪い。これ10aって、すごいな 駐車場、こんなことになってました。驚き(アホな人のことじゃないす)


11月7日

 久々の瑞牆山十一面岩、今日は左岩壁の山旅78黄昏を登ってきました。
 しかしこのルート、2p目が結構難しい10d(スラブ)なので、下部は錦秋カナトコから。ここは先日のわたくしめのロクスノ・マルチフリー連載十一面岩編では2p目10cとしていたけど、10aでしたね、実際登ったところでは。

 さて、その錦秋。さすがにこの時期、まずクライマーはいないだろう、しかもこんなマイナーなルートに、と思っていたら、なんと先行2パーティーもいました。
 さらに、その2パーティーとも、アブミをジャラジャラぶら下げているのにビックリ。件の10aの個所も、「ピンが抜かれてるから登れないかもしれない」なんて言っている。

 まあ、アブミ使って登ったって、別に悪いわけじゃないけど、ここは瑞牆で、この壁はそういう所じゃないのになあ・・・と思いながら後続していくと、なんと、2番目のパーティーの1人は、この夏、労山主催の私の講演会「新しいアルパインクライミング――なぜ壁をフリーで登るか」に来ていてその後一緒に飲んだ人だとか。あらまあ、などと挨拶を交わしながらも、せっかくああいう話したのになあ・・・と、ちょっと悲しくなってしまいました。
 しかし、聞けば、彼らはよくこの壁に来ていて、いつもこうやって登っているとのこと。で、小川山のクラックなどは登ったことがない。
 ・・・、と思ったけど、まあ、クライミングのやり方は人それぞれだし、それについて他人がとやかく言う筋合いはない。それは私も、しっかり認識しなきゃいけない。と、いうことで上のテラスで彼らと別れ、3p目のクラックに取り掛かると・・・。
 ななんと! クラックの脇にボルト、しかも新しいRCCが打たれているじゃありませんか。

 ん〜、誰がどこ登るのに、アブミ使おうが使うまいが勝手だけど、こうやってボルト打つとなると話は別です。しかもそのボルト、最後のピナクルに突き上げるクラック脇にも打たれている。こちらはリングだけど、ま新しいし、おそらく同じ人が打ったに違いないでしょう。
 そういえば大面の左稜線にも同じようなRCCボルトが打ち足されていて、これ、同じ人がやったことだとしたら(どうもそんな気がしますが)、とんでもないことですよ。
 ぜひこういうことは止めて欲しいし、こういうことしているの見た人がいたら、注意して欲しい。
 なぜ? どういうふうに? って聞き返されたら困るし嫌になっちゃうけど、それを知ろうとすることが、「クライミング」という文化に取り組むということだと、まずは理解して欲しいですね。

今をときめく「新しいアルパインエリア」十一面岩。ここには長い歴史と、それが作り出してきたスタイルというものがある。この壁を目指すならそれを理解してほしいです 山旅78最後のフェースも今は快適な10aです


11月21日

 珍しく、秋川の天王岩、行ってきました。
 「珍しく」というのは、やはりここは混むからで、今回も河又の影響受けるかなと心配だったのですが、行ってみたら意外とそうでもなく(っつってもかなりの人はいましたが)、おまけに意外と顔見知りが多くて、混んだ中でも上手いこと目的のルートをやらせてもらえました。
 良かった。&皆さんありがとうございました。

 しかし、「混む」を別にすれば、ここはやはりルートが揃っていて、いいですね。また、意外と(と言っちゃ失礼だけど)、ルートも良いものが多い。特に「クラックジョイ」や「勉太郎音頭」、今回はやらなかったけど「ドロボーカササギ」「8月革命」など、ラインも内容も良くて、独立性もあり、素晴しい。

 と、誉めた途端に文句言うのもなんだけど、同時に変な限定ルートがあるのもたいへん気になりますね。
 まあ、これはここに限らずどこの岩場にもあって、中にはその設定理由もわからないではない。というものもあるにはあるんだけど、あまりにそれが行き過ぎるとね。なんか、岩場そのものが不完全に見えて来さえする(特にここには、すごいのがありますな。日本百岩場にその文言が載ってるけど、その理不尽さ加減はおそらく日本一でしょう。中根穂高が岩雪の『かかってきなさい』続けてたら、即書かれるに違いない)。

 というわけで、まあ勝手と言っちゃ勝手に思うことなんだけど、こういうの、多少整理するっていうこと、できないでしょうかね?
 まあ、その岩場の開拓当初とか、ルート作ったばっかの時というのは、それぞれの思い入れもあって一歩引いた見方ができなくなっているだろうけど、それも時間が経ってみんながたくさん登るようになれば、自然にわかってくることだしね。
 その岩場が完成され、少し落ち着いてきたら、岩場全体としての整理をしても良いんじゃないでしょうか。「岩場整備」っていうと、なんか今は既成のボルトを杓子定規的に打ちかえるだけに終始しているけど、本来はそういうふうに(不要なボルトを抜く、ということも含めて)全体像を整えることも考えて良い。
 その方がその岩場もより完全なものになるし、それこそが、その岩場を愛している、ということになるような気がするんだけど・・・。
ドロボーカササギを登る、他のパーティーの人


12月6日

 師走の週末、久々に二子山なぞにプライベートクライミングしに行って来ました。
 土日に二子、登り行くなんて、15年ぶりくらいでしょうか。
 30歳前後の頃は、それこそ本当に毎週通っていて、30半ばにガイド業をはじめたとき、あ〜、もうこうして週末にここには来れなくなるんだな、と、ちょっと寂しくなった思い出があります(ガイド業続けてるのに、土日にここ来るっていうのも、実は寂しい話だけどね)。

 しかし久々に来ると、相変わらずみなさん、頑張ってますね。
 昔と面子はほとんど変わってしまっているけれど、やはりみんな、毎週のように通って厳しいルートにトライしているんでしょう。
 毎週通う、ということではおそらくどこの岩場も同じなんだろうけど、二子って、特にルートが難しくて落しづらいですからね。そのモチベーションにはホント感心します。
 私だって、普段ジムで登ってないわけじゃあないんだけど、二子に来ると特に、ああ、もっと登らなきゃダメだな、と、改めて思います。
 また二子って、登れる登れないがみんなの前でもろに披露されることになるから、それも厳しいよね。スポーツとしての健全な厳しさが問われるというか、その意味でもここは最高のフリークライミングエリアと言えるでしょう。

 というわけで、去年落ちたノースマウンテンから始めて、モダンラブ、ペトルシュカ、おいしいよ、と徐々に慣らしていったんだけど(おいしいよでは落ちました)、改めてこれらを登ると、二子のグレードって、ホント、からいですね。
 思うにここの開拓期って、その見本となるヨーロッパが、ビュークス、ベルドン、シマイ、全盛時代だったものだから、グレードもその影響を受けたんでしょう。だいたいグレード感覚って、その人が過去にどこで登って来たかで決まるものだから、この世代の人たちが作った二子がこうなってしまうのも無理はない。

 でも、それにしても、同じ国内で岩場によってグレードが違いすぎるというのもねえ。やはりグレードって、まずはそのルートを登るためのインフォメーションですからね。他と比較ができるものでないと意味がない。
 昔はスポーツクライミングっていうと、どうしても二子が元祖みたく感じて、蓬莱や城山は甘いと思ったけど、今はどうなんでしょう。案外、蓬莱あたりが世界標準と言えるんじゃないでしょうか。
 そのあたり、ルート図集など改訂する時にスタンダードを明確にして、他はどんどん変えていった方が良いと思うんですが・・・。
 ちなみに今回登ったルート、私は以下のように感じました。

(祠エリア) 甘納豆 10d→11b
       ごんべえ 11a→そのまま
       鬼が島 11c→そのまま
       話がピーマン 10a→10b/c
(東岳)   オラ・ラー 11b→11c
       愛より青く 11c→12a
       ノースマウンテン 12a→そのまま、もしくは12a/b
       モダンラブ 12a→12b
       おいしいよ 12c→12d
       ペトルシュカ 12b→12c
       クレーター 11b→11b/c
オヤジも頑張ります。いや〜、おみごと!


12月20日

 またも休日のプライベート・クライミング。城ケ崎でスコーピオン、登ってきました。
 このルート、実は私、20数年前にオンサイトしてるんですが、今回はテン山。いくら歳とったからって、普段パンプなどで登っていて、力は昔よりあるはずなのに・・と、唖然としてしまいました。
 まあ、それでも2回目にはなんとかレッドポイントできたんだけど、いや〜、こういうのって、あんま良いものではないですわね。

 そもそも私は「ハングドッグはフリーじゃない」時代にフリークライミングに入って、自分もそれを主張しつつ、ノーフォールクライミング(オンサイト)にこだわってきたのですが、スポーツクライミングの隆盛とともに、もっと難しいルートも登らなければと思い、普通のワーキング(ハングドッグ)+レッドポイントスタイルに移行しました。
 で、結果、多くの13ルートなどを登って、ムーブの蓄積量も増え、実力がついたと思っていたのですが・・・。
 結局、その挙句は、落ちそうになっても耐えるということを忘れ、やばくなったら簡単にテンションかけつつ、なんか上手いことムーブを作って、レッドポイントに備える、というような登りに心底なってしまっていたようです。

 「マスタースタイル(今で言うワーキング+レッドポイント・スタイル)は邪道だよ」
 とは、クライミングジャーナル(15号)で私が堀地清次くんにインタビューした時に出た名ゼリフで、その記事は私的に自慢できる仕事ベスト3に入るものだったんですが、その言葉を、今になって、「どうだ、やっぱりそうだったろ?」と、浴びせかけられているような気持ちです。「やっぱりあのスタイルじゃあ、いいクライマーになれなかったろ?」と。

 昔、12などもまだ何本も登っていない時代、ワザもたいしたことなく、靴なども今ほど良くなかった時代に、腕パンパンにさせつつ頭フル回転させて落ちないようにしがみつき、こんなルートを登った、というより、登ろうとした自分は、どこ行っちゃったんでしょう?
 墓場の陰から堀地清次が笑う、って、堀地くん、まだ死んでないから、忌野清志郎にしとこうか、笑われないように、一から出直すか。


12月30日

 暮にたて続けで海金剛、行ってきました。
 今回はガイドではなく、ロクスノ連載用の取材で、クロヒゲ(増本亮)くんと、スーパーハルナ〜トリトン、白波、ネイビーブルー、の3本を登りました。

 この壁は今までスーパーレイン(正確には「オリジナルルート」)を、ガイドを含め5〜6回ほど登っていて、それ以外のルートはどうも・・・という感じだったんだけど、改めていろいろ登ると、なかなか面白かったです。
 そのきっかけになったのは、岳人に出ていた、白波(一部)と、ネイビーブルーのフリー化記事で、それにはいくつかのピッチに5.11という数字が付けられ、それなら、と思い、今回の出撃になりました

 結果、白波は、1ピッチ目がどうしてもわからず、(たぶん)左のバリエーション(5.10b程度のハンドクラック)から登って、その後、全ピッチフリー化。ネイビーブルーも全ピッチオンサイトで登ることができました。
 といっても核心をリードしたのはほとんどクロヒゲで、私はもっぱら写真撮り。しかし両ルートとも脆い岩に微妙なナチュラルプロテクションで、なかなかシビアなクライミングでした。特に白波最終ピッチの上部城塞と、ネイビーブルーの核心のコーナーは、グレードは5.11ノーマル程度ながら、もしも落ちたら・・・と心臓バクバクさせる、良い(?)ピッチでした。

 いや〜、クロヒゲ、さすがですわ。冬壁でこういうキワドイの、鍛えてるだけある。
 私もいくつかのピッチ、リードしてみて、こういうのって、たいていの人は好きじゃないだろうけど、私はとても面白く感じました。
 落ちたらどうなるかわからないプロテクションで、一歩一歩、これなら大丈夫、これもたぶん上手くいくはず、と決断しながら登る。そういう精神的な労力を要するクライミングって、個人的に大変好きです。まるで昔やってた鷹取山でのフリーソロみたいで、ああ、自分のルーツはやはりこれなんだな、オレはこういうことをしたかったんだなって、手のひらに久々の汗をかきつつ、つくづく感じいってしまいました。

 しかしそこでまたちょっと一言なんだけど、この壁をアメリカンエイドとはいえ、人工で登るのって、ちょっと信じられないですね。この傾斜なら、アブミ出す前に、まずフリーでトライしろよ、と言いたくなる。
 それは初めてこの壁を登った時(もちろんオールフリー。95〜6年頃)から感じてたんだけど、どうも日本のアルパインクライミングは、アメリカンエイドを手にした時から、余計弱くなった気がする。
 ま、それは所詮私の個人的な感じ方でしかないんだけど、はっきり公共的な意味あいでは、この壁で、ネイリングはもう止めてもらいたい。
 というのは、ここの岩はとても弱く、クラックにハーケンなどを叩き込むと、岩が壊れてしまう。実際、白波のクラックなどハーケンによるロックスカーがたくさんできていて、これは人工的破壊以外の何物でもない。
 「アメリカンエイド」をやるなら、アメリカと同じく、こういうことに問題意識を持って、ハンマーレス(ナッツ、カムなどオンリー)に変えるべきでしょう。特にそういうスタイルでフリー化されたピッチに関しては、以後、それを原則にすべきだと、私は思うんですけれどね。

 最後に最新情報を付け足すと、スーパーハルナの4ピッチ目(緩傾斜帯の次のピッチ)、昨年末の地震で崩壊してました。5m四方くらいのロックスカーができていて、ハンドトラバース〜オフウィズスは、なくなっているようです。ま、ここはその左右からでも簡単に登って行けるので、ルート全体はなんとか登れますが、各ルートのあまりに煩雑な交差の問題も含めて、改めて、ルート再編した方が良いかもしれませんね。
今や人気の海金剛。.フリールートもなかなか充実してきました 白波ルート最終ピッチのクラック。11cくらいでした 海を見下ろしながらのクライミングは最高ですね。ルートは白波2p目


Hot Rocks 2009 
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