民生委員、児童委員の
ひろば
第454号
平成3年4月1日
全国社会福祉協議会 発行

こんな人
こんな活動

人が好きでたまらない


沖縄県・竹富町 副総務
津嘉山 隆 さん

南の島、珊瑚礁に囲まれて
 青く広い海原に浮かぶ島々を珊瑚礁が色濃く縁取っています。その島それぞれには、自然と人に青まれ、受け継がれてきた伝統芸能があり、人々の生活の中にいきいきと息づいています。
 沖縄県・竹富町(たけとみちょう)は、人口三千四百余人、世帯数千四百余の農業を主体とした町です。ここは、東シナ海に点在する大小十七の島々(うち有人島九)からなる、まるで観光パンフレットの形容そのままの町です。

島の生活と委員活動
 津嘉山氏の一日は多忙です。というのも生業の民宿経営の一方、町民児協副総務、町教育委員会委員、PTA連合会副会長等、数多くの要職を兼ね、その全てが町民の生活に直結しているからにほかなりません。
 一○○世帯に一人の委員と割合も低く、また、小地域での生活は自然に住民一人ひとりと密接な関係をつくることがたやすく、のどかな農業地域で、相互扶助機能が強固に残っているので民生委員・児童委員活動も容易であろうと映りやすいところです。ところが、「島」であることから起こる問題は多くあります。

役場がない、高校がない
 急速に進む過疎と高齢化の中で持ち込まれる相談も複雑で、解決が困難なものも少なくありません。その要因に「竹富町には役場がない」ということがあります。
 役場のない町というと奇異な感じを受ける方も多いでしょうが、実は町役場そのものが八重山諸島の中心になっている石垣島の中にあり、そこは行政区としては「石垣市」になっているからです。そのため、行政事務の一切は石垣島で行われ、竹富町の住民は、必要な場合にはその都度、飛行機や船で石垣島まで出向かねばなりません。
 また、町内には高校が設置されていないので、中学校を卒業した多くの生徒は、卒業と同時に島を離れ、石垣や沖縄本島で下宿生活を送ります。このため、親と子が離れての二重生活が当たり前のこととなっています。ところが、子どもへの仕送りは、さして裕福でない家計を圧迫しており、ことから起こる問題も数多くあります。

悩みが絶えない
 津嘉山氏もこれまで多くの問題に直面し、悩んできました。
 中学を卒業し、高校入学のため石垣島でひとり暮らしを始めた少年が、その寂しさから生活が乱れ、親の言葉にも耳を貸さなくなった事例がありました。この時は、子どもの気持ちをほぐし、親や教師に理解を求めるため何度も船で往復しました。そのうちに親子の気持ちが離れているため通わなくなったのが原因だと分かり、現実に対する悲しさに自分が辛くなったという経験をしました。
 また、相談を受けながら途中で沖縄本島に転居してしまった人を訪ね、その後を心配しているなど、いろいろと悩むことが続くとのことです。
 

定例会が年1回
 島であることからくる悩みは、個別援助活動の場面だけでなく、民協運営にも影響を与えています。
 本来、毎月開催すべき定例会さえも委員の交通費や宿泊費などがかかるため年に一回開くのがやっとです。また、互いの情報交換や研修もままならない状況になります。また同様に町社協も役場とともにその事務局を石垣島に設置している関係上、例えば心配ごと相談所事業ひとつとってみても、各委員の自宅をその窓口として「分室」の扱いをうけており、設置要綱で定められた基準の遂行や民生委員活動と相談活動の分別など多くの問題を内包しています。
 

人が好きでたまらない
 このような状況の中で、津嘉山氏の活動を支えているのは、「人が好きでたまらない」というやさしさと奥の深い奉仕の心であるように思えます。
 持ち込まれた相談は、事の大小を問わず真剣に、しかも愛しく丁寧に扱う態度に民生委員信条に綴られた活動の原点を見たような思いがしました。
 最後に、氏が「委員にとって、活動に対する技術面の研修は重要だ。でも、それ以上に住民は何を求めているのか、何を悩んでいるのかを感ずる目と感覚を自ら訓練する使命感をもたなければいけない」と言った後に続けて「だけど、予算のみならず行政の協力や援助があってくれたら……」ともらした言葉に離島に活動する民生委員・児童委員の苦悩を見たような気がします。
 

(沖縄県民児協 事務局)

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