第弐回外惑星聯合例会「公式」報告書

甲紀20年11月11日

外惑星聯合代表部主席
林[シャーロキアン・ローディスト]雅恵

 私は、一歩、足を踏み入れた。場内は、一瞬にして、水を打ったように静まり返る。そして、次の瞬間、静けさはどよめきに変わった。
 場の空気が変わっても、皆の視線は動かない。全ての視線は、私に対して向けられていた。
 今、私は初めて、外惑星聯合のメンバーの前に立つ。血気盛んな若者から、一癖もふた癖もある感じの年寄りまで、様々な人物がそこにはいた。
 どよめきが落ち着くのを待って、阿部連絡士官が静かに口を開いた。
 「主席、お待ちしていました」
 「うむ」
 「皆、主席の御言葉を待っています」
 私は、黙って頷いた。
 我々、外惑星聯合の旗揚げの理由は、支部例会やSF大会などに参加できない人外協隊員の憂さ晴らしである。だからして、支部例会やSF大会に参加できる隊員達が味わえない楽しみを追求するのが、我々の目的である。その目的を遂行するために、今までの、人外協隊員達が思い付かなかった、または思い付いても、実行されなかったことを実行する。それが、青年人外協力隊における外惑星聯合の任務なのである。
 しかし、その目的遂行の為には、いろいろな課題が待ち構えている。そこで、私は今回の例会の召集をかけたのだ。
 場所は、外惑星聯合代表部ビル大会議室別室である。ここに入るには、外惑星聯合加盟員は、皆、正装をしなければならない(註:主席は特別に平服、正装、何でも可)。
 「皆のもの! 忙しい中、よく集まってくれた!」
 参加者達が、一様に背を正す。 
 「では、今から、例会を始めよう。連絡士官、進行を……」
 「はい」
 阿部連絡士官は、ホワイトボートの前に立った。外惑星聯合運営資金を稼ぐ為、ある時は文化包丁の実演販売、ある時は雪国舞茸の売り子と、日夜、過酷な労働状況にいる彼の事である。こういう議事進行はお手のもであろう。
 これから話し合われたことは、おそらく、公式発表という形で、外聯ぺけぷれすにて告知されるであろう。だから、ここでは、あえて、記さない。 
 「では、主席。そろそろよろしいですか?」
 「うむ」
 「我々、外惑星聯合の中で、大阪例会に参加されたのは、林主席と岡田補佐官のたった二人だけです」
 場内から、唸る声がいくつか上がる。
 「主席自ら、大阪例会で諜報活動をしていただきました。外聯加盟員に対し、大阪例会の一部始終を見せたいと、主席がリポーターとなり、取材して来られました。そのVTRを今から流します。どうか、お静かに」
 場がざわつきはじめたのを、阿部連絡士官は制する。
 ホワイトボートが反転し、場内が暗くなった。映写機がカタカタと回りはじめる。

【映像】[リポーター:林雅恵、カメラマン:岡田恭典]
 ここは、大阪例会が開かれている大阪市立中央青年センターです。
 私達は、知られざる大阪例会の秘密を暴こうと、取材にやってきました。
 えーと、会場は、4Fですね……。今月は、「谷甲州ファンクラブ」と表示が出ています。人外協という略称が使えなくなって久しいですが、その理由はまだ闇の中です。
 はい、着きました。
 午後1時をだいぶ過ぎています。もう始まっている模様です。
 扉を少し開けてみましょう。おや? 何か、儀式が行われているようですよ。見てみましょう。
 中央の椅子に腰掛けているのは、落合[MSG]隊長ですね。どうやら、新入隊員の入隊の儀式のようです。? なにか、頭を手のひらでぱしぱし叩いています。こ、これって、まさか……?
 あ、やばい! 憲兵に気付かれましたぞ! 逃げましょう、岡田補佐官! あれ?
 なに、やってるんですか!? 捕まっちゃいますよ、早く早く! わわっ! きゃーっ!!!
〔映像中断〕

 「主席、よく御無事で御帰還なされました」
 阿部連絡士官は、感慨深気に言った。
 「うむ。自分一人で、脱出するのが精一杯だった。岡田補佐官とは、離ればなれになってしまったから、心配しているのだが」
 私は言った。
 「大丈夫ですよ、きっと。もし、岡田補佐官の身に何かあれば、大阪例会に殴り込みです」
 場内にいた誰かが言った。
 「そうだな」
 連絡士官はニヤリと笑った。
 彼の本性を垣間見たような気がした。
 そして、外惑星聯合第弐回例会は、終わった。

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