学会という世界

 

外惑星聯合代表部主席 花原[まちゅあ・なりゆき外聯主席]和之

 

 私は表の世界では大学というところに勤務しています。で、その表の世界では「研究者」と呼ばれることもあります。その「研究者」と切っても切れない関係にあるのが「学会」です。今回、この「学会」という世界についてのよもやま!?話を少ししてみたいと思います。
 まず、最初にお断りしておきますが、これは私という個人が見た(比較的狭い分野での)「学会」についての話です。人外協には「学会」に関係している人はほかにもいらっしゃいます。分野が異なると「学会」の実態も違ってくるかも知れません・・・(変わらないかも知れませんが)。

 さて、みなさんは「学会」と聞いて何を思い浮かべるでしょう。

 「なんかわからんけど、難しそうなことをやってる人の集まり」
 「白衣の人の集団」
 「追放されたりするところ」
 「難しそうなことを発表する場所」
 「そこで発表するのはすごく偉いこと」
 「改造人間を作ったりしてるところ」
 「世界征服を目指している組織」
 「ときどき布教にくる」

 ・・・てな感じでしょうか。ちなみに最後のは「○価学会」といって、私がこれからお話する「学会」とは(たぶん)関係ありません。
この団体に「学会」という名前が付いているのは昔から不思議なんですけどね・・・。
 我々が「学会」と言う場合には大きく分けて二つの意味があります。ひとつは「研究者の集まっている組織」を意味しますし、もうひとつは「研究発表をする場」のことを指します。「○○学会に入ってる」は前者、「学会で発表する」は後者の意味になります。後者の場合には正確には「講演会」「研究発表会」といった言葉が使われます。英語では前者は「Society」とか「Institute」、後者は「Conference」とか「Symposium」になります。余談ですが「○○学会全国大会」というような、ある学会の年次大会とそれに付随する講演会の場合に該当する英語は「Convention」です。そう、「SFコンベンション」の「コンベンション」です。

 学会に入会する

 私が現在所属している学会は「日本機械学会」「日本航空宇宙学会」「米航空宇宙学会」「システム制御情報学会」「日本ロボット学会」の五つです。だいたいどこの学会も年に一万円くらいの会費が必要です。こういう仕事をしていると、これがけっこう懐にひびきます。
 学会に入るのは簡単です。ほとんどの学会は常に新入会員を募集しています。学会誌などに付いている所定の用紙に記入して郵送するか、電子メールやウェブからの入会申し込みの後、初年度の会費を払い込めば会員になれます。たまに推薦者を記入するようになっていることもありますが、その場合でも書かなくても大丈夫なことが多いようです。
 私の場合、日本航空宇宙学会には、以前の職場での所属(航空宇宙工学科)の関係で入ることになりました。現在の所属からするとここはやめてしまってもいいのですが、退会すると以前の職場の同僚が顔を出している関西支部の会議のときに名前が出るらしく、ちょっと躊躇しています。
 ま、何度か「画報」のネタを拾ったこともありますから、まだいいか・・・と自分をなぐさめています。システム制御情報学会には、ここの「事業委員」という役員を引き受けざるを得なくなったときに、その役員になるために(!!)入会しました。学会というのは基本的には自分の興味とか研究とかで入会するものなんですが、こんなふうにわりと「しがらみ」で入会している(させられている)場合も少なくないようです。

 学会に入っていると

 どの学会もだいたい毎月「会誌」を送ってきます。例えば機械学会誌の場合だと定価二千四百円とあるので、いちおう、これで学会費のモトをとっている・・・と言えなくもないのですが、(自分にとって)意味のある記事ばかりではありません。
 あと、学会の論文誌(ジャーナル)に論文を投稿することができます(学会によっては所属してなくても論文投稿できる場合もありますが)。一部誤解があるようですが、たいていの場合、論文は投稿して掲載されるとお金が「かかり」ます。
 原稿料を「もらったり」しません。掲載料を「払う」のです。論文誌によっては、掲載料がかからない場合もありますが。このへん、同人誌に近い側面があるようです。

 学会での研究発表

 これには大きく二種類あります。「論文投稿」と「講演発表」です。学会の論文誌に論文を投稿すると、審査(査読)されて、掲載に値すると判断された場合にのみ載せてもらえます。実は、この査読にもいろいろ問題があったりするのですが・・・まあ、それはさておき、問題は「講演発表」のほうです。
 どの学会も年に何回か「学術講演会」というのを開催します。ここで研究発表講演を希望する人はタイトルに簡単な内容紹介を添えて発表申し込みをします。・・・すると、ほぼ百パーセント、よっぽど怪しいタイトルでもないかぎり、発表が認められ(てしまい)ます。当日の講演内容によっては、出席者から遠慮のない叱責の言葉がとぶこともあるのですが、とにかくそれを過ぎてしまえば・・・。「この○○は学会発表で大きな話題となりました」(マイナスの意味かも知れないが話題にはなったりする)と言っても嘘にはならないわけです。(このあたり、いろものさんの話にもありましたね)
 国際会議の場合でも事情は似たりよったりです。ただし、(形式的な場合もありますが)一応は審査がありますので、発表申し込みが多数だったりする場合には受け付けられない場合もあります。

 学会(講演会)とSFイベント

 学会(講演会)はSF系のイベントによく似ています。
 まず、開催場所ですが、比較的小規模な学会は温泉地のホテルや旅館の会議室で行われたりもしますが、全国大会規模になると、会場のキャパシティが問題になって、都会で開催されることが多くなります。ちょうど地方コンと日本SF大会のような感じですね。余談ですが、去年のSF大会が行われた「パシフィコ横浜」では、以前、日本機械学会の全国大会が開催されました。
 講演会に参加するには事前に申し込みが必要ですが、たいていの場合当日参加も受け付けられています。ネームプレートとプログラムと・・・講演論文集(発表内容の詳細)を受け取ったら、自分の興味のある発表がなされるセッションを見にゆきます。プログラムブックと企画案内を片手に企画めぐりをしているようなものです。
 最大の類似点は何といっても・・・どちらもメインは夜の懇親会にある、というところでしょう。講演会によっては、参加者全員に宿泊を義務付けて、昼間の講演ではできないような「ほんとのところ」を(飲みながら)議論しましょう、というナイトセッションを企画していることもあります。あんまり居心地がよかったのか誰かがつぶやいた「これで学会でなけりゃなあ」という言葉を聞いたときに、昔、ルネス金沢でSF大会があったときに隊員の誰か(だと思う)がつぶやいた「これでSF大会じゃなけりゃなあ」という言葉を思い出しました。
 大きく違うところというと「コスプレがない」というくらいでしょうか。

 学会を追放されるには

 あ、ちなみによくマッドサイエンティストが追放されるのは「学界」のほうだったようにも思いますが・・・。
 学会を追放されるのは、凶悪犯罪でも犯さないかぎり無理なような気がします。どんな無茶苦茶な理論を講演会で発表しつづけたとしても、公序良俗に反しないかぎり、それで追放されることはないでしょう。
 会費を滞納しつづけても・・・多くの学会では学会誌を送らなくなるだけで、名簿には名前が載ったままになるでしょう。会費滞納で退会措置が取られたとしても「追放」とは違いますしね・・・。
 ひょっとすると、学会の中にも、そこのお偉いさんの説に反対するような研究発表をしたら追放されたりするところがあるんでしょうか。
 そしたら「わしを追放した学会に復讐してやる〜」というセリフも叫べるかも知れませんね。

(初出:甲州画報156号  ”×”ぷれす。2001年5月号)


illust:中谷2号

 

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