タニアの話 seasonU-番外編/まじない師 リュセル・ラル・デュセルの噺U |
村の男達が言うには、こうだ。 形のわからない口の大きな化け物が、空気の割れ目から出て、子供を咥えた。近くに居た黒い髪の旅の女が、子供を追ってその口に跳びかかり、助けた子供を放ってよこした。女はそのまま呑み込まれたが、直後、化け物は爆発して粉々になった。 男達は、厚い皮の手袋で落ちた欠片を拾い集めて、閉じかける空気の割れ目に押し込んだ、と。 「それで、封印するのに俺が呼ばれて、これは『黒のタニア』だと、タニアとゼノンを捜したというわけだ。」 まじない師の為せる業か、見つけられた二人はすぐに駆け付けた。似ていると村人の驚くさまから、タニアが捜していた母親なのは確かだった。 「相手が何だか判ったから、喰われる前に自爆したんだ。」 感情もなく、ゼノンに肩を抱かれながら、タニアは言った。戦うしかできない人だからと。 俺一人で出来ない事もないが、空間を封じるのは中々に大ごとだ。それに俺の同族らしいが、知らぬものは手強い。それで、太子に力を貸して欲しいと申し出た訳だ。それにダミアンが応えて、エースとルーク、デーモンまでまとめて送り出して寄こすのだから、こちらの思惑を知るのか面白がるのか、最上級の対応を賜ったということだ。 それで俺は言ってみた。 「俺は予言もするんだ。せっかく顔を揃えたんだから、ひとつ予言をしてやろう。」 言えば案の定で、エースが不機嫌な顔を向けるが、構わずに事を進める。 「魔王はいずれ席を立ち、太子が王冠を戴く。あんた達仲間は、つかず離れず守り守られて、新しい王を援けることになる。天軍とも時に魔物とも対峙はあるが、『機の女神』が味方する、魔界は長く末永く続くだろう。」 魔王の交代を言ったから、増々エースの顔がきつくなる。それを片目に楽しみながら、戦闘の最前に立つだろう、デーモン族の長に向けて次を言う。 「魔物を相手に力足りぬ時に、俺を喰う。喰って、俺の持つ力を手に入れて戦い、この大事を守る。」 一同の強い視線を集める、これが一生に一度かの晴れ舞台だ。 「予言は予言だ。抗って先が変わるもんじゃない。」 にんまり笑って、仕上げにかかる。 「あんたは前に、大義があれば己の腕でも喰らうと言ったが、腕無しでは戦えない。その前に俺を喰らう。今の内に、喰って俺の力を奪う呪文をかけてやるよ。」 わざとらしく爪飾りの指を向けると、即座に払われる。 「いらん。万が一、そうなるのならその時でよかろう。」 「そうか? 今日は何時になく調子がいいんだが… 残念だ。」 本当に、今日は調子が良くて何でもできそうなのに、いや、できるのに。 「つまらん事をほざいてないで、さっさと封印を掛けろ。こっちは忙しい。」 「そうせかさんでも良かろうに。」 もっと楽しみたいが諦めて、封印の術をかけ始める。傍らのゼノンもタニアも呪術を学んでいるから、気の添え方は心得たものだ。それにしても、駆け付けた三人の気の色と強烈さには圧倒される。太子もさぞや楽しんでいるのだろう。 気で結界を張り、その内に気を集めて封印を幾重にも重ねて、仕事は終わった。 「お前はここで番をしたらどうだ?」 エースが言う。 「忘れないように、銘を刻んでやる。 『まじない師リュセル・ラル・デュセル 黒のタニアの倒しし闇の喰らい魔をここに封じる』 どうだ?」 「銘はいいねぇ… タニアに貰った名が残る。でも、まだまだそこらを歩き回りたいね。」 ふん、と鼻で笑って、エースが華麗にターンを決める。 「仕事は終わったから、俺は帰るぞ。どうする?」 デーモンが頷き、タニアがまだしばらくこっちに居る、と応えた。 残った4人で宿をとり、タニアを寝かせて酒を呑む。 「師匠はやっぱり凄いねぇ あの封印は強くてしなやかだ。」 酔いが回った口で言う。 ルークが強い酒に口をつけながら言う。 「予言なんて言って、あれは暗示をかけたんだろう? つかず離れず守り守られてなんて、アイツの喜びそうな事を言って。あれが、喰ってアンタの力を奪えって呪文だろ?」 この白い闇の気の主は、総てお見通しらしい。ならば言っておこう。 「解っているなら、俺を喰うように仕向けるのがあんたの役目だな。」 言えば暫くの間を置いて応えた。 「なるほどね。それもいい、それでもいいか。」 そして続ける、それで本当にアイツの役に立つのなら、そこに勝算が残るなら。 だから俺も加えて言ってやる。 「守る呪文なら、ゼノンに勝てる奴はいない。それにタニアを組ませたら無敵だ。」 「面白い。まじない師のカードも使いでがありそうだ。 エースと言い、デーモンと言い…勝手に進化する。参謀職の冥利に尽きる… 」 何がそんなに嬉しいのかしらないが、とりあえず今夜は、彼の乾杯に付き合ってやろう。 |
| 68◇タニアの話 seasonU-番外編◇まじない師 リュセル・ラル・デュセルの噺U◇完◇ ◇DC27('25).10◇ |