山猫亭


獲物を追って迷い込んだ森に 
洒落た洋館が建っていた
色褪せた看板が風に揺れて  
小さな窓の奥に灯が見える
こんな所にも人を待つ店がある 
急に空腹を思い出した
古い戸を叩くも応える声がない 
押せばきしみつつ開く
奥に《ここに銃を置きなさい》 
なるほど武器はいらない
扉の中には《外套を脱ぎなさい》  
代わりに土埃を払う
次には湯気と温かな服 
《風呂に入って着替えなさい》
それから《髪を整えクリイムを》 
甘い香りの化粧具まで
なにか憶えがある 
次は確か《塩》と山猫の舌なめずり
足音忍ばせてそれを通り過ぎ 
最後の扉の鍵穴をのぞく
          
談笑する影  
追いかけたシルエットが香りの中に在る
そして手前の席に 
伏せられた 確かに六つ目のカップ


例えば砂漠に長い槍構えた女の 
もう一つ 別の噺
           
21◇山猫亭◇完◇
◇BD10('89).8◇LOVE FRIGHT◇(懸軍万里Project)