人外魔境


「気持ちが安らぐって言ったら、変だけど。」

顔を和らげながら、友人が言う。
「ここに来ると、自分が何にも縛られてないんだと、いつも思えてくるんだ。」
実感そのままの言葉だろうと、魔界と人界の狭間に居を構える男は思う。
そしてまた意地悪く彼を責め立てる。
「両方に干されるのだとは、なぜ考えないんだ?」
「ああ、そうだね。」
毎度ながら相手は感心し、勧められる杯を一息に干す。
「そこに魔物が棲んでいるからか?」
己の問いに自嘲で答えて、彼は何杯も酒をあびる。

「いぃや違う、人でない者が迎えてくれると、わかっているからだよ。」
どこが俗にまみれた人間なのか、友人は目だけ笑わずに、彼に向けて乾杯の仕草をした。
           
15◇人外魔境◇完◇
◇BD10('89).8◇LOVE FRIGHT◇(懸軍万里Project)