ギリシアの神々が住む島
シチリア
シチリア島はイタリアの最南端に位置している。しかし、文化的にはギリシャに近いこともあって、ギリシャの影響が強く、神話の世界でもギリシャの神々で溢れている。(*7)
巨人キュクロプスを酔わせているオデッセイ
巨人キュクロプスを酔わせているオデッセイ
                 =カザーレ荘のモザイクから

  02年にも噴火した孤高の山工トナ、その地中には火の神ヘファイストスの鍛冶工房があった。彼はゼウスとその正妻ヘラの息子であったが、容姿が醜いため両親にうとまれていた。それでもけなげに努力して、今や神々のために武具や宝飾品などを手がける鍛冶の名匠とうたわれるようになっていた。
  彼を邪険に扱ったその父ゼウスもいかずちを注文し、これを彼は工トナの地下で、一つ眼の巨人キュクロプスたちに手伝わせ、丹精して仕上げた。打ちおろすとピカツと閃光をほとばしらせるその出来ばえにゼウスは満足し褒美として美の女神アフロディテをめとらせた。
  アフロディテの住まいはシチリア北西端のエリチェ山頂にあった。彼女には、美男ながら知性に乏しい軍神アレスという情夫と、いたずらな息子エロスがいたが、ある日、彼女は息子をけしかけて、冥界の主ハデスに愛の矢を打ち込ませてしまう。
  ハデスは、冷酷な雰囲気の神であったが、エロスの矢を受けて地上へと疾駆していった。シチリアのほぼ中心、ペルグーサ湖の畔では乙女らが花をつんでいた。と、遠くからひづめの音。恐れ逃げまどう乙女らの中には農耕の女神デメテルの愛娘ペルセフォネもいたが、彼女は立ち現れた精惇な男神に魅入られたように、ぼうっと立ちすくむ。ハデスはそんな彼女を抱きかかえて冥界へと連れ去った。
  失踪した娘を必死で捜すデメテルはギリシア本土にまで出かけ、髪ふり乱して尋ねまわっても、ハデスのことが恐ろしくて誰もが沈黙するばかり。
  ある日、デメテルは、シラクーサのオルティージャ島に湧く泉のほとりで愛娘の帯を見つけ、その場にどっとくずおれた。見かねた泉の妖精アレトゥーサはついに事実を語り始める。「女神様、私はもともとギリシア本土の森の妖精でしたが、ある日、不用心にも裸で水浴びをしたところ、その川の神アルフエイオスに言い寄られてしまいました。アルテミス様(狩猟の女神)にお願いして泉の姿に変えていただき、地底を通ってシチリァにまで逃げてきたのですが、実はそのときペルセフォネ様をお見かけしたのです。冥界でハデス様のお妃となっておられました」
  これを聞いて唖然としたデメテルはゼウスのところに行き、娘を返してくれるようハデスへのとりなしを頼む。結局、ペルセフォネは1年のうち、数ヵ月を冥界で過ごし、あとは地上に戻ることで和解が成立した。
  これは周知のよう自然と農耕を寓意する神話で、ミケーネ時代以前にさかのほる最古の信仰である。今日でもなおこの島は、太陽神ヘリオスを思わせる陽光豊かな自然の恩恵、あるいはゼウスの激怒を思わせる雷雨等、人知の及ばない神々の存在感に満ちている。
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