フッ素(正確にはフッ化物)は虫歯予防に効果的であることは知られていますが、どのような反応で効果があるのかについて説明していきます。
歯のエナメル質は99%がリン酸カルシウムの結晶からなり、ハイドロキシアパタイト(ヒドロキシアパタイト)と非常に良く似た構成をしています。
Ca10(PO4)6(OH)2
ハイドロキシアパタイト
しかし、エナメル質アパタイトは結晶性が低いため、結晶の不完全な部分からカルシウムが溶出したり、唾の中にあるカルシウムが取り込まれたりしています。これが虫歯のなりやすさと関係しています。
フッ素が歯に取り込まれると、水酸基と置換してフルオロアパタイトになります。
Ca10(PO4)6F2
フルオロアパタイト
フルオロアパタイトは結晶の不整な部分を修復し、ハイドロキシアパタイトよりも水や酸に溶けにくい安定した結晶にします。これが虫歯予防につながります。
歯科医院で行なわれるフッ化物の歯面塗布では、フッ素濃度が0.9% (9,000ppm)のものが使用されます。エナメル質とフッ素は下の式に示す反応をします。
Ca10(PO4)6(OH)2+20F-→10CaF2+6PO43-+2OH-
Ca10 (PO4)6 (OH)2+2F-→Ca10 (PO4)6F2+2OH-
歯面からフッ化カルシウム(CaF2)とリン酸(PO43-)が溶け出します(上の式)。
溶け出たフッ化カルシウムは低濃度のフッ素供給源となり、再びエナメル質アパタイトと反応してフルオロアパタイトを作ります(下の式)。
すなわち、エナメル質アパタイトが一度破壊された後にフルオロアパタイトが作られます。
虫歯の抑制率は20〜50%です。
フッ化入りの洗口液ではフッ素濃度100〜500ppmのものが使用されます。エナメル質とフッ素は下の式に示す反応をします。
Ca10 (PO4)6 (OH)2+2F-→Ca10 (PO4)6F2+2OH-
Ca10 (PO4)6 (OH)2+F-→Ca10 (PO4)6F2・OH+OH-
エナメル質アパタイトは破壊されることなく、フロオルアパタイト(上の式)やハイドロキシフルオロアパタイト(下の式)が作られます。
虫歯の抑制率は20〜50%です。
歯磨剤ではフッ素濃度1,000ppm(以下)のものが使用されます。フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化第一スズ(SnF2)、フッ化リン酸ナトリウム(Na2PO3F)のいずれかが含まれています。
フッ化ナトリウムはフッ化物洗口と同様の反応でフルオロアパタイトが作られます。
フッ化第一スズとフッ化リン酸ナトリウムはフッ化物局所塗布と同様にフッ化カルシウムを溶出させます。
フッ化第一スズはフッ化リン酸スズという不溶性の複合塩を作ります。
フッ化リン酸ナトリウムではリン酸塩がフッ化カルシウムが溶け出すときにアパタイトからリン酸が溶け出すのを防ぐ働きがあります。
虫歯の抑制率は15〜20%です。
主なフッ化物の種類を一覧に示します。
名称 | 使用法(フッ素濃度) | 回数 | 備考 |
フッ化ナトリウム | 水道水への添加 (0.6〜1ppm) |
水を飲むとき | |
歯面塗布(9,000ppm) | 2週ないし4週の間に 3〜4回塗布 これを1クールとして 年1〜2回 |
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洗口(226〜900ppm) | 毎日(0.05%) 週1回(0.2%) |
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歯磨剤(1,000ppm) | 歯磨き時 | ||
フッ化第一スズ | 歯面塗布(9,700ppm) | 虫歯の感受性 高い人 : 半年に1回以上 低い人 : 1年に1回程度 |
溶液は急速に加水分解し、水酸化スズとスズイオンとなり、虫歯予防効果が著しく低下するので、その都度調整する必要がある。 スズイオンが細菌の産生する硫化物と反応すると硫化スズを作り出し、歯を茶色くすることがある。 |
歯磨剤(1,000ppm) | 歯磨き時 | ||
酸性フッ素リン酸溶液 | 歯面塗布(9,000ppm) | 年に1〜2回 | |
フッ化リン酸ナトリウム(MFP) | 歯磨剤(1,000ppm) | 歯磨き時 | |
フッ化ジアンミン銀 | 虫歯の進行抑制 (フッ化ジアンミン銀として38%) |
初期の虫歯に対し、 数日間隔で3〜4回 |
硝酸銀は虫歯部分のタンパク質を凝固させて進行抑制に働く。 フッ素は虫歯予防に働く。 |
保険診療でのフッ化物局所塗布は3〜4ヵ月に1回となっていますが、歯学辞典や製品の使用説明書をみると、上記のようになっています。