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ここ「たわごと/情報処理とビジネス」は現在、以下の項目を含んでいます。これら項目間に順序はありません(すなわち順不同)。
メニュー情報システム投資(本ページ下記)
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情報システムにはあまり詳しくない小企業、零細企業あるいは個人企業の方に向けたものです。(理由は「このサイトについて」の「ページ記述に関する注釈」にあります。)

情報システム投資

1.とある情景

 ここは町工場。住宅を兼ねているのでしょうか、裏手には5、6着の作業服に混じって普通の下着などの洗濯物が干してあります。屋内、角には、きれいに掃除されているけれど事務所なのか作業場なのか判然としない区画があり、そこにパソコンが数台、置かれています。
 初めて訪問した私のために、「寅さん」シリーズのタコ社長のように全然威厳のない社長が説明してくれました・・・内1台はインターネットにつながっているが、LANもなく、市販の経理ソフトや表集計ソフトが動作している・・・。社長のご希望は、材料資材の発注、受入管理から製造工程管理、半製品在庫管理、出荷管理から経理サイドへのデータ連携まで。財務や税務が抜けているのが幸いですが、それにしてもなんと広大な構想。
 きっとどこかで、そんな先進的な工場を見学したか、勉強されたのでしょう。でも、ご希望はご希望として置いておいて、実現可能な策を探らねばなりません。社長の意欲は買いますが、ご予算にも限りはあるでしょうから。

 多岐に渡る社長のご要望について最も切実に希求される案件は何なのかを聞き出すべく、私は個々の業務段階での情報システム化案を思いつく限り語りました。予算をお聞きする前に無責任な提案を繰り出すのは、お手のものです。
 一通りしゃべると、社長が煙草を吸っているのに気づきました。ここはパソコンのある区画なんですが、吸ってもいいようです(*1)。私も取り出そうとしたとき、社長は「結局、いくらかかるんでしょう?」、「効果というのか、つまりは、いったいいくら経費節減になるんでしょう?」と、お聞きになります。

工事中*1. とかく情報漏えい対策やウイルス対策が、情報セキュリティの主題として語られますが、まずは防火など設備維持が語られなければならないと思います。これに関し「情報セキュリティ」という一文を用意するつもりでしたが、まだ「工事中」です。

2.費用推定

 上述の段階での費用推定は、非常にいい加減なものです。「相場」というものがあるもの、すなわちパソコンを初め、よく使われるハードウェアについては大体のところを言うことはできましょうが、時として高価な機器購入が必要かもしれません。ネットワーク構築も、上記の町工場ではノイズもありそうだし、配線が大変かも知れません。
 ソフトウェアに至っては、怖くて口にできません。市販ソフトでは済みそうにないし、さりとて制作する範囲、機能が絞れていません。具体策が全然、イメージできないのです。
 お客様が情報処理関係の玄人の場合、仕様書の有無を初め、検討のための前提条件を要領よく提示していただけるので、かなりの精度で工数・費用が推定できます。それだけにドンブリ勘定の見積りをすれば追及も厳しいものがあるわけですが、見積り失敗のリスクは回避しやすくなります。
 一方、素人さんの場合は、見落としが無いか十分注意しないと後で大変な目にあいかねません(*2)。

*2. システム営業にかかわる多くの人や企業は、こういう初期段階でのチェックリストをお持ちなのではないでしょうか。本ホームページでは、ちょっと変わったタイプのチェックリストを紹介しています。「役立たない?/プログラム等」ページの「業務確認書(1)」をご参照ください。具体的な機能項目以外に、いろんな条件が見積り考慮の対象となることがわかっていただけるのではないかと思います。

3.一般的情報システム投資額

 大手企業における情報化投資額については、経済誌や各種調査団体のレポートが、かなり出ているでしょうし、また、個別にその事業報告で情報が得られることも多いです。が、中小零細においては、どの程度が「相場」なのでしょうか?
 下のグラフは、財団法人全国中小企業情報化促進センターによる調査報告(*3)から少し加工したものです。

グラフ:過去5年間のIT投資額
<過去5年間のIT投資総額>
*3. 平成15年3月報告、財団法人全国中小企業情報化促進センター『平成14年度「中小企業情報化対策調査事業」報告書』。幾分か「情報化に対する活用度の高い企業」を含む製造業、卸売業、サービス業へのアンケート調査による。
 上のグラフは、「直近を含め、貴社の過去5年間のIT投資総額は、およそどれくらいですか」という問いの結果を示すもの。報告書では、次表のように「不明」を含んだ構成比が示されているが、上のグラフではこれを除き、再算出した。
(元データ) 過去5年間のIT投資状況
100万円以下 6.2%
100万円超 300万円以下 17.8%
300万円超 500万円以下 9.6%
500万円超 1000万円以下 15.8%
1000万円超 2000万円以下 15.0%
2000万円超 3000万円以下 6.9%
3000万円超 5000万円以下 6.0%
5000万円超 1億円以下 6.2%
1億円超 5.8%
不明 10.9%
N=552
(調査対象)
資本金規模:「1,000万円超3,000万円以下」54.9%、「3,000万円超5,000万円以下」14.9%、「1,000万円以下」13.8%、「5,000万円超1億円以下」9.0%、「1億円超」7.2%。
従業員数:「6〜20人」34.4%、「21〜50人」22.1%、「51〜100人」15.4%、「5人以下」14.9%、「101人以上」12.1%。
業種:製造業42.9%、サービス業31.7%、卸売業19.9%、その他4.7%。

出典資料は、財団法人全国中小企業情報化促進センターのホームページ(http://www.n-i-c.or.jp/)から、pdf ファイルでダウンロードできます。詳細は、そちらをご覧ください。

 上のグラフでは、どうも明確な傾向は読み取れないようです。報告書では「ばらつきがみられるが、投資総額が500万円以下の企業が33.6 %と3分の1を占める。なお、投資額の平均は、2,737万円であった」と述べています。5年間での額ですから、1年では500万円程度でしょうが、私の感覚からすると、このページの初め(「1.とある情景」)に記したような企業規模だと多すぎると思います。(電話代やコピー機のリース代、用紙代、はては年賀状の費用まで、なんでもかんでも「情報化投資」に入れてしまえば話は別ですが。)
 報告書では従業員数に着目し、その規模別にクロス集計を行なっています。下のグラフは、その数値を基にしたものです(*4)。当たり前のことですが、規模の増大に従い投資額も増大しています。本稿の町工場だと、まあ5年で1000万円(1年200万円)もかけていれば多い方なのではないでしょうか?

グラフ:従業員規模別の過去5年間のIT投資額
<従業員規模別の過去5年間のIT投資額>
*4. 前掲、財団法人全国中小企業情報化促進センター『平成14年度「中小企業情報化対策調査事業」報告書』。
 前のグラフと同様、「不明」を含む元データ(下表)から、「不明」分を除き、グラフを描いた。
(元データ) 表5−5 過去5年間のIT投資総額(従業員規模別) (単位:%)
100万
円以下
100万
円超
300万
円以下
300万
円超
500万
円以下
500万
円超
1000万
円以下
1000万
円超
2000万
円以下
2000万
円超
3000万
円以下
3000万
円超
5000万
円以下
5000万
円超
1億円
以下
1億円
不明
5人以下(N=82) 20.7 29.3 13.4 12.2 6.1 3.7 1.2 0.0 0.0 13.4
6〜20人(N=190) 6.3 23.2 12.6 20.5 13.7 4.2 2.6 2.1 2.1 12.6
21〜50人(N=122) 2.5 14.8 9.0 20.5 19.7 13.1 9.0 4.9 2.5 4.1
51〜100人(N=85) 0.0 10.6 5.9 11.8 20.0 9.4 11.8 11.8 5.9 12.9
101人以上(N=67) 1.5 3.0 1.5 4.5 16.4 4.5 9.0 19.4 29.9 10.4
不明(N=6) 16.7 16.7 16.7 0.0 0.0 0.0 0.0 16.7 0.0 33.3

4.情報システム投資の分類

 ある程度予算が確保できるとしても、何にどう投資すべきでしょうか。本ページの冒頭に記した社長のような、希望や理想の花盛りでは、的を絞れません。金額枠を決め、あとは「良きに計らえ」式のおまかせコースも考えられなくもないですが、任された方は社業のあらゆる面での業務分析から入らなければならなくなります。
 さらに社長は「もし導入効果があるなら、それに見合う資金は調達できる」ともおっしゃいます。商工団体を通じた有利な貸付でもあるのでしょう。
 この「導入効果」というものが、とんでもないくせものです。直接的な生産設備なら日量何トンとか、1製品何分とか、所要人員何名といった数値からある程度の見込みが示せますが、示せないか、あるいは示すには調査に大きな労力をかける必要があるものが多いのです(*5)。

*5. 花岡 菖『情報システム部門の役割と人材育成』(1995、日科技連出版社、「第3章 情報システムの導入効果の測定」)では、投資効果の「測定困難化の背景」として、次の2点を述べられている。
  (1) 効果の数値化把握の困難化
  (2) 効果測定指標の枠組みの限界
(1) は数量測定の困難さですが、(2) は組織や職務分掌に区分された従来の経営資料から効果とコストを適切に把握するのは困難であるということを(特に「情報システム部門」の費用を念頭に)指摘されたものと思われます。この書は1995年に出版されたものですので、近年のインターネットの普及などの情報化進展、普及までも見通したものではないことでしょうが、これらのご指摘はますます大きな課題になってきているのは間違いないのではありませんか。

 やはり、金額枠から何を行なうか考えるのではなく、何をすべきか先に挙げた上で予算付けしていくというのが常道でしょう。情報化投資も、他の設備投資と異なるわけではないのです。ただ冒頭の町工場のような場合、他の設備に関しては社長自らが専門家であるのに対し、「情報化」についてはどうもわからない、見えないというだけなのです。
 まずは、いろいろなご要望を次の3つに分類(*6)してみませんか。細かい事柄でも、そのまま挙げればいいと思います。たとえば、手書きの運送伝票をきれいに間違いなく出せるようにならないか、など。

  1. お仕事の一部に直接的、具体的に役立つ点を挙げることができるもの
  2. お仕事のいろいろな領域にまたがって、便利だ、楽だとメリットが出るもの
  3. それが無くては、もはやお仕事が進められないと思われるもの
*6. この分類は次の参考文献に依るものです。
北原 康富、『DATABASE SYSTEM』(ソフトバンク発行)1997年2月号「知的経営の道具 第15回」「知的システムの投資効果(1)」より。「投資の意思決定という観点で情報システムを分類すると次の3つに分けることができる。
  ・個別業務目的を持ったシステム
  ・情報インフラストラクチャ
  ・企業活動の根幹として、それが無くては業務そのものが成り立たないもの
(中略)投資効果の意思決定をする際、そのシステムがどのカテゴリに属するのかを、まず見極める必要がある」

 あらゆる要望事項を挙げることができたと思ったら、次にそれらの目標期限を想定します。大き目の紙を用意して、下表(例)のようなマトリックスに書き込んでください。期限の分け方は随意です(適当に半年とかでも良い)。
 「3. 必須根幹」については「緊急」になるでしょうが、ここでは従来のやり方で維持できる限界で分けてください。例えば「親会社が電子取引を導入したから、このまま従来の取引方法を続けられるのは、あと1年ぐらいだろう」ということなら「1年」です。

緊急 1年 3年
1. 個別業務目的
2. 情報インフラ
3. 必須根幹

 以上で、超簡便『情報化推進計画』の出来上がりです。
 本当はこの作業以降、具体策、情報化方法(格好をつけて「ソリューション」と呼んでもいいですが)や費用・効果を書かなければなりませんし(*7)、それこそが大事です。でもいいじゃないですか、『情報化推進計画』第一版ということで。

*7. できた表を専門家に見せ、各項目の関連や制約なども踏まえた上で包括的に相談に乗ってもらえれば幸いです。しかし、社の状態をさらけ出す面もあるでしょうから、全面的に信頼できて情報化に詳しい方を探し出すのは、なかなかむずかしいでしょう。
 三人寄れば文殊の知恵ということで、まずは社内メンバでの検討会はいかがですか。モチベーションの向上にもつながります。また、小出しにして業者に相談を持ちかけ、得られた内容を、この『情報化推進計画』に盛り込んでいけばいいと思います。

darokugawa@master.email.ne.jp darokugawa@master.email.ne.jp このページ最終更新日 : November 1, 2003