「伝統構法の本質について」
日本の伝統的民家の叡智


 日本の伝統的な民家建築は、自然と共生し、住む人も健康に暮らせる、とても優れたエコロジー建築です。現代の住宅と比較してみると、伝統建築の知恵の奥深さがよく見えてきます。

現代の家の寿命は20年
伝統構法の家の寿命は300年

 私たちの暮らす現代の住宅の寿命は平均して20数年程度と言われています。一方、日本の伝統的な民家や町家は300年以上持たせることが出来ます。何故、テクノロジーの発展したはずの現代に、私たちは僅か20数年の寿命の家を建てる羽目に陥ってしまったのでしょうか。

伝統構法の家は「構造あらわし」

 現代の家と伝統構法の家の違いはまず家の骨組みの見え方にあります。現代の木の家は、家が完成してしまうと柱や梁といった構造材がすべて隠されてしまいます。ですから家の一番大事な骨組みがどういう状態にあるか外見では判断できません。粗悪な木材を使って、手抜き工事をしていても、表面さえきれいに仕上がっていれば素人では、まず、安全な家かどうか判断できません。
 一方、伝統構法では「構造あらわし」といって構造体の多くが見えている作りなので、材料の良し悪し、大工の腕の良し悪しが一目瞭然ですし、また、年月を経た後の痛み具合を見て、部分修復することが出来ます。

壁の中や床の下、家は見えない所が大事

 現代の家のほとんどが通常、柱に両面から石膏ボードやコンパネ(合板)あるいはサイディングが釘等で打ち付けてあり、中は空洞です。実は、この壁の中が空洞になっているということが、家の寿命を短くしている大きな原因の一つです。部屋を暖房したときなどに、暖かく湿った空気が壁の内部に進入して、壁体内で結露します。空気の流れのない壁の中が湿気の籠もった状態になることで、柱などの構造体を腐らせたり、シロアリが発生します。また、空洞の中に入っている断熱材も湿気を吸って数年で効果は半減します。床下も同じ状態で、現代の家は基礎コンクリートで家の周囲を囲ってしまい、床下に小さな換気口しかついていないため、空気の流通が極めて悪く、床下も常時湿った状態になっているので早く劣化します。

伝統構法の家は土壁

 伝統構法では壁は主に土壁です。竹小舞といって竹を格子状に棕櫚縄などで編んだものの上に、土に藁を混ぜ、長期間寝かせて醗酵したものを最初に塗ります。その後、土と砂、藁等を混ぜた中塗り、漆喰仕上げなど最低五〜六行程かけて厚さも二寸五分(7.5B)以上になります。もちろん壁の中に空洞は出来ません。土が呼吸しますので湿度を調節してくれますし断熱性も優れています。(昔の古い民家は、隙間風のために寒かったのですが、現在ではその点も改良されています。)

伝統構法の家は木組みの家

 伝統構法の家は骨組みがすべて伝統的な技術である仕口継手といった木組みだけで組み立てられています。木組みには千年以上の歳月をかけて工夫が重ねられた先人の知恵が生きています。
 現代の家では木組みの部分は簡略化され、強度はボルトなど金物に頼っています。これも現代の家の寿命を短くする大きな理由のひとつです。金物は壁の中や天井裏、床下などで結露しますので、見えない所で数年のうちに錆び付いて、強度が落ちて来ます。また、木材も錆びた金物に接触している部分は早く腐食します。鉄と木材は特に相性の悪い組み合わせといえます。また、使われている木材自体が腐りやすい樹種のものが使われたり、目の粗いもの、腐りやすい部分を多く含んだもの、未乾燥のものが使われるケースがほとんどです。特に木を乾燥させて使用することはとても重要ですが、現在はほとんど行われていません。湿った木材を使用すれば乾燥するに連れて木が縮んで来ますから、木を固定していたボルトがゆるんで強度が落ちてきます。
 
日本の家は湿度との戦い
 
 日本のように温暖で雨が多く、湿度の高い土地で、いかに木の家を長持ちさせるかという知恵が、伝統構法の家には沢山詰まっています。
 軒を深くして雨に濡れないよう家を守り。腐りやすい床下は大きく解放して風通しを良くし、壁は湿度を調節してくれる無垢の土を厚く付ける。そして家の一番重要な骨組みを作る木材も、そのまま見えるように作られているので、常に空気の流れに触れ、呼吸することで長持ちします。また、どうしても腐りやすい部分も、常に目に触れ、交換が可能な造りになっているので、手入れをしながら家の寿命を延ばすことが出来るように作られているのです。
 現代の家にはこのような考え方がまったくありません。修理や補修が出来るように作られていないために、直すよりも、壊して新しく建てた方が安くつくということになります。
 
身土不二の建築 
 
 現代の家作りは、西洋的な家作りや、新建材を使った新しい構法にばかり目が向いていて、日本特有の気候風土や自然環境との調和ということが考えられていません。
 その土地で育まれた固有の伝統建築というのは、その土地で手に入りやすい材料を使い、すごしやすく、丈夫で長持ちのする家の作り方が長い年月をかけて工夫されていますので、外国の建築をデザインや作業効率だけを考えて取り入れても寿命が短く、エネルギーのロスも多い家になってしまいます。
 
日本の気候には合わないログハウス
 
 例えば、ログハウスは同じ木の家でも、北欧や北米などの寒冷で雪が多く乾燥した土地で昔から作られてきました。そういう地域には適していますが、気候の違う日本には合いません。
 まずログハウスは木を横に寝かして積み上げますが、雨が多く湿度の高い日本では木を横に寝かして使うことはタブーです。木が腐りやすいのです。日本では昔から柱を立てて使います。含まれた水分が移動しやすいので木が乾きやすいのです。また、ログハウスのように木を積み上げる構法ですと、開口部を多く取ると構造が弱体化してしまうので、日本建築のような開放的な造りが出来ません。その結果、室内の空気の流れが悪く湿気が籠もりやすいので、年中エアコンを使わなければなりません。また季節により湿度の変化の激しい日本では、ログハウスは建物が木の膨張、収縮の影響をまともに受けるので、窓やドアなどの建具の建てつけが悪くなり、隙間風が入ったり、窓やドアが開かなくなったりします。このように見た目や雰囲気の良さだけで、外国のデザインや様式を取り入れた家を選ぶと失敗してしまいます。
 
 現代の家はエネルギーの浪費と薬物依存の悪循環
 
 現代の家はほとんどの材料が、輸入木材と、石油を大量に使って作られた新建材です。日本は木材輸入国の第一位で、その量は世界全体の取引量の三割をも占めています。日本の浪費社会を維持するために、世界で膨大な量の森林破壊を行っています。そのことはその土地で暮らす、自然と共に生きてきた人々の生活を破壊し、都市への人口流出、スラム化を引き起こしています。また輸入木材のほとんどは薬剤処理をしますから安全性も問題があります。新建材は、化学物質アレルギーや、アトピー、シックハウスといった社会問題にもなっているように、住む人の健康を脅かす深刻な問題です。有害物質を出すだけでなく、呼吸をしない素材で覆われているために、室内の空気が異常に乾燥したり、壁面やサッシに結露することでカビが繁殖し、それがダニの餌になります。現代のように人工素材で高気密・高断熱の家を作り、人工的に室内環境をコントロールしようという考え方自体に無理があります。結果としてエアコン、除湿器、加湿器、空気清浄機などの電気製品を使ってエネルギーを浪費し、除菌、防虫、防腐、防カビ剤などの薬剤に頼らなければ生活が維持できなくなっています。
 
 国産の木材を使うことの意味
 
 現在国産の木材があまり使われなくなってしまった理由は、大規模伐採による輸入木材に価格で対抗できないからです。しかし、日本の森林面積の40%に当たる戦後植林された人工林が既に伐採期に入っていて、このまま利用されず放置されれば日本の林業は崩壊します。現在すでに危機的な状況にあり、林業は経営が成り立たず、後継者も育たず、人工林の間伐が出来ないために細い木が密生したまま放置され、木は折れ、倒れ、下草が育たないために、表土は流出し、ダムを埋めています。林業は何世代にも渡った長い時間軸で考えなでれば成り立ちません。森を大事に手入れをしながら、自然の循環する息の長いサイクルで森林資源を活用し、いつまでもその恵みを受けられる方向へと転換するべき時に来ています。
 
 日本の家は木と土と竹と草の家 
 〈建築材料と廃棄物〉
 
 現代の家は材料が何ひとつリサイクルということを考えないで作られていますから、ゴミとなった新建材は燃やせばダイオキシンを発生させ、山に捨てれば、浸み出して地下水を汚染し、いずれにしても空気や水、植物、魚などを通して私たちの健康を脅かし、生態系全体を狂わせます。20数年のサイクルで、日本中の建築物が膨大な量の有害な廃棄物と化して、環境を汚染し続けているのが実態です。
 それに比べて伝統的な家屋は、骨組みなどを木で、壁は土と竹と藁、屋根は萱や瓦、畳は藁と藺草、障子や襖などの和紙は楮や三椏、塗料は漆、柿渋、荏胡麻油などが使われてきました。寿命がつきた後もすべてが大地に返すことの出来る材料で作られています。
 リサイクルという事でいうと、伝統的木組みは一本一本の木を傷つけることなく解きほどくことが出来ますから、痛んでいる部分だけを交換して、修復したり、移築することが可能です。また、土壁の土は壁から剥がして再び藁を混ぜ、水で練り返せば何度でも再利用が可能です。畳や、屋根の萱や藁の腐ったものは、農業用の肥料として大地に返されて来ました。
 エネルギーを浪費せず、有害な廃棄物を出すこともない伝統構法の家は、環境への負荷が少なく、住む人も健康に暮らせる優れたエコロジー建築なのです。
 
 現代の家は剛構造
 伝統構法の家は柔構造
 
 耐震性に対する考え方も現代の家と伝統構法の家ではまったく対照的な考え方をしています。
 現代の家の考え方は、地震に対して地面にしっかり固定し、びくとも動かないように家全体を固めようとしています。地震という自然のエネルギーに対して、あくまで頑なに抵抗して、人知の力で対抗していこうという発想です。これを剛構造といいます。
 一方、伝統構法の家は地震の力に対して、どうやってそれを受け流し、分散し、逃がしていくかという考えに基づいています。自然のエネルギーに対して抵抗するのでなく、柔軟に受け入れていく作りになっているのです。これを柔構造といいます。
 
 地震に対してイチかバチかの現代の家
 
 現代の木造住宅の作り方は、構造上大事な骨組みには安価な材料を使い、表面だけを立派できれいに見せようとする張りぼて建築です。
 その構造原理である剛構造の要は、火打ちと筋交いと金物の三つです。家を歪ませないように、火打ちは水平面に、筋交いは垂直面に、それぞれ張りぼてを固定するつっかい棒のように斜めに金物で固定されています。しかし例えば筋交いは力のかかる方向によって、柱と梁の接合部をはずしてしまう働きをしてしまったり、一カ所の破壊が隣り合う耐力壁の破壊を次々に誘発するドミノ現象を引き起こします。また、建物が基礎コンクリートに固定されているために、地震の力をまともに受けることになります。建物を地面に固定し、決して歪んではならないということに拘り過ぎたため、地震の力を逃がす部分がなく、それが逆に弱点になっているのです。ですから、ある限界以上の力がかかった場合は一挙に倒壊します。計算上では、大きな地震にも耐えられることになっていますが、それは設計と工事が完璧で、しかも家が新しいうちだけの話です。現在行われている構造計算というのは、金物がゆるんだり、外れたり、腐食したりすることがないという前提で計算されています。家が十年、二十年経った状態のことは考慮されていませんから現実的ではありません。木材や金物の腐食など、劣化の激しい現代の家では、時間が経つほどに危険度はうなぎ登りに上がることになります。
 
 何重にも安全策の施された伝統構法の家
 
 一方、伝統構法の家は地震のエネルギーに対して、様々な形で力を受け入れ逃がしていこうという発想ですから、定期的に手入れをしていれば、大きな地震が起きても致命的な破壊ということが起きません。
 伝統構法は、全体が柔構造の構造原理に貫かれています。柔構造には三つの要があります。
 ひとつ目は「総持ち」といって、適切な太さの木材を使用し、建物全体を複雑に絡み合わせる木組みの技。
 ふたつ目は貫構造。貫とは、壁の中に水平に入っている部材で、柱を通し、仕口で固定されてます。通常この貫の上に竹小舞が掻かれその上に土壁が付きます。この貫と小舞と土壁の組み合わせが重要です。
 みっつ目は足固めと差鴨居といった差し物です。足固めは床下で、差鴨居は開口部の上部でそれぞれ柱へ仕口で差し込まれた部材で、柔構造であり、かつ開放的な作りにすることを可能にしています。
 以上三つの要によって柔構造を構成していますが、柔構造というのは単に柔らかいという意味ではなく、柔軟であると共に、粘り強く復元力を持っている構造なのです。中規模の地震では木の曲げ強さや、木材同士の摩擦力によって分散して力を受け入れ、阪神大震災級の大地震では、貫や差し物、柱や梁などの木組み部分がめり込むことと共に、土壁の周囲が崩れることで力を吸収します。更に最終局面では基礎の上で建物がずれることで力を逃がします。地震の規模によって段階的に防御策が取られていて、最悪の場合でも家の中の人間は生き残れるように考えられているのです。また、たとえ家が歪んだり、基礎からずれたり、壁が崩れたりしたとしても、それを直すことが出来る作りになっていますので、家を失うことはありません。
 
 柔構造の原理によって作られた法隆寺
 
 千三百年以上前に建立された法隆寺は、すでに柔構造の原理が確立していたことを証明しています。法隆寺の五重塔が千三百年もの間、地震や台風の中で生き残って来たのは柔構造で作られているからです。
 建物は一見、一本の心柱を中心にがっしり固められているように見えますが、実際にはその構造は心柱とは無関係に、外力を受けたとき、一重から五重まで、それぞれがヤジロベエの如く互い違いにゆらゆらと波を打つように揺れ動き、塔全体がスネークダンスを舞うように作られています。つまり地震や台風のエネルギーが、ダンスを舞うエネルギーへと変換される仕掛けになっているわけです。
 もともと日本人は、自然の力に対抗しようという意識よりも、人間を自然の一部として捕らえ、自然の中でこそ生かされるという意識が強かったと思います。その様な背景があって、柔構造のようなすばらしい知恵が生まれたのですね。
 
 人間と自然との向き合い方が建築にも表現される
 
 日本建築では、空間の作り方の中にも、土間や、坪庭、通り庭、軒下や縁側など、自然を家の中へ取り入れ、内と外をつなぐ様々な工夫がなされてきました。また、暖簾、すだれ、格子、障子、欄間など、季節の風を感じ、光の陰影を味合う仕掛けが随所に見られます。木や土や竹などの自然の素材が、摂理に合った使い方がされ、時にダイナミックに、時に繊細に造形美を演出し、しかも素材そのものが持つ質感の美しさによって、温かみのある、清々しい空間が作られます。そしてそれらのものは、長い時間を経ても、飽きられたり、価値を失うものではありません。本物の建築とは時と共に深く味わいの出てくるものです。
 
 日本の伝統建築をよく見てみると、古来、日本人はとても丁寧に周りの自然と付き合い、ゆったりとした時間の中で生きてきたことが分かります。現代文明が様々な面で行き詰まりを見せている現在、建築に限らず様々な生活文化の中で、自然に対して人間が謙虚であった時代の知恵から学び取れることが、沢山あるように思います。

2001年10月   深田 真


 参考文献
 「西岡常一と語る 木の家は三百年」原田 紀子 著 農文協 発行

 「五重塔はなぜ倒れないか」上田 篤 著 新潮社 発行

「まちなみ」1997年1月号
『木質構造は地震の揺れにどう抵抗するか』鈴木 有
大阪建築士事務所協会 発行



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