トランジスタの実験 スイッチング動作 (コレクタ・エミッタ間飽和電圧)
 
 ▼説明・・・

 FEの所でコレクタ電流はベース電流のhFE倍流れると説明しました。しかしそれにも限界がありベース電流を上げていくと、ある地点からコレクタ電流が上がらなくなります。それを飽和状態と言います。その状態の時のコレクタ・エミッタ間電圧をコレクタ・エミッタ間飽和電圧と言います。

 この現象を利用したものがスイッチング動作です。トランジスタの動作は、増幅とスイッチングがあります。その内の一つです。これを利用することによって、電圧の違う回路同士の信号の受け渡しや、小さい電流で大きな電流を制御できる様になります。
 では、そのスイッチング動作を実験します。

 ▼計算式です・・・

 飽和状態にする為の最高の抵抗値(=最低のベース電流)を求めます。

 IC = VRL(負荷【RL】にかかる電圧) / RL
 IB = IC / hFE
 VRB1(ベース抵抗【RB1】にかかる電圧) = VIN - VBE
 RB1 = VRB1 / IB

 ▼実験回路です・・・



 RLはトランジスタで制御する負荷と見ます。RLを固定(今回は1kΩ)して、RBを変化させてICとVCEの変化を見ます。
 上の計算式に左の回路図の値を代入します。hFEは先の実験で調べた245とします。ベース・エミッタ間電圧VBE0.6Vとします。

 VRL(負荷【RL】にかかる電圧) = E2 = 5V
 IC =  VRL / RL = 5V / 1000Ω = 5mA
 IB = IC / hFE  = 5mA / 245 = 0.005A / 245 = 0.02mA
 VRB(ベース抵抗【RB】にかかる電圧) = VIN - VBE = 5V - 0.6V = 4.4V
 RB = VRB1 / IB = 4.4V / (0.02mA / 1000) = 220000Ω = 220kΩ

 計算の結果は、RB = 220000Ω = 220kΩ以下にすると飽和状態になると分かりました。
 これはあくまで計算上の値です。実際にこの様になるか実験です。



 これが今回使用するトランジスタ2SC1815の外観です。今までは、右の物だったのですが、最近購入すると左の物になっています。文字の感じが違います。中国製の模造品かと思いましたが、実は文字をレーザーで焼いて書き込んであるそうです。そういえば最近の東芝のICもこんな感じの文字が入っています。”GR”と書いてあるのはhFEのランクでGR=200〜400になります。

2SC1815(東芝)【株式会社東芝データシートより】
項目 記号 定格  単位
コレクタ・ベース間電圧 VCBO 60 V
コレクタ・エミッタ間電圧 VCEO 50 V
エミッタ・ベース間電圧 VEBO 5 V
コレクタ電流 IC 150 mA
ベース電流 IB 50 mA
コレクタ損失 PC 400 mW
接合温度 Tj 125
保存温度 Tstg -55〜125
上記データーは2002年01月29日現在

 左の表が、今回使用するトランジスタ東芝の2SC1815の最大定格です。最大定格とは、絶対に超えてはいけない定格の事で、超えると壊れると言うことです。実際に使用する時は、この最大定格の半分ぐらいに成るように設計します。

 ▼実験です・・・



 実験はブレットボード上で行います。左の写真の真ん中にある3本足の部品がトランジスタです。そのすぐ右にある1/4W抵抗器がRBです。これを色々な値のものと入れ替えます。

 トランジスタの向こう側に見える1/4W抵抗器がRL(写真は1kΩ)です。これがトランジスタで制御する負荷の代わりになります。
 RB1抵抗器の右にあるタクトスイッチは、ベース電流を流す時に押します。なぜスイッチを付けたかと言いますと、ベース電流や、コレクタ電流が最大定格を超えて流れた時、素早く電流の供給を止めてトランジスタを守る為です。短時間なら守ることが出来ますが、スイッチが無い場合長時間電流が流れることとなりトランジスタの故障の確率が上がります。

 左のミノムシクリップで右の写真の電源装置からコレクタ側の電源を供給します。



 左の写真が全体の様子です。奥にある緑色のテスター(共立電気計器KEW1011)2台と黄色のテスター(メーカー?型番?ホームセンターで\1,000で購入)で電流と電圧を測定します。左がIC=コレクタ電流、中がIB=ベース電流、右(黄色)がVCE=コレクタ・エミッタ間電圧です。

 ▼結果です・・・

コレクタ・エミッタ間飽和電圧実験結果 RL=1000Ω
ベース抵抗(RB) ベース電流(IB コレクタ電流(IC コレクタ・エミッタ間電圧(VCE) RLにかかる電圧(VRL)
Ω mA mA V V
100 37.2 5.00 0.03 5.00
150 25.6 5.00 0.03 5.00
220 18.1 5.02 0.02 5.02
330 12.4 5.04 0.02 5.04
470 8.76 5.04 0.02 5.04
680 6.18 5.04 0.02 5.04
1k 4.16 5.04 0.02 5.04
1.5k 2.84 5.05 0.02 5.05
2.2k 1.95 5.05 0.02 5.05
3.3k 1.29 5.05 0.02 5.05
4.7k 0.92 5.05 0.03 5.05
6.8k 0.64 5.03 0.03 5.03
10k 0.43 5.02 0.04 5.02
15k 0.29 5.01 0.05 5.01
22k 0.20 5.00 0.06 5.00
33k 0.13 4.99 0.08 4.99
47k 0.09 4.97 0.09 4.97
68k 0.06 4.96 0.11 4.96
100k 0.04 4.93 0.13 4.93
150k 0.029 4.91 0.16 4.91
220k 0.020 4.73 0.33 4.73
330k 0.013 3.19 1.86 3.19
470k 0.009 2.23 2.80 2.23
680k 0.006 1.54 3.48 1.54
1M 0.004 1.05 3.97 1.05
気温 2*.*℃ 上記データーは2008年**月**日現在

 RLにかかる電圧(VRL)とE2(VCC)がほぼ同じになった時、そしてVCEが限りなく”0”に近くなった時が、トランジスタが飽和状態と言えます。表の緑色の部分がその状態と言えます。”0”に近くなっただけで完全には”0”になりません。その時のVCEがコレクタ・エミッタ間飽和電圧【VCE(sat)】と言います。2SC1815の場合、標準で1.0V、最大で0.25Vとなっています。実際に実験して見ると、0.02〜0.33V程度でした。
 どの抵抗値から飽和状態になったかと見てみますと、220kΩより低い抵抗値という事が分かります。330kΩでは、VCEが既に1.0Vを超えています。先ほどの計算で220kΩ以下という結果でしたので、ほぼ一致します。

 ▼実践してみます・・・No.1

 ここでは、実際の回路を組んで実験してみます。
 RLには、リレー(オムロン G5V-2 DC5V)を使用します。

 ▼回路図です・・・



 リレーを動作させて、その時のベース電流IB、コレクタ電流IC、ベース・エミッタ間電圧VBE、コレクタ・エミッタ間電圧VCEを測定します。そしてRBを色々な値のものと交換して、変化を見ます。

 リレーの接点には、動作が分かるように発光ダイオード(LED)を付けました。黄色の発光ダイオードが点灯の時はリレー未動作、赤色の発行ダイオードが点灯の時はリレー動作です。

G5V-2(オムロン)
項目 記号 定格  単位
接点構成   2C  
コイル定格電圧   DC5V  
定格電流   100 mA
コイル抵抗   50 Ω
動作電圧   75%以下  
消費電力   約500 mW
       
       
上記データーは200*年**月**日現在

 計算式に回路図の値を代入します。hFEは先の実験で調べた245とします。ベース・エミッタ間電圧VBE0.6Vとします。

 VRL(負荷【RL】にかかる電圧) = E2 * 75% =  5V * 75% = 3.75V
 IC =  VRL / RL = 3.75V / 50Ω = 0.075A
 IB = IC / hFE  = 0.075A / 245 = 0.306mA
 VRB1(ベース抵抗【RB1】にかかる電圧) = VIN - VBE = 5V - 0.6 = 4.4V
 RB1 = VRB1 / IB = 4.4V / (0.306mA / 1000) = 14373Ω = 14.4kΩ

 計算の結果は、RB1 = 14.4kΩ以下にすると飽和状態になると分かりました。
 これはあくまで計算上の値です。実際にこの様になるか実験です。

 ▼実験です・・・



 実験はブレットボード上で行います。左の写真の真ん中にある3本足の部品がトランジスタです。 その左にある四角い黒い部品がリレー(オムロン G5V-2 5V)です。そしてトランジスタのすぐ右にある1/4W抵抗器がRBです。これを色々な値のものと入れ替えます。

 RB抵抗器の右にあるタクトスイッチは、ベース電流を流す時に押します。なぜスイッチを付けたかと言いますと、ベース電流や、コレクタ電流が最大定格を超えて流れた時、素早く電流の供給を止めてトランジスタを守る為です。短時間なら守ることが出来ますが、スイッチが無い場合長時間電流が流れることとなりトランジスタの故障の確率が上がります。

  右の写真が全体の様子です。緑色の左側のテスター(共立電気計器KEW1011)でベース電流IB、緑色の右側のテスター(共立電気計器KEW1011)でコレクタ電流ICを測定します。一番左のカード型テスターでリレーにかかる電圧VRLを、一番右の黄色のテスターでVCE=コレクタ・エミッタ間電圧を測定します。

 ▼結果です・・・

リレー(オムロン G5V-2 DC5V)動作結果
ベース抵抗
(RB)
ベース電流
(IB
VRB1 ベース・エミッタ間電圧
(VBE)
コレクタ電流
(IC
コレクタ・エミッタ間電圧
(VCE)
RLにかかる電圧
(VRL)
コレクタ損失
(PC)
Ω mA V V mA V V W
100 40.7000 2.79 0.91 95.20 0.12 4.660 11.42
150 26.8000 3.07 0.90 94.90 0.12 4.670 11.39
220 18.6000 3.33 0.89 94.60 0.12 4.680 11.35
330 12.5600 3.56 0.88 93.80 0.12 4.680 11.26
470 8.7600 3.71 0.87 93.50 0.13 4.670 12.16
680 6.1200 3.84 0.87 93.10 0.14 4.660 13.03
1k 4.1000 3.95 0.86 92.70 0.16 4.650 14.83
1.5k 2.7700 4.02 0.85 92.60 0.19 4.620 17.59
2.2k 1.9100 4.07 0.84 91.30 0.24 4.560 21.91
3.3k 1.2700 4.12 0.83 84.60 0.59 4.230 49.91
4.7k 0.8800 4.16 0.81 76.80 1.01 3.830 77.57
6.8k 0.6200 4.19 0.79 69.70 1.40 3.470 97.58
10k 0.4200 4.22 0.78 62.50 1.80 3.090 112.50
15k 0.2800 4.25 0.76 54.10 2.23 2.690 120.64
22k 0.1900 4.17 0.75 42.80 2.83 2.110 121.12
33k 0.1300 3.42 0.52 29.40 3.53 1.450 103.78
47k 0.0900 3.34 0.54 21.20 3.97 1.030 84.16
68k 0.0632 3.55 0.60 14.60 4.31 0.710 62.93
100k 0.0441 3.87 0.61 10.18 4.53 0.500 46.12
150k 0.0292 4.12 0.64 6.74 4.71 0.330 31.75
220k 0.0201 4.26 0.65 4.59 4.82 0.230 22.12
330k 0.0133 4.33 0.66 3.13 4.90 0.206 15.34
470k 0.0092 4.37 0.66 2.01 4.95 0.158 9.95
680k 0.0064 4.38 0.65 1.34 4.98 0.124 6.67
1M 0.0043 4.39 0.64 0.87 5.01 0.101 4.36
気温 26.0℃ 上記データーは2008年10月05日現在
 
 左の表が測定結果です。緑の部分はリレーが動作したところです。
 先ほどの計算上でのRB1の抵抗値は、14.4kΩでしたので10kΩと15kΩの所を見てみます。

 15kΩの時のVRLは、2.69Vです。リレーG5V-2が動作する最低の電圧は、コイル定格電圧5Vの動作電圧75%以下と言うことで、これは5Vの75%以上の電圧がかかると確実に動作するという事です。計算すると5V/0.75(75%)=3.75Vとなります。15kΩの時は2.69Vと3.75Vを下回っている為駄目です。

 10kΩの時のVRLは、3.09Vです。リレーG5V-2が動作する最低の電圧3.75Vを下回っているのですが実際は動作しました。これは、各部品のバラつきによるものと思います。

 では10kΩで良いかと言うと、そうではありません。この実験ではトランジスタのFE245に設定しました。このFEと言うのは結構バラつきがあり2SC1815のGRランクでも200〜400と開きがあります。使用するトランジスタのFEが245より大きければいいのですけど小さいとリレーが動作しないことになります、FEは温度でも大きく変化します。気温が暖かい時は動作して、寒い時は動作しないということが起きてしまいます。

 あとコレクタ損失を計算してみました。コレクタ損失とは、コレクタ電流が流れている時に熱に代わってしまう電力の事でこの値が大きいほどトランジスタから発生する熱が大きい、つまり熱くなると言うことです。コレクタ損失PCは、コレクタ・エミッタ間電圧(VCE)×コレクタ電流(ICで求めます。

 10kΩの時のコレクタ損失は、112.5Wです。RB1をもう少し低い値のものに変えていくとベース電流が多くなり、これに伴ってコレクタ電流も多くなります。そうすると3.3kΩで49.91W、2.2kΩで21.91Wに下がりました。と言うことは、熱の発生が抑えられます。

 先ほどのhFEと、コレクタ損失の事を考えるとリレーの動作するギリギリのベース電流よりも少し多めのベース電流を流した方が良いことが分かりました。一般的には、計算したベース電流の2倍程度のベース電流を流すと良いと言われています。抵抗値から見ると計算した抵抗値の半分程度の抵抗値にするという事です。

 今回の回路の場合は、14.4kΩ/2=7.2kΩで近い値の6.8kΩですがコレクタ損失が多いので3.3kΩか2.2kΩ位で良いかと思います。(オーバードライブという)

 ▼実践してみます・・・No.2

 もう一つ実験です。よく使う発光ダイオード【LED】での実験です。
 RLには、発光ダイオード高輝度タイプ青色LEDのVF(順方向電圧)=2.9Vのものを使用します。

 ▼回路図です・・・



 発光ダイオード【LED】を点灯させて、その時のベース電流IB、コレクタ電流IC、ベース・エミッタ間電圧VBE、コレクタ・エミッタ間電圧VCEを測定します。そしてRBを色々な値のものと交換して、変化を見ます。
 今回使用した発光ダイオード【LED】は、秋月電子通商で販売の”ハイパワー青色LED(3φ)ワイド[OSUB3131P]【通販コードI-1095】”です。

 計算式に回路図の値を代入します。hFEは先の実験で調べた245とします。ベース・エミッタ間電圧VBE0.6Vとします。

 抵抗RCにかかる電圧VRCは、VRC = E2 - VF - VCE = 5V - 2.9V - 0V = 2.1V になります。今回使用した発光ダイオード【LED】の最適な電流値IF2mAです。と言うことで、RCの抵抗値は、RC = VRC / IF = 2.1V / 2 = 1.05kΩになります。

 コレクタ電流ICIFと同じになります。IC = IF = 2mAになります。

 ベース電流は、IB = IC / hFE  = 2mA / 245 = 8.16μA
 VRB(ベース抵抗【RB1】にかかる電圧) = VIN - VBE = 5V - 0.6 = 4.4V
 RB = VRB1 / IB = 4.4V / 8.16μA = 539kΩ

 計算の結果は、RB = 539kΩ以下にすると飽和状態になると分かりました。 これはあくまで計算上の値です。実際にこの様になるか実験です。

 ▼実験です・・・



 実験はブレットボード上で行います。左の写真の真ん中にある3本足の部品がトランジスタです。 その向こうにある透明の部品が発光ダイオード【LED】です。そしてトランジスタのすぐ右にある1/4W抵抗器がRBです。これを色々な値のものと入れ替えます。

 RB抵抗器の右にあるタクトスイッチは、ベース電流を流す時に押します。なぜスイッチを付けたかと言いますと、ベース電流や、コレクタ電流が最大定格を超えて流れた時、素早く電流の供給を止めてトランジスタを守る為です。短時間なら守ることが出来ますが、スイッチが無い場合長時間電流が流れることとなりトランジスタの故障の確率が上がります。

  右の写真が全体の様子です。緑色の左側のテスター(共立電気計器KEW1011)でベース電流IB、緑色の右側のテスター(共立電気計器KEW1011)でコレクタ電流ICを測定します。一番左のカード型テスターで発光ダイオード【LED】にかかる電圧VRLを、一番右の黄色のテスターでVCE=コレクタ・エミッタ間電圧を測定します。

 ▼結果です・・・

発光ダーオード【LED】(ハイパワー青色LED(3φ)ワイド[OSUB3131P])動作結果
ベース抵抗
(RB)
ベース電流
(IB)
コレクタ電流
(IC)
コレクタ・エミッタ間電圧
(VCE)
RCにかかる電圧
(VRC)
コレクタ損失
(PC)
Ω mA mA V V W
100 41.6600 2.30 0.03 2.289 0.07
150 27.7200 2.33 0.03 2.302 0.07
220 19.1600 2.33 0.02 2.310 0.05
330 12.9000 2.35 0.02 2.315 0.05
470 9.0400 2.35 0.02 2.320 0.05
680 5.8690 2.35 0.01 2.321 0.02
1k 4.0270 2.36 0.01 2.323 0.02
1.5k 2.7840 2.35 0.01 2.321 0.02
2.2k 1.9200 2.35 0.01 2.322 0.02
3.3k 1.2890 2.35 0.01 2.321 0.02
4.7k 0.9150 2.35 0.02 2.319 0.05
6.8k 0.6360 2.35 0.02 2.317 0.05
10k 0.4355 2.34 0.03 2.312 0.07
15k 0.2886 2.33 0.03 2.305 0.07
22k 0.1977 2.33 0.04 2.297 0.09
33k 0.1317 2.32 0.05 2.284 0.11
47k 0.0935 2.31 0.06 2.277 0.14
68k 0.0638 2.29 0.08 2.267 0.18
100k 0.0444 2.28 0.09 2.255 0.20
150k 0.0294 2.27 0.11 2.239 0.25
220k 0.0262 2.25 0.12 2.223 0.27
330k 0.0133 2.23 0.15 2.196 0.33
470k 0.0092 2.10 0.28 2.073 0.58
680k 0.0063 1.46 0.97 1.442 1.40
1M 0.0043 1.00 1.47 0.984 1.45
気温 28.6℃ 上記データーは2008年10月10日現在

 左の表が測定結果です。緑の部分は発光ダイオード【LED】が明るく点灯したところです。先ほどの計算上でのRBの抵抗値は、539kΩでしたので470kΩと680kΩの所を見てみます。

 680kΩの時のVRCは、1.442Vです。発光ダイオード【LED】が動作する時のVRCは、2.1Vでした。1.442Vでは2.1Vを下回っている為駄目です。

 470kΩの時のVRCは、2.073Vです。発光ダイオード【LED】が明るく点灯する最低の電圧2.1Vを下回っているのですが実際は明るく点灯しました。これは、各部品のバラつきによるものと思います。VRC = 2.073V ≒ 2.1V なので問題なさそうです。

 では470kΩで良いかと言うと、そうではありません。この実験ではトランジスタのFE245に設定しました。このFEと言うのは結構バラつきがあり2SC1815のGRランクでも200〜400と開きがあります。使用するトランジスタのFEが245より大きければいいのですけど小さいと発光ダイオード【LED】が点灯しないことになります。FEは温度でも大きく変化します。気温が暖かい時は動作して、寒い時は動作しないということが起きてしまいます。

 あとコレクタ損失を計算してみました。コレクタ損失とは、コレクタ電流が流れている時に熱に代わってしまう電力の事でこの値が大きいほどトランジスタから発生する熱が大きい、つまり熱くなると言うことです。コレクタ損失PCは、コレクタ・エミッタ間電圧(VCE)×コレクタ電流(ICで求めます。

 470kΩの時のコレクタ損失は、0.58Wです。RBをもう少し低い値のものに変えていくとベース電流が多くなり、これに伴ってコレクタ電流も多くなります。そうすると220kΩで0.27W、68kΩで0.18Wに下がりました。と言うことは、熱の発生が抑えられます。

 先ほどのFEと、コレクタ損失の事を考えると発光ダイオード【LED】が点灯するギリギリのベース電流よりも少し多めのベース電流を流した方が良いことが分かりました。一般的には、計算したベース電流の2倍程度のベース電流を流すと良いと言われています。抵抗値から見ると計算した抵抗値の半分程度の抵抗値にするという事です。今回の回路の場合は、539kΩ/2=269.5kΩで近い値の220kΩ位で良いかと思います。(オーバードライブという)

 ▼スイッチング動作のまとめ

 トランジスタのスイッチング動作のまとめです。

●設計の順序
  1. 負荷【RL】の抵抗を確認する。
  2. 負荷【RL】にかかる電圧=VRLを確認する。例えばリレーの場合、最低の動作電圧をデーターシートなどで調べる。分からない時は、そのリレーの動作電圧とする。発光ダイオード【LED】の場合、コレクタに掛かる電圧から、発光ダイオード【LED】の順方向電圧を引いた電圧になります。
  3. コレクタ電流を求めます。オームの法則の電流の求め方と同じで、 I = E / R → IC = VRL / RLになります。
  4. 求めたコレクタ電流が流せるトランジスタを選別する。コレクタ電流の最高値の半分ぐらいを上限としたほうが無難でしょう。
  5. 選別したトランジスタのメーカーが出しているデータシートで最低のhFEを調べる。東芝の2SC1815の場合【hFE分類 O: 70〜140, Y: 120〜240, GR: 200〜400, BL: 350〜700】となっている。hFEランクで【GR】を使用するとしても温度で変動するので、そのトランジスタの最低のhFE=70となる。
  6. 必要なコレクタ電流を流すためのベース電流を求めます。IB = IC / hFE です。
  7. ベース抵抗【RB1】にかかる電圧=VRBを求めます。 VRB = VIN - VBE です。VBEは、大抵0.6VでOKです。
  8. ベース抵抗【RB1】を求めます。オームの法則の抵抗の求め方と同じで、 R = E / I → RB1 = VRB / IBになります。
  9. 8で求めたベース抵抗は、トランジスタをスイッチング(飽和状態)する為の最高の抵抗値です。これではコレクタ損失PCが大きくなるのと、温度変化を考慮して、ベース電流を計算値の2倍流すようにします。その為ベース抵抗を計算値の1/2にします。(オーバードライブという)
 では、上の設計の順序を”▼実践してみます・・・No.1”のリレー回路に当てはめてみます。
  1. 負荷【RL】 = 50Ω
  2. VRL(負荷【RL】にかかる電圧) = E2 * 75% =  5V * 75% = 3.75V
  3. IC = VRL / RL = 3.75V / 50Ω = 0.075A = 75mA
  4. 2SC1815のコレクタ電流最高150mAでその半分が75mA。3.で求めたコレクタ電流程度なので、これに決定。
  5. 2SC1815の最低hFEは70
  6. IB = IC / hFE = 75mA / 70 = 1.07mA
  7. VRB = VIN - VBE = 5 - 0.6 = 4.4V
  8. RB1 = VRB / IB = 4.4V / 1.07mA = 4112Ω ≒ 4.1kΩ
  9. 4.1kΩ / 2 = 2.05kΩ ≒ 2.2kΩ(E6配列)
 もう一つ、上の設計の順序を”▼実践してみます・・・No.2”のLED回路に当てはめてみます。
  1. LEDに流す電流【IF】 = コレクタ電流 = 2mA
  2. VRC(負荷【RC】にかかる電圧) = E2 - VF =  5V - 2.9V = 2.1V
  3. 負荷【RC】 = VRC / IC = 2.1 / 2mA = 1050Ω ≒ 1kΩ
  4. 2SC1815のコレクタ電流最高150mAでその半分が75mA。1.で求めたコレクタ電流以上なので、これに決定。
  5. 2SC1815の最低hFEは70
  6. IB = IC / hFE = 2mA / 70 = 0.029mA
  7. VRB = VIN - VBE = 5 - 0.6 = 4.4V
  8. RB1 = VRB / IB = 4.4V / 0.029mA = 154000Ω = 154kΩ
  9. 154kΩ / 2 = 77kΩ ≒ 68kΩ(E6配列)
●設計の注意
  1. 今回のスイッチング回路だけでなく、どんな回路でも言えるのですが、トランジスタの最大定格を越えてはいけません。普通の設計では、最大定格の約半分で設計する事。
  2. ベース電流はコレクタ損失や温度変化を考慮して計算値の2倍程度流す事。ある程度流し過ぎても、トランジスタが飽和状態の為、コレクタ電流が増えることはありません。といっても最大定格を越える程、流してはいけません。

 ▼修正履歴
2008年(平成20年)10月20日 完成
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