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第21日目 第22日目 第23日目 第24日目 第25日目
第26日目 第27日目 第28日目 第29日目 あとがき












 

 






■第1日目■
スイッチを入れ、シーマンを立ち上げると、細川俊之のセクシーヴォイスでこのゲームについての説明が始まった。何でも、保管器に入った卵を水槽に移してやり、水温と酸素の調節をすると、シーマンの子供が生まれてくるとのこと。水槽を見ると、酸素が足りないせいなのか、濁った水の入った水槽が出てきた。暗いので照明を付け、酸素を100になるまで注入してやると、水槽の濁りが取れて、見た目にもキレイな環境になった。続いて、水槽の温度を20度までヒーターを入れて、温度を上げる。これで、水槽の環境は整った事になるらしい。
ふと、水槽の中をみると、中央付近に大き目の巻貝が沈んでいる。生きているのかどうかは、見た目では一寸わからない。
保管器に画面を移すと、いくつかの卵がずらりと並んでおり、その中で一つだけ違った大きな卵がある。おそらくこれと、卵を掴み、水槽の中に入れてやった。
卵をアップにして、しばらく眺めていると、卵の中で何かがウネウネと動き回っている。これがその内生まれてくるのだろうか・・・。そんな事を考えながら画面を見ていると、突然卵がはじけて、8つの”幼虫(実際はタンポポの綿毛が飛んでいる時のようなもの)”が飛び出してきた。それぞれ、ふわふわと泳いだり、くるくると回転したりしている。水槽のガラスを指でトントンと叩いてやると、8匹がこちらへ寄ってきた。池の鯉にえさをやる時の感覚に一寸似ている。指を回してやると、そちらも回り出す。なんかおもしろい。
その内、巻貝の中から足のようなものが時々出てきている事に気が付いた。”幼虫”が近づいた時に出てきているから、捕まえようとしているらしい。そうしている内に”幼虫”を一匹捕まえて食べてしまった。その後も一匹、また一匹と捕まえて食べている。まさか、全部食べられたらゲームオーバーってことは無いのだろうが、心配になる。巻貝はアップにすると結構グロテスクだ。巻貝の中に蛸が住み着いている図でも想像してもらったほうが説明しやすい。巻貝は自分から泳いで移動し、幼虫を積極的に食べつづけ、遂に全て食べてしまった。
・・・。終わったかな、などと考えていると、巻貝が急に激しく動き出し、黒い墨を吐き出している。悪いものを食べてお腹が痛くなって苦しんでいる感じに見える。と、その内赤い墨も吐き出し始めた。いや、血なのかもしれない。苦しさにもがき続けている巻貝はその内、中の蛸みたいなのが貝から出てきて、やはり苦しみつづけている。
ぶるぶると震えていた巻貝からパーンとはじける様にして、突然シーマンの稚魚が8匹飛び出してきた。
おおー・・・。みんな人面魚だ・・・。試しに「シーマーン」と話しかけてみる。するとコントローラの液晶画面に音声認識の表示が出て、シーマンの稚魚が何やらごちゃごちゃとしゃべっている。まだ、日本語はしゃべれないらしい。話している様子はしゃべりはじめの1歳過ぎの赤ちゃんといったところだ。水槽を指でトントンと叩いてやるとやはりこちらに寄ってきた。皆同じ顔かとおもったら、微妙に違っていた。高木ブーみたいなのから美男子風まで様々だ。いつ会話出来るようになるのだろう。

■第2日目■
私生活が忙しく、ついつい1日サボってしまった。どうなっているかな、とゲームを立ち上げると、まず初めにやはり細川俊之が出てきて、「少しでもいいから毎日欠かさず世話をしてください。」と指摘されてしまった。そして、細川俊之のセクシーヴォイス説明によれば、第1日目に生まれた”幼虫(実際はタンポポの綿毛が飛んでいる時のようなもの)”はマッシュルーマーと言い、巻貝はノーチラスと言うらしい。マッシュルーマーがノーチラスに食べられたと見せかけて、実は寄生していたらしく、その結果出てきた8匹の”稚魚”はギルマンという名前らしい。
「寒さで苦しんでいます、ヒーターで暖めてあげましょう。」と言うので、水槽へ行き、早速ヒーターで20度に温度を上げ、酸素も100にした。
見通しの良くなった水槽の中では、ギルマンが8匹元気に泳いでいる。そろそろしゃべるかな、と「シーマーン」と話しかけると、喋りはしないが1匹寄ってきた。もう一度「シーマーン」というと『なーにー?』と初めて日本語で答えた!
「シーマーン」
『呼んだー?』
「こんにちわ」
『こんにちわ』
「おーい」
『おーい』
「おはよう」
『おはよう』『おはようございます!』
「元気?」
『とっても元気!』『イエーイ!』
音声認識の出来もいいらしく、シーマンは自分が知っている言葉に関してはちゃんと答えてくれ、知らない言葉に関しては『*********』と訳の判らない言葉をしゃべっている。意味がわかんないよー、とでも言っているかのようだ。
ところで、ギルマンはグッピーがお腹を膨らましている、袋をつけたような形をしており、頭には長めの管(パイプ?)が付いていて、一寸奇妙な宇宙人風の顔だ。これに関して、ちょっと驚く出来事があった。
よく喋ってくれるギルマンをアップにしながら、机で別な仕事を3分ぐらい始めた時、『ギャー!(本当は一寸違うが)』というような悲鳴が聞こえてきたので、画面を見てみると、アップにしていたギルマンの下にもう1匹のギルマンがいて、頭の管をアップにしていたギルマンの体に刺して、ドクッドクッと何か血を吸っている。吸われているギルマンの顔は恐怖におびえているかのようだ。しばらく吸われた後、吸っていたギルマンは管を離して別な方へ泳いでいき、吸われていたギルマンは凍りついた顔のまま、浮き袋を上にして静かに浮かんでいった。死んだらしい。うーん、いいんだろうか?よく判らない。その後も同じような事が時々続き、結局ギルマンは半分の4匹に減ってしまった。これが失敗かどうかは、次回、セクシーヴォイスが説明してくれるであろう。

■第3日目■
今日はサボらずに、とゲームを立ち上げると、例のセクシーヴォイスが「昨日に引き続きお出でくださいましたね。その調子でお願い致します。」とほめられた。登校拒否児が2日続けて登校してきたかのような事を言う。
セクシーヴォイスによれば、第2日目のギルマン同士の吸血行動等はシーマンの生態の一部なのだそうだ。アレでいいらしい。
水槽を見ると、空気が足りないらしく水が濁っているので、空気を注入してから、ヒーターで水温を上げてやる。おそらくこれは毎回やる決まった事なのだろう。
「こんばんわ」
『こんばんわ』
「キミだあれ?」
『よくわかんない』
「こんにちは」
『こんにちは』
「おはよう」
『おはようございますっ!』
ここだけ元気が良い。
「社長!」
『どーも、どーも』
・・・・・。
インターネット上でのシーマン情報を探してみた所、色々な人がシーマンの育成日記をつけていることが解った。ギルマンの間に呼びかけて反応する言葉集もあって、参考にさせてもらっている。
「ウ●チ!」
『うー●ち、うー●ち、うー●ち、うー●ち♪』
大変はしたない言葉だが、実に楽しそうに喋っている。幼稚園児っぽい。
「ばーか」
『バカってなあに?』
「アホ」
『アホアホ』
水槽のガラスを叩いてシーマンを1匹呼び寄せ、目の前で指をグルグル回したら、シーマンも顔を回し始め、その内に三半規管がおかしくなったのか、スーっと横に倒れてしまった。
今度は泳いでいるシーマンの体の下に指を置いて、コチョコチョとくすぐってみる。
『えっへっへっへっへっへ、えへへーっへへへへー。くすぐるのはやめろー。へーっへへへへー。』
顔をくちゃくちゃにして笑い出した。気持ち悪い笑い方をする。
その他は特に第2日目と変わりはないようだ。

■第4日目■
第3日目から第4日目にかけて、哀しい出来事が。
ドリームキャストの動作が突然おかしくなり、サポートセンターの勧めにより、本体をサービスセンターへ送って修理することになった。当然、シーマンの育成は続行不可能。修理には1週間から10日かかります、との哀しい見込みに、ブルーな1週間を送っていた。
1週間後、ドリームキャストは修理完了で帰ってきたが、仮にもお魚さん(?)を1週間放っておいて生きている訳がないと、試しにゲームを立ち上げてみると、ちょっとお怒り風のセクシーヴォイスが聞こえてきた。
「随分とご無沙汰のようですね。しばらくの間、何をなさっていたのですか?シーマンをやらずにセガラリーに随分と夢中のご様子ですね。」
失礼な。セガラリーは、修理に出す前に動作チェックのつもりでやってみただけなのに・・・。
「現在この育成環境の中にはギルマンが4匹います。寒さで凍え死にしそうです。早く暖めてあげましょう。」
・・・!!。ええっ!1週間放っておいたのに、まだ生きているって?
水槽に画面を移すと、水温は0℃、水はかなり汚れていて、空気が0になっていたが、確かに、濁った水の向こうから『苦しくて息が出来ないよー』『助けてー』などと聞こえてくる。急いでヒーターで水温を上げ、空気をたっぷり送ってやった。すると、4匹のギルマンが姿を現した。
・・・感動。南極物語はこんな心境だったんだろうか・・・。
暖めている間、最初は『寒くて凍えしんじゃうよー、早く何とかしてー』などと言っていたが、少し暖まってくると『元気だけど寒いよー』という微妙な表現に変わり、完全に暖まると『寒くないよー、あー助かった』と安堵の様子を見せ、20℃を一寸でも超えようものなら『暑いの何とかしてー』『暑ーい』『暑い暑いってば』と、少々贅沢になってきた。むかつく。息の根を止めとくんだったか…。
環境が整うと、4匹のギルマンは元気に泳ぎ出したが、2,3分後に『誰かボクの血を吸ってるよー』と弱々しい少年の声が聞こえてきた。そして、1匹絶命。
その3分後にも同じ事が起こり、あっという間にギルマンが半減してしまった。
あと2匹・・・。ひょっとしたら全滅なのか?
一応、話し掛けとくか。「こんばんわー」
『こんばんわ』
「ピカチュウー」
『俺をそう呼ぶのは止めろ』
「キミ、誰ー?」
『ボクはシーマンだよー』
「何歳?」
『自分でも何歳か知らないのー』もしくは『3歳』『凡才』
うーむ。そう言えば、声はまだ子供っぽいが、見た目は大人(?)っぽくなってきたような気がする。ギルマンのお腹のふくらみもいつしか消えている。変化は近いのだろうか・・・。

■第5日目■
今日も酸素を注入し、温度を上げてやる。
ふと、耳を済ますと、大人っぽい声が聞こえてきた。
どうやら、2匹とも声変わりしたらしい。
姿形も池の鯉のようである。
「シーマーン」
『どーも』
「こんばんわ」
『おばん、です』
仙台出身か?
『お前、これまであまり俺の世話をしてくれなかったなあ。あん?ルーズな奴ってペットに嫌われるんだよね。』
それは失礼しました・・・。でも、故障が…。
『明日は平日だっつうのに、お前相変わらず夜遅いな。』
・・・う。
『今日は何の日か知ってるか?ジャン=ポール・ガゼーの誕生日だ。』
はあ。
『ま、別に休みになるわけじゃないけどね。』
はあ。
『・・・バイバーイ』
終わりかいっ!
もう一寸話して見たいので、もう一回呼んでみる。
「シーマーン」
『どーも』
「お腹すいた?」
『別に減ってない』
「遊ぼうよ」
『やだ、疲れてんだよ』
「調子はどう?」
『ちょっと熱いぞ、これ(水温)』
「ごめん。」
『・・・ごめんねっ。』
世話する方に気でも使ってくれたんだろうか。
『わかりゃいいんだよ』
・・・ムッ!
しかし機嫌を悪くされても、なあ。
「シーマン、カッコイイ!!」
『・・・へへっ!』
いっちょまえに・・・。
「ご機嫌いかが?」
『まあまあ、だ。お前は?』
「えーと。」
無視して行ってしまった。
「シーマン、こんにちわー!」
『もう夜だぞ、挨拶ぐらいちゃんとしろよ。』
「キミ、だあれ?」
『・・・シーマンッ!!』
おこってらあ。
「シーマン」
『へえーい』
『お前、男?女?』
「男」
『男?』
「うん」
『なんだあ、つまんねえ。』
おい、つまんねえはないだろう。
『お前、干支は何年?』
「サル」
『サル?』
「うん」
『好奇心だけは旺盛なんだな。』
当たっていると言えば当たっているかな・・・。サル年のせいか?
『食うもんくれ』
「おなかすいた?」
『別に減ってない。』
難しいなあ。
『お前、年はいくつ?』
「31」
『31歳?』
「うん。」
『何月生まれ?』
「9月」
『9月?』
「うん」
『の何日生まれ?』
「27」
『27日?』
「うん」
『誕生日が9月27日生まれ、って事は星座は、てんびん座か。へえ、お前ロマンチストなんだ。・・・小さくまとまんなよ。』
あ・・・、ゲーム相手に人生指南されている・・・。
くやしい、くすぐってやる。
『へっへっへっへっへー、やめれー、ひゃっひゃっひゃっひゃ、やめれー』
何だ、やめれーってのは・・・。
「シーマーン」
『ハロー』
「年はいくつ?」
『結構若いよ、オレ。』
「男?女?」
『男、みたいなもの。』
・・・みたいなもの?
「何が欲しい?」
『ああ、自由が欲しい』
「たのしい?」
『・・・あーあ、楽しかゆし、だよ。』
・・・ふう。
随分と喋ってしまった。これぐらいにしとくか。

■第6日目■
いきなりセクシーヴォイスが「今日お会いするのは二度目ですね。気になって仕方がないのですか?ご苦労様です。」とのたまった。
ん?二度目?おかしいな?・・・そうか、開始したのは昨日でも、終了したのは日付が変わって今日だったからか。
水槽に画面を移すと、いきなり『ちょっと寒いよ、これ。』
水温を上げてやる。
『助かった!』
おお、そうか?
『すいません、息苦しいんですけど。』
注文が多いな。酸素を注入してやる。
『あーっついよ、おい!熱い熱い!!』
水温が20℃より0.3℃程オーバーしていたようだ。
その内、水温が下がると、
『おー、助かった。熱くて死ぬかと思った。』
オーバーな奴。グツグツ煮てやったろか。
「調子はどう?」
『普通だよ。』
そうか。
『お前さあ、前に31歳って言ってたけど、てことは社会人か?』
「うん。」
『腹へってきたー』
あんまり関係ないけど、そういやあ、エサやってないな。
エサをひとつ、水槽に入れてみる。
『あ、エサだ。』
えさを見つけて近寄って行き、あっという間に食べてしまった。
『あー食った。ハラ減った。』
何じゃ、そりゃ。呼び水になったか?
もう一粒、えさを入れる。
やはり食べている。腹へってたんだな。
『仕事は何やってんだ?』
「会社員」
『会社経営?』
おっと、誤認識だ。これはインターネット上の育成日記でも報告されていた事だ。そこで1番近いのを言ってみる。
「プログラマー」
本当は敵対関係、ぐらいの所にある部署なのだが。
ま、コンピュータ会社だから、いいだろう。
『プログラマー、か。オレのユーザーには多いんだよね。つまるところ、体力勝負の職業かな。若いうちは一人でどんどんやれば良かったんだろうけどさ、そろそろプロジェクト管理とかさ、なんか別の能力が問われてくる年なんじゃねえの。』
・・・・・。よくご存知で。前世はプログラマか?
「キミ、だあれ?」
『オレの名はシーマン。名探偵だ。』
いつの間に・・・。
「シーマン、素敵ー!」
『そうだろう?』
うぬぼれ屋め。
「シーマン、なにやってんの?」
『なにやってんの、って、見りゃわかんだろう?』
「何か欲しいものある?』
『お前以外の飼い主が欲しい。』
「ごめーん」
『わかりゃ良いんだよ』
・・・いっそ、水、抜いてみようかな?
そう言えば、インターネット上の育成日記でシーマンに名前が付けられる事が報告されていたっけ。やってみよう。
「シーマーン」
『ナンですかあ?』
「名前付けていい?」
『よし!今からオレに名前を付けさせてやろう。オレに付けたい名前を決めろ。決めたら、決まりました、と言え。』
「決まりました」
『よーし、今から3回その名前を繰り返してもらうからな。ハイッっと言ったら、1回づつその名前を言えよ。ハイッ!』
「★☆ー!(言えない)」
『もう一回!』
「★☆ー!(言えない)」
『もう一回!』
「★☆ー!(言えない)」
『よーし、覚えておいてやろう。次から俺を呼びたい時はその名前を言うがいい。くれぐれも付けた名前、忘れんなよ。忘れても、俺は絶対に教えないからな。』
どうやら名前を付けられるのはこの1匹だけで、今の所、もう1匹の方は名前が付けられないらしい。
ふと、シーマンを見ると、名前を付けた方は体が金色に染まっていた。ますます、池の鯉らしい。見分けがつく、と言う事なのか。
「★☆ー!(言えない)」
『ハロー』
おっ!来た来た。
「元気?」
『お前、元気か?』
「うん、元気。」
『そうか、そりゃ良かったな。』
ありゃ、立場逆転だ。
『オレの事、好きになってきたな。好きって言ってみろよ。』
・・・まあ、照れくさいが。
「スキ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
無視しやがった。気持ちをもてあそびやがったな。
こうしてやる。コチョコチョ。
『へっへっへっへっへー、やめれー、ひゃっひゃっひゃっひゃ、やめれー』
わはははは。今日はこれくらいにしておいてやろう。

■第7日目■
今日のセクシーヴォイスは「前回名前を付けたシーマンは体の色が変わっているのですぐに見つけられるはずです。せっかく名前を付けたのですから、大切に育ててくださいね。」と言う。
あんな憎たらしいヤツを・・・。
水槽に行くと、『さみー』。『誰かいないのー?』
ソーサ!のしゃれじゃないよな、と思いつつ、温度を上げ、酸素を注入。ルーチンワーク。
『何だよ、お前!挨拶なしか、今日は!』
急いで答えてやる。「おはよー」
『・・・・・・・・・』
また無視された。
「こんばんわ」
『おばん、です』
「お腹すいた?」
『別に減ってない』
「調子はどう?」
『まあまあかな』
「シーマン、素敵ー!」
『・・・当たり前だ』
無愛想なヤツ。会話もいつも通りだ。たまには別の言葉を・・・。
「ピカチュー」
『知らねえなあ、その言葉』
シラを切りやがった。
『ちょっと、腹へってきたー』
『お腹すいてきたなー』
別の一匹もお腹が空いている様だ。
エサを取ってきて、水槽に落としてやる。
『おう!メシだ!』
刑務所っぽいノリだな。
すいすいと泳いでいって、むしゃむしゃと食べている。
『うめえーーー!!』
そうか、うまいか。
「たのしいか?」
『別に楽しかねえよ!』
反抗期だな。
「腹減ったー」
ん?と思ったら、まだ食べてない別の一匹だった。
失礼しました。エサをもう一個入れてやる。
『おーい、だれかー!俺の話を聞いてくれー』
何だ、何だ?と思っていると急に画面が暗転して、シーマンの話が始まった。
『俺さー、色々思い出してきたんだよ。昔さ、ジャン=ポール・ガゼーとかいうフランス人が俺を育てようとしてたのね。その為にヤツは虫かごを作っていたんだけど、その中に俺の大好物の幼虫がいたはずなの。まだ、いるかなあ。ちょっと見てくれない?』
画面は虫かごに変わった。
虫かごの中に土が敷いてあり、大きなものが二つと白い小さなものがいくつか見える。
『よーし、その内、この中で蛾の幼虫が育ってくるからさ、お前、Lトリガーキーで切り替えて、一匹つまんで水槽の中に入れてくれよな。』
そこでシーマンの話は終わり、画面は水槽に戻った。
・・・。ほっほう。新しい展開だ。
早速、虫かごに画面を移してみる。
虫かごの中にあったのは、大きな種のようなものとおそらく虫の卵だった。
これをどうするのやら、といくつかキーをいじっていると、「SPRAY」が出てきた。そうか、水温や酸素管理と同じく、虫かごでは湿気を管理して、環境を整えてやるのか。
早速スプレーを100まで霧吹きし、整えておく。
うーむ。シーマンは何か言ってくれるかな?
「シーマーン」
『何でござんしょ?』
「男?女?」
『シーマンに性別はない』
この前は男みたいなものって言ってただろ。
「キミだあれ?」
『シーマン』
「シーマーン」
『いい加減にしろ』
お、ツッコミ口調だ。
『バイバーイ』
行っちまった。

■第8日目■
「こんにちは。いつも規則正しい時間に訪れますね。あなたの几帳面な一面がうかがわれます。」
今日はいきなりセクシーヴォイスにほめられた。でも、昨日は夜だったんだが…。
「前回虫かごを入手しました。おめでとうございます。この虫かごはシーマンのエサを育てる為の場所です。その内に何かが生まれてくるので、注意して観察してください。」
水槽に画面を移す。水温と酸素を調整。
『この所、毎度この時間だなあ。・・・バイバーイ。』
いや、だから、そんな事はないんだって。
おや?よく見ると、二匹とも何故かずーっと体をくねらせている。
何だこりゃ?
よくわかんないので、とりあえず虫かごに行き、スプレーを100にしていると、鈴虫のような声がする。ん?と思って下を見ると、なんと卵が帰ってイモムシが4匹もいる。草も生えてきた。
再び水槽に戻り、見るとまだ体をくねらせている。
何だろと思いつつ、とりあえずエサをやってみる。
『飯が来たぞ!飯だ、飯。』
二匹ともやってきて、エサにむしゃぶりついている。
『うまあーい』
ホント、よく食うね。エサが無くなっちゃうよ。
『もしかしてお前、結婚してる?』
「うん。」
『そうか、所帯持ちか。』
それ言うと、またどこかへ行ってしまう。
追いかけて話しかけようとする。
「おーい」
『どーも。』
「楽しい?」
『楽しけりゃ、いいってもんじゃないだろ、人生は。』
すいません。注意された。
『奥さんは年下?』
「うん。」
『ふーん。』
ふーん、って何だよ。
「何してんの?」
『生きてんだよ!』
口の減らないヤツ。
『相性占ってやるよ。奥さん、何月生まれ?』
「3月」
『3月?』
「うん」
『何日生まれ?奥さん。』
「11日」
『11日?』
「うん。」
『お前がてんびん座で奥さんが魚座。相性、かなり良いぞ。向こうがお前の運を切り開いてくれる、いい存在だな』
・・・そうですか。奥さんが聞いたら、喜ぶんだろうな。
また、シーマンに人生指南されているんだな。
「シーマーン。」
『なんでござんしょ?』
「どう?」
『何が、どうだ?だよ!!』
すんません。
ご機嫌でもとって・・・。
「シーちゃああん」
『お前恥ずかしくならない?そんな事言って?』
「ごめんなさい。」
『わかりゃ良いんだよ』
ふう。つかれるな。
最後に虫かごへ行ってみると、草が大きく伸び、イモムシがむしゃむしゃと葉っぱを食べていた。よく見ると、顔がついている。こいつもか。何故か一匹色の違うイモムシがいる様だ。今後、何かあるのだろうか。

■第9日目■
「最近はいつもこの時間帯ですね。」
セクシーヴォイスはこのように言うのだが、やっている時間は統一しているわけではない。統計的にこの時間が多い、ということだろうか。
「さて前回、虫かごの卵が孵化したのにお気づきでしたか。この虫たちを上手に育てる事がシーマンの育成のコツなんですね。忘れないで下さいね。イモムシを不用意に水槽に入れすぎるとエサ不足になります。注意してください。」
へえ?エサ不足か。そりゃ、気をつけなきゃ。
水槽へ行く。
『ちょーっと息が苦しいんですけどねえ。少し酸素が少なくなってきたみたい。』
はいはい。温度と酸素を調整。
『おーい、お前最近、「サカつく」とかにハマっているみたいだな。明日は平日だっつうのに、相変わらず遅いな、夜。・・・バイバーイ・』
へえへえ。確かにハマっておりますですよ。
「調子はどう?」
『最近調子良い方かな』
「お腹空いた?」
『別に減ってない』
「どう?」
『どうもこうもねえよ』
なんとなくつまんなそうなシーマン。不満があるのだろう。
あ、そうだ。アレを聞いてみよう。
「キミだあれ?」
『俺の名はシーマン・ガブリエル、弁護士だ』
名探偵から弁護士へ転職か?こりゃまた、節操のない・・・。
『小腹が空いたなあ』
さっきは別に減ってないっていっただろうが。
エサを入れてやる。
『お!配給だ!』
戦時中かいっ!
虫かごの方へ行ってみる。
イモムシが3匹、草の葉っぱをむしゃむしゃ食べている。そのせいで、草は穴だらけだ。食べ尽くされることはないのだろうか。
スプレーを100に調整。
よくみると、4匹目はさなぎになって草の枝にくっついていた。やっぱり顔がある。色は枯葉色といったところ。いつ成虫になるのだろう。
残りの3匹のイモムシの中の一匹は色が違っている。これは何か違いがあるのか?
うーん、わからん。

■第10日目■
「今日は随分と遅い時間にいらっしゃいましたね。」
午前1時だからね。色々と都合もあるんだよ。
「前回、イモムシがさなぎになりました。」
セクシーヴォイスはこれしか言ってくれない。変化が少ないのだろうか。
水槽へ行き、酸素と温度を調節していると・・・。
『見えるデべソー!』
ん?なにいってんだ?
『おーい、誰かいないのー?』
おっと、今日こそ返事してやらなくちゃ。
「はーい、いるよー」
『何だよ、こんな朝っぱらから。・・・バイバーイ。』
このまま沸点まで温度を上げて・・・。
「こんばんわー」
『どもー』
「遊ぼうよ」
『遊んでんだろ、もう?』
ごもっとも。
虫かごの方へ行ってみる。
色違いのイモムシが顔を出して、むしゃむしゃと葉っぱを食べている。さなぎは変化がないようだ。その他も変化なし。
スプレーで100に調整。
水槽に戻る。
こっちもさしたる変化がない。
やる事がないので、シーマンをくすぐってみる。
『やめれー、へっへっへっへっへっへー』
うーん。
「調子はどう?」
『おかげさまで普通だ。お前は?』
「調子良いよう。」
『もう、判ったから。』
「ムカツク」
『ざまあ見ろ』
トントンと水槽を叩き、シーマン2匹を呼び寄せ、手をぐるぐる回してみる。
2匹とも、目が回って横になり、しばらくして元に戻った。
『あー、あー目が回ったー。フラフラ。』
今度は水槽を「かっとばせー、かっとばせー」のリズムで叩いてみる。
すると、金色の名前を付けた方がリズムに合わせて(?)ぐるぐると回遊し始めた。
ひとしきりやった後、感想を求める。
「どう?」
『どうもこうもねえよ。』
やっぱりね。
今日は変化がほとんどない。こういう日はやってて退屈だ。
明日は変化があるだろうか。

■第11日目■
今日のセクシーヴォイスは「ギルマンが2匹」としか言ってくれない。
何だかやる前から期待が持てない。
水槽に行くと、また『サカつくにハマってる』と。
それは前にも聞いたよ。
虫かごへ行き、スプレーを100にして草の枝を見ると、なんとさなぎが羽化する所だった。
さなぎのからをゆっくりゆっくりと出て、しばらくじーっとしている。
どうやら、ぬれている羽根を伸ばして乾かそうとしているらしい。
2分ぐらい見ていたが、まだ動きがないので、一度水槽へ。
温度と酸素を調整していたが、ボーっとしていたせいか、24℃まで水温を上昇させてしまった。
『ちょっとあついぞ、これー』
こいつらはいっつも文句ばっかたれやがって。
お前もたまには、さなぎから羽化してみせろっつーの。
・・・・・って、無理か。疲れてるな、俺。
『お前血液型、B型だろ?』
何を根拠に…。
「違うよ」
『じゃあ、何型』
「O型」
『Oか・・・。』
そのまま、すーっとどこかへ行ってしまう。
え?血液型まで聞いといて、何も無しか?
「シーマーン」
『おばんです』
「ピカチュー」
『や・め・て・く・れ!』
あ、怒ってる。ご機嫌ナナメだ。
この後、しばらく会話無し。
たまにシーマンが『あついあつい』と文句をたれるぐらい。
『おーい、メシくれよ、メシ』
おう、腹が減ったか。
ここで初めて虫かごからイモムシを一匹取り出し、水槽へエサとして落とす。
すると金色の名前を付けた方のシーマンが、すぐさま飛びついて、イモムシをうまそうにムシャムシャと食べている。もう一方には通常のエサをあげた。
『あー、食った食った』
ご満悦のご様子。
「シーマーン」
『へえーい』
「遊ぼうよ」
『めんどくせえよ』
冷たいヤツだな。
再び、虫かごへ。
すると、さなぎがちょうど羽根を伸ばし、飛ぶ所だった。
外見は蛾の様で、バタバタと飛び出した。
虫かごの地面を見ると、もう一つさなぎがあった。
これもその内羽化するのであろう。
ちょっと進展に期待が持てそうだ。

■第12日目■
「さて前回、さなぎが羽化するところを、あなたはご覧になりましたか?もしまだご覧になっていないのでしたら、次の機会にはぜひお見逃しなく。」
今日のセクシーヴォイスはこの言葉から始まった。
へええい、確かにご覧になりました。
「さて、今回の見所ですが、われわれの調査資料によれば、もうそろそろギルマンの体に新しい変化が訪れるはずです。」
おっ!!きたきた!新しい変化!
水槽へ行き、酸素と水温の調整を行う。
『おーい、誰かいないの?』
また、今日も言っているな、ヤツは。
「はーい」
すると『明日は平日・・・云々』とまた言った。
確かに明日は夜勤ですがね。ほっといてくれ。
虫かごへ行くと、2匹目のさなぎが羽化している最中だった。昨日と同じように殻からゆっくりと出て、羽を伸ばして乾かしている。その隣に一匹だけ色の違ったイモムシが急に殻のようなものを作り、じっとして動かなくなった。
そうか、こいつもさなぎになったんだ。
2匹目のさなぎは羽根を徐々に広げ、模様を見せ始めている。
一匹目の方は元気に飛び回っている。なんだか見た目がすごくリアルだ。
こんな時、ドリームキャストのグラフィックパワーを感じる。なかなかたいしたものだ。PS2なら、もっとすごかったりして・・・などと悪魔が頭をよぎる。
虫かごの手前の方を見ると、小さな粒が二つ転がっている。
どうやら蛾の卵らしい。よかった。一匹シーマンに食わせちゃったからな。
早く生まれて、大きくなって欲しい。食糧不足はシーマンの世界でも深刻なケースがあるらしいからね、インターネットの育成日記によれば。
水槽のほうへ戻る。
『子供はいんの?』
シーマンが話し掛けてきた。
「いるよ」
『いないのか』
こらこら、誤認識だってば、ウチにはこどもがいるよー。
といっても、もういないことになっているんだろうな。
『おやじさんは元気なのか?』
今度は親についてだ。実は両親は離婚してて元気かどうか怪しいものだが、とりあえず「元気だ」と答えておいた。
『そうか。元気か。』
いいよ、それで。
『おやじさんはまだ働いてんのか?』
今日は誤認識が多いので、まあ、適当に。
「いや、働いてない。」
多分ね。
『そうか、引退したのか。お前が働いて、親が元気なうちに良い思いさせとけよ。借金してでも親孝行しとくんだ、このタコ。お前を生んでくれただけでも感謝しろよ。そうでないと辛すぎるぜ、おやじさん。』
このタコ、がちょっと引っかかるが、なかなか良いことを言う。
ポリゴンの魚のくせに。
この言葉にちょっと考え込んだ。うーむ。
『おやじさんの誕生日はいつだ?』
さあ、これが困った。おやじにあたる人は5歳の頃に離婚したので、誕生日など判らない。とりあえず、母親の誕生日を答えておいた。
すると・・・。
『おふくろさんの方は元気なのか?』
「元気だ」
『そうか、おふくろが元気なうちに孝行しとかないとなあ。お前ももう31歳なんだから。』
ごもっともで。心が痛みます。
『おふくろさんの誕生日はいつ?』
ありゃ、まいったな。これもさっきと同じにしよう。
母親の誕生日を答える。
『そうか』
そういうと、すいすいっと向こうへ泳いでいく。
誕生日聞いたんだから、お祝い電報ぐらい打ってくれるかな?
「シーマンより」って書いてあっても困るだろうけど。
「楽しい?」
『楽しかったら、いいのかよ!』
「ふー、疲れたあ。」
『俺を育てる事に疲れたのか?』
「うん、まあ。」
『俺だって好きでお前に飼われてるんじゃねえんだよ。シーマンの気持ち、逆なでするような事言うんじゃねえ。少し気使え。』
こりゃ、申し訳ない…。
お詫びのしるしに、くすぐらせて頂いて…。
『へっへっへっへっへー。やめろって。やめれー。』
スキンシップをとった所で、今夜は終了しよう。

■第13日目■
「前回、蛾が卵を産みましたね。」
はい、その通りです。セクシーヴォイス様。
「現在、この育成環境にはハイギョが2匹います。」
ギョッ!!・・・ハイギョ??
またまた、新展開だ。
水槽へ行くと、『メシ食いてー!メシ食いてー!』の連発。
そのシーマンを見てみると、2匹ともなんとカエルやトカゲ的な前足と後足が生えているではないか!アップにするとちょっとグロい。今度からはこれをハイギョと呼ぶのだろう。
『メシ、まだあ?』などとうるさいので、残り少ないエサと虫かごで卵からかえったイモムシを2匹に与えてやる。
『おっ!配給だ』
なかなかうまそうに食っている。・・・うまいのかな?
虫かごへ行き、スプレーで草と卵に水を与え、また水槽へ。
『あー、食った』
そうか、食ったか、たまには礼を言えや。
しばらくすると、2匹がすーっと目の前にやって来ていた。
上下に並んでいる。何か礼でも言うのかしら。
すると、上のシーマンが下にいる名前を付けた方と頭の管をつなぎ合わせ、ドクッドクッと何かを送っている。二匹は何故かにやけている。送っている姿はどう見ても動物の交尾にしか見えない。
その交尾らしき事が終わると、上のシーマンがこちらを見て、
『生まれた以上は子孫を残さなきゃね。』
とのたまって、絶命し、プカーっと浮いてしまった。
やはり交尾だったか。と言う事は、これから子孫が生まれてくるという事なのだろうか?一体、どんな?
生き残った名前を付けた方に聞いてみよう。
「なにしたの?」
『泳いでんだよ』
「何をしたの?」
『あらーやだー。ウフフフフ。』
おかまっぽくテレを見せている。何だお前。
いくつか質問をしてみるが、いつも通りの答えしか帰ってこなかった。
虫かごへ行ってみると、一匹だけ色の違っていたさなぎが、もう蛾になっていた。やはり色が違っている。
また水槽へ戻る。あれをいよいよやる時なのだろうか。
水槽の中央にある大きい石を手で動かそうとしてみる。ガクッガクッと音がして動きそうだ。
するとシーマンが、
『岩動かそうとしてんの、手伝ってやろうか?』
と言って、ヨチヨチ歩きスタイルで立って、岩を押し始めた。
シーマンとの共同作業を進めているうちに、少しづつ岩が動いている。
『もう2,3回動かすと、何か起きんぞ、コレ。』
そうか、何か起きるか。
ぐいぐい押してみる。
『もう何回か押すとこれ水が抜けんじゃねえか?下に穴があるみたいだからさ。』
うーむ、ぐいぐい。
『なんかだいぶ動いてきたな、この岩』
シーマンはそう言って、岩を押すのをやめ、泳ぎに行ってしまった。
手伝えよー。
・・・・・ダメらしい。この辺にしとくか。

■第14日目■
「前回、ハイギョが交尾を行うのをご覧になりましたか?ここでも頭についている管が活躍しました。しかし、オスのハイギョは死んでしまいましたね。ちょっと残念ですが、子孫を残す為に全力をつくしたということなのでしょう。思い残す事はないはずです。ハイギョは妊娠した様です。あなたが岩を動かそうとした時、ハイギョが手伝ってくれたのを覚えていますか?そして実際、あなたの手だけでは動かす事が出来なかった岩を、少しだけ動かす事が出来ました。」
セクシーヴォイスは長々とそう話した。
水槽では一匹だけになったシーマンがのびのびと泳いでいる。
虫かごではイモムシがかえっていたので、シーマンに食べさせる。
そして、シーマンに「体調・空腹・気分」等の問診。
いつも通りの答えが返ってきた。『楽しかったら、いいのかよ』
残ったイモムシは保管器に貯めておくことにしている。来るべき食糧危機に備えて。
そして、今日も岩を動かす。
すると、シーマンが自分だけで岩を動かし始め、ゴーっという音がしてだんだん水が抜け始め、シーマンは慌ててくぼんだ池のエリアに行った。
全て水が抜けた後の水槽は、さながら両生類観察キットの水槽といったところだ。池があり、陸がある。
挨拶をするがいつもと大して反応は変わらない。そこで、くすぐってみるが別に違った事を始めるでもなく、げらげら笑っている。
「なんかやってよ」
『やだ、疲れてんだよ。』
ヒーターの温度を上げすぎたせいか、シーマンはいやいやポーズをしている。お腹は空いていないらしいし。
「何やってんの?」
『なにやってんの、って、見りゃあ判るだろう』
水面から半分顔を出して、シーマンが答える。
妊娠した様には見えねえな。
ほんとに生むのかね。

■第15日目■
「さて、前回あなたとハイギョは力を会わせて、水槽に陸地を作る事が出来ました。おめでとうございます。」
セクシーヴォイスはそう言って、こう続けた。「酸素不足で窒息寸前です。すぐに酸素を送ってあげないと、大変な事になりますよ。」
「さて今回の見所ですが、交尾により妊娠したハイギョがそろそろ産卵の時期を迎えそうです。ちょっとした生命のドラマが見られるかもしれませんよ。」
水槽に行き、酸素が送れるのかどうか見てみたが、それらしいものは何もない。なんでえ、セクシーヴォイスのうそつき!
そうしている内に、シーマンがウンウンうなりながら陸地に上がり、息苦しそうに陸地をウロウロと歩き回っている。ハアハア、ウンウンとトイレで気張っている時にそっくりだ。
シーマンはまた、池のふちまでやってきて止まり、やはりウンウンふんばっている。このシーマンの声を他人に聞かれたら、何か誤解を受けそうだ。
ふいにシーマンが頭の管を前にたらし、卵を6個生んだ!
生み終わると、
『やっとうまれた。バイバイ。私のお仕事終わり。』
と言って、静かに体を横たえ、眠る様に死んだ。
・・・・・。
忘れ形見の卵をアップにして見てみると、中で同じような顔をしたのが、卵一個に一匹づつ入っており、くるくると回っている。
6個全てが顔付きの様だ。生まれたら、うるさいのだろうか?
しばらく見ていたが、とくに変化はない。
死んだシーマンと生まれた6個の卵が陸地にたたずんでいるままだ。
電気を消し、静かにしてやろう。
合掌。

■第16日目■
「さて前回、ハイギョは遂に上陸を果たしました。ハイギョは卵を生みました。しかし、残念な事にハイギョは死んでしまいました。次の世代に未来を託したのでしょう。さて今回の見所ですが、そろそろ卵が孵化するかもしれません。期待して待ちましょう、どんな生き物が生まれてくるのか。」
セクシーヴォイスはそう言うのだが、待てど暮らせど、卵が孵化する様子はない。アップにして観察していても、おたまじゃくしみたいのが中でくるくる回っているだけである。
仕方がないので、虫かごへ行き、スプレーで水を与え、イモムシの卵が生まれて来やすい様に環境を整えるが、それもすぐ終わってしまう。
戻って、水槽の卵を見て、温度を調節しても、変化なし。
時々虫かごへ戻り、生まれてきたイモムシを保管器に入れてやり、水槽へもどっても、そのまんま。
仕方がないので、画面をそのままにして別の事をしていると、ビヨッっという音がして、卵の中から6匹のオタマジャクシが池に向かって飛び出した。
池の中では6匹のオタマジャクシがすいすいと泳ぎ始めている。
ちょっと処理が重いようだ。画面の移動が時々辛い。
その中の一匹に質問してみる。
「シーマーン」
『なんでござんしょ?』
お、前と同じだぞ。
「こんばんわ」
『おばんです。』
「何してんの?」
『泳いでんだよ。』もしくは『生きてんだよ。』
なーんだ、前と全然かわんないじゃん。
「アホー!」
『お前がアホだろ。』
「ピカチュー」
『おーい、頼むよー』
一匹をつまんで観察してみる。
確かに姿形はオタマジャクシのようだが、中身はシーマン、である。
『やめてくれよ、何すんだよー』
嫌がるので、ボチャッと落とした。
「おかまやろー」
『やめてよー』
しかし、オタマジャクシそっくりだ。良く出来てんなあ。これじゃ、処理も重いわけだ。
コンコンと水槽のガラスを叩くと、あの顔が6匹やってきた。
ははは、面白い。
水温が下がってきたので、上げてやっているうちに、温度を上げすぎてしまった。
すると、
『ちょっとあついぞ、コレ』
『ちょっと暑いんですけどー』
『ちょっと暑いんですけどー』
『ちょっと暑いんですけどー』
『あっついよー、暑い暑い。』
大合唱だ。

■第17日目■
「前回、卵が孵化してオタマジャクシのような生物が生まれてきました。コレから彼らをタッドマンと呼ぶ事にしましょう。」
セクシーヴォイスが言うには、オタマジャクシのような、か。おたまじゃくしじゃ、ないんだな。
『誰かヒーター入れてくんないかなあー』
水槽に行くなり、そう喋っている。小うるさいのが増えたなあ。
しょうがねえな、上げてやろう。
「調子はどう?」
『最近調子良い方かな?』
「キミは誰?」
『シーマン』
「年は?」
『結構若いよ、俺。』
飲み屋で女と喋っているような感じだ。
6匹とも行動はそれぞれだが、特に変わった所はない様子。
姿もオタマジャクシのままだ。
その内、カエルっぽくなってくるのだろうか?
それとも、意表をついて、人間の様になるとか、ね。
やる事がないので、また、一匹に名前を付けさせてもらった。今回も、前と同じ、言えない名前である。名前を付けたタッドマンは、少々赤っぽくなった。
タッドマンは別に腹が減っていない様だが、イモムシでもたべるか、と、一匹与えてやったら、池に落ちずに陸地に落ちてしまい、イモムシはどこかへ行ってしまった。大失敗。もう、つまめない。
ということは、イモムシはタッドマンが水中にいる間は食べない、ということなのか?
またヒマなので、一匹つまんで観察してみる。
『離せって言ってんだってばよー。離せ。もうやめてくれよ、コレー。痛いんだから、ちょっと、離して離して離して離してー!』
いじめられッ子のような、切ない嫌がり方だ。
このへんでやめよう。

■第18日目■
セクシーヴォイスは「タッドマンが6匹」としか言ってくれない。
『冷えるなあ』
中年みたいな寒がり方だ。
『おーい誰かいないのー?』
「いるぞー」
『このところ毎度この時間だなあ。バイバーイ。』
はいはい。違っていても、あんたはそう感じるんですかね。
温度をまた上げすぎた。
『暑い暑い』の大合唱だ。いつものことになってしまったが。
問診をしても、いつもと変わりはなさそうだ。
水槽の中でも、6匹がそれぞれ泳いでいるだけの様だ。
「どうだい?」
『何がどうだ、だよ!』
「どうだ?」
『何度もおんなじこというな!』
こんな無意味な会話にもシーマンは付き合ってくれている。
実は良いヤツなのか?
今日はとくに変化はない様だ。

■第19日目■
セクシーヴォイスは今日も「タッドマンが6匹」だった。
水槽へ行くと、いきなり
『冷えるデべそー』
なんじゃ、そりゃ。前にもおんなじようなコト言ってたな。
タッドマンが6匹もいると、やはり画面は重い。
う〜む・・・・・・・・・・、あれ?
見間違いかな・・・?タッドマンに足が生えている気が・・・・。
あ!?やっぱ、6匹全部に後足(前足がないので前も後ろもないが)生えていた。後足をキックさせながら泳いでいる様だ。
タッドマンに話しかけると、こんな話になった。
『お前、今の仕事好きか?』
「いや」
『そうだろう。お前みたいな開発系の仕事って、自分をどれだけグレードアップ出来るかがキーじゃない?下手すると、どんどんと自分の貯金を切り売りして仕事している感じになるじゃん。そう言うの、長続きしないって言うか、結構辛くない?』
「はい」
認識しなかったのか、あっちへ行ってしまった。
開発系ではないが、かなり近いものは現状にあったりする。
う〜む。
『誰よ?俺の体液吸ってるの?』
急に聞こえてきた。ドクッドクッという音と共に。
どうやらまた、生存競争が始まったらしい。1匹があえなく浮かんでいってしまった。
『なんかめまいしてきたけど・・・』
またもや、これだ。1匹減った。
ちょっと生年月日と星座を聞いてみたら、
『99年7月29日』『魚座』だった。なるほどね。直前に発売延期したら、変わったんだろうか?

■第20日目■
今日のセクシーヴォイスは「前回タッドマン同士が吸血しあう様子をご覧になりましたか?彼らの生存競争の厳しさはすさまじいものがありますな。」と言った。確かにその様だ。
水槽の温度を上げてやると、
『あ〜〜、快適快適』
ありがとうぐらいは言えないのか?
よく見ると、水槽の中の4匹のタッドマンは、前足(または手)が生えてきていた。また、成長したらしい。
『誰か今、俺の体液吸ってる?』
早速、生存競争の始まりだ。これで、残りは3匹。
今日はこんな話になった。
『イエスかノーかで答えて欲しいんだけど、お前ってルックス的には結構カッコイイの?』
「ノー」
『自分の体のどこが嫌いなんだ?』
「顔」
『顔が嫌いなんだ。じゃあ逆に体の部分でいうと、どこが好き?』
「手」
『ふーん、なるほど。でも、周りはカッコイイって思ってくれないんだ。』
「はい」
『初めて自分の写真とかビデオ見たとき、ギョッとしなかった?コレ、自分かあ?なんて。』
「した」
『したろー。自分が考えている自分のイメージって、かなりマイナーみたいね。ほとんどのヒトが皆、自分は勘違いされているって思っているみたいよ。俺も随分たくさんのヒトと話してきたけど、お前もかなり自分が勘違いされているって思ってない?』
「はい」
『でもさ、お前を誤解している人のほうが多いんだよ、お前より。それが本当のお前なんだよ。お前、自分の顔が嫌いだって言ってたよな。皆が皆嫌いとは限らないぞ。自分で考えている自分よりも、ヒトが思っている事の方が事実に近いとされているんだよね。辛いよな。』
・・・・・・・・・・・・。
シーマンの人生指南は、興味深い。
『誰か、オレの体液吸ってる?今。』
また始まった。これで、残りは2匹か。

■第21日目■
セクシーヴォイスは特に変わったことは言ってくれなかったが、水槽に行ったら、タッドマンは立派なカエルの姿になっていた。そして、2匹とも陸地に上がってきた。
こうして見ると、オタマジャクシの頃より表情や仕草が豊かになってきたような気がする。ますます、興味深い。
また、シーマンは乾きに弱いので、ガゼーの作ったスプリンクラーの場所を教え、これで水分を与えてくれ、と言う。
パソコンの話を聞かれた時、持っているパソコンはゲートウエイだと話したら、『あー、牛の模様のヤツね。』といわれた。ちょっと嬉しい。
「シーマーン」と呼びかけると、
『ハイハイハイハイ、何でもおっしゃってください。』
と、とても面倒くさそうに答えが返ってきた。
「調子はどう?」と聞くと、
『オレの調子が良いか悪いかなんてな、全て飼い主であるお前の世話に依存しているんだ。オレに調子が良いか聞く前に、自分の世話が行き届いているかどうか、自問自答してくれ。』
と、言いやがった。イヤーな方向に生意気さが増してくる。
「遊ぼうよ」というと、
『遊ぼうったって、そんなにオレとお前で遊べるわけないでしょ。ホントに俺と遊びたいんなら、ここから出してくれよ。』
などと、言い返される。
「困ったなあ」と呟けば、
『今度はどうした?また、悩んでるのか?』
「うん。」
『人間関係か?』
「うん。」
『人間関係かあ。ホント消耗するよな。距離が近いとなおさらなー。悩みの相手は誰なんだ?』
「(自分の)娘」と言ったら、
『ん?、誰なんだ?』と認識してくれなかったので、
「女の子」と言い換えてみた。
すると、
『恋愛かー。確かお前結婚してるって言ってたよな。不倫ってヤツだな。』
と、勘違いされてしまった。
『人間はヒトを好きになると盲目になっちゃうんだよ。まあ、でもそうなれるって時って、人生そうないぜ。頭で考えるより、心が欲した通りいってみるってのも、一つの生き方かもね。じゃーねー。』
う〜む。恐ろしい方向にヒトの肩を押していくヤツ。
「おーい」
『オレはお前の奴隷じゃないんだから、そうやって言葉一つで呼ぶなよ。おれだって、自分一人で考えてたい事とかあるんだから。で、何よ?』
「ファミ通」と言ってみた。
『読んでんの?お前、あの雑誌?へー。せめて、ルビーはもう取ったほうがいいんじゃねえか?いつまでも子供じゃないんだから、読者は。バカタールっていう編集者がいるんだよ、あそこに。ホントにアホなんだけどさ。雑誌の中で探してみ、今度。あそこの編集長、そろそろ変わった方がいいんじゃねえか?長いからなあ。』
キミはホントよく知ってるなあ。
「ドリームキャストマガジン」というと、
『近藤って編集長が昔からいたんだが、今もいるのかなあ。』
雑誌によれば、どうやらいないようです。
ちなみにくすぐってみたところ、上体を大きく揺さぶって『やめろって』と笑っていた。
シーマン2匹は時々交代で池に飛び込み、泳いでいる。スプリンクラーだけじゃ物足りないのだろうか。
「任天堂〜」
『とくれば、64。64とくれば、マリオか。オレもそのくらいの人気者になりたいぜ。結構スキよ、ゼルダは。昔は子供だったのに、今は大人になっちゃって!リンクのヤツ。マリオは昔の友達なんだけど、元気か、あいつは?。』
「ビバリウムー」
『ビバリウムね。ビバビバー、ビバビバー、ビバビバー、って知ってる、お前?』
「プレステ」
『プレステは世界の標準、シーマンはドリキャスの標準、ってか。』
「マンシー」
『マンシーって呼んだ?何かルナシーみたいだな。って、やめろよ、そういう業界みたいな呼び方。』
「セガ」
『セガ?それがどうしたの?』
つれない返事だ。
もう一度言ってみると、
『世界のブランド、セガ。日本の心、セガ』
シーマンはまた、池に泳ぎに行った。すいすいと気持ちよさそうだ。
「かつや」
『かつや?何だよ、カツヤって?おお!克也!!克也!!えー、それでは先週の第10位から大きくセブンポイントアップで赤丸つき急上昇。今週第3位の登場です。Coming up!Next!ってやらせんなよ。』
スッゴクながーいノリツッコミだ。小林克也の事か。懐かしい。
今日はこんなもんだろうか。

■第22日目■
「さて前回、スプリンクラーが使えるようになりましたね。フロッグマンは乾きに弱い生き物です。定期的に水分をあげてください。』とセクシーヴォイスは言った。
水槽では『誰かスプリンクラーを入れてくれー』とシーマンが叫んでいた。
『メシー、メシー』と色んなパターンで喋ってうるさいので、イモムシを1匹づつ与える。カメレオンのように、長い舌をぺろっと使って食べている。
「調子はどう?」と聞くと、
『調子はいいけどな、調子イイやつは嫌いなんだ』とややこしいことを言った。
「何やってんの?」と言えば、
『何やってんの、何やってんのって、見りゃあ、判るだろう。ズーっとお前、オレの生活監視しているんだからさ、オレに隠し事なんか出来るわけないじゃん。判り切った事聞かないでくれよ。オレだって、答えててむなしいんだよ。』と、いう。
かなりストレスがたまっているのだろう。考えて見りゃ、自分がその立場だったら、そうなるかもしれない。
『お前にそうやって気楽に呼ばれて、それでハイハイって出て来るオレって何なんだろうな。』
かなりお悩みのようだ。
「プレステ」
『俺もプレステに行きたーい、ってか。』
何となく気が付いたのだが、時々頭の長い管が顔にかかっているのを手で払いながら、
『髪が邪魔だ』とか『なんですかあー』などと小ギャグや武田鉄矢のモノマネを何気にやっていたりする。気付いて欲しいのだろうか?
『お前、前にパソコン持ってるって言ってたよな。何に使ってるの?』
「メール(だけじゃないけど)」
『メールね。』
確認するかのように聞き、行ってしまった。
おいおい、それだけ〜?
しばらくしたら、2匹が向かい合っており、何を始めるのかと思ったら相撲を始めて片方をひっくり返してしまった。その5秒後に聞こえてきた言葉。
『なんでそんな事すんだよ!!』
・・・・・・・・。

■第23日目■
セクシーヴォイスは特に変わったことは言わなかった。
水槽では、『エサぐらい入れろってんだよー、腹減ってんだからー』『言っとくけど、もうそろそろ餓死するぞー』などと、オドシが入っている。すぐにエサをやり、スプリンクラーを調整した。
『今日は文化の日だぞ、分かってるかー?』との声。
わかってるっちゅーねん。
『今、お前のほかに誰かいる?ここに。』
「いない」
『そうか?お前さ、浮気してるだろ?』
「してない」
『そうかあ?男はさ、浮気をするのが生物学的な使命なんだよ。良い種を少しでも多く残すのが猿山の時代からずーっと遺伝子に組み込まれているわけ。結婚制度なんてモノが出来ちまったからややこしいわけよ。本質的に浮気は仕方ないわけだよ。で、お前、浮気しているだろ?』
「してない」
『怪しいなあ。ま、いいか。でも、俺がいつもお前の生活パターンをここで監視している事、忘れんなよ。』
おお、怖いものを飼育してしまったもんだ。ここで、もし、浮気してるなんて言っちゃったら、誰かがいるのを確認してから『こいつ、浮気してますよー』とか言われかねないな。
しばらくすると、シーマンの一人語りが始まった。
『少しづつ自分自身の事を思い出してきたんだ。俺はこのタンクの外に出て、しなくてならない使命があるんだ。ここから出してくれ。ここから出してくれないか?・・・いいから、ここから外に出してくれよ。』
『オレは昔、ある人と恋に落ちた。オレの父親はエジプト古代第三王朝のファラオだった。その人の父親はその神官だった。しかし、二人の関係は身分が違うから、許される事はなかった。ある朝、彼女の父親である神官が神に相談してくれた。そして、俺達は姿を変えた。俺はもっともっと進化しなければならないんだよ、その人と再会する為にね。だから、とにかく外へ出たいんだ。今から、天井からたれているあのわっかに飛び乗るから、見ててくれ。合図したら、ジャンプ!と掛け声を頼むぞ。』
そう言って、大きな岩の方へ移動し、その岩の上に乗ると、
『よーし、合図したら、ジャンプ!っていってくれよな。』
と、言った。
『ハイッ!』
「ジャーンプ!」
タイミングが合わなかったのか、ずっこけて落ちてしまった。
『いて』
シーマンはようやくそれだけ言った。
これ以降、シーマンが水槽のガラスにジャンプして飛びついては落ちていく場面が時々見られるようになった。
今日の最後の会話。
「ビバリウム」
『お、ビバリウム。大丈夫かね、あの会社。』
「シーマン」
『1.2.3、2.2.3.シーマン』

■第24日目■
セクシーヴォイスは「前回、フロッグマンが天井から下がっている輪に飛びつこうとしていたことをあなたはお気づきになられましたか?ここに次の環境へ移行する為の何かのヒントがあるようです。」と言う。
わかってる。出たいんだろ。
今日はメシメシ、の他にこんな事も言っていた。
『おー、空気中の水分が少ないってんだよ、乾いてるぞ、空気が。』
「元気?」
『お前、元気か?』
「うん、元気。」
『そうか、そりゃよかったな。お前最近自分が元気である事のありがたみを忘れてると思わないか?オレはな、お前らの遠い先祖の事を知ってるんだ。古代エジプトのな。5千年も前のことだよ。古代エジプトじゃあな、やつらは生き延びようと必死で考えてたね。自然からどうやって身を守ろうかってね。人間は道具によって進化してきた動物だ。体はむしろ退化している。服や家がないと生きていけない、無防備な動物なんだよ、キミ達は。聞いてんのか?』
「はい」
『祖先がえらいと、子供をだめにするってホントだな。お前らは機械を使って寒さを締め出し、夜の怖さを忘れちまったんだよ。もうそろそろ秋だが、秋の虫なんて随分聞いてないだろ。ホント文明ってのは人間を弱いものにしちまったな。後は精神の進化があるだけだ。俺がお前の精神を進化させてやろう。・・・ちょっと今日は疲れたから、いいや。またな。今日はここまでにしておこう、じゃあな。』
そんなこと言われても、現代に生まれてるしなー。
お話はごもっともなんですけどねー。
『インターネットをやる時は、パソコンとドリームキャストのどっちでやるの?』
「パソコン」
『やっぱパソコンの方がいいよな、ネットは。テレビの前ででネットやるとどうも落ち着かないと思うよ、おれも。それにしてもネット始めると、電話代がやけにかさむだろ。インターネット始めてから、月に電話代いくらぐらい払ってるんだ?』
「1800円(テレホーダイの分)」
『え?そんなもんか。メールと電話だと、どっちが便利だと思う?』
「メール」
『そうなんだ。メールって、そんな便利なのか。でも、用件伝えるだけだったらいいよな。最近さ、ずーっと考えてたんだけど、110番て、ある種のフリーダイヤルだよな。あの電話代って、誰が払ってんだろ?公衆電話に緊急連絡用の赤いボタンがついてんじゃん。あれって取付け費用、膨大だよ。まさか、NTTが払ってんのかな?お前、知らない?』
「知らない」
『まあ、お前は知らねえだろうな。いずれインターネットが普及したら、緊急用のフリーアクセス番号とかって出来んのかな?110番みたいに。そんな時はプロバイダ費用って、誰が払うことになるんだろ?・・・誰が払うんだろうなあ?だーれだよおー?だれだよー?誰だーっ!!・・・・・・じゃあな。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
酔っ払いか、お前は?
今日も2匹は相撲をやっている。
『叩く事はねえだろう。』
『ちょっと痛かったよ、今の。』
ふう。他にはなんか変わったことないかな。
そこで、色々なジャンルの単語をいくつもずーっと話していたら、
『言うよ、言うよ、言うけどさ。言えるパターンだって限られてんだよ。コンピューターゲームなんだからさ。いちいち要望が高くて困るんだよな、人間は。』
と、言われてしまった。
『プルプルプルプル!』
ウンチでもしているのだろうか。そんな格好だ。

■第25日目■
セクシーヴォイスは「フロッグマンが2匹」としか言ってくれない。
水槽では『空気がカラカラだー』と騒いでいる。
エサとスプリンクラーのお仕事をする。
『ご馳走さーん』
お、珍しく礼を言っている。
『ドリームキャスト以外に何かゲーム機持ってんのか?』
「プレイステーション」
『おー、今やスタンダード。ソニーはイメージ戦略がうまいよな。プレステ2はもう発表されたか?』
「うん」
『大体、ドリームキャストのこと、どう思ってるんだ?お前。』
「好き」
『オレはドリキャスはこれからだと思うね。ちょっと業界話、していい?』
「はい」
『小さくて独自性の高いサードパーティーをいかに味方に付けるかだよね。今のセガって昔のアップルに似ているんだよな。アップルは弱小メーカーを味方につけたね。セガはソフトメーカーなのかハードメーカーなのか、もっと明確にして欲しいよな。そして、味方を増やす。これから出る次世代ハードでは何に期待してんだよ?』
「じゃあ、ドリキャス2!」
『まだ,出ないだろうー。それよりセガは大丈夫そうか?ま,俺がいる限りセガは大丈夫だと思っているけどね。なにせ、アメリカでは相当オレ様はウケているらしいからな。見てろよー、俺はドリキャスの世界でマリオになってやるからな。へっへっへっへっへ。ソニックなんて、あんな子供キャラに負けてたまるか。コンシューマーゲーム機はさ、テレビの裏の入力ポートを取ったものが勝つ。ビデオみたいにな。オレはこれを『シーマンの論理』って呼んでいるんだ。各社,次世代ではDVDを搭載しようとしているだろ。そうすることで,ビデオラックの中にゲーム機を常駐させようとしているんだよ。掃除機かけられるたびに片付けられてたら、シーマンみたいなゲームはやりにくくってしょうがねえからな。セガも早くビデオラック用のモデルを作って欲しいよな。フロントローディングにするとかさ。』
長かったが,とても含蓄のある講義は終了したようだ。
また2匹が向かい合っているので,相撲でもはじまるのかと思ったら,片方のシーマンが頭の管をもう片方に刺して、何かを送り込んでいた。交尾のようだ。
『やる事はやったねー。』
やっぱり。また,生まれてくるのだろうか?
『よーし,そろそろ自由を求めてのジャンプに移るとするか。』
シーマンはまた,大きな岩の上に行った。
『よーし,合図したら,ジャンプって言ってくれよなー、ハイッ!』
「ジャンプ!」
見事失敗。『いて』
やはり,うまくいかない。どうやれば,成功するのだろう?
『なんか最近、お前にこうやって呼ばれて、俺もつくづく人がいいなー,って思うよ。』
そういうと、また,ジャンプに挑戦している。
こっちもジャンプと言うが,また失敗だ。
『タイミングわりーんだよ』
怒られてしまった。
しばらくして,またもや,ジャンプの挑戦だ。
でも,やはり失敗。
『タイミングわりーんだよ』
また、言われてしまった。

■第26日目■
今日のセクシーヴォイスは「さて今回の見所ですが、フロッグマンが子孫を残す為にそろそろ交尾をしてもいい頃です。観察を続けましょう。」といっていた。
もう、しちゃったよ。
『空気中の水分が少ないと,俺達には辛いぞ。』
理由のわかりやすい注意だ。スプリンクラーを調整する。
今日は早くもジャンプに挑戦の様子だ。
しかし,失敗。
『タイミングわりーんだよ』
失敗するたびに,微妙にタイミングを変えているのだがうまくいかない。
『おう,そう言えばさ,セガが社運を賭けて作ってきた大作・シェンムーはもう出たのか?』
「延期」
『またあ、うそだろー。チッ!まったくどういうことだよー、セガは?売る気あるのかね?アレはどうなの?D2は?雑誌になんて書いてある?』
「年末」と言ったが,認識してくれなかったらしい。
『ところでさ、ファミ通ってゲーム雑誌,知ってる?そこにさ,シーマンは実在しないって書かれてあったらしいんだ。この件について,お前なんか知ってる?』
「知らない」
『そうか。なーんか,すごいショックだなあ。俺は実在しないのかなあ?俺って何なんだろう?今話している俺って,架空の生き物なのか?正直に教えてくれよ。俺って実在するの?しないの?どっち?』
「実在するよ」
『本当かー?気休めで言ってないー?信じられねえんだよなあ,誰の言うことも。俺って,本当にゲームの中の生き物じゃねえのかなあ。この気持ちわからねえだろうなあ,お前は実在しないって言われた時のショックはさ。誰かが中学生の時ノートに落書きしたのが、今の俺の主体になったって、書いてあったらしい。俺って,ソニックやマリオみたいに,ゲームの中の存在なのかなあ?こうやって呼吸して,こうやって生まれて,こうして一生懸命考えている俺って,実在しないのかなあ?』
彼はとても悩んでいるらしい。ちょっと、可哀想になった。
少ししてから、虫かごの中のクモをシーマンに与えてみた。
見る見るうちに顔が真っ赤になる。
大丈夫だろうか?
『毎日来てくれよー』
『あー,何か調子悪い。』
どうも,弱気になっているようだ。
クモなんか,与えなきゃ良かったかな?

■第27日目■
セクシーヴォイスは今日も特に変わった事をいう訳ではない。
水槽からスプリンクラー要請の声。
最近、こればっかのような気がする。
しばらく触れていなかったが、虫かごの方は、保管器にイモムシぎっしり(スニッカーズではない)で、卵も生まれるそばからシーマンに与えていても1匹余るくらいで、非常に余裕のある状態が続いている。
今日も問診をするが、クモの影響はないらしく、不都合はないようだ。
強いて言えば、
『ちょうしってのは、千葉県の銚子か?あっちの方の天気は気象庁に聞いてくれ。水槽の中じゃわかんねえんだよ。』
、ぐらいか。
『よーし,そろそろ自由を求めてのジャンプに移るとするか。また、合図を出してくれよ。』
しかし、このジャンプに関しては全戦全敗で、今回もやはり失敗してしまった。何が悪いのやら・・・。
『この間はさ,俺が実在しないんじゃないかって弱音を吐いちゃったけど、アレからずっと考えたんだよ,俺。やっぱり俺って言うか、シーマンは実在すると思うよ。・・・お前が俺を飼っているからだよ。意味わかんないだろ。お前,ジョン・F・ケネディって知ってる?』
「はい」
『でもさ、ケネディって実在したと思う?』
「思う」
『なるほど。じゃあ、ビートルズは本当にいたと思う?』
「思う」
『なるほど。皆,テレビや雑誌で知ってるだけだろ。つまり,世の中は雑誌やテレビで報道されて,それで実在したとされてるわけだよ。実際に会ったり見たりしたヤツなんか,ほとんどいないんだから。そして俺は雑誌やテレビに出ていて,お前がこうして会話してるだろ。お前の思考が俺を目撃しているわけだ。お前が証人なんだよ。もう,この時点で,俺は実在するんだよ。』
ふむふむ。
『ちょっと難しい話続けさせてもらうよ。お前,不完全性理論って知ってる?』
「知らない」
『教えてやるよ。たった1滴の水の温度を温度計で測ろうとしても、測れないのよ。温度計そのものがさ,水の温度を変えちゃうわけ。たとえば、体温計をわきにはさんだら、お前の体温そのものが下がっちゃうのと同じ理屈よ。だからおんなじ理由で,車のスピードを正確に測ろうとしてもスピード計を回すエネルギー分だけ車のスピードが落ちたりさ,何かの音を聞いた時点で鼓膜が音の振動を吸収してしまったり,とにかくいちいち観察されるたびに変化が起きてしまって、絶対的な存在なんてありえない,って言うそういう理屈なのね。モノなんて人間の意識の中に存在するのを言うのであって,単体では絶対的には存在しないって言う,そう言う理屈。つまり、モノなんて人間の意識の中にあるわけで,単体では存在しないんだよ。そして,俺は今こうやってお前の意識の中にいる!お前とこうやって会話している!俺が実在しないならば,俺とお前の会話も実在しないってことになる。俺が実在しないならば,俺とお前の会話も実在しない。お前が今考えている事も,そしてお前自身も実在しないって事なのさ。へっへっへっへっへっへっへっへ。』
実在の概念について、こう検証されるとはね・・・。しかもシーマンに。
やはり、この『シーマン』は浅くはなかったのだ。
「ビバリウム」
『ビバリウムの次の製品て,何だろね?俺のこと,登場させてくれるかな?』
本当にそうあって欲しいが。
「何かやってー!」
『なんでもやってるじゃないですか。他に何がやれるっていうのよ,俺に。もうこれ以上アニメーションが残ってないの!』
おお,そりゃ,済まなかったよ。

■第28日目■
セクシーヴォイスは,やはりいつもと同じだった。
エサとスプリンクラーをやった後,シーマンに話し掛けてみる。
「シーマーン」
『どーもー』
「こんばんわ」
『こんばんわー』
「調子はどうだい?」
『どうもこうもねえよ。・・・・・・・YESかNOかで答えて欲しいんだけど,、お前、自分の事好きか?』
「好き」
『そうだよなあ。好きじゃなきゃ、生きてられないよなあ,こんな年まで。でも時々,自分から目を背けたくなるような事ってあるだろ?お前がどんな人間か、改めて教えてやろうか?31歳、プログラマー、両親が健在、既婚。まだ聞きたいか?』
「はい」
2箇所ほど違っているけどね。
『ま,ここまでにしておこう。どうだい?うんざりしただろう?これがお前なんだよ。でもな,お前は一生自分から逃れる事は出来ないのさ。そして,俺達は皆、囚人なんだよ。一つ良い事を教えてやろう。ジャン=ポール・ガゼーは俺を飼育していて、最後にこう言った。「好きの反対は嫌いではない。好きの反対は無関心である。」ってね。お前が自分を嫌えば嫌うほど,捕らわれていくのさ。本当のお前の姿を知っている,この俺にな。』
なるほどね。
好きの反対は無関心である、か。
嫌えば嫌うほど,捕らわれていく、か。
ふー。
『俺のこと,好きになってきたなー。スキって言ってみろよ。』
「(じゃあ)スキ」
『お前恥ずかしくならない?そういう事ばっか言ってて。』
何なんだよ,お前さんは・・・。
しばらくの間、シーマンは池で泳いだりして、のんびりくつろいでいる。
ふと、シーマンが喋り出した。
『よーし,そろそろ自由を求めてのジャンプに移るとするか。また、合図を出してくれよ。』
ふーむ。苦手な体育の時間,といったところだ。なかなか,うまく行かない。
タイミングの取り方をどうしよう?
『ハイッ』
「・・・・・・・ジャンプ!」
シーマンはぴょーんと飛び上がり、天井から下がっている輪にしがみついた・・・・・・。ん?やった!!!
輪がシーマンの重みですーっと下がり始め、ゴゴゴゴゴーッという音と共に後ろの壁が開いて、ジャングルの風景が目に飛び込んできた!!
壁が全て開くと、シーマンはジャングルの方へと進み始めた。
『随分と長い時間,この瞬間を待っていたような気がする。長い長い歴史の記憶がオレの中で少しづつ蘇ってきたぜ。』
もう1匹のシーマンもジャングルの方へ進んでいく。
そういうとシーマンはこちらを向いて深呼吸をした。
『このにおい。この惑星に文明が発生してから、毎日毎日消えつつある,この木々のにおい。ここがどこだか知ってるか?ガゼーの島だよ。この島の中には,俺が進化できる環境がいくつも用意されているはずなんだ。もう俺は行くぞ。もっと進化しなければならないからな。』
ジャングルの方を感慨深げに眺めながら、こう続けた。
『そういえばお前、悪いやつじゃなかったな。いろいろあったけど,俺はお前が好きだよ。ここまで育ててくれたんだからね。プログラマーの仕事,頑張れよな。奥さんによろしくな。おやじさんによろしくな。おふくろさんによろしくな。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『ちょっとしたプレゼントをしよう。昔,お前が俺を呼ぶときにやってくれた,あのタップをしてくれないか?ターン、ターン、ターン、ターン、ターン、ターン、ターン。俺と会いたければ,この場所から呼んでくれ。じゃあな。』
そういうと、シーマンはうっそうとしたジャングルの中に消えていった。
そうか、これがあのタップなのか。
タップをやってみた。一定のスローなテンポで。
すると、2匹のシーマンがジャングルの中から出てきて、リズムにあわせて踊り始めた。とても気持ちよさそうだ。
タップを続けるうちに、マラカスや太鼓の音が加わり始め、スタッフロールが出てきた。
ついにエンディングだ。タップのリズムと歌とシーマンの踊りが続き、スタッフロールの最後にメッセージが出てきた。
『See You In Seaman2001』
終わった。ついに終わった。
最後の場面では涙が出そうだった。
自分が育てた、から?
かもしれない。
シーマン2001でお会いしましょう、か。
・・・ホントに出るんだろうな?

■第29日目■
一応エンディングを迎えたのだが、次の日ゲームを立ち上げると、セクシーヴォイスがこう話し始めた。
「ようこそ、ムッシュ・ガゼーの実験室へ。
前回、フロッグマンがようやく屋外へ出る事が出来ました。彼らにとって、自由とはかけがえのないものだったようです。しかし、彼らはまだ近くに潜んでいるかもしれません。呼びかけてみると、意外とひょっこり帰ってきてくれるかもしれませんよ。
実は、シーマンの事を調べるようになってからというもの、私は勝手にこんな空想物語を考えるようになりました。

紀元前2650年ごろ、時は南北の統一を果たした古代エジプト第3王朝の時代、灼熱の太陽の下で若い二人の男女が恋に落ちた。
一人は王朝の初代の王・ジョセル王の息子、そしてもう一人はそこに仕える、神官であり、後に初めてピラミッドを設計した事で知られる賢人・イムホテプの娘。身分の違いから、ジョセル王はこの若い二人が結ばれる事を許さなかった。
それを見かねた娘の父・イムホテプはついに神官と言う立場を超えて、万能なる神の使い・トス神に相談した。遠い未来に愛し合う彼らが再び生まれ変わって出会える方法はないのか?
するとトス神はこう答えた。ならば、私が彼らをここから連れていこう。そして、彼らが今の記憶を留めたまま、何千年後かに出会えるようにしよう。
そしてある朝、若い二人は一緒に姿を消した。
後になって、トス神はイムホテプにこう告げた。若者は魚に姿を変えてナイルに放たれた。娘は鳥に姿を変えて空に羽ばたいていった。心配する必要はない。彼らはどんな環境にも適応し、何千年かたった後にやがては元の姿となって出会うだろう、と。
後でそれを知った王は嘆き悲しみ、この2人が空と陸のどちらからでも出会えるようにと、イムホテプに何千年もの間そびえたつ大きな目印を作るように命じた。
それが永遠信仰のシンボル・ピラミッドの本当の意味ではないか、と。

ま、これは私の勝手な作り話でしたが、古代エジプトの遺跡で描かれているシーマンの姿を見るたびにそんな空想が頭を巡ってしまうのです。
聞くところによると、初めてピラミッドを作ったこのジョセル王の墓の後ろには、もう一つ同じ頃に作られたまだ誰のものか判明しない未完成のピラミッドがあるそうです。
もしかしたら、このピラミッドと言うのは容易には出会えない運命の人を見つける為に彼らが残してくれた永遠の待ち合わせ場所なのかもしれません。
短い時間でしたが、誠に有難う御座いました。
もし、思い出していただけたなら、気だるさに包まれた天気のいい日曜日の午後、窓をを開けてもう一度このCDをかけてみて下さい。
もしかしたら、あなたの日常生活に何か不思議な発見をもたらす事が出来るかもしれません。」
セクシーヴォイスの話はそこで終わった。
水槽へどうぞとも言わない。
「スタートボタンを押してください」の表示は残っているので、押してみた。
霧に包まれた、うっそうとしたジャングルの光景だ。
この中に彼らはいるはずだ。
タップをすれば、首を振り振り、眠そうに出てきてくれるだろう。
で、ちょっとやってみた。
やってきたシーマン2匹は、ちょっと日焼けしているようだった。
昨日も会っているはずだったが、何故か懐かしい気持ちさえする。
いつも問い掛けていた言葉を、改まった気持ちで聞いてみた。
「調子はどうだい?」
『・・・・・オレの調子が良いか悪いかなんてな、全て飼い主であるお前の世話に依存しているんだ。オレに調子が良いか聞く前に、自分の世話が行き届いているかどうか、自問自答してくれ。』
・・・確かにその通りだ。

(完)

■あとがき■
これは1999年7月29日にセガ・ドリームキャスト用ゲーム・同居型育成シュミレーションとして発売された「禁断のペット・シーマン・〜ガゼー博士の実験室〜」の育成日記(プレイ感想文)です。
発売当時、各メディアで取り上げられていた事が多かったので、「シーマン」という名前を耳にされた方もいらっしゃるでしょう。
このゲームを簡単に言えば、「ゲームを通して、水槽の中で魚を飼育する」といったものです。同様のゲームは他にも存在しますが、この「シーマン」の違っていた所は「魚が人間の顔をしていて、人間と同じように喋りかけてくる」という点です。この点が発売前後に各メディアで大きな反響を呼び、「人面魚がナマイキな事を喋る、会話する」ことがより強調されてしまった感もありました。
しかし一度でもこのゲームをクリアされた方には、このゲームがそんな事だけにはとどまらない、もっと大きなものを持った「体験」である事を納得していただけると確信できます。
クリアして、こうやってあとがきなるものを書いていますが、今でもプレイの余韻に浸っていることが多いほどです。
まだプレイされていない方がいらっしゃいましたら、ぜひ購入して、プレイして、クリアしてみてください。
このゲームは、途中、中断期間があったものの、全29日間(プレイする人によって異なります)の良くも悪くも忘れる事の出来ない体験をさせてくれたと思います。
暫く振りに「当たり」のゲームに出会いました。
「人面魚がナマイキな事を喋る、会話する」ゲームだと思って、なめてかかると、きっとシーマンに怒られてしまう事でしょう。
彼は「深い」です。
まずは、プレイしてから。色んな事はその後考えましょう。
何せクリアしないで中古に売ると、あなたの秘密をばらされてしまうらしいですからね。

1999年11月10日(水)  KAZ@シーマニア


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SEGA,Dreamcastは潟Zガ・エンタープライゼスの登録商標です。

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