森林・木材を上手に利用するために

1.木の文化の国


 大昔の日本人は、森に鳥獣を狩り、木の実や木の皮を利用しながら生活をしてきました。森は人間にとって生活物資の供給基地であり、また居住の地でした。緑の植物のないところに人間の生活はなく、また山野には猛獣などの敵がいて、人間は文字どおり自然の一員でした。

 道具を使い、火を利用することを覚えた人間は、やがて定住して農耕生活を営むようになりました。農耕には豊かな土地が必要であり、森林を破壊すことによって、即ち、焼き畑を行うことによって、森林が長年かかって蓄えてきた地力を利用してきたのです。

 定住して農耕をすると、いろいろと資材がいります。道具を作るための木材、燃料とするための薪、肥料にするための落葉・柴草、食料とするための木の実などを周辺の森林から採ってきました。

2.森林・林業は地球にやさしい

 樹木は、二酸化炭素と水から酸素と水と木材を生産しています。

CO;1,630KgとHO:667KgからO;1,186KgとHO;111KgとC10;1,000Kgをつくっています。

 即ち、日本の森林は、(348,323*0.45*1.630=)255,495万Kgの二酸化炭素を固定していることになるのです。

 木を切ることは悪いことと思っている人がいますが、森林は木の年齢によって成長量がおおきく違います。

 右の図でも判るとおり、スギやヒノキ(針葉樹)などの人工林の成長量は、11年から50年位まではかなり成長しますが(8立方メートル/年)、それ以後だんだん成長しなくなってしまいます。

 炭酸ガスの吸収のみを考えると、適当な時期に伐って植え替える方が良いことが判ります。

 一方クヌギやコナラ(広葉樹)の天然林は、針葉樹に比べ成長量がかなり低いことも判ります。

3.木材と代替材の製造時における炭酸ガス放出量


 商品にする材料は、その製造過程で多くのエネルギーが消費されます。

 原材料を入手し、運搬し、最終商品に加工するために使用するエネルギーは、その大部分を化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を燃焼することによって得ています。

 建築に使う母屋材(1m)を鋼材と木材で比較してみますと、放出する炭酸ガスの量は、鋼材が木材の16倍となり、窓(1m四方の窓枠)を木製とアルミサッシとで比較すると、アルミサッシが木製の34倍以上となるのです。

 さらに、木箱を紙箱に変えるとどうなるでしょう。

 紙も木から造られますが、まず木材を細かく砕きパルプにし、それから紙・板紙にする際に、大量の水と薬品、電力等のエネルギーが消費されます。1立方メートル当たりの木材と紙の炭酸ガス放出量は、それぞれ、103Kg,1320Kgとなります。仮に厚さが3分の1ですむとしても、約4倍の炭酸ガスを放出していることになるのです。



 4.木は再生産可能な天然資源

 木材は、極めて複雑な天然素材です。
 燃える、腐る、狂うなどの欠点を持っており、その扱い方も難しいですが、正しい場所に正しく使い(適材適所)ますと素晴らしい材料です。
 1,300年前に建てられた法隆寺の五重塔を見ても、よく判ります。
 1,300年経って改修したとき、材料のヒノキの強度は、新材と同じだったと言うことです。


 燃える・・・木造住宅は、燃えやすく危険であると思われていますが、住宅にはカーテンや布団など燃えやすいものが沢山ありますから、いったん火事になってしまえば、むしろ鉄骨造りの方が危険です。

 耐火実験によりますと、火が燃え始めてから10分経過すると温度が600℃近くにもなり、鉄骨は強度が20%に低下しますが、木材の強度が20%になるのは、30分以上かかります。
 木材も太いものを使えば、燃えても表面が炭化され、なかなか内部まで燃えないのです。


 腐る・・・木材が腐るのは、腐朽菌に侵されるからです。
 腐朽菌は含水率が20%以上でよく繁殖し、15%以下では生存でき難いので、湿気の多いところに使う場合は、腐朽に強いヒノキやヒバを使うとか、防腐木材を使えばいいのです。


 狂う・・・生の木材は、細胞の中(結合水といいます)や細胞の間(自由水といいます)に水を含んでいますが、乾燥しますと、まず自由水が抜け、続いて結合水が抜けていきます。
 結合水が抜けると木が収縮を始め、狂うのです。
 結合水が一度抜けますと普通の状態では、生の時ほどは入らないので、よく乾燥した木材を使えば、狂うことは少ないのです。

 このような欠点はありますが、それを上手に回避して使うと、次のような良いところが多いのが木材です。
 木材は再生産可能な天然資源です。大いに木を使いましょう!

 (1)木箱の住みここち      静岡大学農学部研究報告より

 よく医学で実験に使われるマウスを、木製、金属製、コンクリート製の3種類の飼育箱を10個ずつ用意した中に、スギのおがくずを敷き、それぞれ8週間飼育してから交配し、その後雄を除き、雌の分娩した仔マウスを23日間観察したのが右のグラフです。
 1つの箱で大体150から180匹が生まれ、生存した数の比率を生存率としてあります。
 外気温が25から26℃のとき、季節で言えば初夏の気温ですが、木箱だと大体90%の生存率です。ところが、金属だと生存率は半分になり、コンクリートの箱では、生き残ったものは、大体4〜5%にすぎません。外気温は同じなのに、これだけ差が出るというのは、箱を通じて熱を奪われるか奪われないかで差が出ているわけです。
 外気温が30℃位の時はどうかというと、その時は金属製でも木製でも生存率は同じになりました。


 ところが、その温暖期の体重の増加を比較したのが、右の図です。
 やはり木製のものが優秀です。これは、熱を奪われるかどうかと言うことの大切さが表されているのです。
 外気温が30℃の時の内臓の発達も調べられていますが、内臓の発達は、冷える環境だと非常に遅れました。
 特に顕著だったのは、生殖機能の発達で、例えばオスの精巣、メスの子宮とか卵巣の発達が遅れました。
 このような結果を生んでいるのは、単に仔マウスのことだけではありません。発育の後れは親にも関係しています。親が授乳する時間も違いました。マウスは腹ばいになって赤ちゃんにお乳をやりますが、金属製やコンクリート製の箱では体が冷えるからなのです。
 もちろん我々人間とは違う話ですが、非常な驚きです。


 (2)シックハウス   宮崎良文「木質環境と衛生」より

 右の図は、カーペットの床を木の床に改装した時のダニの数を比較したものです。
 室内塵中ダニは、喘息やアトピーを引き起こす強いアレルゲンであることが知られています。
 その増加は、現在においては社会問題となっています。鉄筋コンクリート住宅に住み、ダニに悩んでいる家庭において、床を畳やカーペットからナラ材を中心とした「木」の床に改装した途端、1平方メートルに104匹位いたダニが、23匹に減りました。要するにダニの巣がなくなったと言うことです。木の床はダニの巣にならないということです。


 (3)湿度の調節    上村武「木づくりの常識非常識」より

 

 戸棚の中の温度変化を測定したのが右の表です。
 同型同大の木製と鋼製の戸棚を作り内部の湿度を測定したものです。明らかに鋼製の戸棚の方が大きい温度変化をしたいるのが判りますね。
 冬の測定ですので湿度は全体としてさほど高くはありませんが、木の戸棚の方が鋼製よりずっと安定している様子が伺われます。


 (4)熱の伝導性

 木材は、他の材料に比べて熱を伝えにくい性質があります。これは、木材が無数の細胞の塊で、一つ一つの細胞が空孔を持っているからです。
 昔から、鍋敷きや箸などに使われてきたのもこのためです。
 壁に使った場合、断熱材では木材の1/2、土壁では7倍、コンクリートでは、15〜20倍の失熱があると言うことです。


熱の伝導性(単位;Kcal/m・hr・℃)

 (5)衝撃の緩和    宇野英隆「建築アラカルト」より

 床の堅さは歩き易さだけではなく、安全性にも影響します。
 転んで床で頭を打ったとすると、堅いほど衝撃が大きく、怪我をしやすいのです。
 右図は、ガラス玉を床に落として割れる高さを測ったものです。畳が一番優れていますが、その次は木材です。
 学校の体育館の床が木製になっているのも、このことからなんです。体操用具の平均台や平行棒なども木製ですね。

 (6)各種材料の反射曲線    上村武「木づくりの常識非常識」より

 木材や木質材料は、波長の短い紫外線をほとんど吸収してしまうところが特徴的です。
 木目を印刷した偽の木材では、そうならないところも面白いところです。
 木材の表面の微細な凹凸面が光を散乱させて、柔らかな反射光線に変えてくれるのです。

 (7)感触の良さ 
   上村武「木づくりの常識非常識」より

 精神障害のある子どもの療法に、1m四方の枠の中におもちゃや小道具を子供と一緒に入れ、子どもの想像でいろいろの場面を作らせると言うのがあるそうですが、治療効果があがるにつれて、枠の中には木製のものが多くなるのだそうです。
 心の問題を物理量に換算するのは難しいですが、「感触の良さ」とは次のようなものだと言われています。
 @表面がざらざらせず、滑らかですべりやすいこと。
 A表面があまり堅牢さを有せず、幾分柔軟で、比重もあまりおおきくないこと。
 B表面が乾燥していたり、逆に多量の湿気を含まず、最適の吸着水分があり、吸湿性があること。
 手指からの熱伝達、熱伝導も大きいものでなく、熱絶縁性が比較的大きいこと。
 木は、このどれにも適合しているのです。

 (8)木造住宅で長生き    高橋・鈴木・中尾編「環境」より

 右の図は、西日本の女性について、各府県ごとに、乳ガンによる死亡率(死亡総数に対する乳ガン死亡数の割合)と、木造率(住宅総数に対する木造住宅割合)の関係を示したものです。
 年代、地域の異なるすべてのデータが一直線上にあり、木造率という住環境の要因が、乳ガンの死亡率に関係していることが判ります。
 この一因として、木造一戸建て住宅では出生率が高く、その結果、授乳経験により、乳ガン発症のリスクが低くなることが考えられるとのことです。
 また、ストレス、環境ホルモン等の研究が進展すれば、優れた住環境を持つ木造住宅における、癌に対する免疫機構の影響が明らかになる可能性もあると考えられています。



 参考文献
「図説 林業白書」平成10年度版;日本林業協会発行
「日本の森林と林業 そこが知りたい」 監修;林野庁 全国林業改良普及協会発行
「山と木と日本人」;筒井迪夫著 朝日新聞社発行
「森の文化史」;只木良也著 講談社発行
「世界の森林資源問題をさぐる」〜わが国はどう対応すべきか;野村勇著 全国林業改良普及協会発行
「木づくりの常識非常識」;上村 武著 学芸出版社発行
「木と健康 地球環境問題と木材」