「家の中」がどこなのか、考えられるとしたら、自分の身体しかないような気がします。自分の身体は、常に自分とあり、よく知っていると思いがちですが、実際は、ほとんど知らないのではないでしょうか。病気の時には、自覚症状というのはありますが、癌や糖尿病など、生命にかかわる重病は、手遅れになるまで認識されないのがほとんどです。知っていると思っているだけで、何も知らない代表格が、身体ではないでしょうか。

自分に一番近い存在なのに、よく知らない身体こそが、「家の中」ではないかと思うのです。食べ物がどのように消化されているかを自覚している人は、ほどんどいません。よく知らないのは、真っ暗で見えないから、ないものとして扱っているからでしょう。明るい外ばかりを気にしているから、気づけないのに違いありません。目の前で何が起こっているかは、誰もが気づいていても、起こっていることに気づいてる自分には、誰も気づいていません。体験の経験はあっても、体験者の経験は、ほとんどないのが、私たちの日常です。

ヴィパッサナー瞑想は、身体を意識して、身体を観察する瞑想法ですが、意識という灯りを照らして、見えない「家の中」である身体を観察する瞑想法といえるでしょう。意識で照らされるのは、感覚です。身体や心に起こることは、すべて、感覚として流れます。感覚は、クオリアの起点です。「自己」への「扉」であるクオリアの起点である感覚とは、「ドアノブ」のようなものかもしれません。感覚という「ドアノブ」を回し、クオリアという「扉」を開けて暗い部屋の中へ入る、そのためにヴィパッサナー瞑想があるのだと思っています。

注意すべきことは、感覚はあくまでも「ドアノブ」であって、「自己」ではないと、きちんと知っておくことでしょう。「ドアノブ」が美しかろうが、みすぼらしかろうが、関係ないのです。クオリアという「扉」にしても、目的地ではありません。忘れてはいけないのは、「ドアノブ」を回して「扉」を開き、家の中に入って、意識という灯りを照らすことでしょう。大切なのは、闇を追い払う意識のありようです。そこに何があるのかを知るためには、十分な明るさの灯りを燈さなければいけないのです。それこそが、重要な鍵を握っているのではなかろうかと思うのです。